アメリカの「二重基準」

 ――イラクと朝鮮はアメリカに「悪の枢軸」と称されているが、アメリカから異なる対処を受けているのはなぜか。

外交ペン・クラブ  周溢こう

 イラクと朝鮮はともにアメリカに「悪の枢軸」と称されている国であるが、イラクの核兵器査察問題と朝鮮の核兵器問題は当今の世界に注目されている二大焦点である。だが、アメリカは朝鮮とイラクに対し異なる政策をとっている。イラクに対しては軍隊が国境に迫り、戦争がいつでも発生する状態にあるが、朝鮮に対しては一再ならず平和的に解決すると公言している。1月7日、アメリカは朝鮮と対話したいと表明し、8日に米国務長官は朝鮮と核兵器について合意に達する可能性があることを明らかにした。その中にアメリカが朝鮮を攻撃するつもりがないことを正式に保証することが含まれている。これに対し、イラクとアメリカの一部の民主党参議員はブッシュ政府が「二重基準」を実行していると非難している。アメリカ政府がこのような政策をとるのはなぜか。

 まず、イラク問題と朝鮮問題の性格が違っている。1980年代、イラクとイランの間に戦争が起きた。90年代の初めイラクはクウェートに対し侵略戦争を起こし、クウェートを併呑することをたくらみ、サウジアラビアなどの国の安全を脅かした。アメリカをかしらとする多国籍部隊に打ち負かされた後、イラクは国際社会に大量破壊兵器の廃棄を約束したが、長い間、国連の兵器査察要員とうまく協力せず、彼らをイラクから追い出した。アメリカはイラクが大量破壊兵器を廃棄していないか徹底的に廃棄していないと疑っているため、武力に訴えて、サダムの武装を解除すると脅かした。ある意味から言えば、これは当年の湾岸戦争の延長であると言ってもよい。

 朝鮮の状況はそれと違っている。朝鮮はいかなる国をも侵略しないばかりか、逆に前の一時期に進んで和解の姿勢を示し、アメリカの同盟国の韓国、日本と関係を改善し、また朝米関係も改善すると表明した。現在、朝米紛争の焦点は、1994年に締結した「ジュネーブ朝鮮核問題に関する枠組み合意」に違反したのは誰かである。これはもちろん対話、交渉のやり方を通じて解決するほかはない。

 次に、アメリカのグローバル戦略におけるイラクと朝鮮の地位が違っている。イラクは中東に位置し、豊かな石油資源があり、非常に重要な戦略的地位を占めている。「9・11」テロ事件発生後、米軍はアフガニスタン、キルギスタン、ウズベキスタン、タジキスタンに駐留し、グルジアに軍事顧問団を派遣した。これらの国に駐留している米軍は、サウジアラビア、バーレーン、クウェートなどの中東諸国に駐留している米軍と一体となっている。アジアから地中海海岸に至るまで、米軍が足を踏み入れない安全地帯がほとんどない。もし米軍はパレスチナ指導者のアラファトを更迭させ、サダム政権を覆し、イラクに親米政権を樹立させるならば、アフガニスタンから地中海海岸に至る広大な地域でアメリカが主導する秩序を確立することができるだろう。マッキンダーの「陸権論」、「世界島(つまり欧亜大陸)を統治できる者は全世界を主宰することができる」という観点の影響を深く受けているため、アメリカはずっとユーラシア大陸のヒンターランドに対し虎視耽々としている。今では、アメリカは西の方ではNATOに頼ってヨーロッパを抑え、東の方では日本と連携してアジア・太平洋地域を主導し、さらにユーラシアのヒンターランドで中間突破を実現できれば、「両極(NATOと日米安全保障条約)に頼り、両洲(ヨーロッパとアジア)に立脚し、二大洋(大西洋と太平洋)を抑え、世界を主導する」夢を実現できるだろう。そのため、アメリカはどうしてもイラクを征服しなければならないのである。

 朝鮮の状況はそれと違っている。冷戦期間に、朝鮮は社会主義陣営の東側の前哨であったが、冷戦後、情勢が大きく変わり、アメリカにとって、朝鮮の戦略的重要性ははるかにイラクに及ばない。同時に、アメリカは朝鮮を占領し、抑制できないこともはっきり知っている。

 第三は、イラクと朝鮮の地縁政治環境がまったく異なっている。イラン・イラク戦争、特にイラクの対クウェート侵略によって、イラクはアラブ諸国の中でかなり孤立した。アラブ世界がアメリカの対イラク武力攻撃にあまねく反対しているが、戦争が起きれば、イラク側に立つ隣国はおそらく一国もないだろう。朝鮮の周辺には韓国、日本、中国、ロシアがあり、朝鮮に武力攻撃すれば、朝鮮がゆゆしい打撃を受けるほか、アメリカの同盟国の韓国、日本にも災いが及ぶだろうし、中国とロシアも影響を受けるだろう。そのため、韓国、日本、中国、ロシア四カ国は朝鮮問題を平和的に解決することを一致して主張している。これはアメリカにとって牽制であると言わざるを得ない。武力攻撃はさておき、朝鮮に対する経済制裁に対しても朝鮮、中国、ロシアも断固として反対し、日本も賛成しない。朝鮮は連年災害に見舞われたため、経済が苦境に陥り、それでも経済制裁を加えれば、多くの難民が韓国、中国、はてはロシアに流れ込むことになり、これはこれらの国がなんと言っても受け入れられないことである。

 第四、イラクと朝鮮の軍事実力も同じでない。イラクは10数年間にわたる制裁を経た後、軍備が古くなり、戦力が強いことはないだろう。朝鮮は兵力がわりに強く、中短距離ミサイルなどの先進的な兵器を装備している。ロシア「イズベスチヤ」紙は1月9日に掲載した記事の中で、「アメリカの指導者が金正日を慰撫する政策を制定した際、次のようなことを考慮したという。つまり朝鮮半島に米軍3万7000人が駐留しているが、いったん軍事衝突が発生すれば、彼らは100余万人にのぼる朝鮮軍隊のいけにえとなる。その上、朝鮮は恐らく日本と韓国にミサイルで集中爆撃し、全世界の経済と政治に災難的な結果をもたらすだろう。専門家たちは非公式的な場でこれを認めている」と指摘している。これらの話は人騒がせなことではない。

 アメリカは従来から実用主義を実行し、対外政策もその利益によって変わる。この点が分かれば、イラクと朝鮮に対しアメリカが異なる政策をとっていることが一目瞭然である。