世界の舞台における三つの態度

――アメリカ、ロシア、EUの態度がこれほど違うのはなぜか

劉洪潮(北京放送学院当代国際問題研究センター)

 国際情勢を追跡、観察、研究すれば、国際舞台でアメリカが「強硬な」態度をとっていることに気付くだろう。アメリカは冷戦の勝者として、至る所で命令を出し、あれこれと指図し、ほしいままに他国の内政に干渉し、国際大家庭の規則を全然守っていない。他方、ロシアはものを言うのに腹に力が入らず、前身のソ連と全然違い、「無力」を表している。EUは拡張すればするほど大きくなり、国が多く、勢力が強く、国際舞台でも活発に動き回っているが、重大な問題にぶつかると往々にして意見がまとまらず、ばらばらというイメージを与えている。

アメリカが「強硬な」態度をとっているのはなぜか

 それは冷戦終結後の国際の力の対比から答案を探さなければならない。ソ連が解体し、二極構造が崩れ、アメリカが唯一の超大国となり、国際の力の対比がひどくアンバランスになった。一方では、アメリカの実力が抜群で、他国がとても比べ物にならない。1990年代、アメリカ経済は10年も成長し続け、そのGNPは10年前は世界の25.6%を占めていたが、今は31.54%に上昇した。日本は世界二番目の経済強国であるが、経済実力はアメリカの半分しかない。イギリス、フランスなどその他の国の格差はなおさら大きなものである。アメリカのカリフォルニア州の経済実力だけでもフランスを上回り、わずかイギリスに継ぐものである。ブッシュ大統領が国会に提出した2003会計年度の予算報告によると、国防予算は3790億ドルにのぼり、前会計年度より480億ドル増え、伸び幅は14.5%に達している。アメリカの軍事費は全世界の200カ国近くの軍事費総額の36.3%を占め、イギリス、フランス、ドイツ、ロシア、日本、中国、インドなど軍費支出総額がわりに多い15カ国の総和よりも多い。これはアメリカが「強硬な」態度をとっている原因であり、覇権を実行する元手でもある。

 他方では、ロシア、中国、EUはいずれも一極になる条件と潜在力があり、世界多極化を主張し、アメリカの一極化の企みに反対しているが、ロシアは無力で、EUは意見がまとまらず、中国は貧しく、アメリカの相手ではなく、単独でアメリカと対抗する力がないかまたはその考えがない。アメリカの超強大な経済と軍事の実力によって、ロシア、中国、EUがその他の両国関係よりも対米関係を重視しているため、予見できる将来にアメリカに挑戦するのは難しい。

 そこで、アメリカはこの「歴史的チャンス」をつかんで、威張りならしている。チェイニー副大統領、ラムズフェルド国防長官らアメリカの高官は一再ならず、国際法は弱国に適用するだけで、アメリカは自国の利益に基づいて、国際事務を処理し、やりたいことをやり、他国に気兼ねする必要がないと放言している。フライシャー・ホワイトハウススポークスマンは、「大統領はアメリカにとって正しく、最もすばらしい基準に基づいて外交を推進する」ときっぱり言った。このような考えの指導の下で、アメリカは断然として「京都議定書」を実行するのをやめ、「アメリカ人のエネルギーを大量に消耗する生活様式は神聖にして侵すべからざるものである」と言った。絶対的な軍事的優位を求めるため、アメリカはあろうことか「弾道弾迎撃ミサイル(ABM)制限条約」から脱退し、国際社会の憂慮と反対を顧みず、かたくないミサイル防衛システムを発展させている。アメリカ政府は一度ならずイラクのサダム政権を覆すと明言し、しかも国際社会が賛成するかどうか、同盟国が参加するかどうかを考えず、それをやり通す腹つもりでいる。アメリカから見れば、当今の世界の支配者は自分をおいてだれもいないのである。

ロシアが「無力」なのはなぜか

 一時期以来、ロシアは以前のように断固としてNATOの東方拡張に反対しなくなり、独立国家共同体がロシアの特殊な領土であることを強調せず、アメリカの軍事的影響がその「裏庭」に入ってくるのを耐え忍び、アメリカの「弾道弾迎撃ミサイル(ABM)制限条約」脱退問題に穏やかな反応を示し、はてはアメリカがロシアを核攻撃の目標にすることに対しても事にけりをつけて人々を安心させる態度をとっている。

 これはロシアが対外政策を調整した結果である考えられている。ロシアがその対外政策を調整するのはなぜか。このような調整を行うのはなぜか。最も根本的な原因はロシアに実力がないことにある。

 冷戦終結10余年来、ロシアとアメリカの格差はますます大きくなっている。グローバル化と新経済に頼って、アメリカ経済は10年連続して成長した。他方、ロシアは過去の10年間に、経済が7年連続してマイナス成長であり、最近の3年も回復的成長をしただけである。現在のドルの為替レートで計算すれば、アメリカの国内総生産は世界の30%を占めているのに対し、ロシアは0.7%しか占めていない。1991年のロシアとアメリカの国力の差は19であったが、10年後の2001年に、ロシアのGDPはアメリカの三十分の一に減り、世界177カ国におけるランク付けは44位に下がった。ロシアは現在西側諸国に対し1200余億ドルの債務を抱えており、この額はロシアが2002年に予測したGDP総額3476億ドルの三分の一を上回っている。軍事の面では、軍費支出だけでも、ロシアとアメリカの格差は140であり、アメリカは簡単にコソボ、アフガニスタンを手に入れたが、ロシアは10年苦戦してもチェチェンという小さなところをものにすることができない。この両者は鮮やかなコントラストをなしている。プーチン大統領は実務的な人である。国力の現状を冷静に見積もったあと、彼はロシアとアメリカの実力の格差を縮めるには、どうしてもつり合わない対抗政策を放棄しなければならず、代わりにアメリカとの協力を通じてロシア経済の急速な発展をはかり、大国としての地位を回復させる必要があることを痛感している。プーチン大統領は、実力がなければ、なにも話にならないことをよく知っている。そのため、彼はアメリカと対抗するのではなく協力するという外交戦略を選んだのである。

 ロシアは最近また強硬になり、アメリカと対抗するようになったという人もいる。主な根拠は、アメリカが朝鮮、イラン、イラクに「悪の枢軸」というレッテルを貼り付け、それらの国が「テロリズムを支持しており」、アメリカに対し「重大な脅威」を構成していると言い、機会を見てやっつけると言いふらした。しかし、ロシアはこれを無視し、この三カ国と親密につきあっている。特にアメリカを怒らせたのは、アメリカがイラクを攻撃して、サダムを覆そうとしている時に、ロシアがイラクと400億ドルの契約を結ぶことに合意し、20028月末か9月初めに調印することである。このニュースが発表されるや、世論が騒然となり、これはアメリカに対する有力な反撃だと言っている。

 アメリカの強大な圧力と重大な脅威に直面して、弱小のイラクはせっぱ詰まって大口発注書でロシアを抱え込んでアメリカに対抗しようとしているが、ロシアはこの重任を担うことができるかどうか。400億ドルの契約は確かに魅力のあるものであるが、ロシアはこれほどの能力と勇気があるのだろうか。ロシアとイラクの巨額契約の調印期日である「8月末か9月初め」はとうにすぎたが、モスクワでもバグダッドでも、いかなる調印式も行われていない。おおかたは水泡に帰したのだろう、少なくともアメリカの圧力の下で無期限に遅らせたのである。

 アメリカは歯ぎしりしてサダム政権を覆すと言っているが、ロシアはイラクに対する武力攻撃に賛成していない。プーチン大統領とイワノフ外相はほとんど毎日のようにアメリカに武力攻撃をしないよう勧め、イラク問題は政治的ルートを通じて解決するほかはないと強調している。しかし、アメリカはそれを耳を貸そうとせず、どうしても武力攻撃しようとする。いったんアメリカが戦争を起こせば、ロシアはどうするか。ロシアは「友人」のために命がけで尽力できるか。それはできないと断言できる。

 実際には、ロシアはイラン、イラク、朝鮮と関係を維持し、それを発展させるのは、アメリカと対抗するとか、「反米同盟」をつくるというのではなく、ロシアの経済利益のためと外国に向かってロシア外交の一貫性、均衡性、独立性を表明するためにすぎない。

EUの「意見がまとまらない」のはなぜか

 EU15カ国の総人口は38000万人で、アメリカの1.5倍に相当する。2001年のGDP総額は9兆余ドルで、アメリカのとほぼ同じである。EUは拡張すればするほど大きくなり、将来の多極世界の中で、EUが重要な一極になるのは疑う余地のないことである。

 EUの創立と拡張の初志が、国際舞台でその実力と地位に相応する重要な役割を果たすことにあるのは明らかであるが、当面の状況から見て、イラク問題など若干の重大な国際問題に対するEUの態度はやはり「ばらばら」であることを示している。

 このような問題が現れるのはおかしいことではない。EUのメンバーが多く、情況が複雑である。各国の内政、外交の目的が違い、対米関係の親疎の程度、国家利益も異なっている。これらのさまざまな違いによって、意見を一致させるのが難しいことを決定づけている。

 イギリスはアメリカと伝統的友情があり、言語、人種のルーツと血縁関係が同じなため、「英米の特殊な関係」をつくり上げ、長年来、互いに援助する伝統が形成されている。1982年、イギリスとアルゼンチンの間にはマルビナス諸島をめぐって紛争が発生した時、アメリカは最初は調停したが、後はイギリスの側に立った。「イギリスがアメリカのあとについて行く」のはなおさらよく目にすることである。ブレア英首相に「あなたは一体イギリスの首相なのか、それともアメリカの手先なのか」と問い質す人もいた。彼は「英米関係は非常によく、私がイギリス首相を務めている間、このような現状は変わらない」と答えた。実際には、ここ数十年来、誰がイギリスの首相になっても、アメリカとの関係をイギリスの対外関係の最も重要な地位に置いた。どうしてこのようになったのか。それもイギリスが「日の沈まぬ帝国」が過去のことになり、政治大国の地位を維持しなければ、アメリカという「兄貴分」の力を借りなければならないことを知っているからである。

 フランスに至ってはドゴール時代以来、フランス政府はアメリカに対しずっと「自分なり」のやり方をとっている。フランスは自国の実力に限りがあり、アメリカと対等な立場に立つのが難しく、ひたすらアメリカについて行くなら、アメリカの言いなりになるしかない。人々はアメリカの存在だけを知り、フランスの存在を知らなくなる。いったんフランスの声が消えれば、フランスの大国としての地位と影響力も失ってしまう。そのため、アメリカに対しある程度「独立性」を維持してのみはじめて、フランスの国家利益を効果的に保護することができるのである。ほかならぬこのような考慮から、フランスはアメリカと若干の重大な国際問題に対し、「それぞれの意見を発表している」。また、フランスとイラク現政権の関係はこれまでずっと悪くない。フランスはかつてイラクへの主な兵器供給国の一つで、フランスの企業はイラクで大きな商売をしている。ほかならぬこの現実的で重要な経済的利益に上り、フランス政府はイラクに対する武力行使問題の上で慎重な態度をとらざるを得ないのである。

 ドイツの態度は確かに「アブノーマルな」感じを与えている。これまでドイツはアメリカの言いなりになったが、今ではアメリカに向かって大声で「ノー」と言うのは、人々が思いもよらないことである。よく考えてみると、これもおかしなことではない。アメリカの一国主義は全世界に不安を覚えさせている。世論調査した結果、アメリカの対イラク武力攻撃に反対するドイツ人が80%もあった。シュレーダー首相は民意に順応するのはより多くの票を獲得するのに非常に重要であることをよく知っている。そのほか、1990年の再統一以来、政治大国の意識が絶えず強まっており、ドイツが今回アメリカに「ノー」と言ったのは、実際にはこのような政治大国意識が強まった表れであると見ることができる。

 EUが重大な国際問題で一致した意見を発表できないことは、EUが真に世界の一極になるにはまだまだ時間がかかることを示している。

 アメリカの「強硬」な態度、ロシアの「無力」、EUの「ばらばら」は当今世界の厳しい現実を反映するものであり、多極世界の形成が曲がりくねった長い過程であることを物語っている。