中国最初の民法草案について.

何清心

 中国最初の民法草案が審議のために2002年12月23日に開かれた第9期全国人民代表大会常務委員会第31回会議に上程された。

 同法案は新中国の法制史上条文が最も多く、最も長く、人民の生活と密接な関係がある法律草案であって、社会各界と国民の関心の的となっている。法曹界の専門家たちは、民法や刑法、行政法が国の最も重要な3大基本法であり、社会生活の基本的な準則であると見ている。

 改革・開放してから、中国は民事立法を重視するようになり、至急に必要な、わりに成熟した部分で単行法を設けた。経済社会発展の必要とWTOの規則に適応するため、民事法律制度の充実と民法の編纂も差し迫って必要となっている。このため、全人代常務委員長会議は民法草案の審議を提出した。

公民権利の宣言書

 民法草案には総則、物権法、契約法、人格権法、婚姻法、養子縁組法、相続法、侵権責任法、渉外民事関係の法律適用法など9篇が含まれ、約1200条項がある。

 同法案は審議に参与する全人代常務委員と法律専門家に公民権利の宣言書と呼ばれている。

 民法起草グループのメンバー、中国政法大学の江平教授は「民法の影響が広いものである」、「それが保護する対象は公民や法人、その他の組織であるため、明確で、操作、執行しやすいものでなければならない。民法が施行されると、裁判所にとって最も重要な依拠となる。これまで、関係法律が簡単であるので、部門の規定や司法解釈が多すぎた。いまは完全な条文で法律の権威を守るべきである。具体的であればあるほど、操作性が強ければ強いほど、法を曲げて裁判する現象を防止し、当事者の権利を守ることができる」と語った。 

 草案の次の内容は人々の関心を集めている。

 訴訟時効を現行の2年から3年に変え、その起算時間も改定された。これに対し、江教授は次のように説明した。長年来、中国の民事事件の訴訟時効は2年であり、短期訴訟時効は半年であったが、これは権利者を十分に保護することができない。例えば、債務紛争は、2年の訴訟時効では短か過ぎる。

 民事行為能力を有する人の年齢の最低限を満10歳から満7歳に下げた。これは主に子供の入学年齢と一致させるためである。過去の最低限の満10歳には小学1年生から3年生までの生徒が含まれなかったため、教師の監護責任が重くなり、責任の統一に不利である。

 物権法の調整範囲、基本原則を明確にし、所有権、用益物権、担保物権、物権保護などについて具体的な規定を行った。新規制定した物権法について、江教授は次のように述べた。社会主義制度の下でいかに個人の財産を保護するかについて、物権法は公民、法人の有形資産に対し詳細な規定を行い、その中に動産と不動産が含まれている。例えば、目下、高層ビルに住む人がますます多くなっているため、物権法は、住宅購買者が住宅に対し所有権を有し、公共面積に対し共同所有権を有し、付属公共施設に対し区分所有権を有すると規定している。こうすれば、権利の帰属は明確にされたため、住宅購買者は業主委員会を結成して共同管理する権利を行使できるようになる。

 現実生活の中で人格権、とりわけプライバシー権侵犯の訴訟が増える一方であるが、「民法通則」の人格権についての規定は簡単すぎる。そのため、民法草案は「民法通則」およびその他の民事単行法を元に、信用権、プライバシー権など関係のある規定を添え入れた。また、侵権責任制度をいちだんと完全なものにし、特殊な侵権行為に対し具体的な規定を行った。侵権責任法の中で、精神的損害賠償の範囲を拡大し、人身権利、人格権が侵害を受けたとき、被害者は精神的損害賠償を請求することができることとなっているが。以前では人格権が傷害を受けたときしか精神的賠償を要求することができなかった。

 多くの委員は民法草案がわりに全面的で、成熟し、基礎がいいと見ている。一部の委員はまた、適切なときに草案を全社会に公布し、社会各界と国民の意見を聴取することを提案した。

民法草案は3回も起草

 中国は1950年代から数回も民法を起草したが、完成に漕ぎ着けなかった。当時は計画体制を実行したため、個人も企業もそのような体制の下に置かれ、民法制定に必要な社会経済基礎に欠けていたのが最も主な原因である。

 江平教授の説明では、中国民法は3回起草された。1回目の起草は1954年に始まったが、1957年になって、右傾反対運動の展開によって止まった。2回目は1962年から起草を始め、「文化大革命」が始まる前の1965年に中止した。3回目は改革・開放が実行された後の1982年から始まり、前後して4稿行われたが、改革・開放が開始したばかりで、経済パターンがまだ最終的に確定されていないため、民事立法分野ではまず単行法を制定し、完全の民法を制定しないことが決定された。

 その後、1986年に「民法通則」、「契約法」などの単行法を公表した。今日では、中国はすでにWTOに加盟し、経済パターンが形成され、単行法も一応揃い、民法起草の基礎が打ち立てられた。「民法通則」は基本的な民事権利について規定を行っているが、それは民事権利の基本的な枠組みであり、民事権利の宣言にすぎず、具体的な規定に欠けている。

 民法は公民、法人の民事権利についての完全な規定である。今回の民法起草は単行法を科学的に編纂する方法をとり、現有の内容を充実させ、改正した。

4大争議

 民法の編纂と審議には異なる意見や論争も出た。

 「争論の焦点は民法草案の文体の問題である。つまり、知的所有権と渉外民事関係の法律適用を民法草案に入れるかどうか、人格権と債権法総則を民法草案の単独の一章とする必要があるかどうかといった四つの問題に集中していた」と全人代常務委法制工作委員会民法室主任、草案の起草者である王勝明氏は語った。いわゆる4大争議は

 知的所有権を民法に組み入れるかどうか。これについて二つの意見がある。一つは、知的所有権は民事権利に属し、知的経済の到来につれて、知的所有権の重要性と影響力が日増しに突出し、現代の民法は知的所有権を規定すべきであるとしている。いま一つは、知的所有権に特殊性があるため、単独の法律を制定するほうがいいとしている。

 渉外民事関係の法律適用は民法草案に組み入れるかどうか。一部の学者は否定の意見を表し、独立した渉外民事関係の法律適用法か、または単行の国際私法を起草し、その単行法の中には、法律適用のほか、渉外民事事件の管轄と司法援助などを含むべきであると主張した。

 人格権は単独の一章にするかどうかの問題。人格権は重要な民事権利であることに対し、あまり論争がなく、人格権を民法に書き入れることにも論争がなかった。しかし、人格権の内容を総則の民事主体に置くか、それとも単独の一章とするかは争論の焦点となった。

 債法総則は単独の一章とするかどうか。債や債権、債務などは何か、債が発生する原因、債の効力など債についての最も基本的な概念、原理があるべきである。債法総則を設けるなら、その内容のかなりの部分は契約法の規定と重複することが最大の問題となる。

 以上の論争のほか、その他の重要問題に対しても意見が同じではなかった。例えば、物権法は国家所有権、集団所有権、個人所有権をそれぞれ規定するかどうかについては、そんな必要がなく、すべての所有権を保護すべきであると見る学者がいる。