苦境に立つ「対日新思考」

晋林波

2002年、中国の対日外交が直面する内外の挑戦が日ましに際立つ情勢の下で、中日両国は国交正常化30周年を迎えた。これは両国関係を再考するきっかけとなった。この背景の下で、中国の世論界と学界では「対日外交新思考」と日本に対する「外交革命」を実施するという大胆な呼びかけが発せられ、中国が外交面で「歴史問題」についての厳しい追究をやめ、日本が大国としての役割を果たし、国連安保理の常任理事国になるのを支持すべきだと主張している。

「新思考」は発表されるや激しく非難された。中国の大多数の人は依然として、現在でも日本が過去を深く反省していないばかりか、「軍国主義の歩んだ外国侵略の道を再び歩む」可能性があると見ており、中国はいつも日本の行動に対し警戒心を保ち、それを牽制し、それが中国の発展に対する新しい脅威となるのを防ぐべきだと見ている。中国の人びとは日本に対しこれほど強い警戒心を保っているのは、主に二つの原因がある。一は過去日本の中国侵略戦争に対する深い記憶および戦後、一部の日本人の歴史を歪曲する言行に対し相変らず反感をもっていることである。二は大多数の人が自らの対日情緒を適時に整理、放棄できなかったため、感情面で「アンバランス」を生じている。当面の状況から見れば、このような「アンバランス」状態を完全に改めるにはより多くの「理性」と「時間」が必要である。

近現代の中日関係の歴史が示しているように、日本は中国にとって周辺隣国のうち最も重要であるが、同時に深く理解し、的確に把握するのが最も難しい国でもある。1871年日清修好条規が締結されて以来、中国国内ではいかに日本を認識し、それに応対するかをめぐって論争が見え隠れに続いており、中日戦争期間中でさえ完全にやめることがなかった。今年中日平和友好条約締結25周年を記念する際、中国国内ではいかに日本を認識し、それに応対するかをめぐって論争が再び盛り上がっており、中国の対日外交の方向は再び内外から注目される焦点となっている。

全体的に見れば、中日国交正常化30年以来、中日関係は未曾有の全面的な発展をとげており、中国の対日外交が事実上大きな成功を収めている。日本は十数年連続して中国最大の貿易パートナーとなっただけでなく、中国にODAを提供し、直接投資を行う最も主要な国となっている。昨年の中日貿易額はすでに1000億ドルの大台を突破し、経済貿易関係で多分野における全面的協力を促す中日相互依存関係が形成されつつある。

しかし、上述の成果を肯定するとともに、中国の対日外交が依然として国内外からの現実的な挑戦に直面していることをも見てとらなければならない。外部について言えば、挑戦は主に日本から来ており、具体的には次の二つの面に現れている。まず、日本の「歴史問題」についての常軌を逸した言行、とくに小泉首相が3年連続して3回も靖国神社を参拝した行為は、「中日関係の政治的基礎」を揺り動かしただけでなく、両国のハイレベル間の信頼をゆゆしく損ね、ハイレベルの往来を極度に妨げている。次に、ここ数年来、日本は「普通の国」と政治大国に向かう一連の戦略的段取りと措置(日米同盟強化、台湾問題に対するあいまいな立場、周辺事態法の制定と有事立法の完成、海外派兵、ミサイル防御システム配置)は、中国周辺の安全環境に新しい変化を生じさせ、中国が安全面で日本の戦略の意図に抱く懐疑を直接あるいは間接的に大きくし、ある程度中国が日本に対し「隣国を友人としてよく付き合う」という外交政策を実行するのを遅らせている。

国内について言えば、挑戦は主に対日世論の意見に相違し、対立している。歴史など多くの原因で、中日国交樹立以来、中国国内では対日認識と対日外交の面で、政府と民間の間、政府各部門の間にある種の相対的な共通の認識がずっと形成されておらず、そのため政府の対日政策が往々にして民間の世論の主張とかなりかけ離れ、ゆゆしく対立する状況さえ現れている。中国が改革・開放を実施する前に、このような状況のマイナス影響がさほど顕在化されていなかったが、改革・開放の全面的深化および外交事務への民衆の関心と参与の日ましの増加につれて、そのマイナス影響はますます突出している。現在、中国国内では、いかに日本を認識し、それに応対するかの問題をめぐって、意見がゆゆしく食い違い、対立する状況が存在し、対日政策の制定と調整の大衆的基盤を弱めただけでなく、対日外交活動の順調な展開に影響を及ぼし、新しい時期に中国の外交が直面しなければならない挑戦となっている。

当然ながら、中国の「いくらかゆとりのある社会の全面的建設」という国の戦略的目標と周辺を安定させるという外交戦略任務の視点から見れば、「対日新思考」が「理性的」な判断に基づいて打ち出したものであり、中国の全体的な利益と現実的な外交の利益に合致している。「対日新思考」をめぐる論争は、一方では中国の対日外交が直面している困難と挑戦をある側面から真実に反映しているが、他方では中国国内の日本を深く研究し、全面的に理解し、政府と民衆の間、政府各部門の間の相対的な共通の認識の形成を促すことに得がたいチャンスを提供している。

(著者は中国国際問題研究所アジア太平洋研究室主任)