中国の農民が増収面でぶつかっている困難とその対策

 ――ここ数年来、中国の農民の収入増加は増収の空間が小さくなり、市場ニーズによる制約が激しくなり、農業以外産業の発展がスローダウンし、都市化のプロセスが遅れ、農民の負担が重すぎ、農業政策が片寄っているなどの制約を受けた。苦境から抜け出し、農民の収入を適切に増やすには、農業構造を最適化させ、グレードアップし、都市化の建設を加速し、農村の税金と費用の改革を推し進め、農業への投入と農業保護を強化しなければならない。

高潔(華中科学技術大学管理学院博士コース大学院生・湖北経済学院助教授)

王韜(華中科学技術大学管理学院教授・博士コース大学院生の指導教官)

 ここ数年来、中国の農民増収のスローダウンは農村の需要不足、農村市場の開拓困難の重要な原因となっている。どのように農民の収入を増やし、農村住民の購買力を高め、農村市場の需給による制約を緩和し、農村経済の発展を促すかは、社会各界が関心を寄せる焦点の一つとなっている。そのため、中国の農民の増収がぶつかっている困難を探究し、農民の収入を確実に増やす基本的対策を探し当てることは、当面の中国の農村経済を発展させるに当たって必ず解決しなければならない際立った問題である。

直面している苦境

 1996年以来、中国の農業は連年豊作であったが、農民の増収がスロータウンし、収入がやや減ったところさえあった。統計によると、1996年の農民の1人当たり純収入は前年より9%増えたが、1997年の増加率は4.6%に下がり、1998年は4%に下がり、1999年は3.8%に下がり、2000年は2%にまで下がった。農民の収入の伸び率が4年連続して下がった原因は、主に農民の増収が次のようなの困難にぶつかっていたからである。

 1.単に農産物の値上げに頼って農民の収入を増やす空間がますます小さくなってきた。改革・開放以来、中国政府は工業製品と農産物の比価関係をすっきりさせ、農民の生産意欲を引き出すため、農産物の買付け価格を何回も引き上げ、農民の収入を増やす上で重要な役割を果たした。しかし、農産物の値上げの空間は無限に大きなものではない。現在、中国の大多数の農産物の価格は完全に市場によって決定され、国際市場の価格に接近するかそれを上回っている。このような状況の下で、引き続き農産物の値上げに頼って農民の収入を増やすのは難しいだけでなく、現実的でもない。

 2.農産物の需給構造の変化は農民の増収に日ましに市場の制約を受けさせるようになった。改革・開放以来の経済の持続的高成長によって、中国の農産物供給総量はすでに以前の長期不足から需給が一応バランスを保つようになったことに変わり、需給矛盾はすでに総量の矛盾を主とすることから構造の矛盾を主とすることに変わった。そのため、農業の発展が日ましに強くなる市場制約に直面する形勢の下で、農産物総量の拡大は、農業の面で農民により多くの就業の機会と収入源を作り出すことができなくなった。1980年代中期以来、農産物が売りにくいため、農民が豊作の年に増産したが増収を達成できなかったのは、現実となったのはまさに農産物の需給関係の変化がもたらした必然的な結果である。特に中国のWTO加盟後、多様化、高品質の農産物の市場需要がますます大きくなり、これまでずっと増産で増収をはかっている中国の農民はより大きな挑戦に直面することになろう。

 3.農業以外の産業の発展のスローダウンと都市化のプロセスの遅れによって、農民の農業以外の収入が激減した。改革・開放以来、一方では、中国の農業以外の産業、特に郷鎮企業の急速な発展は、農民の収入の急増を促し、1996年に、中国の農民の郷鎮企業から獲得した賃金収入は一人当たり311.5元で、その年の農民の1人当たり純収入の16.2%を占めた。しかし、ここ数年来、中国の郷鎮企業の伸び幅が小さくなり、収益が減り、農村労働力の吸収能力が弱くなって、直接農民の増収に影響を及ぼした。他方では、中国の農村の都市化プロセスが遅れ、全国の都市化のレベルは30%しかなく、現在の先進国の都市化のレベル(80ないし90%)よりはるかに低いだけでなく、発展途上国の平均のレベル(40%)よりも低いものである。農村の都市化レベルの遅れは次の結果をもたらした。@郷鎮企業を相対的に集中させるのが難しくなり、これは郷鎮企業の合理的配置に不利で、郷鎮企業の構造調整と収益の増加を制限し、農民が郷鎮企業から獲得する収入をも減らした。A農村の余剰労働力をより多く移転させ、農業の労働生産性を高めるのが難しくなり、農民の増収に影響を及ぼした。B農村の文化、教育、医療・衛生事業の発展と農村の社会進歩に不利で、農村労働力の資質向上を妨げ、農民収入の持続的増加を根本から制約した。

 4.農民の負担が重すぎることは農民の収入に直接影響した。ここ数年来、中国政府は農民の負担を軽減するよう何回も言明したが、各地はいつも手法を変えて、農民からさまざまな費用を徴収している。その原因は二つある、第一は、郷と村の二クラスの組織が徴収する費用は、前の年の農民の1人当たり純収入の5%を上回ってはならないと国によって明文で規定されているが、多くの地方が上級に報告する農民の1人当たり純収入は往々にして農民が自ら計算したものの3ないし4倍であり、農民の純収入をより多く報告すれば、費用徴収の収入の基数を大きくすることができるだけでなく、末端指導者の政治的業績にもなり、このような一挙両得のことは誰もがやりたがる。第二は、中国で実行している分税制が中央と地方政府の財源拡大の積極性を引き出したが、同時に、一部の地方政府が地方の税源を開拓するため、農民の利益を顧みない現象も暴露された。第三は、郷鎮クラスの政府の公務員が多く、機構が肥大化して直接農民の負担を重くし、農民の利益を減らした。

 5.政府の農業政策の片寄りによって、農民の増収は明らかに不利な社会・経済環境に直面している。農業の発展は、第一は政策に頼り、第二は科学に頼り、第三は投入に頼るのである。現段階では、農業の科学技術使用量が低く、投入がひどく不足しているため、農業の発展と農民の増収に影響する「ボトルネック」の要素となった。マクロ政策から分析すれば、中央から地方政府に至るまで農業重視を強調し、農業の発展を強化する一連の政策と措置をとったが、生活の中では、農業の利益が少なく、工業は重視するが農業を軽視するマクロ政策の方向の慣性作用で、農業資源の過度の流失および政府の財政投入の不足を来たし、農業の発展と農民の増収にとても不利な影響を及ぼしている。1990年代から、中国の工業製品と農産物のはさみ状の価格差はほとんど毎年2000億元以上に達している。これをを見ても、中国の経済発展に対する農業の貢献の一斑をうかがい知ることができる。1985年から1989年にかけて、農業・牧畜業および郷鎮企業の税収から来る国の財政収入は合わせて1501億9000万元に達したが、農業に用いた国の財政支出は1013億6000万元で、二者を差し引くと、農村から流出した資金は488億3000万元に達した。50余年来、農業面の財政投入は財政総支出の約6%を占めており、水利、気象などの費用を差し引くならば、その割合はわずか3%になる。国の農業政策の片寄りは客観的に農民の増収にとても大きな影響を及ぼした。

対策と提案

 中国の農民が増収面でぶつかっている困難に照らして、農民の収入の持続的増加を実現させるには、考えの筋道を広くし、単に農業の内部から農民の増収のルートを探すだけでなく、農民の増収問題を国民経済の改革と発展という全局に置いて考慮すべきである。このため、本文は次のような対策、提案を提出する。

 1.農業構造を調整し、最適化させ、農業の産業をグレートアップさせる。内外の経済発展の実践が立証しているように、初級製品であればであるほど、その必要とする需要価格の弾力性がますます小さくなり、産品の等級を高めれば、産品の付加価値を増加できるだけでなく、市場のニーズを拡大することもできる。そのため、中国の農産物の需給構造の矛盾が根本的に緩和されていない状況の下で、農民の収入を増やすため、次のことをしなければならない。

 まず、あくまで市場の需要を方向とし、各地の資源の強みに依拠し、質と効果を中心とし、科学技術の進歩にしっかりと頼り、農産物の品種構成と農作物の配置を重点的に最適化させ、農産物の種類の多様化と優良化を促し、農産物の市場競争力を高める。次に、引き続き農業の産業化経営を大いに促し、農産物の生産基地および先導企業の整備を強化し、農民と先導企業に緊密な利益共同体を結成させ、技術使用量が高く、付加価値が大きなブランド品・優良品、特産品の開発に特に力を入れ、農業の経済構造のちくじの最適化とグレードアップを促し、農民の増収および最終的に農業の現代化を実現するために基礎を築く。

 2.農村の都市化のプロセスを加速し、農村の余剰労働力の移転を促す。まず、就業の拡大を突破口として、戸籍制度を徹底的に改革し、農民が自由に秩序立って都市部に移動できるようにする。制度の革新を通じて、農民の就業に対する差別的政策を取り消し、都市と農村の戸籍の一体化管理を逐次実現し、都市と農村を切り離す社会保障体制を打ち破り、都市部に出稼ぎに来た農民を逐次統一した社会保障システムに組み入れ、農業労働力の移動と職業の選択のために公平な競争の環境をつくり出し、農民の就業の空間および増収のルートを広げる。次に、郷鎮企業の制度の革新、構造調整を加速し、農業の余剰労働力の吸収能力を強化する。郷鎮企業の所有権制度の改革を積極的に模索し、それをいっそう充実させ、現代企業制度の要請に基づいて郷鎮企業に対し資産再編と制度改革を行い、これを踏まえて、郷鎮企業の産業構造を調整し、最適化させ、農産物・副業生産物の加工工業を重点的に発展させ、農産物の運送・販売システムを充実させ、農民の増収のために新たな発展の空間を開拓する。第3に、小都市の発展戦略を実行し、都市化のプロセスを大いに促す。中国の都市化レベルは現在の30%ではなくて、50%であれば、当面の消費レベルに基づくと、農産物に対する支払い能力を伴うニーズは少なくとも倍増し、たとえ農産物の構成が向上しなくても、農民の収入は新たな段階に上がるだろう。

 3.農村の税金・費用体制の改革を積極的に推し進め、農民の負担を確実に軽減する。まず、末端行政機構の簡素化に力を入れ、余剰人員を整理し、減らす。次に、税金・費用改革を通じて、農民の負担を法制化の軌道にのせ入れ、農民に対する費用徴収を規定通りに行わせるようにする。第3に、制度面から農民の負担を軽減し、農民の収入を増やすため、支払制度の転換を通じて、税金・費用改革の特定補助基金を設ける。

 4.政策面から農業への投入に力を入れ、農業に対する支持と保護を強化する。先進国の経験から見て、工業化の初期において、農業は工業の発展のために資金を蓄積したが、工業化が一定の段階に達したあと、工業は農業にリターンし始めた。現在、中国の1人当たりGNPは800ないし2000ドルであり、政府は政策面から農業に傾斜し、農業扶助に力を入れるべきである。特に中国のWTO加盟後、政府はなおさら農業への財政投入を増やし、農業のインフラ整備を強化し、農業の生産条件を改善し、農業の自然災害と市場リスクを防備する能力を高め、農業の競争力を高めることを踏まえて農業保護を強化すべきである。中国政府が逐次農業の中から資金を取り出して工業を発展させるやり方を変えず、農業に対し国際慣例に合致する保護措置をとることもできなければ、国際市場における中国の農業の立場はさらに苦しくなり、収入を増やしたいという中国農民の希望を実現させるのはいっそう難しくなるだろう。