貯水によって収益期に入った三峡プロジェクト

李小柔

三峡プロジェクトは長江の開発、治水を目指す世紀的工事であり、水害防止や発電、水運などの総合的効果がある。

★経済は発達しているが、エネルギーが不足している華中、華東の両地域に安価の電力を提供し、毎年4000ないし5000万トンの原炭の代わりになる。

★荊江区間両岸地域の洪水予防基準がこれまでの十年一遇のものから百年一遇のものに引き上げられ、長江の中・下流の洪水による損害と武漢市への脅威が軽減され、洞庭湖地区の抜本的な治水のための条件が作り出される。

★宜昌=重慶区間の660キロメートルの航路が大きく改善され、1万トン級の船団が上海から重慶に直航できるようになり、航路の片道の年間通行可能量は現在の1000万トンから5000万トンに引き上げられるが、輸送コストは35%ないし37%下がる。また、三峡ダムの調節により、長江の中・下流の渇水期の水運の条件が大いに改善され、ダム区の漁業や観光業の発展の促進と南水北調プロジェクトの実施に役立つ。

6月1日、中国で最大、そして世界でも最大級の水利プロジェクト――長江三峡水力発電所のゲートの使用と貯水が始まり、6月10日に水位は海抜135メートルまで上昇した。

三峡総公司の曹広晶副社長の説明では、ゲートの使用と貯水のメルクマールとしての意義は、三峡プロジェクトが建設期から収益期に入ったことにある。2003年から2009年までに、毎年発電機四基が稼動し、発電による収益は670億元に達する。また、水害防止や水運などの総合的収益を勘定に入れれば、「三峡の効果」はかなりのものとなるだろう。

三峡プロジェクトの実施は1992年4月に全国人民代表大会で採決され、1994年に施工に入り、2009年に竣工し、工期は16年、投資総額は1800億元以下に抑えられる予定である。

三峡プロジェクトの現場は長江の西陵峡の中部区間に位置し、ダムの本体は湖北省宜昌市三斗坪にある。設計では、ダムの貯水水位は175メートル、貯水量は393億立方メートルで、水害防止のための貯水量は221億5000万立方メートル、発電所の最大出力は1820万キロワット、年間平均発電量は847億キロワット時である。

中国最長の川である長江にダムをつくるという構想は1920年代に打ち出されていた。プロジェクトの建設をめぐっての各界の論争はずっと続いているが、三峡プロジェクトによってもたらされる発電、水害防止、水運という三つの大きな主要な効果は争うことのできない事実である。


中国全域の半分に供給される発電量

三峡発電所はまず8月から二基の発電機が稼働し、10月にはさらに二基が発電を開始し、年内に55億キロワット時の電力を供給する予定である。今年から2009年までに、毎年四基の発電機が新規稼働し、毎年一つの葛洲(土+覇)発電所を新たに建設するのと同じである。26基の70万キロワットのタービン発電機が同時に稼働したあかつきには、三峡水力発電所の年平均発電量は847億キロワット時に達し、大亜湾原子力発電所十カ所分の発電量や最大出力200万キロワットの大型火力発電所十カ所分の発電量に相当し、中国全域の半分に供給される。タービン発電機の年間発電量は平均して32億キロワット時で、人口百万人の都市の一年間の電力使用量に相当する。一キロワット時6元という生産額で計算すれば、三峡プロジェクトの効果と利益はきわめて大きいものである。

今年、三峡発電所の電力は主に上海、浙江、湖北、湖南、江蘇、安徽、河南、江西など8つの省・直轄市に供給され、これらの地区の電力不足を緩和させるが、来年からは1000キロメートルの直線距離を半径として、遼寧、吉林、黒竜江、新疆、チベット、海南、台湾など7つの省・自治区以外の地域の主要な都市と工業基地への送電も始まる予定である。

中国長江三峡ダム工事開発総公司の張超然技師長の説明では、電力使用量が最も大きい上海は三峡電力の最初の利用者となる。今年4月末現在の上海の電力使用量は220億キロワット時を上回り、前年同期比18%増となった。電力需要のピークを迎える夏期のピークロードは1360万キロワットに達し、前年同期より125万キロワット増えるが、100万キロワットが不足するものと見込まれている。

三峡電力には強い競争力がある。三峡総公司の責任者の説明によれば、三峡電力の購入価格は決して現地の電力価格より高くなることはあり得ない。国の関連部門が繰り返し計算した結果、三峡発電所の送電網までの送出価格は1キロワット時当り0.25元となる。

三峡プロジェクトが2009年に竣工したあかつきには、三峡発電所の発電による収益は670億元に達し、同プロジェクトの投資総額の3分の1を占めることになる。

発電によってもたらされた極めて大きな収益は長江上流の継続的開発に役立つものであり、長江上流の豊富な水力資源はすでに中国の雪だるま式開発計画に組み込まれている。三峡総公司はいま、長江上流の烏東徳、白鶴灘、渓洛渡、向家(土へん覇)で最大出力が三峡ダムの二倍に相当する階段式水力発電所を4カ所建設する予定である。

中国が近年実施している「西電東送」プロジェクトも長江に沿って進められており、三峡プロジェクトはその中の重要な一環である。

専門家の予想では、三峡とその上流にあるプロジェクトが全部完工した後、「西電東送」の送電線は世界で送電規模が最も大きい、直流回路が最も密集している送電線となる。

三峡発電所の年間発電量は原炭5000万トン分のエネルギーに相当する。資源の消耗が少なくて環境汚染も少ないこの電力は地球温暖化と酸性雨を減らし、中国の新しいパターンの工業化のプロセスを直接促すことができる。

十年一遇のものから百年一遇のものに変わる水害防止基準

長江の洪水は中国にとって重大な災禍であった。漢の時代(紀元前206-西暦220)から清朝(1616-1911)までの二千余年間に、長江では洪水による災害が214回も起こり、大体10年ごとに一回ということであった。1998年の増水期には、長江はまれにみる大洪水に見舞われた。上流の最高水位は8回も中・下流の最高水位と重なり、決壊した堤防が1075カ所、被災人口が229万、死者が1562人であった。国が繰り出した救援者は延べ670万人に達した。

上流からの大量の洪水が中・下流の排水能力を上回ることが長江の中・下流の洪水災害の一因である。三峡ダムはその巨大な貯水量に頼って、効果的に洪水をせき止めることができる。

中国工学院の鄭守仁アカデミー会員の説明では、ダムの水位が2009年に175メートルに達した後、三峡ダムは221億5000万立方メートルの貯水量を持つことになり、4つの荊江の水害防止区域の貯水量に相当し、荊江区間の水害防止基準もこれまでの十年一遇のものから百年一遇のものに変わる。長江がめったにない大水に見舞われる場合には、三峡ダムはほかの水害防止プロジェクトの使用に合わせて、荊江両岸の堤防決壊による壊滅的な災害を防ぎ、同流域の約153万ヘクタールの耕地と1500万人口の生命、財産及び長江中流に位置する武漢などの都市の安全を守るうえで役割を果たすことができる。

「万里の長江、険は荊江にあり」と言われているように、三峡プロジェクトの最も重要な役割は荊江区間の洪水災害をなくすことである。1998年と同じような洪水が再び起こったら、三峡ダムの調節を通じて、沙市市の水位は43.5メートル(1998年は45.22メートルに達した)に抑えられ、武漢市の水位は1メートル下がり、長江の中・下流の水害防止の状況も大幅に改善されることになる。

専門家の見積りによると、三峡プロジェクトの水害防止の直接の経済的効果は毎年22ないし25億元に達し、ひどい大水に見舞われた場合には、一回つきの損害を数百億元減らすことができる。

長江中流の水害は上流からの水量が大きいためだけでなく、土砂の堆積で河床が詰まることによるところも大きい。ベテラン水利専門家の聶芳容氏の話では、この50年来、長江に流れ込んだ土砂は約50億立方メートルに達し、年平均1億立方メートルとなっている。三峡ダムの貯水以後、上流からの土砂のほとんどがせき止められる。三峡プロジェクトの竣工後、三峡総公司は金沙江の第二期ダムプロジェクトの建設をスタートさせ、階段式の開発で土砂をせき止めるようにする。また、上流の山岳地帯の生態系と水土保持事業の実施によって、洞庭湖区域の土砂堆積の現状も根本的に好転するものと見られている。

大いに改善される船舶通航事情

三峡ダムの貯水後のいま一つの最も直接のメリットは、ダムの永久水門のために通航可能な条件を提供するほか、長江の水運の条件を大きく改善することである。

三峡ダムの貯水により、長江航路の航行条件が大きく改善される。長さ660キロメートルの宜昌=重慶区間では、急流や危険な早瀬、浅瀬にある区間が550キロメートルに達し、1500トン級の船団しか航行できない。三峡ダムの水位が135メートルに達すれば、ダムの貯水は重慶市の豊都まで及ぶことになる。推計では、西陵峡区間の水位は60メートル、巫峡区間は55メートル、瞿(土へん唐)峡区間は50メートルとそれぞれ上昇することになる。水位の上昇により、ほとんどの急流や危険な早瀬、浅瀬が消えてしまう。流速が落ちることにより、航行のスピードが引き上げられ、水運のコストが低下し、航行はさらに安全になる。ダムの水位が175メートルまで上昇した後には、1万トン級の船団が重慶に直行することができ、片道の年間航行可能量は現在の1000万トンから5000万トンに増え、輸送コストは36%下がることになる。これによって、長江はその「黄金の水道」の魅力を誇示し、西部地区は資源の優位を経済的優位に転化させ、西部地区の人々は貧困から抜け出し、ややゆとりのある社会に入ることになろう。

三峡プロジェクトはまた長江中流の渇水期の航行条件を改善することができる。長江中流、特に荊江区間では、渇水期になるたびに水の流れが減るため、大量の船舶が座礁していた。三峡ダムが貯水した後、ダムの調節を通じて渇水期のダムの流水量と中流の航路の水深を増やすことができる。推定によれば、三峡ダムの流水量が1000立方メートル/秒増えるごとに、長江中流の浅瀬の水深は約0.2メートル、荊江区間の航路の水深は0.5メートルそれぞれ上昇し、多くの浅瀬もそれによって姿を消してしまう。