国連の苦しい立場

----目下の情勢下で、安保理で米国の対イラク武力行使を認める決議を採択するのはかなり困難である。

于 非

(外交ペン・クラブ)

 さる2月14日、国連安全保障理事会は会議を開き、イラクの大量破壊兵器の査察に関するエルバラダイ国際原子力機関(IAEA)事務局長とブリックス国連監視検証査察委員会(UNMOVIC)委員長の説明を聴取した。人々の注目を集めたのは、安保理常任理事国5カ国の外相が全員会議に出席したことである。安保理が年中会議を開き、この二人もただ報告を行うだけで、決定を行うのではないため、外相たちは出席しなくてもよいのだが、それでも外相たちが会議に出席したのは、報告を聴取するのではなく、安保理への出席を通じてこの二人に、この報告は非常に重要であり、どちら側にもえこひいきしてはならないと戒めるためであった。

 IAEA事務局長とUNMOVIC委員長の報告はいずれも「公正」である。一方では、イラク政府はできるだけ査察要員の活動に協力しており、査察要員は行きたいところへ行ったが、大量破壊兵器を発見しなかった。他方では、査察要員が射程150キロ以上のサム2型ミサイルを発見した。これは国連の687号決議に背いており、イラク側も生物・化学兵器の行方についてはっきりと説明しなかった。主戦派と反戦派はともにこの報告の中からほしいものを得たが、思いをとげることができなかった。

 今のところ、イラク問題をめぐる勝負は最後の段階に入っている。米英など諸国の対イラク攻撃の軍事配置は急ピッチで進められており、近いうちに軍事行動の準備が完了し、戦争は一触即発の勢いにある。ドイツ、フランス、ロシアなどは対イラク武力行使反対の意向を堅持し、多くの中小国も戦争反対を表明し、米英を含めて各国で相継いで対イラク戦争反対の大規模なデモ行進が行われ、戦争反対の声がますます高まっている。大国は安保理と各国の首都で緊張した舞台裏の外交行動をとっている。焦点は、安保理がイラク問題について武力行使を認める決議を採択するかどうかということにある。いまはただ安保理のこう一言を待っているようだ。

 アメリカはかつて、対イラク武力行使はアメリカの主権範囲内のことである、というのはイラクが大量破壊兵器を保有し、しかもテロ組織をも支持し、アメリカに対し脅威となったからである、また、イラクがすでに国連の関連決議に違反したため、アメリカはこれらの決議に基づいてイラクの武装を解除することができると表明した。ところが、米英などは目下、イラクがその義務を履行していないと非難し、対イラク武装行使を認める新しい決議案を提出しようとしている。

 アメリカが最初の態度を変えたのはなぜか。まず、アメリカはドイツ、フランス、ロシアなどがこれほど強く反対し、ひいては連合してアメリカに対抗し、アメリカの「国際正義」擁護を大幅にイメージダウンさせるとは予想もしなかった。次に、ブレアの民意支持率がとても低く、米国の対イラク武力行使を全力あげて支持するため、国内における政治的立場がますます悪くなっているが、ブッシュは「仲間」を助けないわけにはいかない。第三、国連の査察要員がイラクで説得力のある「証拠」を発見できなかったし、イラクが査察問題で何度も譲歩したため、アメリカは今のところ、「出兵する名義がない」。

 しかし、米英などが国連安保理の権限授与決議の採択を求めるのは、安保理が決議を採択しなければ、アメリカはイラクを攻撃しないことを意味しない。アメリカはサダムを打倒する上では少しも動揺していない。いったん軍事配置が完了すると、アメリカはためらわずに武力を行使する。その原因はそれほど複雑ではない。アメリカが軍事と外交の面で払った努力はすべて「サダム打倒」のためである。その最も理想的な結果は、国境に大量の軍隊を配置し、戦わずして勝つことである。例えば、サダムを国外に亡命させるか、イラク国内で内輪もめを起こさせるのである。次に、安保理の権限授与で出兵に正当な理由をつけ、その国際正義を擁護するイメージを見せるためである。最後の選択は、できるだけ多くの同盟者の支持を得て、一国であるいは多国で出兵することである。「サダム打倒」はブッシュ政府の一時的な衝動ではなく、熟考した後で行った戦略的決定である。ブッシュ政府は、ドイツ、フランス、ロシアの武力行使反対が、主に政治上、道義上のもので、一種の外交手段であり、アメリカの軍事行動に大きな影響を及ぼさないこともよく知っている。

 ドイツの対イラク武力行使反対は、主に国内の政治情勢によって決定づけられたものである。戦争反対は当今のドイツの外交政策の重要な特徴であり、まして米国の対イラク攻撃に成り立つ理由がないのである。次に、ドイツは安保理の議長国として、安保理という世界で最も重要な国際組織を利用して自国の大国としての役割を果たすことを望んでいる。これはドイツにとってまたとない「才能を生かす」チャンスである。フランスが米国の対イラク武力行使に反対しているのは、予想中のことである。一つには、フランスは一貫して自国の独立した外交を標榜し、アメリカに対抗する伝統があり、これはフランスの大国としての役割を再び示す得難いチャンスである。二つには、フランスは中東地域に重要な利益があり、対イラク武力行使反対を通じて、アラブ諸国の好感を獲得することを望んでいる。ロシアは実用主義的な考慮しかないだろう。

 ドイツ、フランス、ロシアは同様に、彼らの反対がアメリカの軍事行動を阻止できないことを知っている。こうした情況の下で、彼らの唯一の希望と最終目標は、アメリカが国連の名義でイラクに対し武力行使しないことである。2月16日、フランスのシラク大統領とド・ヴィルパン外相はともに、安保理はイラク問題について二番目の決議を採択する必要がない、と表明した。この態度表明は、フランスがイラク査察の続行を支持すると理解することもできれば、アメリカが国連を利用しないよう暗示するものであると理解することもできる。米英などが「単独でやる」なら、フランスは引き続き高らかに平和を唱えることができる。

 目下の情勢下で、安保理が米国の対イラク武力行使を認める決議を採択するのはかなり困難である。フランス、ロシア、中国の中に反対票を投じる国が一国でもあれば、決議は可決されない。また、たとえこの3国が反対票を投じなくても、米、英両国は15理事国から9票の支持票を獲得するのは難しい。しかし、米英などもIAEAが無期限に査察を続けるのを容認することができない。米英などの軍事行動の準備がひとたび完了すると、それ以上待つのは不可能である。このことから見れば、対イラク武力行使の動向については、米英などが「単独でやる」可能性が極めて大きい。このようにすれば関係各側に引っ込みがつくような機会を与えられるからである。しかし、この結果は国連と安保理に対する極めて大きな風刺であり、国連安保理はまだ行動をとる権力のある唯一の国際平和と安全の機構であるかどうかという人々に深く考えさせる問題も提起されるだろう。