大学生は過剰なのか

―――大学の定員数が増えた年に入学した学生が去年、社会に巣立ったが、「神の寵児」と言われ続けてきた大学卒業生の就職が今、社会に重い負担としてのしかかっている。この問題については様々な議論や考えがある。

馮建華

 中国では高度経済成長が続いているが、失業率の上昇はいまだ抑えられていない。こうした矛盾がSARS(新型肺炎・重症急性呼吸器症候群)の影響で一層際立ち始め、社会各界の強い関心を呼び起こした。

 今年大学を卒業(一般に6月末から7月初め)する学生は212万人にのぼるが、5月までに企業と交わした契約率は僅か50%に過ぎない。これほど多くの学生が仕事を探せないのは何故か。そんな疑問を持たざるを得ない。

数の“過剰”は相対的なもの

「大学生の就職が困難になったのは、マクロ経済と関係がある。競争が激化したこともあるが、単に学生が過剰であることを意味してはいない。むしろ一部では不足している」。本誌の取材に対し、中国社会科学院人口・労働研究所の王徳文副研究員はこう語る。

 1998年以降、経済体制と政府機関の改革が加速されたのに伴い失業者が増大し始めた。同時に、約1億5000万人と言われる農村の余剰労働力が毎年、800―1000万人のペースで職を求めて都市に流入しており、年間の新規労働力数は新設企業数を上回っている。こうした状況が要因で就職は厳しさを増している。さらに去年、定員が増加した年に入学した学生が卒業を迎えたことで、就職難に拍車がかかった。

 王副研究員の分析によると、1998年以降、GDPの成長によって都市では年平均の就業率が3%、800―1000万の雇用が創出されてきた。今年の大学卒業予定者は212万人で、しかも休職者の中でも優秀な人材であり、決して大学生は過剰とは言えない。

 2000年に実施された第5次国勢調査で、短大卒以上は10万人に当たり約3000人に過ぎず、先進国に比べかなり低いことが分かった。別の統計では、2000年の就業人口のうち高卒以上は僅か18%で、国際平均レベルの80%より62ポイントも低い。この点から見ても、大学生は過剰であるどころか、不足しているのが明らかだ。

 王副研究員は「この数年、都市では就職者の賃金は10%以上増えている。労働力経済学の角度から分析すれば、労働力市場の需要量はまだ増大する段階にあり、ただ質の要求が高くなっている。一部で大学生が“過剰”だと言われるのは、総合的資質が市場の求める基準に達していないからだ。各面から見ると、過剰は主として就業そのものに見られるだけで、市場について言えば決して過剰ではない。つまり、供給が需要を上回っている。これは一種の相対的な過剰現象に過ぎない」と指摘する。

大学生の就職を制約する要因

 大学生の就職難を理由にした“過剰”は、マクロ的な就業状況と関係があり、個人の価値観や教育体制、労働力市場とも関連している。

 北京情報工程学院のある学生は、すでに5社から内諾を取り付けているが、給料や都市、職務などの点から、この仕事は自分の理想ではないと考え続け、決断を躊躇している間に彼は契約の機会を逸してしまった。「実際、仕事が探せない訳ではない。求める仕事は競争が激しく、探せる仕事は、満足できないものばかりだ」。卒業が間近に迫った彼は今も選択中だ。ただ内心、焦りを感じてきたようだ。

 事実、彼のような大学生は少なくない。四川大学が卒業予定者を対象に最近行った調査で、就職先決定で最も重視するのが「経済収益」で94%、次に「発展した地区の大中都市」が90%に達しており、69%近くが絶対多数の都市平均を上回る月給2000元以上を期待していることが分かった。

 週刊誌『瞭望』によると、この数年来、大学卒業生の大中都市での就業は総数の80.8%を占め、県・鎮や農村では19.2%に過ぎない。しかも農村部出身の学生の70%が大中都市で就職している。 

 大学生の就職難は、都市や自己の将来に対する現実離れした要求が主因だ。これについて、中国人民大学組織・人力資源研究所の方振邦博士は本誌に対し「大学生の期待が高すぎるのは、中国の大学が今でも基本的に英才養成教育を実施していることによる。大学という教育資源が少数の者によって享受されている状況下では、“優越感”を持つのは自然なことだ」と説明する。

 教育資源の配分と市場との乖離もある程度、就職難をもたらしている。主因は教育資源の配分が基本的に政府の手に委ねられているからだ。例えば、大学がどんな学科を開設するか、その学科で何人の学生を募集するかに当たっては、政府の教育主管機関の認可が必要である。こうした教育システムが大学の市場変化への対応を難しくしており、その直接的な結果が、一部の学科で学生の供給不足を、別の学科で学生の供給過剰を引き起こしていることだ。方振邦博士は「この数年、人的資源研究の学科が市場で人気が高い。だが、人民大学が募集する学生は1年に20名に過ぎない。主管機関が許可する募集数に制限があるのが主因だ。一方、哲学や歴史学といった伝統的な学科は依然大量に募集しており、市場のニーズと比較すると、過剰は深刻で、就職が難しくなるのは自然なことだ」と指摘する。

 戸籍制度も就職の阻害要因となっている。多くの事業体がその都市の戸籍を有していることを雇用条件の一つにしているからだ。人材流動のためこうした制度を見直す都市が増えてはいるものの、北京や上海、深センなど人材を最も多く吸収している都市について言えば、戸籍は都市人口をコントロールする主要な手段でもあり、求職者にとっては眼前に立ちはだかる越え難いハードルでもある。

“過剰”は今後も一定期間つづく

 王徳文副研究員は「就職活動で大学生が相対的に“過剰”になったのは、経済体制改革と高等教育体制の改革(大量募集)の過程で現れた非常に重視すべき現象だ。しかも、この現象は一時的なものではなく、恐らくまだ一定期間つづくだろう」と指摘する。

 大学生の就職が益々難しくなってきたことで、大学の募集定員増加計画に懐疑的な姿勢を示す人も少なくない。これについて王副研究員は「募集増は社会発展の趨勢に合致したものであり、社会にも受け入れる能力がある。ただ、重要なのは数字ではなく、質だ。両者をうまく噛み合わせることができなければ、学生数を増やしても就職問題はより深刻化し、より多くの“過剰”を生むことになる」と強調している。

 現在の“過剰”な大学生をいかに消化するか。王副研究員は「様々な要素によるだろうが、経済成長や教育体制の市場化への改革、労働力市場改革のスピードが主体となる」と指摘した。