訴訟をめぐる推測

任暁風

アメリカ国内には本格的なカラーテレビ製造企業がないのに、中国製カラーテレビがアメリカ国内の電子産業に損害を与えたという提訴は確かに人々を戸惑わさせている。最近、関係専門家はこの訴訟が起こった原因と背景をめぐってさまざまな分析を行った。

世界のカラーテレビメーカーにとって、アメリカ市場は魅力のあるパイだと言えよう。統計によると、アメリカのカラーテレビの年間需要量は約1700万台である。2002年以前、ソニー、フィリップス、トムソンなど日本とヨーロッパのメーカーの製品がアメリカ市場のシェアを独占していた。ここ二年間に、すさまじいスピードでアメリカ市場へ進出し、アメリカ市場における競争の枠組とルールを再構築しようとしている中国のカラーテレビ業界のパフォーマンスは、以前からの覇者たちに不安を感じさせた。中国は現在世界最大のカラーテレビ生産拠点となっており、昨年のカラーテレビ輸出量は1900万台に達した。

特に多国籍のトップメーカーを懸念させているのは、中国のカラーテレビの輸出がこれらのメーカーの独壇場であったデジタルテレビに向かうようになったことである。長虹公司はバックライト式と液晶式などのデジタルテレビを輸出しており、バックライトテレビはアメリカ国内の販売量の10%を占めることになった。今回のアメリカ側の反ダンピング訴訟では21インチ以上のテレビが対象となっている。

数多くの業界内の専門家は、今回の反ダンピング訴訟は実のところ、日本のカラーテレビメーカーのアメリカ市場における利益が挑戦を受けたためだと見ている。

長虹公司の責任者の説明では、中国のカラーテレビ技術の急速な発展は日本企業にとってきわめて大きな脅威となりつつあり、特に中国のカラーテレビメーカーは対米市場向けの完成品及び部品開発と製造の面でかなり強い競争力を持っている。日本企業はメキシコでカラーテレビの生産を行っているが、その中小型サイズのカラーテレビの競争力は依然として中国製品には及ばない。しかも、中国のデジタルテレビ製造技術と世界のトップ企業とのギャップもかなり縮小した。日本企業はみずからの利益を守り、中国製品の対米輸出のさらなる拡大を妨げるために、幕裏で今回の反ダンピング訴訟を策動したのである。

注意しなければならないなのは、アメリカ側の起訴状の中には、今回の訴訟を後押ししているアメリカ国内の海外企業の名が並べられており、そのなかには三洋や東芝、ソニー、松下電器、オリオンなどが含まれているが、いずれも日本の海外企業ばかりだということである。

一部の日本企業のほか、フィリップスやトムソンなど、米国市場で中国のライバルとなったヨーロッパのトップメーカーもこの訴訟案件を策動したと考えている人もいる。ヨーロッパのカラーテレビメーカーは反ダンピング訴訟の手段で中国製品の輸出に対処するうえで豊富な経験を持っており、数年前には欧州連合(EU)に提訴されたため、中国製品がヨーロッパ市場からほとんど姿を消したこともあった。

関連の推測に対しては、フィリップス社とトムソンはあくまでもそれを否定している。フィリップス社はさらには書面の声明を出して、アメリカの企業と労働組合が提起した反ダンピング訴訟にはこれまで参与したことはなく、ましてやこの提訴を支持することはないことを明らかにした。

専門家の分析では、アメリカの経済が不景気になり、国内の失業率もなかなか下がらないという背景の下で、アメリカ国内の産業や労働者の輸入品に対する警戒心と抵抗感の増大は、保護貿易主義の台頭を招くことになりかねないが、アメリカ市場の労働集約型の消費物資の主要な輸出国として、中国は真先に矢面に立たされ「スケープゴート」になることになろう。

中国国務院発展研究センター対外経済研究部の張小済部長はこう見ている。

自国内にはほとんど生産企業がないのに、アメリカ側が中国製カラーテレビのダンピングで提訴したことは「きわめてよくないシグナル」であり、中国側が敗訴したら、今後中国のすべての対米輸出製品は反ダンピングで提訴される可能性もあり、しかも他の国の先例となる恐れがある。

また、注目しなければならないのは、今回の反ダンピング提訴が労働組合の名目で行われたことである。これはアメリカの反ダンピングの歴史でも稀に見るものである。これは「簡単な問題ではない」、「政治的要素を除外することはできない」と敏感に読み取る人も少なくない。