映画産業の市場化

―――映画産業体制の改革が今進められており、主管機関の映画産業の市場化に向けた発展をめざす決意のほどが窺える。

唐元かい

民間発行企業がサポート

ベルリン国際映画祭と米アカデミーで「最優秀外国映画賞」にノミネートされた張芸謀監督の『英雄』が、この数年来の国内チケット販売で最高の売り上げを記録した。上映開始わずか1週間で興行収入は1億元を突破し、昨年の国内チケット総販売数の25%を占め、最終的に2億4300万元に達した。これは民間の映画発行企業が宣伝などに力を入れた結果だ。

中国映画事業管理局が新たに打ち出した国産映画の発行に関する「試験的運用法」に基づき、同映画を製作・発行した北京の新画面影業有限公司と博納文化交流有限公司、上海の金棕櫚影視制作公司、広東省の大和影業有限公司、それに四川省・成都の峨影影視文化伝播公司の民間企業6社に初めて、国産映画の国内発行資格が与えられた。これによって、長年にわたり国有企業が取り仕切ってきた国産映画発行の枠組みは大きく変わった。

民間企業が取得した「映画発行経営許可証」は、国家放送映画テレビ局が昨年6月から全国範囲で推進している「シネマライン・システム」に次ぐ、発行分野での更なる市場化を目指した重大な改革措置の一環。同局は映画発行のルートを開拓し、発行・放映体制の改革を引き続き加速すると共に、国産映画を内外で発行・放映する積極性を存分に発揮させていく方針だ。

過去、民間企業は発行代理資格しか持てなかった。だが国家映画事業管理局は1998年に、映画の著作権者はいかなる事業者や個人にもその代理発行を委託することができる、と規定した政策を制定。こうして、一部の民間企業は映画制作所から代理委託を受けて、国有の発行企業と協力を進め、国産映画の発行市場で一定のシェアを握れるようになった。博納文化交流有限公司の于冬社長は「ようやく、“筋の通った”身分を手にすることができた」と話す。

峨影影視文化伝播公司の李宏瑩副社長は「国産映画発行市場の利益がどれほどあるかははっきりしないが、市場に参入できる資格を得たのが一番重要だ。この資格があれば、企業の業務範囲は以前より目だって拡大する」と指摘する。

かなりの程度、「発行の不利」が中国映画を困難な状態に追い込んだと言える。映画を“商売”として営業する人は非常に少なく、営業・販売もせず、宣伝コストを非常に低く抑えてきた。2001年に映画制作所が投入した宣伝費は年間で20−60万元(8万ドルにも満たない)に過ぎない。一方、米国では同約3000万ドルにのぼる。専門家は「社会資金や民間企業を国産映画発行の分野に引き込み、彼らの専門的なノウハウや資金力、柔軟なメカニズムを活用すると共に、制作者や放映者に最適なサービスを提供し、映画を真の商品としてパッケージして営業・販売すれば、フィルムがお蔵入りするといった弊害を改め、中国映画市場を活性化することができる」と指摘している。

北京新画面公司の于立希マネージャーは「映画の産業化という背景の下で、我々は制作から発行まで、終始一貫して『英雄』を商品として取り扱ってきた」と話す。

「映画『英雄』の発行の成功によって、宣伝や営業・販売プランの策定と実施は、制作所が委託する代理企業あるいは専業発行企業が少なくともなさねばならない、それがはっきり示された」。国家放送映画テレビ総局映画事業管理局宣伝発行処の毛羽処長はこう指摘した上で、「こうした考えは、制作所の映画の宣伝や販売・営業の強化にプラスであり、長年にわたり多くの制作所が慣れてきた“制作すれば必ず売れる”という考え方を変えることになる」と強調。

『経済観察報』の徐暢・論説員は「これは各分野の発展を促す映画産業のチェーン化を進める上で有利だ」と指摘する。

北京センチュリー・グローバル・シネマライン発展有限公司の李国新副社長は「制作所または企業は映画の質を保証することだけを考えればよく、専業の発行企業は市場を把握すればいい。こうすることで、“制作すれば必ず売れる”」と話す。

上海の金棕櫚影視制作公司は今年、5本の映画を撮影することにしているが、李竹安社長は「まず発行を決めてから撮影するのが、我々のプロセスだ。一定の金額を得て初めて、撮影を開始する」と説明している。

博納文化交流有限公司の于冬社長は「一定規模を備えた企業に育てたい。これを目指すと同時に、上流の制作者や制作所、投資家に責任を負うと共に、下流のシネマラインに対しては、責任を持って企画・宣伝を支サポートしていく」と強調。

発行の独占状態が崩れれば、民間企業のほかに各省・直轄市の映画企業、制作企業自身も発行権を享有できるようになり、映画発行分野での競争は一段と熾烈化すると予想される。

輸入フィルムの独占体制崩れる

 この半世紀近く、輸入フィルムの国内発行権は中国映画公司が一手に握ってきた。だが、こうした状態は、先ごろ華夏電影発行有限公司が国家放送映画テレビ総局の認可を得て北京市工商局から営業許可証を取得したことで崩れ去った。

中国は現在、年間約60本の映画を輸入しており、そのうち20本については、外国の制作者側と興行収入を分け合っている。いずれもチケットの販売が最も好調であるため、シネマシアター間の争奪は最も激しい。

輸入フィルムは毎年、総興行収入のほぼ50%を占め、それを上回る時もある。去年を例にすると、総収入は9億元で、うち20本の輸入フィルムが3億9000万元と貢献した。こうしたフィルムは一貫して中国映画公司の手にしっかりと握られていたのである。

ある映画発行企業の責任者は「同公司と調印した契約はすでにお決まりのもので、双方が話し合う余地はなかった」と明かす。

発行企業と長い付き合いのある上海電影発行放映公司で副社長を務め、現在は上海聯和シネマライン有限責任公司でマーケットを主管する呉鶴瀘氏は「以前は中国映画公司1社が独占していたため、価格交渉はできなかった。求めるならあげる、という姿勢だったからだ。だが現在は、両者が競争し、一方のサービスが悪ければ、別の企業を選択してフィルムを得られるようになった」と感慨深く話す。

中国映画公司はこうした体制の改革を早くから承知していたようだ。翁立副社長は「輸入フィルムの独占権が崩れたことで会社の利益は損なわれたが、映画の産業化にとっては必然の結果である。今後は我々の強みを集中して、より価値のある資源を発掘し、その他の映画の宣伝を有効に推進していく」と語る。

北京新撮聯影業映画有限責任公司の高軍社長代理は「華夏は中国映画公司の影響から抜け出せないだろう。それは株式から見れば理解できる。同公司は華夏の11%の株を所有しており、第2の大株主である取締役が華夏の副取締役だからだ」と指摘。

国家放送映画テレビ総局は中国映画公司と華夏の2社に対し、興行収入の7%を「中撮」輸出入公司に支払うよう求めていている。これについて、同局宣伝発行処の毛羽処長は「過去、中国映画公司は独自で輸入フィルムを代理発行しており、政府の一部職能を相応に担っていたため、児童映画や民族映画についても補助金を出していた。現在は、華夏はなかば市場の道を歩み始めたため、中国映画公司の利益は当然減少している。だが、果たすべき多くの義務がまだあるため、7%補助することにした」と説明している。

更に毛羽処長は「いずれにしろ、これは中国映画が発展に向けて大きく歩み出したことを意味している。何故なら、長期にわたる独占体制によって、サービス意識や営業・販売

手段に欠け、本来人気のある映画に人が集まらなくなってしまったからだ。2社の競争が企業発展を刺激するのは間違いなく、輸入フィルムの発行も国産映画の発展をもたらすだろう。将来は、国産映画が総興行収入の3分の2を占めるようにしたい」と強調した。

華夏公司の劉建中取締役は「今後、映画に次ぐ製品の開発や発行、販売、その他の業務で様々な資本を導入していく」と話している。

シネコンの合弁経営を認可

7月12日、映画「ザ・マトリックス・リローディド」の独占放映式が上海のパラダイス・シネマ・シティで行われた。同シネマ・シティは政府の認可を得て、永楽公司が米AOLタイムワーナー傘下のワーナーブラザーズとの合弁で設立したもの。総投資額は2850万元で、株式は中国側が51%、米国側が49%を所有する。中国がWTO(世界貿易機関)加盟後初の外資参加のシネマコンプレックスとなった。立地場所は上海随一の繁華街、徐家匯商業中心区。昨年2月10日にオープンし、営業開始10カ月半で興行収入は約2600万元に達し、国内トップの座を占めた。これまでの累計収入は3889万元、観客延べ104万人を動員した。

当初、ワーナーブラザーズは51%の株式取得を期待していたが、実現できなかった。最近、同社のオークス総裁は「香港への投資では75%以上の株式を所有している。中国の政府高官が先ごろ、外資が合弁企業で多数の株式を所有することも考慮する、との姿勢を示したので、今後は51%の所有を目指す」と話している。

これまでにも外資は参入しており、著名な多国籍企業が多い。米コダックは2年前、上海の徐家匯商業中心区にあるスーパー・シネマ・ワールドに投資。昨年の興行収入は約2000万元で、パラダイス・シネマ・シティと共に上海市興行総収入の4分の1を占めた。

米映画最大手の資本参加では、自ら投資したシネマコンプレックスで自己制作のシネマの放映に全面的に力を入れている点が、他業種のコダックなどの投資と異なる、と専門家は指摘する。

アナリストは「世界の映画業界の中国市場への投資は、より多くのフィルムを提供できるほか、中国映画業界の国際化にもプラスとなり、中国伝統の業界の構造に由来する弊害は徐々に解消されていくだろう」と分析する。現在、上海など多くのシアターは1つのホールしか持たず、観客には選択の余地がなく、施設も老朽化している。現代的な科学技術の応用の波に乗れず、観客の快適な鑑賞というニーズを満たせないままだ。

上海映画グループの任仲倫総裁は「今後、映画放映の環境を整備して、上海の映画市場でのトップの地位を維持していく。永楽公司とワーナーのシアター合弁プロジェクトはこうした初志の一部に過ぎない」と語る。同グループによると現在、ワーナーと一連の協力プロジェクトについて交渉中だという。

ワーナー側はシアターの合弁建設のほか、映画制作者とも提携すれば、中国でより多くの撮影場所を選択することができ、一部フィルムの後半の制作を中国に移管することも考慮できる、との姿勢を示している。

ワーナーは更に永楽公司と合弁で娯楽技術サービス会社を設立する方針だ。シネマコンプレックスへの改造で、技術や管理、人材養成のサービスを提供していくという。

パラダイス・シネマ・シティの謝鮑?社長は「現在は中国側が主要な権益を握り、管理も現地化を主体としているが、外国側もシアターの全面的な経営管理に参与することができる。ワーナーが提供した管理ソフトは既に運行されており、シアターの経営状況もワーナー本部が掌握している」と説明。

専門家は「外国のシアター管理者が参加すれば、米国式の管理システムになるだろう」と指摘する。

北京センチュリー・グローバルの金達成則副社長は「現在の政策によれば、外資はシネマライン公司の主体経営に参与できないが、シアターへの資本参加で中国の映画市場に変化が起きている。何故なら、市場を真に決定するのは、シアターだからだ」と強調した。