軍事協力が深部へと発展する上海協力機構

合同軍事演習は上海協力機構が軍事グループになることを意味せず、その根本的なねらいは地域の平和と安定を守ることにある。

王凱(軍事科学院外国軍事研究部)

今年5月末に行われた上海協力機構モスクワ首脳会議の期間に、中国の中央軍事委員会副主席、国務委員兼国防部長の曹剛川氏とカザフスタン国防相のアルトインバエフ氏、キルギス国防相のトポエフ氏、ロシア国防相のイワノフ氏、タジキスタン国防相のハイルラエフ氏が、今年の秋に武装兵力による合同反テロ軍事演習を行うことについての上海協力機構加盟国の覚書きに共に調印した。これによって上海協力機構の枠組内の加盟国の軍隊が初めて多国間合同反テロ演習を行うことになる。このような演習を行うことは、軍事の分野におけるこの機構の加盟国の協力が深部へと発展する重要なメルクマールであり、創立後間もない上海協力機構の地域の安全協力運行メカニズムが逐次充実と成熟に向かっていることを示す重要な目印でもある。

共にテロに反対、任重くして道遠し

多国間合同反テロ演習を行うことについての上海協力機構の決定は現在の中央アジアとその周辺地域の安全情勢と密接な関係がある。早くも米同時多発テロ事件発生以前に、中国、ロシアおよび中央アジア関係諸国の指導者は国際テロリズムの世界と地域の安全に対する危害を十分に認識するとともに、『テロリズム、分裂主義と極端主義を取り締まる上海条約』に調印した。実質的な反テロの多国間協力メカニズムを構築したのである。

1990年代の中期以来、中央アジア地域の「3つの勢力」(テロリズム、分裂主義と宗教極端主義)はタリバーン政権と「アルカイダ」組織のバックアップの下で、中央アジア諸国の世俗政権に向かって挑戦し、人質の誘拐から大統領の暗殺へ、世間の人びとをぞっとさせるようなテロ暴力事件をつくり出し、地域の安全と安定に対して極めて大きな脅威となった。中国、特に新疆ウイグル自治区も大きな悪影響を受けている。中国の内外にいる「東トルキスタン」勢力はいわゆる「東トルキスタン国」を作り上げる目的を達成するため、新疆ウイグル自治区と関連諸国で一連の爆発、暗殺、放火、毒を投げ込む、襲撃などのテロ暴力事件を画策、組織して、中国の各民族人民の生命と財産の安全と社会の安定に大きな危害を及ぼすとともに、中央アジア関係諸国の地域の安全と安定に対して脅威となっている。

アメリカの同時多発テロ事件以後、アメリカはアフガニスタンに軍事的攻撃を起こした。アフガニスタンのタリバーン政権の崩壊と『アルカイダ』組織の離散に従って、中央アジアの5カ国の安全と安定を長期にわたって脅してきた「3つの勢力」は資金、兵器と人的の外部からの支援を失い、実力は非常に大きく弱まることになったが、中央アジア地域の反テロの情勢は依然としてかなり厳しいものがある。タリバーン勢力と『アルカイダ』組織の残りはまだ存在し、オサマ・ビンラディンとオマールは依然として行方が分からず、アフガニスタン領内の分散的な反テロの戦いは依然として完全に終わってはおらず、テロリストはまたしばしばアフガニスタンの国際安全部隊とアフガニスタンの新政権に向かってテロ襲撃をおこなっている。アフガニスタン-―パキスタン国境とその他の地域において、タリバーンと『アルカイダ』組織およびその他のテロ組織はすでに復活しており、麻薬密売と兵器の不法密輸は減ってはない。国連の2002年12月のレポートによると、『アルカイダ』組織は依然として1万人にのぼるメンバーによって世界的範囲で活動している。アフガニスタンで足場をつくることがむずかしくなった数多くのイスラム極端主義分子、テロ分子は中央アジア地域になだれ込んで難を避け、新たな生存空間に求める可能性がある。中央アジア地域のテロ組織、例えば「ウズベクイスラム運動」、「イスラム解放党」なども国際反テロ同盟の取り締まりの下で姿を隠し、さらに隠ぺいしたやり方で非合法活動をくりひろげ、いつでも新しいテロをつくり出す可能性がある。そのため、「3つの勢力」の危害を徹底的に取り除くことは、決して一朝一夕の事ではない。「3つの勢力」を引き続き抑え込み、取り締まり、中央アジアと周辺地域の安全と安定を守ることは、上海協力機構各加盟国の前に置かれた長期的な課題である。

上海協力機構の創設は、6カ国の指導者の遠大な見識を顕示し、世界の平和と安定に対して貢献をするものでもある。6カ国の元首が5月29日に調印した『上海協力機構加盟国の元首宣言』が明らかにしているように、「政治、経済と社会のグローバル化のプロセスが日に日に深化する背景の下で、近代的なテロリズム、麻薬の脅威およびその他の多国的犯罪の挑戦に対して、世界では独りそれから逃げられる国は一つもない」。広範囲の協力を展開することこそ脅威と挑戦に対応する唯一の道である。そのため、加盟国間の軍事協力を強化し、合同反テロ演習を組織することは、上海協力機構の各加盟国の元首の共通認識と『テロリズム、分裂主義と極端主義を取り締まる上海条約』を実施する具体的な措置であり、この機構の安全協力メカニズムがさらに活力と実際の効果をもつことになる重要な目印である。

両国間から多国間へ

2001年6月に上海協力機構が創設されてから、中国はこの機構の枠組みの中でその他の加盟国と相互間の軍事協力問題について積極的な努力と模索を行うとともに、わずか2年の期間に貴重な実践的経験を蓄積した。

2002年5月中旬、上海協力機構加盟国の国防相はモスクワで型通例の会談を行った際に、中国とキルギスの両国の国防相が合同反テロ演習を行うことについて合意するとともに、6月上旬にロシアのサンクトペテルブルクで合同演習を行う覚書きに調印した。そのあとで、両国の国防省(部)はそれぞれ軍事専門家グループを創設し、合同演習の問題について2ラウンドの協議を行って合意に達し、これを踏まえて『会談メモランダム』に調印した。

この『会談メモランダム』に基づいて、2002年10月、中国とキルギス共和国は中国・キルギス国境周辺地域で略称「01」の合同反テロ軍事演習を成功裏に行った。これは中国の軍隊が初めて外国の軍隊と行った合同軍事演習であり、上海協力機構の枠組みの中で中国とその他の加盟国が初めて行った両国間の合同軍事演習でもあった。

中国・キルギスの両国の数百人の将兵および10数台の機甲車とヘリコプターがこの演習に参加し、そのうち中国側は歩兵、砲兵、機甲部隊、通信兵、陸軍航空兵など多数の兵種の兵員を派遣した。演習はある『テロ組織』が国際テロ勢力の後押しの下で、中国・キルギス国境周辺地域で多国的暴力テロ活動をおこなおうとしているという想定しておこなわれた。中国・キルギスの両国の国境警備部隊が情報の相互交換、密接な協力、共同の指揮、共に国境を閉鎖、規制し、「テロリスト」を包囲せん滅するなどの科目を共に演習した。今回の演習はわずか2日間のものであり、演習に参加した兵力も限りのあるものであったが、非常に重要な意義がある。中国・キルギスの合同反テロ演習の中国側の軍事専門家グループのトップである劉登雲少将が述べたように、「演習を成功裏に行うことは、「3つの勢力」を抑え込み、取り締り、地域の安全と安定を守り、上海協力機構の軍事協力が深部へと発展することを促すうえで重要な意義を持っている。演習の成功は、上海協力機構が「3つの勢力」を共に取り締まる強靱な決意をはっきりと示し、わが軍と外国の軍隊が合同軍事演習を行うために道筋、方法を模索するとともに、今後の中国と上海協力機構のその他の加盟国が地域のテロリズムを共に取り締まるために実践的経験を蓄積した。

 昨年、成功裏に行われた中国・キルギスの両国の合同軍事演習は上海協力機構の枠組みの中で多国間の合同反テロ演習を行うための下地をつくった。中国、ロシア、カザフスタン、キルギス、タジキスタンの5カ国の国防相が今年秋に多国間の合同反テロ演習を行うことを決定したことは時機が熟すれば事は自然に成就するとは言え、それは同時に上海協力機構の各加盟国間の軍事協力が新たな段階に入ったことを示すものでもある。ロシアのイワノフ国防相によると、今回の合同軍事演習は今年8月に中国・カザフスタン国境周辺地域で行うことになる。現在、各国の関係者からなる共同専門家グループは軍事演習の前の段階の準備作業を大急ぎで行っている。

両国間から多国間へ、合同演習の実施のプロセスは更に複雑なものであり、各国の軍隊の指揮機関の協調の難度はさらに大きいものとなる。中国の軍隊と独立国家共同体の軍隊は言語・文字、組織体制などの面で大きな違いがあるため、これは各方面の交流と協調において障害となるであろう。昨年に行われた中国・キルギスの合同演習の中で、これらの問題を解決するため、両国の部隊は十分な数の中国、ロシアの2つの言語の通訳を配備した。また合同演習協調グループと合同テロ対策司令部を創設し、演習に対してトータルなコントロールを実施した。これらの措置は双方の間に存在する違いをよりよく克服し、演習の円滑な進行を保障した。これらの経験は間もなく行われる多国間の合同演習のためにすばらしい参考となろう。多国間の合同反テロ演習が必ず各加盟国の武装兵力の上海協力機構の枠組みの中での協調の能力と反テロ戦闘能力を向上させることを信じてもよい。5カ国の軍隊の将兵はその実際の行動で世界に向かって「3つの勢力」を取り締まる能力と決意を立証することになる。

基礎としての新しい安全観

強調しなければならないのは、中国が遂行しているのは非同盟の平和外交政策である。中国は相互信頼、互恵、平等、協力を中核とする新しいタイプの安全観を提唱している。このような新しいタイプの安全観も上海協力機構創設の基盤である。最初の国境交渉から、さまざまな安全協力メカニズムの創設に至るまで、新しいタイプの安全観は終始貫徹され、上海協力機構が着実に発展をとげた根本的な保証でもある。1996年に入ってから、中国、ロシア、カザフスタン、キルギス、タジキスタンの5カ国は相前後して一連の軍事分野における信頼を強化し、相互協力を強めて共同の脅威に対抗する協定、条約、宣言に調印するとともに、関連メカニズムの運行を着実に推し進め、地域の安全と安定を強力に促進し、世界の平和に貢献した。上海協力機構は新しいタイプの安全観、新しいタイプの地域協力モデル、新しいタイプの国家関係を提唱するうえでの手本であり、それはグローバル化時代の根本的要請に順応するものであり、強大な生命力を持つものである。

このような新しい安全観に基づいて、上海協力機構加盟国の軍事分野における協力は軍事グループを結成することを意味せず、それが遂行するのは非同盟であり、その他の国と組織に対するものではなく、また対外開放の原則にのっとるものである。中国は外国と共同で第三国に対する軍事演習を行うことはない。中国と上海協力機構のその他の加盟国の行う合同軍事演習はテロ組織だけに対するものであり、その根本的な目的は地域の平和と安定を守るためである。このような演習は各加盟国と軍隊間の信頼と友情を強化することでしかなく、その他の国および組織に対して脅威となることはない。

付録 カザフスタン、キルギス、タジキスタン3国の軍事力の概況

カザフスタン

1992年5月にその軍隊を正式に組織した。2002年の国防予算は2.26億ドルであった。現在、総兵力は約10万余人。陸軍と空軍の2つの軍種があり、全国は東部、南部、西部、中部の4大軍管区に分けられている。陸軍は4.1万人で、装備としては戦車930台、歩兵用車輌573台、装甲兵員輸送車770台、車両牽引大砲505門、自走砲163門、連射式ロケット砲147門がある。空軍は約1.9万人で、戦闘機164機。正規の軍隊以外に、国境守備軍が約2万人と武装警察部隊の若干の旅団、連隊がある。

キルギス

1992年2月にその軍隊を正式に組織した。2002年の国防予算は2350万ドルであった。総兵力は約2万人。陸軍と空軍の2つの軍種がある。そのうち陸軍は約8500人、装備には戦車233台、歩兵用車輌387台、装甲兵員輸送車63台、車両牽引大砲141門、自走砲18門、対戦車ミサイル26基、高射砲48門がある。空軍は約2400人、戦闘機52機、攻撃ヘリコプター9機、ミサイル発射台40余。正規の軍隊以外に、国境守備軍が約7000人、武装警察部隊が約3000余人がいる。

タジキスタン

1992年の下半期、その国の軍隊を組織し始めた。2002年の国防予算は1480万ドルであった。正規の部隊は約1.2万人。陸軍だけであり、装備には戦車35台、歩兵用車両34台、装甲兵員輸送車29台、車両牽引大砲12門、迫撃砲9門、連射式ロケット砲10門、地対空ミサイル20基、武装ヘリコプター4〜5機がある。そのほか、国境守備軍が約1200人、武装警察部隊が約1500人がいる。