世界遺産申請は保護のためかそれとも開発のためか

最近、中国の世界文化と自然遺産の保護に嬉しいニュースが次々と伝わってき、中国の世界遺産の数は速やかに増えている。7月初めの第27回世界遺産大会で、雲南省の「三江並流」(3本の川が並列して流れる)と北京の明の十三陵、南京の明の孝陵が世界文化遺産に指定されて、中国の世界遺産項目は31カ所に増えて、世界ではスペイン、イタリアに次いで第3位にランクされている。一時、全国で世界遺産申請の高まりが盛り上がった。伝えられるところによると、上海外灘を含めておよそ80余件の申請項目がいま積極的に準備が進められているという。

世界遺産に名を連ねることは、多くの地方にとって、有名になり、観光業に莫大な収入をもたらすことを意味する。河北省承徳の避暑山荘と外八廟は1994年に世界遺産の申請に成功したあと、翌年の観光客は十分の一に増えた。山西省平遥は1997年に世界文化遺産に指定された結果、1998年の入場券の売上高は申請前の18万元から一躍500余万元に増えた。雲南省麗江は世界文化遺産に仲間入りしたあと、2000年だけでも、同県を訪れた内外観光客は延べ258万人に達し、観光の総合収入は13億4400万元に増え、観光業を主とする第三次産業は全県の国民総生産の50%を占めた。

巨大な経済利益を前にして、一部の地方は世界遺産申請には非常に大きなコストを投下しているが、遺産保護には投下していない。実際には、世界遺産を申請する過程に投下されるコストを直接遺産保護に用いるなら、それだけでほぼ十分に足りる。しかし、一部の地方政府は開放を保護の上におき、遺産申請が成功する日は往々にして「遺産」が大いに開発される時であり、一部の遺産地に対し略奪的開発を行って、風景区を都市化、現代化、商業化させてしまっている。

国連の「世界文化と自然遺産保護条約」の中核は遺跡の真実性と完全性を保つことにある。金のなる木、金看板、観光勝地などのような名称が世界遺産に結びつけられた時、中国の世界遺産保護および申請作業は既定の軌道からそれてしまっている。

われわれは世界遺産申請と保護活動をどう見るべきか。ある専門家はこう指摘する。世界遺産申請の活動は肯定と支持に値するが、申請者は世界遺産保護の態度を正し、それを人類が共同に所有する財産を保護する長期行為であると見なしてのみはじめて国連の世界遺産保護という本来の目的に達することができるのであり、国はそれに対し法制管理を行ってのみはじめて中国の遺産保護を軌道からそれないようにすることができるのである。

申請ブームは下げる時に来た

全国人民代表大会代表祝義才氏世界遺産を申請する時、一部の地方は熱情的になり、われがちとなり、世界遺産のバスに乗り遅れまいとして、申請を政府活動の重点の中の重点とし、党と政府のトップが自ら乗り出し、大量の人員と資金を投下して、申請の成功を光栄にしている。しかし、いったん申請に成功すると、地方の利益に駆られて、にわとりを殺して卵をとることも惜しまず、遺産の金看板を利用して過度に開発を行い、遺産そのものの負担を耐えられないほど重くしている。

雲南省世界遺産管理委員会委員陳錫誠氏1999年、世界遺産大会で採択された「ケインズ」決議は、当面各地に現れた「申請ブーム」に直接影響を及ぼした。しかし、毎年の定額は一つしかないのである。今年の世界遺産大会はまたも、同類の遺産がすでにたくさんあるものの申請を制限することを提出した。競争はいっそう残酷、激烈になりつつある。それがどのくらい難しいかはおして知るべしである。したがって、各地が申請を決定する前に、かならず自らの項目を世界の大環境の中において比較、認識し、真に他のところより優れている特質をもっているかどうかを確めなければならない。さもなければ人員と資金を乱用することになる。例えば、石窟と民家の申請は望みがない。というのはこのような遺産がすでにたくさんあるからだ。理性と冷静な態度はますます重要になってくる。「遺産申請」の目的は一は保護、二は発展の二つにほかならない。この二つの目的を実現させるには、「遺産申請」はわりによい選択でしかなく、決して唯一の選択ではない。みながわれがちに丸木橋を渡ろうとするのはおそらく明知ではない。成功を焦る考え方はなおさら危険である。申請に成功する時が往々にして遺産が破壊される時になるからだ。

申請を重視するが保護をより重視する必要がある

北京大学世界遺産研究センター謝凝高教授当面全国に世界遺産申請を準備している項目が七、八十件あるが、この量は多いとはいえず、申請を積極的に支持すべきである。というのは、中国の世界遺産資源が非常に豊富だからである。

申請自体はよいことであるが、問題は管理者の認識が誤っていることにある。一は機能に対する認識が誤っている。世界遺産(例えば風景名勝区)の機能は主に精神文化機能であって、経済機能ではない。一部の申請側の動機がもともと不純であり、「開発で保護を推進する」とか「保護と利用を同時に行う」などと言っているが、実際には「経済利益が第一」で、世界遺産を「金のなる木」にしているのである。二は性質に対する認識が誤り、世界遺産資源を観光資源と同じように見なしている。その実、観光業は第三次産業に属しているが、世界遺産は保護の性質をもつ公益事業で、観光はその多くある機能の一つでしかなく、しかもその利用を制限しなければならない。三は空間に対する認識が誤り、保護区内で経済開発や観光開発を行っている。実際的に言って、世界遺産所在地の機能を区域ごとに分けるのは非常に重要である。「山の上では遊覧し、ふもとに住む」ことを提唱する必要はあるが、一部のところでは山の上で高級ホテルや商店街をさかんにつくっている。

誤った開発は世界遺産項目に人工化、商業化、都市化をもらたしている

人工化は人造景観や建築が多すぎて、自然景観を破壊したことを指す。商業化は機能を誤らせ、保護区内で大いに商売をやり、いろいろな店を開くことに表れている。都市化と商業化は互いに密接に結びついており、商業化は必然的に都市の基準に基づいて建設を進めるようになる。例えば、泰山は頂上を「とても賑やかな天上都市」につくり上げ、「風景の泰山を経済の泰山に変え」、それに「天街」という美名をつけている。観光客は街へ行くと、商業建築と人しか目に入らず、懸崖の石刻」や自然の名所旧跡がなかなか見当たらない。これでは都市にいるのとなにも違わない。

三化の結果は自然、美感度、霊感度が下がることである。自然度と美感度はわりに理解しやすいが、霊感度は詩人や画家、写真家など文芸創作者に対して言ったものである。あるカメラマンは30年間に150回も黄山に登って撮影したが、いまでは彼は多くの写真が絶版になり、それほどすばらしい角度や美景はもはや探せなくなったと感嘆している。

申請を重視するが、保護をそれより重視しなければならない。当面、国の資金がはなはだ足りないことは世界遺産の保護作業に非常に大きな困難をもたらしている。ここに列挙するいくつかの数字は一部の問題を説明することができる。韓国は毎年風景名勝区に人民幣6億元に相当する資金を支出しているが、アメリカのこの金額は43億ドルにも達している。しかし、中国が毎年119カ所の風景名勝区に支出している資金は1000万元で、平均に分けると、大多数の風景区では従業員の賃金さえ支払うことができない。そのため、多くのところでは「風景に頼ってやっていく」ことしかできないのである。

開発は発展のため

大足石刻文物保護専門家黎方銀氏世界文化遺産は保護と開発の間に矛盾があるのは確かだ。文物について言えば、保護と応急修理が第一位である。保護は資金が必要であるため、それには適度の開発、合理的利用の問題がある。

大足石刻は中国西部にある直轄市重慶の唯一の世界遺産である。大足県は「石刻の里」とたたえられ、その管轄する32の郷鎮のうち、石刻像があるものが28あり、県内に彫像が5万余体あり、たいていは800ないし1400年前の作品で、中国の晩期石窟芸術の代表作であり、3年前に世界遺産に指定された。

大足石刻が世界遺産に指定されてから3年このかた、文物の修理と保護のために1000万元以上の資金を支出したが、そのうち国の支出した部分は300余万元で、残りは博物館が自ら調達したものである。

観光収入の増加は、一方では県財政のさし迫った必要を満たすことができ、他方では修理と保護費用をまかなうこともできる。推算によると、大足石刻を毎日訪れる参観者の人数は5000人になって基本的に飽和するが、昨年大足石刻を訪れた内外観光客はわずか40万人であり、石刻に損害をもたらす臨界点に達していなかった。われわれはずっと保護と開発の間の平行点を探すことに努めている。

世界遺産保護の専門の法律を制定すべきである

建設部風景名勝専門家顧問林源祥教授いかにして世界遺産を持続的、効果的に保護するか。最も重要であり、また最も根本的でもあるのは、世界遺産保護を制度化の軌道にのせることである。まず外国の関係規定と条例の精華を吸収し、中国の状況に合わせて国情になかった「世界遺産保護管理条例」を制定し、法によって世界遺産を保護しなければならない。

このほか、中国文化遺産と風景名勝区はそれぞれ国家文物局、建設部が管理している。そのため、管理体制を整備し、統一的な世界遺産管理委員会を設立することが当面の急務となっている。このほか、遺産地定期査察、世界遺産基金設立、世界遺産専門人材養成なども、ただちに日程にのせるべきである。

全国政治協商会議委員・中華全国弁護士協会主席高宗沢氏中国の世界遺産保護面の立法は資源開発よりはるかに遅れており、多くの地方は開発区政策で遺産地開発を行っているが、これでは目的からはずれた破壊的開発になるのは避けがたくなる。世界遺産保護の当面の急務は外国の経験を汲み取り、中国の状況に合わせて国情にかなった遺産保護法を制定し、世界遺産保護を法制化の軌道にのせることである。