米国に反ダンピング提訴された中国製カラーテレビ

任暁風

ファィブ・リバー電子会社はもともとは業界ではあまり知られていないアメリカのカラーテレビ組立企業だったが、さる5月2日、アメリカの国際電気労働者友愛組合(IBEW)と電子製品・家具・通信国際労組(IUE−CWA)とが手を結んで、中国を含むアジアの一部の国のカラーテレビ業界に対して反ダンピング提訴を行ったため、またたく間に世界のカラーテレビ業界に注目されることになった。

長虹、厦華、海信、創維、海爾、康佳、TCL、上広電などを含む中国の大手カラーテレビメーカーのほか、蘇州に海外生産拠点を置いている欧州のカラーテレビのトップメーカーであるフィリップス社や、中国国内でブランドカラーテレビを生産している他の国の生産メーカーも訴訟調査の対象として提訴された。

米国際貿易委員会(ITC)のホームページに掲載された約50ページにわたる反ダンピング起訴状の中で、「2000年から2002年までの2年間に、中国とマレーシアのカラーテレビの対米輸出量は20余万台から260余万台に増え、10倍以上も増えたが、その84%は中国が占めているシェアである」としている。

原告側首席弁護士は「わずか3年間にこれほど高い伸び率で増えたことは正常ではなく、アメリカ国内の産業に損害を与えている」と公言しているが、原告側の一つであるファィブ・リバー電子会社総裁のトム・ホプソン氏は、「わが会社はそのために生産量と従業員を削減せざるを得なくなった。最近、もう一社のカラーテレビ製造工場は倒産で1000人ものの失業者が出た」と付け加えた。

アメリカ現地時間の6月16日、米国際貿易委員会(ITC)は裁決を下し、中国とマレーシアのカラーテレビの対米輸出は米家電市場に実質的損害を与えたと認定した。訴訟事件はいま米商務省の調査の段階に入り、来年2月初めに終審裁決が言い渡されることになっている。

中国の大手メーカー、米企業の反ダンピング訴訟に応訴

中国製カラーテレビは米企業の反ダンピング提訴で正式に調査されるということを知って、中国の関係カラーテレビメーカーはいずれも、自社にはアメリカ市場へのダンピング行為は存在しないことを明らかにした。

四川省の長虹公司は今回の訴訟の中で最も注目された対象となっている。長虹公司は中国のカラーテレビ輸出量のトップを占めるメーカーである。2002年の輸出量は301万6000台で、国内のカラーテレビ輸出量の88.2%を占め、輸出額は4億1600万ドルであった。

同公司執行総裁の王鳳朝氏は、当公司のアメリカ市場向けの輸出製品は、公司の財務諸表と上場企業の年度報告書から見てもわかるように、売れ筋のものばかりであり、利潤率も15%を超えている、と言っている。

長虹公司スポークスマンの劉海中氏の説明では、価格243ドルの長虹製カラーテレビは同じタイプの日本製品より約20ドルも高いものである。

米国に反ダンピング提訴された中国のカラーテレビメーカーはいずれも応訴の意向を示し、目下、弁護士の招聘と関連の準備作業を行っている。

各メーカーはほとんど単独で応訴することを決めた。業界筋の分析では、これは各メーカーの輸出状況が異なるためである。中国のカラーテレビの対米輸出は数社の大手メーカーによって取り扱われ、その他のメーカーの輸出台数は少ないうえに輸出価格もまちまちである。TCL公司のスポークスマンの劉歩塵氏の説明では、アメリカの反ダンピング調査が別々に行われるものであるから、たとえダンピングと裁決されたとしても、各メーカーは調査の結果によって異なった税率を徴収されるため、それぞれ弁護士を招聘する必要がある。

伝えられるところによると、最近、米商務省は提訴された中国の11社のカラーテレビメーカーに対しアンケート調査を行うと同時に、被告側の弁護士が応訴のための準備を始めるよう求めた。すべてのABCD式アンケート調査は7月23日の前までに返送しなければならない。

焦点となる問題

今回の反ダンピング訴訟の焦点の一つは、「中国の輸出はアメリカの産業に実質的な損害を与えているのかどうか」ということにある。

事実、アメリカにはカラーテレビ完成品のメーカーや国内ブランドはない。長虹公司スポークスマンの劉海中氏の説明では、提訴側のファイブ・リバー電子会社はフィリップス社が持株を保有するテレビのケースの生産メーカーである。今回の提訴者は百万人に達したとはいえ、そのほとんどがテレビの生産に携わっている従業員ではない。言い換えれば、提訴側が持ち出したカラーテレビ製造業の従業員の失業問題は存在しない。逆に、中国の家電製品の大量輸出は、運送から販売、アフタサービスまで、アメリカの関連流通産業の雇用機会を大幅に増やすことになっている。それと同時に、長虹公司を含む中国のメーカーがアメリカの企業から部品や設備を購入していることもアメリカの対外貿易額を直接拡大し、また間接的にアメリカのためにより多くの雇用の機会を作り出している。

焦点の二は、どの国をダンピング基準の代替国とするのかということにある。

アメリカは中国を「非市場経済国」と見なしているため、反ダンピング調査においては、いつも中国製品のコストの計算では「代替国」のルールを採用している。つまり、外国の関連生産要素の価格で中国製品のコストを計算するというルールである。今回の反ダンピング調査においては、インドが中国製品の代替国とされているのである。

中山大学の慕亜平教授(国際経済法)は次のように指摘している。

中国の経済水準とほぼ同じであるインドを代替国に定めたことは、「公平」のように見えるが、実のところインドの電子産業は中国よりずっと立ち後れており、テレビの価格も中国製品より高い。米国際貿易委員会はインドの状況に基づいて、中国製カラーテレビのダンピング率は84.17%に達していると裁決しているが、これはきわめて不公平である。

長虹公司スポークスマンの劉海中氏は次のように語った。

中国はWTO体制下において国際貿易活動を進めており、しかもカラーテレビ製造業は中国で市場化の度合が最も高い業種の一つとして、市場競争の法則の下で、一連の技術とプロセスの革新及びコストへのコントロールを通じて、国内で最も競争力のある業種となったばかりでなく、世界でも発展の速度が最も速い、コストの引き下げが最も大きい業種となった。この二つの背景の下では、中国のカラーテレビ業界は相変わらず代替国というルールを採用されることはきわめて不合理である。

中国のカラーテレビメーカーへの影響は大きい

今回の反ダンピング提訴によって中国のカラーテレビメーカーに対する影響はかなり大きい。

米企業の反ダンピングが勝訴するなら、中国製カラーテレビの対米輸出税率は少なくとも現在の5%から10%以上に引き上げられ、しかも5年間変えられないことになる。

創維グループ理事局主席の黄宏生氏は次のように述べている。

税率の引き上げと5年間という期限は、中国製カラーテレビのアメリカ市場における価格の優位が再度現われないことを意味している。これは多くの中国のカラーテレビメーカーにとって想像できないことである。数社のトップメーカーの決算報告書によれば、昨年の輸出の大幅な伸びがその収益の重要な一環となっている。

さらに重要なのは、今から2006年までにアメリカの市場がデジタルテレビへの買い替え期を迎え、その販売台数が数千万台を超えると見られることである。

康佳グループ海外事業部総経理の楊国和氏は次のように語っている。

中国のカラーテレビ製造業は現在、世界のデジタルテレビ市場へ進出する重要な時期に置かれており、中国側が敗訴するならば、カラーテレビ業種の国際市場進出は影響を受けるにちがいない。

長虹公司スポークスマンの劉海中氏は次のように語った。今回の反ダンピング提訴が成り立つならば、今後のかなり長い期間に、中国のカラーテレビメーカーは、トータルで国際市場のシェアの半分しか占めない自国国内や東南アジア、中東、オセアニア、中南米などの市場で、これらの国と地域に海外営業部を設置している日本企業とマーケットシェアを奪い合うしかなく、中国のカラーテレビ業種の約3分の1の生産能力が遊休状態になる。

中国政府、反ダンピング訴訟の裁決に大きな関心を示す

中国商務部新聞弁公室は6月20日の記者会見で、中国政府は中国製カラーテレビがアメリカ国内の産業に実質的な損害を与えたという米国際貿易委員会の初歩的な裁決に大きな関心を持っており、訴訟事件が公正で、合理的に解決されることを望んでいることを明らかにした。

商務部公平貿易局の責任者は次のように指摘した。

われわれは米企業の中国製カラーテレビについての反ダンピング提訴に強い関心を持っている。米連邦取引委員会(FTC)が5月22日この問題を正式に提起した後、中国商務部は直ちに交渉を行った。われわれの見方では、提訴の資格について言えば、現在の提訴側はアメリカのカラーテレビ業種全体の利益を代表することができない。また、中国製カラーテレビ輸出の現状に基づいて、アメリカのカラーテレビ産業に損害を与えたという結論を下すことは難しい。

アメリカは中国製カラーテレビについての反ダンピング調査の中で、調査を受ける中国のメーカーに、カラーテレビの生産と販売において市場参入の条件を備えていることを証明する権利を与えずに、代替国のルールを採用している。このやり方は中国のWTO加盟時の関連の約束に反するものであり、中国のカラーテレビ業界全体に対して客観的かつ公正なものではない。中国側はアメリカ側が現行のルールを変えて、案件に対し公正かつ合理的な裁決を下すよう望んでいる。

中国政府は自国のカラーテレビメーカーの利益を守るために、引き続きこのことに関心を寄せると同時に、アメリカの関係部門との交渉を続けることにしている。