二回目の湾岸戦争にまだどんな懸念があるのか

 ――現在、アメリカがすでに武力でサダムを覆す決意を固めており、対イラク開戦の日が近づいているのは、疑問の余地のないことである。

朱鋒(北京大学国際関係学院)

 2003年に入ってから、イラク戦争に関する猜測や論争が再び国際社会の焦点の一つとなっている。1月1日、ブッシュ大統領は、アメリカと朝鮮の矛盾は「外交で対決する」ものであるが、イラクとの矛盾は「軍事で対決する」ものであると語った。ブッシュ大統領は1月3日、テキサス州のフォートフッード軍事基地で演説を行った際、イラクが大量破壊兵器を発展させて世界を脅かす立場を放棄することがないと強調し、イラクが引き続き国連をだましていることと非難し、そのため、「イラクと決着をつける時が来た」と語った。ブッシュ大統領の上述の発言は現任のサダム・フセイン・イラク大統領に「宣戦布告書」を突きつけたのに等しい。

 疑問がなく、現在、アメリカはすでに武力でサダムを覆す決意を固めており、米国が対イラク戦争を起こす最後の日が絶えず近づいている。2002年12月24日から、ペンタゴンはすでに3回も湾岸地域への増兵命令を出した。そのうち、12月24日は2万5000人増兵の命令を出し、2003年1月10日は3万5000人増兵の命令を出した。24時間以内に、ラムズフェルド米国防長官は三回目の増兵命令を出した。増兵の規模は2万7000人である。わずか2週間余りで、アメリカが湾岸地域に増派した軍事力は合わせて8万7000人にのぼった。これと湾岸地域にもとからある6万5000人の軍事力と合わせれば、2月末現在、アメリカの湾岸地域に集結する軍事力の総数は15万人に達する見通しである。

 現在、アメリカが戦争に向かういま一つの重要な兆しは石油輸出国機構(0PEC)に石油生産量を増やすよう呼びかけたことである。2003年1月8日、アメリカはOPECに石油の日産量を高めるよう要求した。表面から見れば、アメリカのこの要求はベネズエラの原油輸出停止による原油価格上昇を抑えるためであるが、その後ろに隠れた真実な意図は武力でサダムを覆す準備を整え、イラク戦争によって世界の石油価格が再度暴騰して、アメリカと世界の経済に衝撃与えるのをできるだけ避けることにある。1月10日、国際トレント原油市場の石油価格は1バレル当たり30ドルに上がった。1月12日のOPEC閣僚会議は、世界の原油価格を22ないし28ドルに安定させるめ、2月1日から石油生産量を6.5%増やし、毎日150万バレルを多く生産することを決定した。OPECのこの決定は客観的にはアメリカの開戦のために重要な条件を整えた。2002年に2回開かれたOPEC閣僚会議が増産を拒否したのに、今度は突然増産を決定したのは、政治要素と経済要素がともに影響を及した結果である。

 アメリカは「サダムを覆す同盟」を組織する面でもわりに著しい進展をみせた。まず、アメリカのその他のヨーロッパ同盟国の態度に微妙な変化が生じた。2002年12月22日、フランス国防省のスポークスマンは突然、フランスの原子力空母「ドゴール号」の今年初めからの補修任務を取り消し、2003年1月末に湾岸地域に派遣することを明らかにした。この時間はちょうど国連査察団がイラク兵器査察の結論を発表する時間と一致するため、これは実際にはフランスのイラク戦争に直接参加する可能性があることを示す具体的な兆しとなっている。ドイツの態度にも重要な変化が見られた。12月20日、ドイツは、いったんイラク戦争が勃発するならば、ドイツは軍隊を派遣してドイツに駐屯する米軍の軍事基地の保護に協力することを明らかにした。イラク戦争が始まりさえすれば、アメリカと他のヨーロッパ同盟国の間には協力の程度の問題しか存在せず、協力するかどうかの問題が存在しない。

 次に、トルコは1月初めにアメリカがトルコの軍事基地を利用してイラクを攻撃することに同意しなかったが、いまから見ると、その態度が大きくゆるんでいる。1月10日、トルコは米国の軍人がその軍事基地を視察するのを認め始めた。これはトルコがその軍事基地を開放する重要なシグナルとなる可能性がある。そのほか、ヨルダンなどの国の対米協力の願望が強くなっているため、アメリカの空母は地中海東岸に寄港する港を獲得する可能性がある。これはアメリカがイラク戦争のために配置する空母6隻編隊のうち、少なくとも1隻が西部戦線の空中回廊を切り開き、イスラエル、ヨルダンを飛び越えてイラクを直接攻撃できることを意味する。しかし、1991年の湾岸戦争期間に、アメリカはそのような便利さを得られなかった。

 イラク戦争がいったん始まると、中東問題は全体として変化を加速する新たな段階に入り、2003年と今後の国際情勢に重大な影響を及ぼすことになろう。

 まず、アメリカがいったいどのような戦争方式をとるのか、あるいは戦争がいったいどの程度続けられるのか。現在、アメリカが湾岸地域に集結した軍事力の規模から見て、アメリカは速戦即決を望んでいる。一週間でイラクを壊滅させるという組織的だった軍事行動に対する評価がいささか楽観しすぎるようであるが、1ヵ月以内ならアメリカは確かにイラクに対する総体的軍事行動をほぼ終わらせる能力がある。

 次に、どのようにポストサダム政権を樹立するのか。アメリカは依然としてアフガニスタンの新政権を樹立した「ボンモデル」を採用して、国連および関係諸国の参与の下でともに解決するだろう。これは政権を握ったイラクの新政府の国際説得力と国内説得力を強くするだけでなく、戦後のイラク再建の中で引き続き世界のその他の国を丸め込んでアメリカと費用を分担させる重要な一手でもある。

 第3に、アメリカはイラク戦争勃発後の中東の反米主義問題にどう対応するか。アメリカが軽々しく事を運べば、言うまでもなく、これはバグダードに兵力を派遣すると同時に、イスラムの反米主義ひいては国際テロリズムが機会を狙って手を下す時となる。イラク戦争のためイスラム諸国との衝突を激化させるのをどう避けるかは、アメリカがイラク戦争を選ぶと同時に解決しなければならない最も手を焼く問題の一つとなる。現在、イラクの宗教界のリーダーはムスリム諸国にアメリカと「聖戦」をおこなうよう呼びかけており、サダムも「人肉の盾」「焦土政策」を含めた一連の措置を講じ、自殺的攻撃などの方式でアメリカに抵抗するよう呼びかけるつもりである。現在、国連の専門家の推定によると、イラク戦争でイラクは1000万人の死傷者を出し、90万人が難民になる。戦争の過程に数多くの庶民が死傷すれば、イスラム世界とアメリカの矛盾を激化させ、反米主義がいっそう発展するのは明らかである。その結果、世界各地のテロ事件も激増する。このような状況の下で、イラク戦争は2003年の国際テロの襲撃の新しいブームを巻き起こすブースターとなる可能性がある。

 第4に、国際社会は戦争のもたらす新たな人道主義の災難、世界石油価格市場の激しい変動、環境と生態の災難にどう対応するかは、国連の役割と大国関係に対する新たな試練となる。新たな人道主義の災難が起こる可能性があるほか、イラク戦争が新たな環境と生態の災難を誘発する可能性も除外することができない。1991年の湾岸戦争の終結前夜にクウェートから追い出されるイラク軍はクウェート国内の90余ヵ所の油井に火をつけた。戦後、国際社会は多国籍の消火班を組織し、4ヵ月かかってやっと油井の火を消し止めた。当面、国際環境保護主義者はイラクにそれと似通ったことが現れるかどうかに対し焦慮にかられている。

 第5に、戦争の成り行きはイスラエルとパレスチナの中東和平プロセスに深刻な影響を及ぼす。1月下旬に、イスラエルは総選挙を行い、政権党のリクードグループと現首相のシャロンの再任に大きな問題はないが、総選挙の後に、パレスチナとイスラエルは暴力による流血衝突を真に抑え、四者国際会議が制定した新たな中東和平案を受け入れるかどうかは、その戦争とある程度と直接の関係がある。イスラエルは2回目の湾岸戦争の最大の支持者である。サダムを覆せば、イラクからの脅威がなくなる可能性はあるが、イスラエルは短期間にパレスチナ人の憎しみと不満をなくすことができるだろうか。

 現在、イラク戦争の最大の懸念はアメリカが引き続き安保理と協力して合法的な権限を授けてもらって武力を行使するのか、それとも2月にイギリスとともにアメリカの政策に基づいて直接武力を行使するかである。1月27日、国連イラク大量破壊兵器査察団(UNMOVIC)がその査察の初歩的な結論を報告する。アメリカはこのレポートの中からイラク戦争の引き金を直接手に入れる可能性は大きくない。しかし、エルバラダイ・国際原子力機関(IAEA)事務局長は先日、『タイムズ』誌の単独インタビューに応じた際、イラクが「不法な活動」を続けているという情報を通報したようである。今から見て、アメリカはどうしても安保理に結論を下させることを試みようとしている。たとえこの結論は少し無理なところがあっても、アメリカは待ち切れずに自らの手にある引き金を引くであろう。