スケープゴートにされる中国

 世界経済が低迷し、米日をはじめ世界でデフレが進行しているため、西側経済界は「スケープゴート」を見つけようとしたが、米モーガンスタンリーのスチーブン・ローチ首席研究員のレポートの発表によって、中国がスケープゴートにされている。

李 編

 ここ2ヵ月には、世界的デフレを招いた国は中国かどうかをめぐる論争がとめどもなく続けられている。論争は米モーガンスタンリーの首席研究員であるスチーブン・ローチ氏が昨年10月に発表した研究レポートに起因したものである。

 ローチ氏はレポートの中でこう書いている。中国はすでにアメリカのデフレないし世界的デフレの要素となっており、改めてバランスをはかることは世界経済の唯一の活路である。中国はマクロ経済政策を調整し、世界経済の転換の中で「自らの責任を負うべきであり」、「私は確固として変わることなく中国経済成長の見通しを楽観視している。ところが、輸出を主導とする中国の強力な成長が世界経済のデフレに与える影響もますます大きくなっているのを認めざるを得ない」。

 その後しばらくの間、いわゆる「中国がデフレを輸出している」という論調が経済学界を驚かし、ローチ氏のレポートが業界とマスメディアでも強い反響を呼んだ。

 中国非難はまず日本から始まった。ここ数年、工業空洞化を懸念する声が日本で時々聞かれた。それはコストの低い中国への生産シフトの拡大化によって招かれたと見られている。しかし、最近では中国が日本のデフレの根源であるという見方も現れた。

 アメリカでも日本と似通った見方が現れた。激しくなる一方のデフレの危険が中国から来ているというのがそれである。

 東南アジア諸国の主だったメディアも論評を掲げ、中国が当面の世界経済のデフレの重要な源の1つと指摘しており、世界経済の不景気はすべて中国のせいにしている。

 このため、ローチ氏は急に自分が一夜のうちに論争を引き起こした張本人――率先して中国を非難する人となったことを意識し、「これはまったく私の初志に背くものである。私はただ国際世論の風向きが中国に不利になる恐れがあるということを中国に警告したかっただけである。国際世論の風向きは中国に不利であるというものである。いまから回想すると、これはほかでもなく私の誤りだ。世界の世論は確かに私の予想した方向に発展しているが、私がこの見方を提出したためではなく、不景気に苦しむ世界が『スケープゴート』を見つけたかったからである」と語った。

 2ヵ月後の12月に、ローチ氏は「中国非難を止めよう」といういま1つの研究レポートを発表した。その中で氏は「世界経済が困難な境に追い込まれている。残念ながら、非難が始まる時でもある――人々は困難な境を招いたスケープゴートを探しているのである。中国は注目する中でスケープゴートにされた。世界経済低迷の根源と呼ばれようと、就業機会を作り出す磁石と見られようと、中国は世界経済を苦境に陥れた重大な問題と結び付けられている。しかし、すべては現実から離れられず、中国経済の移行と発展はかなりの程度において世界の発展の最大のチャンスであるが、決して悪いことではない」、「世界がいかなる時よりも安定した中国を必要とする時、中国に対するゆえない非難にいかなる道理もなく、どんな代価を払うこともいとわずに中国に対する非難を阻止しなければならない」と書いている。

中国は世界のデフレの牽引車ではない

 姚景源・国家統計局の総経済士は、中国では物価が低水準で推移しているが、デフレと言うことができないと語った。

 ローチ氏はまず中国が世界で経済成長が最も速い国であると肯定しているものの、中国の目覚ましい成功が思いもよらない結果をももたらし、世界に影響を及ぼすことがあり、絶えず強まっているデフレのリスクが急所であると指摘した。昨年8月の中国の消費物価指数は前年同期比0.7%下がり、96年から01年までのアジア対米輸出増に占める中国の割合は50%にも達し、アメリカのデフレの要因の一つとなっているとし、さらに、アジアは世界のその他の地域にデフレを輸出する地域という憂慮させる役柄を演じており、中国はその頭の役柄を演じているとも指摘している。

 姚氏は、まずこのレポートの前提は存在していないと指摘し、次のように述べた。単なる値下げはデフレとは言えない。値下げと同時に経済衰退も見られたら、デフレと言うことができる。しかし、中国では物価が低水準で推移していると同時に、経済は急速に成長している。そして、物価の下げ幅も1%前後に保たれ、昨年以来物価はしだいに回復しているため、中国経済がデフレに入ったと判断できず、「中国がデフレを輸出している」と言うことはなおさらできない。

 「中国という要素」は輸出、外国の直接投資、国の基本建設に対する資金援助という中国の経済成長をサポートする三つの原動力を分析している。姚氏は、この三つの要素のほか、国内消費が経済を牽引する役割は非常に明らかであると見ている。中国の8%の経済成長率の中に、投資、消費、輸出の三者の貢献度の比は431であり、そして昨年1月から9月までの社会消費財小売総額は29111億元に達し、前年同期比8.7%増えたが、レポートの言う「国内の消費状況は相変わらず思う通りに行かない」というわけではない。

 中国の物価が長く低水準で推移しているのはなぜかについては、姚氏は次のいくつかの要因があると見ている。①技術進歩と労働生産性の向上で、生産コストが低下したため、製品のコストもついでに下がる。②技術と管理のレベルアップ、投入の増加、企業規模のさらなる拡大、生産能力の急速向上で、供給が十分になった一方、重複建設による過剰も見られ、消費需要、とりわけ農村の消費需要の不足などの問題も生じた。③体制改革によって、人々が支出に対する予期が強まったが、その予期がよくないことも需要不足をもたらした。

 姚氏は、中国の価格が世界に影響を及ぼしているというレポートの見方は正しいもので、それは中国の国力が増強し、製品の競争力が向上していることを物語っていると見ており、次のように指摘した。世界経済一体化の発展に伴い、価格決定システムも変わっている。商品価格の確定は世界経済システムを背景として、少数の先進国を主導とするこれまでの歴史をちくじ変え、発展途上国の地位と作用はますます顕著になる。しかし、値段の安い中国製品の米市場進出がアメリカのデフレを招いたというわけにはいかず、中国の労働生産性が向上し、単位製品のコストが低下し、国際競争力が増強したことしか物語っていない。また、中国経済の持続的、健全、快速な発展、中米貿易の発展はアメリカの経済に新たな活力をも注いでいる。

 一国の経済運行に問題があったら、まずその国の内部から原因を探さなければ問題を解決することができないと姚氏は語った。

 経済学者の胡鞍鋼氏は次のように述べた。ローチ氏は中国が世界的デフレの牽引車だと見ているが、この判断は根拠に欠け、ひいては不適当に誇張している。例えば、ローチ氏は96年から昨年までの7年間にアジアの対米輸出増に占める中国の割合は50%にも達したため、中国はすでにデフレの要因となっていると見ている。事実には、中国の対米輸出額は米税関の統計に基づいて見ても米GDPのわずか1.1%を占めているだけで、アメリカのデフレの要因にならない。

 また、客観的には、中国経済の成長や生産能力の増強、輸出の拡大などが世界的デフレに果たした役割はせいぜい4%にすぎない。われわれは中国経済の高速成長が世界の生産能力過剰というデフレを招く要素を大きくすることを認めるが、このために中国を世界的デフレの起因と認めることができず、いわんや中国も世界的デフレの被害国である。「中国がデフレを輸出する」というのは大げさすぎる。

 胡氏はまた次のように指摘した。世界にデフレが発生しことに対し、ヨーロッパ、アメリカ、日本という3大経済体の経済成長率の低下または長期にわたる低迷が最も重要な責任を負うべきである。世界の生産能力過剰は主に先進諸国の生産能力過剰であるが、世界の需要不足は主に低収入諸国の需要不足である。低収入諸国の人口は世界総人口の40%を占めているが、その輸入は世界の輸入総量の3%しか占めていない。だからといって、南北の格差が大きくなったことこそ世界的デフレの深層の原因である。

米日のデフレは中国のせいではない

 アメリカと日本のデフレを引き起こした主な原因は何か。胡氏の分析によれば、少なくとも次のいくつかのものがある。①米国の株式が大幅に下落し、昨年7月から株式が数ヵ月間に28000億ドル減少し、西ヨーロッパの3大株式市場は全面的下落が見られ、日本の株式市場も激動している。②アメリカの投資環境が極度に悪化し、外国の直接投資が激減し、年間を通じての外国直接投資額が2001年の1240億ドルから440億ドルに減ると推測され、それに1000億ドルに上る外資撤収が発生した。③米ドルは昨年4月から全面的に下落する動きを見せており、4月から7月までに米ドルの対ユーロと日本円のレートはいずれも10%下落した。④アメリカの低貯蓄率は経済不振の状況を変えられず、昨年第3・四半期の米国家純貯蓄率(企業預金や家庭預金および政府預金)はGDP2%であった。⑤アメリカの持続的な巨額の貿易赤字もデフレを引き起こした原因である。日本のデフレについてはなおさらその国内の経済と政治の原因によるものである。

 ローチ氏さえもその「中国非難を止めよう」という研究レポートの中で自分の観点を修正し、次のように指摘した。最近、日本財務省のある次官は、日本のアジア隣国、とくに中国が日本のデフレの根源であると言った。

 ローチ氏は、中国からの輸入は日本のGDP2%を下回り、中国が日本のデフレを引き起こした原因にならないと見ている。日本のデフレ状態はまず日本国内の供給が需要を超えたことと政府が効率の悪い企業を絶えず救済したためである。低コストと高効率の中国への生産シフトは、コストの「高い」という日本の生産力の過剰が続いていることを裏付けているにすぎない。

 ローチ氏はアメリカで進行しているデフレの源が中国であるという言い方はとても牽強である。中国の対米輸出は確かに急増しており、過去5年間の年平均増加率は16%を超えている。このような持続的な増加は、世界的にコストの低いメーカーから来るデフレの圧力が大きくなっているという感じを人々に与える。しかし、中国からの輸入はアメリカの輸入総額の10%しかなく、またはそのGNP1%強にすぎない。これがアメリカ経済の大部分となるのにはまだ不十分であり、その価格全般のレベルに影響を及ぼすことはない。

 貿易赤字もアメリカのような成長が速く、預金の少ない国の産物である。中国がなくても、その他の国もこのブランクを埋めるであろう。こうした状況の下で、中国からの輸入のコストと値段の差異を脅威と見なすべきではなく、意外な収穫と見なすべきである。アメリカの消費者が絶えず圧力を感じている時、安い中国製品はアメリカ国内の購買力を拡大している。中国という要素はアメリカのビジネスサイクルの軟着陸に対しカギとなる役割を果たすかもしれない。同様に、アメリカの企業も中国からの仕入れによってコストを下げ、収益を増やすといった利益を受け、アメリカのビジネス界と投資家もこれによって競争力を高めることができる。