生態系環境の保護を重視

――チベット自治区アリ地区行政公署の董明俊専員を訪ねて

世界の環境危機と資源危機が進み、生態系の安全問題が世界各国の関心事となっている。中国では、人口が多すぎて、それに長期にわたって土地、森林、水、鉱物などの資源に対して不合理な開発を行い、生態系環境に対する保護と整備が非常に欠けていたため、生態系環境が悪化しつつある。統計データによると、中国の水質汚染や大気汚染、生態系環境の破壊および自然災害による毎年の損失は2830億元にも上っている。生態系環境の悪化は、社会経済の持続的かつ健全な発展を妨げただけでなく、国の環境安全を脅かすものとなっている。

この問題について、記者はチベット自治区アリ地区行政公署の董明俊専員にインタビューし、当該地区の生態系保全の状況を伺った。董氏は、いなかる局部的な環境破壊も全局的な災禍を引き起こすことがあり、ひいては国と民族の生存条件を脅かす可能性もある、と指摘し、次のように述べた。

チベットは自然条件が悪いので、いっそう生態系環境の保全を重視しなければならない。幸いに、自治区政府、地区党委員会、行政公署はいずれも生態系環境保全の重要性を認識するようになった。

面積34万5000平方キロのアリ地区には、牧草地が2133万ヘクタールあり、利用可能な牧草地が1667万ヘクタールに達しているが、そのうちの耕作可能な農地は2700ヘクタールにすぎない。自然条件が悪く、気候が劣悪で、土地や牧草地が荒れ果てたり、砂漠化したりして、経済発展にひどい影響を及ぼしている。そのため、地元政府はさまざまな対策をとり、国も強力にサポートしてくれており、生態系環境は改善されつつある。

アリ地区の生態系環境破壊防止対策には主に次の3つが含まれている。

@ 砂漠化防止対策第1期は1999年にスタートした。主として地元の生長条件に適したヤナギ、ハマムギなどの栽培実験を行った。第2期は2000年から2002年末にかけて展開され、第1期を基礎にヤナギやハマムギの栽培面積を667ヘクタールに拡大し、環境改善の面で望ましい成果をあげた。アリ地区行政公署所在地のガル県獅泉河鎮の1.3万ヘクタールに上る砂浜も緑化された。国からの資金投入は2000余万元。2002年から第3期が始まった。また国から1600万元の援助を得て、約667ヘクタールの砂漠に木や草を植えた。緑化するとともに、緑地管理係りを設け、地元の人々もボランティア労働に意欲的に参加し、年に1人当たり2日間植樹をすることが3年間続けられてきた。

A 植生の回復アリ地区は金鉱が多いところで、へんぴな山間地帯では、鉱石を採掘するために植生が伐採されているが、新たに植物を植えなかったため、生態系の破壊が深刻である。自治区政府は人と家畜の飲用水の安全を保障するため、今年から採掘企業に対し生産停止と整頓の措置を実行し、破壊された植生と水源地の回復をはかることにしている。

B 野生動物保護区の管理を強化アリ地区の人々には野生動物を捕獲もせず、食べもしない習慣がある。国の1、2級保護指定野生動物が捕殺されるようなことはここで一回も発生しなかった。3級保護指定野生動物の狩猟は制限されてはいないが、人々は決して捕獲しない。そればかりか、地元以外の人たちの狩猟も許さない。野生動物を密猟したり、殺したりする行為が発見されたら、地元政府の制定した規定に従って厳罰に処することになっている。

以上のほか、牧草地管理の強化についても2つの措置を制定した。

@牧草地の受容力に基づいて家畜の頭数を決め、受容力を超えて放牧してはならず、休牧(放牧を一時停止する)、輪牧(代わる代わる放牧する)政策を実行する。家畜放牧の数を限定することが牧草地と土地の砂漠化、退化を防ぐ最もよい方法である。アリ地区は1995年から新たな土地開墾をしなくなり、耕地を元の樹林や草原に戻すだけであり、毎年67ヘクタールの耕地を改造している。牧草産出量の低い牧草地での放牧は一律に停止し、牧草が保護されるようにする。生産高50キロ以下の低収穫農地はいずれも牧草地に改造する。

アリ地区の砂漠化は主として人為的原因ではなく、自然の原因によってもたらされたものである。なぜかというと、面積34万5000平方キロのアリ地区は人口がわずか8万人だけからである。劣悪な気候により、風が強く、砂が農地に吹き付けられ、砂漠化はこうして形成されたのである。そのほかに、水害などの原因もある。

A牧草の栽培面積を拡大する。過去においては資金投入不足で、栽培された牧草が少なく、ほとんどが天然牧草地であり、牧草産出量が低く、1ヘクタール当たりわずか1500キロで、1年にヒツジ1匹を飼育するには6.7ヘクタールの牧草が必要であった。アリ地区には牧草地が1667万ヘクタールあり、1ヘクタール当たり15元投入するとしても、合わせて2億5000万元を必要とする。これほど多い資金は地元政府にとっては負担が重過ぎることは明らかである。しかし、国の資金援助を得たため、アリ地区は牧草地の栽培面積を拡大した。現在、牧草産出量は1ヘクタール当たり7500〜1万5000キロに達し、最高3万キロにものぼり、平均は7500キロとなっている。牧草の質も向上した。栽培による牧草が増えたため、家畜も畜舎で飼育できるようになり、牧草地も代わる代わる休ませることが可能となった。

持続可能な発展戦略を実施する面で、生態系の回復と整備、植生カバー率の拡大は最も根本的な措置である。

西側先進諸国では1人当たりGDPが2000ドルに達した後に環境整備に取り組み始めたのである。中国は経済があまり発達していない頃から大掛かりな環境整備に踏み出した。中国の環境状況は全般的悪化から局部的改善へと変わっており、環境汚染も全面的に抑制され、一部の都市と地域の環境には改善が見られている。

中国の生態系整備の目標によって、2010年までに生態系破壊の傾向を一応抑え、2030年までに自然生態系の良性循環を実現する県、市、地区が全国の50%にのぼり、2050年までに全国の大部分の地域は大自然の山と川が美しくなるという目標を実現することになる。