暗黒は暗黒で消すことができない

王ぐう生  元APEC駐在中国高官

 暗黒は暗黒で消すことができず、それをできるのは光明だけである。仇怨は仇怨で消すことができず、それをできるのは愛情だけである。

 アメリカの一部の反戦者はこのほど、「ハーモニー合唱団」を組んで街頭に繰り出し、アメリカの対イラク武力行使に反対している。彼らは穏やかな声で朗唱するだけで、激しい叫びをあげない。彼らは共感を呼べるのは美しいハーモニーだけだと思っている。

 私はアメリカの黒人運動リーダーであった著名なマーチン ルーサー キング氏が言った「暗黒は暗黒で消すことができず、それをできるのは光明だけである。仇怨は仇怨で消すことができず、それをできるのは愛情だけである」という名言を思わず思い出した。 

 アメリカの反戦者のハーモニー合唱とマーチン ルーサー キング氏の名言は、表現方式こそ違うが、哲理は同じである。それはつまり戦争はより多くの戦争をつくり出すことしかできず、国家テロリズムでテロリズムに対処するのは適当でなく、実行できず、人心を失うのである。

 アメリカが反テロ戦争を起こしてからまもなく1年半になる。アメリカは軍事と各方面の大きな強みに頼り、その上幅広い国際協力もあるから、本来ならば勝利を収めるはずである。しかし、今から見て、テロリズムが取り除かれていないばかりでなく、逆に蔓延の傾向を呈している。アメリカ国内の反テロ脅威の警戒等級がこのほどまたも1級上がり、反米情緒という結果を招いた。先般、世界の600余の都市でベトナム戦争期間より規模が大きな反戦デモが行われ、1600余万人がそれに参加した。彼らはアメリカの対イラク戦争は「血生臭い戦争」であり、アメリカ、イギリス、イスラエルこそ本当の「悪の枢軸」だとを非難した。ブレア英首相は「アメリカの国務長官」だと皮肉られている。オーストラリア上院は102年来初めて現任首相に対する不信任案を採択した。アメリカ国内の多くの弁護士とノーベル賞受賞者も対イラク武力行使に反対する声明を発表した。一時、アメリカは非難の的となった。

 テロリズムは人類の公害であり、全世界の人が反対している。アメリカが反テロ戦争を起こすのは、道理から言えば、広範な大衆の共感と支持を得られるはずなのに、結果はその反対で、こんなにも恨まれているのはなぜだろうか。

 その原因はアメリカ自体から探さなければならない。アメリカのいかなる真の意味の反テロ活動も国際から幅広い支持を得られる。しかし、北京外交界の一部の人が言っているように、アメリカは「心がけがよくない」のである。アメリカは反テロ問題の上で、二重の基準(たとえば、イラクに対してはこうするが、イスラエルに対してはああする)を実行し、テロリズムの根源を探し出して、表に表れた問題とその原因を同時に解決するのではなく、反テロを利用してアメリカ史上の新たな段階の拡張を行い、しかも態度が傲慢で、激しく人に迫り、テロでテロをけん制しているのである。マレーシアのマハティール首相は先般開かれた世界経済フォーラムで、もし、ある国がテロ活動を支持すると言われる国に対し勝手に軍事行動をとるなら、これは「テロリズムでテロリズムに対処する」行為で、実行できないものであり、相互の仇怨の心理と報復行為を深めるだけであると強調した。インドのカラム大統領もある慶祝会で、戦争はテロリズムを取り除く方法ではないと強調した。アメリカのあるメディアの編集者もある会議で、「苦痛と援助がないことはテロリズムの勢力拡充の礎石である」と鋭く指摘した。彼は聴衆に、演説が終わった後、アメリカがアルカイダのすべてのテロリストを捕らえるか殺すことができるとしたら、テロリズムの脅威がなくなると思う人がどのぐらいいるのかと聞いてみたが、手を挙げた人は一人もなかった。

 アメリカにはアメリカが「仁慈の覇権主義」か「善良な覇権主義」だと誇る人がいるが、今後アメリカが「仁慈」や「善良」なことを多くし、「王道」を増やして、「覇道」を減らし、それができたら、どんなにすばらしいか。反テロ問題では光明で暗黒を消すように望んでいる。