安全か、覇権か

アメリカ政府はサダム・フセイン大統領は世界の安全に対する脅威だと言っているのに、アメリカが世界各国を対象に行ったアンケート調査によれば、数多くの国と一般の人々はブッシュ氏を最大の脅威と見なしている。アメリカの対イラク武力行使は安全のためなのか、それとも覇権のためなのか。

阮宗沢氏(中国国際問題研究所副所長)アメリカははやくからこの戦争を起こす決意を固めていたが、その目標は決してアメリカが発表しているように、ただサダム大統領の武装を解除し、サダム政権を覆し、イラクの民主改造を行うだけなのではなく、石油の覇権を確立しようという考慮から出たものもある。中東石油の戦略的地位は、アメリカのエネルギー安全戦略に占める地位を決定づけるものである。昨年のアメリカのエネルギー計画では、世界経済が今後も湾岸諸国に依存しつづけるため、同地域の石油の安定供給は極めて重要なものとなっている。同時に、中東地域はテロ頻発地域でもある。一部のアメリカ人学者の見方では、反米やアメリカ敵視を生む「土壌」はその国の政治体制と関係がある。アメリカにとっては、民主的で、自由な新しいイラクしかアメリカに安全感を与えないようである。ブッシュ氏は次のように言っている。サダム政権の崩壊によって、テロリズムのネットワークはテロリズムに訓練経費を提供し、自爆テロリストの家庭に褒賞を与えるバックを失うばかりでなく、その他の政権にも決してテロ支援が許されないことであるため、この地域に対し大規模な改造を行わなければならず、イラクは最もよい突破口だというはっきりした警告を与えることができる。

楚樹竜氏(清華大学国家戦略研究所所長)イラクの石油は決してアメリカの対イラク攻撃の動機ではない。アメリカは石油の輸入源の多様化をとっくに実現したため、ヨーロッパ、日本などの国が湾岸石油へ依存しなければならないほど、差し迫ったものではない。しかも、アメリカ本土は豊富な石油に恵まれており、中南米から石油を輸入することもできるからである。もちろん、中東地域がある敵対勢力にコントロールされず、中東における石油利権を確保することは考慮する要素の一つではあるが、根本的な動機ではない。アメリカの対イラク攻撃の主要な目標はやはりサダム大統領の権力独占を覆し、中東の情勢をコントロールすることにある。アメリカ人の目から見れば、サダム大統領は悪魔のような人物であり、彼を取り除くのは神からアメリカ人に与えられた使命なのである。そのほか、中東地域は衝突が絶えず、またテロが頻発する地域である。そのため、対イラク攻撃を通じて中東の情勢をコントロールし、さらに反テロの配置を行い、パレスチナ・イスラエル紛争の解決でアメリカの管轄下での中東和平を実現するのはアメリカのトータルな戦略構想である。

周溢?氏(外交ペン・クラブ秘書長)「9.11」事件以後、アメリカ政府は新たな国家安全意識を打ち出した。その重点の一つは「先んずれば人を制す」という手段で新たなテロの脅威を取り除くことであり、次には全世界にアメリカ式の民主主義価値観を推し広めることである。アメリカの対イラク武力行使は、この戦略を初めて実践に付し、新しい情勢の下で国連憲章と国家法の準則を破壊する先例をつくった。アメリカが国連を通さずに勝手に戦争を起こしたことは、国連の権威をゆゆしく弱めることになった。フランスのシラク大統領は、国連安保理事会の容認なしのこの戦争は合法的かどうかについての争いは、世界が今後国際法によって国家間の食違いを解決するのか、それともアメリカの西部劇映画の中に出てくるカウボーイのようにガンで勝敗を決めるかに関わるものだ、と指摘した。

王逸舟氏(中国社会科学院世界政治・経済研究所所長)今回の「サダム・フセイン打倒」の政治的結果は非常に深刻なものであり、伝統的な主権原則、伝統的な不介入の原則、伝統的な国際法の原則に対するゆゆしい挑戦であり、われわれはこうした挑戦をかみしめる間がないため、まだ深く再考することができない。数カ月、数年、数十年を経てからはじめて知りうることかもしれないが、主権関係がこのような大きな動揺に直面しているのは、かなり大きな度合において今回のアメリカの「サダム・フセイン打倒」の戦争から来たものである。しかも国連の役割についてもかなり疑問視され、国連の合法的権威は人々から尊重されると同時にアメリカによって切り捨てられた。こうした矛盾が複雑に絡み合った局面は、実際には国際関係が極めて大きな激動と再構築を前にした予兆である。