(その三)

反ダンピングの司法審査制度を絶えず改善

最高人民法院が2002年12月3日に公表した「反ダンピング行政訴訟案件審理に適用される法律の若干の問題に関する規定」と「反補助金行政訴訟案件審理に適用される法律の若干の問題に関する規定」は、初めて裁判所が国務院主管部門の反ダンピングと反補助金の行政行為に対して司法審査を行う重要な職責を負うことを明確した。この2つの司法解釈はすでに2003年1月1日から正式に実施されている。

この2つの規定はそれぞれ司法審査の範囲、訴訟参加者、管轄、司法審査の基準、挙証責任、判決の方式などについて規定を行っている。

 最高人民法院副院長の李国光氏は、人民裁判所は、WTOのルールと中国のWTO加盟の法律文書に規定されている司法審査職責を引き受け、反ダンピングと反補助金の調査手続きに参与する組織と個人の合法的権益を保護し、法律に基いて、反ダンピングと反補助金の行政主管部門の法に基づいた行政を監督し、それを守ることに対して、深遠かつ大きな影響をもたらすものである。同時に中国の裁判所の司法審査の独立性、公共信用力および価値観などに対して多方面の深い影響をもたらすことになろう。

この2つの規定が打ち出された背景、具体的な規定、裁判所側の司法審査に対する準備情況など関連問題について、最高人民法院の行政審判廷副廷長の孔祥俊博士は、本誌記人の取材に応じてくれた。

孔祥俊氏は次のように述べた。

中国の反ダンピングと反補助金面の法律制定のスタートは遅かった。1994年5月12日に公布された「対外貿易法」はこれに対して原則的な規定を設け、1997年3月25日に公布された「中華人民共和国反ダンピングと反補助金に関する条例」は「対外貿易法」の関連規定をさらに細分化したが、司法審査に対する規定は設けていない。国務院が2001年11月26日に公布した改正後の「反ダンピング条例」と「反補助金条例」は、初めて司法審査問題について明確な規定を行い、反ダンピングと反補助金の司法審査はそれ以後中国の行政審判の範囲に組み入れられ、中国の行政審判の新たな分野と課題になった。

しかし、「反ダンピング条例」と「反補助金条例」は人民裁判所がどのように司法審査を行うかについては規定していない。この2つの条例の起草についての説明は、反ダンピングと反補助金の行政訴訟案件に対し、「具体的にどのクラスの裁判所が管轄し、どのように訴訟を行うか、最高人民法院が司法解釈を行い、それを明確にすることを提案した」と言及した。そのため、最高人民法院は行政訴訟法とその他の関連法律の規定に基づいて、反ダンピングと反補助金の訴訟案件を審理する特徴と早急に解決を必要とする問題に対して、反ダンピングと反補助金の行政訴訟案件の審理に適用される法律に関する司法解釈を制定した。

最高人民法院は2001年末「反ダンピングに関する規定」と「反補助金に関する規定」の起草を始動させた。討論の段階の原稿を作成した後、座談会を開催し、書面の方式でいろいろな意見を集め、何回も修訂をおこなってから、咋年9月に最高人民法院審判委員会の討論を経て採択された。

孔祥俊氏によると、人民裁判所の引き受けた国務院主管部門の反ダンピングと反補助金の行政行為に対する司法審査を行う主要な範囲は、国務院主管部門のおこなった反ダンピングと反補助金の最終裁定に不服の行政訴訟案件、国務院主管部門のおこなった反ダンピング税を徴収するかどうかの決定および徴税、税還付、新たな輸出経営人に対する徴税の決定に不服の行政訴訟案件、国務院主管部門のおこなった反補助金税を徴収するかどうか、および追加徴収の決定に不服の行政訴訟案件である。国務院主管部門の反ダンピング税を引き続き徴収し、あるいは価格の承諾を履行する必要性に対しておこなった再審決定に不服の行政訴訟案件、国務院主管部門の反補助金税を保留し、改正し、取消し、あるいは承諾することについておこなった再審決定に不服の行政訴訟案件などである。

WTOと関係のある規定に基づいて、普通、行政行為の利害関係側は締約国の国内裁判所に願い出て司法審査を行う権利がしかない。このため、「反ダンピングに関する規定」の第2条と「反補助金に関する規定」の第2条は、反ダンピングと反補助金の行政行為と法律の上での利害関係をもつ個人あるいは組織は、行政訴訟法とその他の関係ある法律、行政法規の規定に基づいて、人民裁判所に行政訴訟を提起することができる。これらの利害関係者は、国務院主管部門に反ダンピングと反補助金の調査の書面による申請を出す申請人、関係ある輸出経営人と輸入経営人およびその他の法律上の利害関係をもつ自然人、法人あるいはその他の組織を指す。

この訴訟案件の被告はそれ相応の反ダンピングと反補助金の行政行為をおこなった国務院の主管部門である。そのほか、訴訟される行政行為と法律上の利害関係をもつ国務院主管部門は、第3者として訴訟に参加することができる。

1審の反ダンピングと反補助金の行政訴訟案件は被告の所在地の高級人民裁判所あるいはその指定する中級人民裁判所が管轄する。反ダンピング案件の裁定をおこなった国務院主管部門は北京にある国の機構で、最高人民法院と北京市高級人民法院の関連規定に基づいて、反ダンピングの1審訴訟案件は普通、北京市第2中級人民法院行政審判廷が審理するが、比較的重大で、複雑な1審訴訟案件も北京市高級人民法院が審理することができる。1審の裁定に不服の場合、法に基いて上級の人民裁判所に再審を申し出、2審の最終審の判決を申請ることができる。

中国の行政訴訟は、人民裁判所が具体的な行政行為を審査するとき、法律、法規の適用が正しいかどうか、法定のプログラムに合致しているかどうかを求めるだけでなく、また具体的な行政行為を審査、認定した事実がはっきりしているかどうか、証拠が確実であるかどうかを求める。孔祥俊氏によると、このような規定は同様に反ダンピング、反補助金案件の審理にも適用する。「反ダンピングに関する規定」の第6条と「反補助金に関する規定」の第6条は、人民裁判所は行政訴訟法とその他の反ダンピングと反補助金と関係のある法律、行政法規に基づいて、国務院の規則に照らして、訴えられている反ダンピング、反補助金の行政行為の事実問題と法律問題に対し、合法性の審査を行うことを規定している。

挙証責任の問題について、2つの規定は次のようになっている。

被告は訴えられている反ダンピングと反補助金の行政行為に対して挙証責任があり、証拠とよりどころとした規範文書を提供すべきである。裁判所は被告の保存している公文書の記録によってその行政行為の合法性を審査する。被告が訴えられている反ダンピングと反補助金の行政行為を行った際、保存している公文書に事実の資料を入れていない場合、その行為を認定する合法的な根拠とすることはできない。そのほか、「反ダンピングに関する規定」と「反補助金に関する規定」の第8条は、原告はその主張している事実に対して証拠を提供する責任がある。人民裁判所が法定の手続きによる審査を経て、原告の提供した証拠が関連性、合法性、真実性を持っているものは、最後の結論の根拠とすることができる。しかし、被告は、反ダンピングと反補助金の行政調査の中で、法定の手続きに基づいて原告が証拠を提供することを要求する際、原告は正当な理由がなければ、証拠の提供を拒絶し、事実に基づいて提供せず、あるいはその他のやり方で調査を妨げた場合、訴訟手続の中に提供した証拠を裁判所は受け入れない。

判決の方式について、孔祥俊氏によると、行政訴訟法の第54条には行政訴訟案件の判決方式に対して明確な規定をおこなった。これらは反ダンピングと反補助金の行政訴訟案件の判決にもほぼ適用するものである。「反ダンピングに関する規定」の第9条と「反補助金に関する規定」の第9条は、人民裁判所は反ダンピングと反補助金の行政訴訟案件を審理する場合、異なる情況によって、それぞれ以下の判決をおこなう。(一)反ダンピングと反補助金の行政行為は証拠が確実で、適用された法律、行政法規が正しく、法定の手続きに合致している場合、判決を維持する。(二)反ダンピングと反補助金の訴えられた行政行為は、1、主に証拠が不足している、2、適用された法律、行政法規が誤っている、3、法定の手続きに背く、4、職権を越えている、5、職権を乱用する場という状況の1つがある場合、判決を取り消すかあるいは一部取り消し、さらには被告の反ダンピングと反補助金の行政行為を再審することができる。(三)法律あるいは司法解釈の規定によっておこなわれたその他の判決。

「ここでは少し説明の必要がある」と孔祥俊氏は語った。中国の行政訴訟法の規定に基づいて、行政処罰は公正を失する場合、人民裁判所は変更の判決を下すことができる。しかし、反ダンピング税と反補助金税は特殊な税種で、反ダンピング税と反補助金税を徴収する行為は行政処罰には属さないので、そこで変更の判決を下す問題は存在しない。反ダンピング税と反補助金の計算が公正を失するならば、裁判所は関連の行為を取り消す判決を下し、それを再計算するよう指令することができる。

孔祥俊氏は、「最高人民法院はWTO司法審査の要求を非常に重視している」と述べた。現在反ダンピングと反補助金の行政訴訟案件が裁判所に起訴されたことはまだないが、裁判所はずっと人材と研究面の準備を強化している。行政審判廷の裁判官は1年来何回かに分かれてさまざまなWTO知識の育成トレーニングに参加した。この審判廷には特にWTOのグループを設け、関連ある情報の収集と研究の仕事に責任を負い、裁判に対してサポートを提供することになっている。

孔祥俊氏は、現在打ち出された2つの規定の内容は現在、反ダンピングと反補助金の訴訟案件を審理する際に早急に解決を必要とする問題に属するものであり、条件が絶えず熟することによって、反ダンピングと反補助金などのWTOと密接な関係がある行政訴訟案件の司法審査を深く掘り下げて展開するため、私たちは司法解釈を更に充実させることになろうと述べた。