(その一)

 

反ダンピングの強化を

2003年に入り、中国政府は数件の反ダンピング裁定を公表した。1月初め、『韓国、日本、インドを原産とする輸入フタリック・アンヒドライドの反ダンピング調査に関する一次裁定の決定』と『日本、ベルギー、ドイツ、オランダとロシアを原産とする輸入カプロラクタムの反ダンピング調査に関する一次裁定の決定』を公表。2月初めには、『韓国を原産とする輸入ポリエステル短繊維の反ダンピング調査に関する最終裁定の決定』と『韓国を原産とする輸入ポリエステルフィルムの反ダンピング調査に関する最終裁定の決定』を明らかにしたほか、2月26日には、前国家経済貿易委員会が北京でアート紙の反ダンピングによる業界への損害調査について公聴会を開き、関係者は最終裁定を待っているところだ。

1997年に反ダンピング・反補助金条例を制定して以降、これまでに反ダンピング提訴は22件(うち再審査は1件)、保障措置を講じたのは1件である。調査・提訴件数は少ないが、むしろ年々増加する傾向にあり、WTO加盟後は目立ち始めている。1997件は1件、1999年4件、2001年1件、2001年6件、加盟した翌年の2002年は10件である。

現在のところ、8件が最終裁定で反ダンピング税を徴収されており、2件で損害がないとの裁定がなされ調査は打ち切られた。一次裁定で確定され臨時の反ダンピング措置が講じられたものは4件、残りは調査中だ。

『反ダンピング条例』の規定に基づけば、中国で関連事務に責任を負う機関は対外貿易経済協力部、国家経済貿易委員会、税関総署、国務院関税税則委員会である。農産品にかかわる反ダンピング提訴では、農業部も責任機関の一つとなる。3月25日、国務院の機構改革で新組織の商務部が正式に発足し、従来の対外貿易経済協力部と国家経済貿易委員会は廃止されたが、この二つの部が担っていた反ダンピング・反補助金関連事項と業界への損害調査の職責については商務部が責任を負うことになった。

国内産業の保護

前国家経済貿易委員会の情報によれば、中国が提訴した21件の反ダンピング行政事件は鉄鋼、化学工業、軽工業などの業種に及び、金額にして1096億元にのぼり、取り戻した或いは新たに業界の経済成長を回復させた販売収入は合わせて750億元余りに達した。

同業界損害調査局では、反ダンピングは国内産業に対して積極的な意義をもたらしたと話している。

先ず、反ダンピングに関する調査と措置を実施した後、損害を受けた業界は急速に回復・発展した。例えば、2000年以前に提訴し最終裁定がなされた新聞紙、ポリエステル薄膜、アクリル酸エステル、冷延ケイ素鋼片、ステンレス冷延薄板、塩化メチレンなど6件の業界統計によると、2002年の生産能力は提訴前に比べ平均して18%、生産量は同19%、販売収入は同31%、税引き前利益は同283%、操業率は同43%増大している。

次に、産業構造調整の促進に積極的な役割を果たした。すでに反ダンピングで提訴した20の業界のうち、大多数の業界で技術・製品構造が最適化され調整された。現在ある世界先端技術で古い設備を改造し、新しい生産ラインを増設するとともに、新技術と売れ筋製品の生産能力は拡大し、新たな経済成長分野を創出した。

公平な競争秩序が維持された。例えばポリエステルフィルムやポリエステル短繊維業界では、2000年の反ダンピング提訴以前、輸入製品のダンピングで市況は下降し続け、国内の同業者が相次いで価格戦争に引き込まれ、価格は約50%下落した。2業界の損失は60%を超え、多くが赤字となった。2002年の反ダンピング提訴後は、被調査製品のダンピングは有効に食い止められ、国内市場の価格水準と販売ルートは安定し、価格が30‐40%上昇するなど、正常な水準に近づいた。2001年のポリエステルフィルムの生産量は400万トンで、前年比25%の増、ポリエステル短繊維は242万トンで、24.1%増加。2002年の生産量はポリエステルフィルムが449万トンで同12.6%の増、ポリエステル短繊維は282万トンで同15.6%増加している。

就業機会の創出、社会安定の保証に積極的な役割を果たした。反ダンピング行為が証明するように、国内産業が輸入ダンピングで損害を受けた後、一時帰休者が増大し、失業率も上昇した。反ダンピング措置を講じて以降は、各業界の生産・経営状況は好転し、失業率は低下し、就業の機会が増大した。最終裁定がなされた6業界での失業率は平均3ポイント低下している。2002年3月以前に提訴されまだ最終裁定がなされていない12業界でも、失業率は平均2ポイント下がった。

産業経済の安定の維持に重要な役割を発揮した。経済がグローバル化する今日、国家間の競争は往々にして先端技術やハイテク産業の制御能力の面に見られることが多い。例えば、ピロカテキンはハイテク産業に属するが、同技術は3期連続の5カ年計画で開発し、自主的な知的財産権を有するもので、巨額の資金を投入して1997年に初の企業が設立されたばかりだ。わが国が同製品を生産できなかった時には、輸入価格は1トン当たり約9万元。開発に成功して試験的生産を始めると、輸入価格は4万元まで下落し、コストに近づいた。大量生産が始まると、価格は2万元近くまで低下した。2002年3月1日に反ダンピングで提訴する以前、同企業は倒産の危機にさらされていたが、提訴後、設備の運用が始まり、販売価格は初めてコストを上回り転機が訪れた。一つのハイテク未熟業界があるべき保護を受けられるようになったのだ。

一場の持久戦

前対外貿易経済協力部条法司の張玉卿司長によると、1985年以前、発展途上国で反ダンピングを立法化した国はなかったが、現在ではWHOの146の加盟国が関連法律を制定しており、反ダンピング法は世界的なものとなっている。同時に、反ダンピング提訴も増大し続けている。これまでに3000件を超え、絶対多数が反ダンピング税を徴収されているが、この過程で反ダンピング措置の乱用が関心を集めた。WTOの新多角的通商交渉では、発展途上国を中心に、いわゆるダンピング申し立てには貿易保護主義の目的があり、反ダンピング措置に制限を加えるべきだとの主張がなされたが、一方、米国やEUなどは現行の反ダンピング条項を維持すると強調。こうした現状から考えると、条項が制限または取り消される可能性は微々たるものだ。新多角的通商交渉が進むに伴い、各種の関税や非関税障壁は減少しつつあり、加盟国が行使できる域内産業保護のための救済措置は反ダンピングや反補助金、保障措置を講ずることしかない。従って、今後長期にわたり、反ダンピングはやはり重要な話題となるだろう。

前国家経済貿易委員会産業損害調査局の王琴華局長は、中国について言えば、外国に対する反ダンピングはまだ不十分だと指摘する。

王局長は「現在、中国は反ダンピングの影響を受けている世界最大の国である。1979年以来、外国が中国の輸出製品に講じた反ダンピング措置は500件余り、年平均約20件にのぼる。一方、中国による反ダンピング措置はこの5年で21件、年平均約4件に過ぎない。中国はWTO加盟の際、2005年までに輸入工業製品の平均関税率を9%前後まで引き下げることを確約した。すでに2003年には11%まで下がり、政府が過去常用していた割当額や許可証といった非関税障壁対象品目も以前の数千種からわずか7、8種まで減少している。輸入量が増大し、国内の開放がさらに進むに伴い、中国の産業は厳しい挑戦にさらされていくだろう」と強調する。

さらに王局長は「中国は輸入大国であり、現在、外国の中国に対するダンピング製品の状況は非常に深刻で、損害を被った業界も多く、範囲も広い。多くの業界は改革開放後に

発展してきたもので、未熟な企業が比較的多く、国外のダンピング製品にダメージを受けやすい」と指摘する。

業界関係者は「外国企業では反ダンピング意識が強く、少しでも産業が損害を受ける脅威があれば、或いは発展の過程で実質的な障害が生ずれば、反ダンピング申請を行う。前国家経済貿易委員会が行った中国の反ダンピング提訴に関する調査で、反ダンピング申請をした業界の多くは“病、膏肓に入る”でようやく、申請を迫られるような状況で、受けた損害もかなり重大であり、その程度は外国の反ダンピング提訴に比べようもないことが判明した」と分析している。

多くの提訴で国内産業は確かに損害を受けているが、企業は十分な証拠を提供できないでいる。一部企業には反ダンピングは政府の責任だとの誤った認識があり、そのため申請をしても、提供する資料や質問表への回答が不十分であり、こうした状況が損害の調査を非常に難しくしている。

王局長は「反ダンピング調査に当たっては、政府は厳格に法に基づいて行政を行ってきた。前国家経済貿易委員会は事実を根拠に、法律を基礎に、公開と公正、公平の原則に沿って産業の損害調査や採決を行い、関係双方の合法的権益を有効に保護してきた。すでに最終裁定を行った反ダンピング提訴では、前国家経済貿易委員会は新聞紙など8件について損害があったと断定して、国内産業の合法的権益を保護し、外国の輸入製品のダンピングを有効に抑制した。一方、ポリスチロールや飼料用のL−リシン塩の2件については損害はないとの裁定を下し、反ダンピング調査を停止して、被提訴者の合法的権益を擁護した」と説明する。

反ダンピング予防メカニズムの早期確立

専門家は、予防メカニズムとは産業経済の安全性を維持することであり、反ダンピングや反補助金、保障措置手段による基礎性、展望性、予防性を有効運用する重要な行為だと指摘している。

関係機関は国際慣例を運用するとともに、各国の成功の経験を参考にして、重点業界、重点製品の損害予防メカニズムの整備を強化しており、2002年には自動車や鉄鋼、化学肥料などダメージを受けやすい業界で損害予防メカニズムを起動させている。

王局長は「政府は現在、産業予防メカニズムをさらに完備させているところである。すでに化学肥料や自動車、鉄鉱の3大製品ではメカニズムが確立されており、これを土台に、今年は電子情報製品や化学工業、紡績などでもメカニズムを確立し、企業の反ダンピング意識を呼び覚まし、企業と産業の反ダンピング能力を向上させていく」と強調。

また王局長によると、2003年中に約10の省・直轄市と10の業界協会に損害防止メカニズムを確立し、全国の重点輸出商品について追跡監視ネットワークをほぼ構築する計画だという。

前国家経済貿易委員会産業損害調査局は2003年3月4−6日まで蘇州で「一部省・直轄市の産業損害予防試験工作会議」を開催し、江蘇や吉林、遼寧、広東など14の省・直轄市の経済貿易委員会の代表、予防システム研究開発の専門家など60人余りが出席した。

専門家は「地域的な予防メカニズムの整備を安定して進めることは、産業損害の兆しを正確に見出して、産業経済の安定を維持し即時に提訴に向けた調査をする上で積極的な役割を果たす」と強調した。