活路はどこにあるのか。

  ――協調と妥協は従来から国際問題を処理する際の賢明な選択である。当面の米朝の核危機を解決するには、アメリカは度量のある態度で、第1歩を踏み出す必要がある。

高海寛(中国国際友好連絡会研究員)

 200210月、アメリカ特使のケリー氏が期待を抱くピョンヤンに再度来た際、米朝間の対話に人びとを鼓舞させるような奇跡が現れず、逆に人々が予想もしなかった深刻な対立が現われた。朝鮮側は核兵器を開発していることを明確に示すとともに、双方が1994年に確定した『枠組み合意』を廃棄することを要求した。3カ月以来、米朝の対立はますますエスカレートし、いちだんと悪化した。最近はなおさら一歩進んで、朝鮮が核施設を始動させ、国際原子力機関(IAEA)の関係者を退去させるまでに発展した。事態が日ましに悪化し、人々に不安を覚えさせている。情勢の急変は見たところで偶然のようだで、実際にはその必然性があり、それは米朝関係発展の必然的な結果である。

 まず、米朝両国の間に徹底的に緩和する基礎がまだできておらず、相互の間に依然として深刻な対立が存在し、関係改善の条件が備わっていない。昨年から、朝鮮に対する米政府とブッシュ大統領の態度にいくらか変わったところがあり、「いかなる条件もつけず」、「いかなる時、いかなる所」でも朝鮮と対話すると表明し、金大中大統領の推進している「太陽政策」を支持した。「テロリズム」に反対し、アフガニスタンと「アルカイダ」、イラクなどに応対するため、アメリカは東を顧みる暇がなく、朝鮮と東北アジアに対する注意力と圧力も相対的に少なくなった。

 しかし、朝鮮に対するアメリカの基本的政策は終始変わっていない。特に「9.11事件」以降、アメリカは再び朝鮮をテロリズムの国と見なし、「悪の枢軸」と言って、終始朝鮮に対する警戒心と圧力を軽減していない。同時に、アメリカの対朝鮮政策と「反テロ」政策に共通の基準と目標がある、それはつまり大量破壊兵器問題である。アメリカが20029月に発表した『国家安全戦略レポート』は「大量破壊兵器はアメリカの国家安全に影響を及ぼす最大の挑戦の1つである」と明確に確定している。アメリカは終始、朝鮮が核兵器を発展させているため、朝鮮に対して全面的な「核査察」を行う必要があると考え、朝鮮を「7つの核攻撃の対象国」の一つに指定した。アメリカのイラク問題と朝鮮問題に対する政策に区別はあるが、この二カ国を最初の「反テロ」対象国と見なしている。

 朝鮮側はアメリカが終始朝鮮に対し敵対の政策をとり、自国が強国であることを頼んで弱国を侵犯し、朝鮮半島に南北の分裂をもたらし、朝鮮を苦境に陥れた元凶であると見ている。朝鮮は「悪の枢軸」国と指定されたことにきわめて反感を持ち、アメリカの「先んじて人を制する」という戦略的調整を配慮し、警戒している。軍事面は弱勢にあり、アメリカととても不つりあいの朝鮮がアメリカと駆け引きできる唯一の手段は、毒をもって毒を制し、核をもって核に対抗し、「核兵器開発」でアメリカに対抗することである。それと同時に、朝鮮は「核計画」再開でアメリカが『枠組み合意』を実行せず、引き続き圧力を加えていることに報復している。朝鮮の「核開発」は韓国と周辺諸国に対するものではなくて、アメリカに対するものであるのは明らかであり、アメリカに対抗する一種の手段である。米朝両国の戦略的基調、措置、相互政策のギャップは大きく、接続点がない。

 ケリー氏と朝鮮の対話は、双方の間に共通の認識がなく、期待値が高すぎる。そのため、切り札が持ち出されると、双方とも「びっくりし」、受け入れることができなかった。アメリカがこれまで口にしている「いかなる条件も設けない」は、実際には明確な「先決条件」があり、つまりまず朝鮮の「核開発」問題を解決し、朝鮮は「核計画を凍結しなければならず」、その他のことは一切語らないということである。パウエル米国務長官は20026月に、対話の前提は「朝鮮がアメリカの一連の条件を満たさなければならない」ことだと明言した。アメリカの条件は、朝鮮側がすぐ受け入れられないものである。1999年にペリー元米国防長官が朝鮮を訪れた時に朝鮮の立場に理解を示し、制裁を部分的に解除し、「デタント政策」を推し進めた。しかし、ケリー氏は漸進式の緩和の措置をとらず、単刀直入に強引に命令した。これは疑いもなく朝鮮側に対する最後通牒である。

 朝鮮は「アメリカが朝鮮を敵視する政策を改め」、朝鮮に対する「制裁を全面的に解除し」、朝鮮を「悪の枢軸」国からはずすことを要求している。朝鮮側はまた双方が相互不可侵と平和条約を締結するなどの要求を持ち出したが、これはアメリカにとって同じく現実的なものではない。アメリカはずっと大国であることを自任し、朝鮮の要求に屈服することができず、朝鮮に対し強硬な政策をとっているブッシュ政府はなおさら朝鮮に弱みを見せることができない。両者の間にどうしても「おさえなければならない」と「おさえても屈服しない」という相互対抗の局面が現れる。同時に、世界最大の核大国として、核問題の上で朝鮮の「核計画」変更を阻止しようとしても、朝鮮に対し十分な説得力に欠けている。朝鮮があえてアメリカの「核抑止政策」に挑戦するのは、米朝両国が長期にわたって対峙し、アメリカが長期にわたって「抑止」と威嚇政策を実行した結果であり、冷戦時代の残した産物でもある。

地域と関係諸国への影響

 「9.11」事件以来、東アジア地域は同じくテロリズムの影響が存在しているにもかかわらず、情勢が相対的に安定し、経済協力と発展が好ましい勢いを見せている。米朝関係の急激な悪化は、疑いもなく東アジア地域の安定を求め、発展を求める調和のとれた雰囲気を打ち破って、東アジア特に東北アジアの安全情勢を複雑にし、不確実要素を増やした。アメリカと朝鮮の関係悪化は、朝鮮半島の緩和と和平のプロセスに直接影響を及ぼし、各国が半島の緩和を促進するために払った努力を相殺している。これは人々が目にしたくないものである。

 米朝関係の変化は米朝両国に直接的な影響をもたらしている。アメリカはイラクを軍事攻撃しようとしている際、すでに重荷を背負っており、その上朝鮮との対立を激化させて、アメリカは前と後で牽制を受け、疑いもなく火薬の包みを背負い込んだ。アメリカは自らの戦略的配置を妨害し、自らの「反テロ」行動を難しくした。アメリカは核反対では東北アジア諸国の効果的な支持を得ており、軍事強権のイメージを変えることがなかった。ほかでもなくアメリカの同盟国である日本と韓国に、アメリカが朝鮮に対し圧力を加えている時に、大規模な反米デモが発生し、「日本駐在米軍地位協定」と「韓国駐在米軍地位協定」の改正を求めた。韓国の反米情緒が上昇し、朝鮮が「脅威」であるという認識が逆に弱くなっている。韓国と朝鮮が引き続き南北対話を行い、盧武?氏が韓国大統領に当選したことからも、現在の情勢の下でも、南北緩和の推進が韓国は依然として人心の向かうところとなっている。

 米朝関係の悪化は朝鮮の周辺諸国も難題を出し、これらの国を進退極まらせている。まず、韓国は直接影響を受けた国であり、金大中大統領が推進している「太陽政策」が妨げられているばかりでなく、後任の盧武?大統領が推進するデタント政策も影響を受けている。盧武?氏の新千年民主党は政権党になったが、議会の中で優位を持たず、そのデタント政策の順調な実施と朝韓の間で合意した経済協力、人的交流などの実行などに、変化が現れる可能性がある。

 日本は朝鮮との関係を改善する面で、小泉首相の朝鮮訪問を通じて突破的な進展をとげた。小泉首相は本来この外交成果を強固にして、執政期間の歴史的な業績にしたかったのだが、日本の人質問題のため、日朝の外交関係樹立交渉が妨げられ、小泉首相はメンツをつぶしてしまった。核問題をめぐる米朝のいざこざは、日本の対朝緩和措置をいっそう難しくしている。一方では、外交の成果を強固にし、日朝の外交関係樹立交渉を引き続き推進するため、日本は朝鮮の核計画に対し過激な措置をとることができない。他方では、日本は一貫して朝鮮の「核保有化」に断固反対し、同時にこの面でアメリカにしっかりついていかなければならない。このような状況の局面の下で、日本の対朝鮮外交はすこぶる苦心を重ねているが、双方ともなかなか満足に行かない。米日韓が朝鮮の「核計画」始動問題に反対する上で、一致性もあれば、相違性もあり、1994年と1998年の核とミサイルの危機時の状況といくらか違っている。

 米朝の対立の激化によって、朝鮮は不利な地位と背水の陣という立場に立たされている。まず、朝鮮はアメリカからの大きな圧力に直面し、核問題の上では互いに譲歩し、旋回する余地があまりない。対抗のエスカレートに従い、戦争の瀬戸際の極限を越える可能性を完全に排除することはできない。朝鮮の国際イメージも「核計画」始動とアメリカの世論の動きで、いっそう悪くなり、「妖怪化」されている。朝鮮は孤立している状態からいちだんと抜け出したいが、不利な要素と難度がともに増えている。他方では、アメリカは朝鮮との対立を激化させ、もともととても手を焼き、処理しにくい朝鮮の核問題は、朝鮮の激しい反発を引き起こし、問題の解決をいっそう難しくしている。米朝が対峙する状態の下で、朝鮮の経済と経済改革は困難と試練に直面している。アメリカはいま朝鮮に対し経済制裁の準備を進めており、一部の国も朝鮮の核開発計画始動で、経済援助を取り消すこともあろう。同時に、朝鮮情勢の不安定により、国外の経済援助を獲得するのも難しい。アメリカは毎年50万トンの重油援助を凍結して、朝鮮に「雪の降る中で炭がなくなる」という困難に直面させている。経済面の圧力は、朝鮮にとって厳しい試練となるであろう。

活路はどこにあるのか

 朝鮮半島と東北アジアの平和と安定を守るのは、東北アジア諸国の切実な利益にかかわっており、アメリカの安全利益にもかかわっている。朝鮮半島の非核保有化を確保することは、朝韓双方と東北アジア諸国の戦略的利益にかかわっている。米朝は自身の利益に着眼すべきであるが、この地区の諸国の利益にも着眼すべきである。当面、対立を緩和させ、対立を解消し、きわめて不安定な対峙の局面を転換させることは、米朝の当面の急務となっている。

 朝鮮がすでに表明しているように、朝米は朝米危機の当事者であり、朝米問題は朝米間の事である。朝米はもちろん責任をもって、互いに協調して問題を解決しなければならない。つまるところ、米朝に頼って問題を解決しなければならない。現在、中国などの周辺隣国は米朝関係の問題に非常に大きな関心を寄せている。関係諸国も問題の解決に積極的かつ建設的な役割を果たすことを望み、またその義務もあるが、消極的な役割を果たしてはならず、余計な援助をして逆に問題をこんらがかせ、大いに油を注いで、対立を激化させてはならない。

 特にアメリカは、長期にわたって朝鮮半島の安全事務に介入する当事国として、率先して積極的な役割を果たし、米朝問題と米朝関係を良性の方面に転化させるべきである。アメリカは朝鮮半島の「非核保有化」問題を堅持する面で、なによりもまず自身が半島に「核保有化」を出現させる問題を解決しなければならない。このようにすれば、米朝関係の改善が朝鮮半島と東北アジア情勢全体の変化に転化するのに役立つだろう。もちろん、当面これは一種の理想化の思考であって、まだ実際的なものではない。朝鮮がアメリカに屈従し、完全にアメリカの言いなりになり、核問題の上でアメリカに従うのも不可能である。それでは、米朝は相互関係の目下の苦境から脱け出す面で、実行可能な選択を考慮する必要がある。

 ラムズフェルド米国防長官が、アメリカは2つの戦争をすることができると言ったが、これは朝鮮を脅かすものである。アメリカのような匹敵するもののない最大の軍事大国であっても、同時に50万の兵力と千億以上のドルを出して東西2つの戦場で戦争をするのは、不可能なことである。アメリカはイラクをやっつけたあと、引き続き朝鮮を攻撃するとしても、力が思うにまかせないであろう。同時に、アメリカは軍事打撃が日韓などの東北アジア諸国にもたらす危害とその払った政治的代価を考慮しなければならない。同盟国あるいは国際組織を通じて、政治面から高圧を加え、軍事面から威嚇を行い、経済面から厳しい制裁を行うのは、まったく可能である。

 朝鮮が「核計画」を凍結せず、引き続き核の手段で対抗すれば、アメリカからの圧力を受けるだけでなく、アメリカの覇権主義と対抗する被害者から、国際安全ルールに背く被制裁者に落ちぶれるだろう。これは朝鮮に正義と公正がないことを感じさせるが、国際にもこれは望まないがどうしようもないことであるように感じさせる。

 そのため、アメリカと朝鮮は、どちらも落ち着いて、理性的に、慎重に戦略面から思考する必要がある。現実的な対応策をとる。国際問題を処理する時に協調と妥協は従来から賢明な選択である。問題は勇敢な第1歩を踏み出し、互いに協調、妥協し合う必要があることである。こうすれば、問題の解決は複雑でなくなり、逆境から出て行くであろう。この面では、アメリカは度量のある態度をとり、自ら進んで対立を解消し、関係を緩和させ、核問題の協調的解決のために有利な環境を提供する必要がある。

 当面、米朝関係問題が極端に困難な状況の下で、依然として若干の積極的な要素が存在している。一部の関係国は半島の「非核保有化」を望むと同時に、政治的対話を通じて関係問題を平和裏に解決することも望んでいる。アメリカも朝鮮も対話の扉を完全に閉じてはいない。ブッシュ大統領はかつて「朝鮮を攻撃する考えがない」と表明した。パウエル国務長官は20021226日に、朝鮮半島は戦争の瀬戸際に置かれていないと語った。米国務省は20021227日に声明を発表し、朝鮮が対話に不利な行動をとらないように呼びかけた。金永南朝鮮人民会議常任委員長はかつて「アメリカがわが国に対する敵対政策を撤回するならば、われわれも対話を通じてこの問題を解決する用意がある」と語った。この一句の後半は疑いもなくその融通性を表している。最近、朝鮮側はまた「平和な方式でこの問題を解決したい」と表明した。米朝の間に、依然として協調できる余地が残っている。

 1994年に核危機が現れた時、米朝はともに一触即発の状態にあり、アメリカは「先んじて人を制」しようとしたが、双方はやはり落ち着いて対話し、『枠組み合意』に合意し、両国関係の相対的安定を守った。現在、米朝双方は同様な理性と知恵で、直面している難題を妥当に処理する必要がある。米朝双方が1994年の『枠組み合意』に戻るのはもちろんとても望ましいことである。このような案に可能性がない状況の下では、新しい『枠組み合意』かその他のパターンの協定を結ぶこともできる。