現代化の課題に直面する国産漢方薬

――日本と韓国の生産した「漢方薬」の国際市場占有率は中国よりはるかに高いものである。このようなばつが悪く、危機が潜んでいる局面を変えるため、中国政府はいま漢方医薬の現代化・産業化戦略の実施に力を入れている。

馮建華

 中国は漢方医薬の発祥地であるが、その国際市場における漢方薬大国としての地位は、「外国製漢方薬」の衝撃と挑戦を受けている。統計データによると、総額300億ドルに達する植物生薬の国際市場で、中国の輸出額は6億ドルしか占めておらず、しかも大部分が薬草と栄養剤である。いま、日本と韓国が中国の伝統的処方をもとに生産した「漢方薬」は国際市場で主流となっている。

 国産漢方薬が中国国内の市場で絶対的な優位を占めているものの、「外国製漢方薬」も大量に中国に進出し始めている。資料が顕示しているように、1992年の中国の漢方薬の輸出額と輸入額は大体同じであったが、2000年になると、輸入額は少なくとも倍以上増えて、輸出額は1992年と比べていくらか少なく、「貿易赤字」が現われたばかりでなく、逐次大きくなる趨勢を呈している。2001年の両者を差引いた「貿易赤字」は1億5200万ドルに増大した。

 説明によると、日本や韓国などの国はほとんど安価で中国から薬草を輸入し、それを加工してから高価で中国に輸出している。

 関係部門は、今後の数年間に、薬草の国際市場における取引が毎年10ないし20%のスピードで増えると予測している。この明るい市場の見通しに目をつけたバイエルなどの国外の医薬企業は次々と中国の漢方薬産業分野に進出している。これは規模が小さく、科学技術使用量が相対的に少ない国内の漢方薬企業にとっては泣き面にハチであり、その直面している競争情勢も非常に厳しいものである。

 漢方医薬業界が直面している「内憂外患」の状態は、中国政府の強い関心を引き起こした。

 昨年10月、科学技術部、国家発展計画委員会など8つの政府部門は共同で「漢方薬現代化発展綱要」(2002-2010)を公布し、正式に漢方薬の現代化を漢方薬発展の主な課題とした。科学技術部も「新薬開発と漢方薬の現代化」というプロジェクトを第十次五カ年計画(2001-2005)の国家クラス重要科学技術プロジェクトに組み入れた。

不思議な「苦いコーヒー」

 中国名が安?彬という中国駐在アメリカ大使館の館員はずっと前から関節に鈍い痛みを覚え、夜も眠れない状態がつづいた。そのため、何度も有名な西洋医学の先生に診てもらったが、治療直後は楽になったがまた痛くなるということを繰り返していた。

 このことで悩んでいた氏はやむを得ず中国人同僚の紹介で北京漢方医病院を訪れた。煎じ薬は鼻を突く強いにおいがあるが、勇気を出してやっとそれを飲んだ。

 このように何日か「堅持」した後、症状が軽くなったように感じ、さらに何日がたつと、関節はあまり痛くなくなり、夜もわりに眠れるようになった。薬を止めたあと、病気が再発していない。今でも漢方医薬の話になると、この「苦いコーヒー」は本当に不思議だと、賛嘆を禁じ得ない。

 このアメリカ人と同じように、多くの外国人は西洋医学の先生に何度か治療してもらっても良くならないため、試してみるという気持ちで漢方医の先生に治療してもらっている。彼らは自身の経歴で漢方医薬を理解し、受け入れるようになった。

 北京漢方医病院外国人患者受付を担当する看護婦の張彩珍さんの説明では、1980年代以前に、北京漢方医病院で治療を受ける外国人患者は年間にせいぜい百人ぐらいしかなく、しかもそのほとんどが中国駐在大使館と外資企業で仕事をしている人たちであった。昨年、北京漢方医病院に来て、治療を受けたり参観した外国人は36カ国・地域の延べ1352人に達した。

発展を制約する要素

 数千年の実践の中で、中国は漢方薬についての豊富な臨床応用経験を積み、漢方医薬の書籍も非常に多い。しかし、漢方薬の現代化と産業化はいま苦境に立たされている。その原因について、いま業界の人たちは再考している。

 北京漢方医薬大学博士コース教官の王文全教授は次のように見ている。

 国産の漢方薬は成分が多く、複雑な体系であり、その処方はほとんど昔から伝承されてきたものであり、同じ病状でも、医者によっては用いる処方は必ずしも同じではない。西洋薬は成分をはっきりさせ、薬効について必ず一連の臨床試験を行ってから、その薬の効用を確定する。西洋薬とのこの違いによって、中国産の漢方薬は多くの国では薬物ではなく、食品添加剤あるいは保健品だと見なされている。そのため、漢方薬の国際市場進出は難しくなった。

 しかし、これは漢方薬が西洋薬に及ばないというのではなく、漢方薬の方が個性化の治療をより重視していることを言っているのであり、治療の効果から言えば、手段は違うが結果は同じである。

 「外国製漢方薬」の国際市場に占めるシェアが国産漢方薬より大きいのは、それがより良い治療効果を持っているためではなく、国産の漢方薬をもとにできるだけ西洋薬の基準に合わせ、ハイテクの手段で薬物の成分を細かく分けて基礎的研究を行い、その性質と作用をはっきりさせているだけである。それから現代化の経営・販売手段でこうした「単一薬」を包装し、PRを行っている。中国はこれらの面ではまだ国外にとても及ばないのである。

 調べによると、国家薬品監督管理局に登録した1127社の漢方薬生産企業のうち、中小企業は91%を占める1020社ある。これら企業の製薬設備の多くは立ち遅れており、製剤設備は国外の1970年代のレベルのもので、研究・開発資金がとても不足している。

 ヨーロッパの植物生薬を含めた世界の漢方薬輸出量について言えば、中国は最大であるが、その金額は世界総額の3%しか占めていない。それは中国の輸出した漢方薬のほとんどが原始的な半製品や付加価値の低い製品で、原材料がかなりの部分を占めているからである。

 いまでは、漢方薬は国際市場でますます人気を呼んでいる。中国が安価で生薬を売って、国外業界は略奪的買付を行っている。この状態が続いていけば、多額の利潤を国外のメーカーにもっていかれるだけでなく、それよりももっと重要なのは漢方薬資源の欠乏を来し、国産漢方薬の長続きの発展と輸出に影響を与える可能性がある。

 新薬の審査手続きが煩雑で、知的所有権の保護が足りないといった要因も、漢方薬の順調な開発と生産をある程度妨げている。

漢方薬の現代化戦略

 王文全教授は、漢方薬と西洋薬は相互補完の関係にあり、食うか食われるかという問題が存在しない、と次のように説明した。

 漢方薬は保健や難病治療及び総体的治療効果の面で世界に認められるようになり、これも漢方薬の強みのあるところである。そのため、漢方薬の現代化は西洋薬の体系に盲目的に合わせてはならず、包装がきれいで、内服量が少なく、携帯に便利で、製品をPRするといった「外国製漢方薬」の強みを参考にして、自分なりの基準体系を確立しなければならない。これは漢方医薬の今後の立脚と発展の根本である。

 中国政府は漢方医薬基準体系の確立に取り組んでいる。昨年6月1日、国家中医薬(漢方医薬)管理局は「漢方薬剤生産品質管理規範」(GAP)を実施し始め、漢方薬材の生産を伝統的な規範に従って厳格に行うよう要求した。現在、東北地区、西北地区など漢方薬の主産地ではすでにGAPが全面的に実施されている。

 中国政府は「綱要」の中で漢方薬の現代化発展についての4つの戦略的目標を打ち出しているが、その一つは漢方薬草の栽培、研究・開発、生産、販売の基準と規範を確立し、充実させ、漢方薬の質がよく、安全で、効果があるように保証することである。2010年には、常用漢方生薬500種、常用漢方製剤500種の現代品質基準を確立し、充実させる。

 このほか、新薬の開発、大型企業グループの重点的育成の面では、「綱要」は次のような戦略的目標を打ち出している。@2010年までに100種の新薬を開発する。A付加価値とハイテクの含有量が高い製品の輸出を拡大し、2種か3種の漢方薬を世界の主要な医薬市場に進出させるように努める。B年間売上高が50億元以上と30億元以上の大手企業グループをそれぞれ5社と10社を育て上げるように努める。C漢方薬の国際市場に占めるシェアを大幅にアップさせる。