調整に直面する通貨政策

黄 真

現在、中国の通貨当局は通貨供給量(マネーサプライ)が大幅に増えているという事態に直面している。貸出規模の異常な拡大と外国為替勘定の激増といった潜在的なインフレリスクによって、中央銀行による通貨政策の調整を求める声はますます差し迫ったものとなっており、すでにいくつかの措置も打ち出されている。観測筋の見方では、経済がまだデフレから完全には抜け切っていないため、当面の通貨政策の調節とコントロールは総量のみに限られるということはありえず、貸出構造の調整は必ず重点となるに違いない。したがって、一部の過熱業種が資金引き締めに直面するのに対し、広範な中小企業はより多くの融資サポートを得ることになる。

今年上半期の金融統計によると、新規貸出、外国為替勘定及び通貨供給量などの主なデータにはいずれも異常な伸びが見られた。昨年8月以来、金融機関の貸出は上昇加速の趨勢を呈している。今年6月末現在、全国金融機関の各種貸出残高は昨年同期比22.9%増の15兆9000億元に達し、年初より4.5パーセントも高いものとなり、1997年以来の最高の月となった。上半期の新規貸出残高は累計1兆8000億元で、昨年の通年の貸出総量に相当するものであった。このような伸び幅と伸び率は近年稀に見るものである。

それと同時に、上半期の国際収支は経常収支と資本収支が引き続き黒字で、外貨準備高も大幅に増えているため、外国為替勘定はなかなか減らなかった。今年上半期の外貨準備高は601億ドル増え、昨年同期比295億ドルの増加となっている。6月末現在、中国の外貨準備高は昨年同期比42.7%増の3465億ドルに達し、伸び率は8.5ポイント高くなった。外貨準備高は金融資産の一つとして、その増加はマネタリーベースの増加と同じである。今年上半期における半分以上の人民元の貸出は外貨準備高に集中されたものと見られている。外国為替勘定は累計2兆6914億元にのぼっている。

そのほか、住民の貯蓄預金残高と諸部門の定期預金残高の伸びも速くなった。6月末時点の外資系も含む全金融機関の人民元と外貨の貯蓄預金残高は前年同期比21.9%増の20兆7000億元となり、5月に20兆元の大台を突破した後も上昇の勢いを続けている。

これらの要素により、現段階の通貨供給量は1998年以来の最高水準にある。6月末の広義の貨幣(M2)は前年同期比20.8%増の20兆5000億元、狭義の貨幣(M1)は前年同期比20.2%増の7兆6000億元、現金残高(M0)は前年同期比12.3%増の1兆7000億元となっている。M2とM1の伸び率は昨年同期よりそれぞれ6.1ポイント、7.4ポイントも高くなり、8.2%というGDPの伸び率と0.6%という消費者物価指数(CPI)の上げ幅の和の差は12ポイントとなった。

通貨供給量の増大は国民経済の急速な成長をサポートするうえで役に立つとはいえ、物価指数の再上昇に伴い、マイルドなインフレのプレッシャーも絶えず大きくなっている。そのため、マネーサプライのコントロールとインフレの抑制は中央銀行が直面している際立った問題となっている。特に、現在の通貨供給量の拡大にはいくつかのマイナス要素が存在している。例えば、1997年以来、固定資産投資の資金の出所の中で、銀行の貸付のウェイトが絶えず大きくなっているが、他のルートの資金のウェイトはいずれも下がる一方である。資金の投下方向から見れば、不動産市場の60%以上の資金は貸付資金からのものであり、商業銀行の貸出残高に占める不動産貸出残高のウェイトは17.8%にも達し、不動産業の貸付リスクがふくれあがりつつあるようである。

外貨準備高の面では、601億ドルという外貨準備高の激増は対外貿易と外国直接投資の急速な伸びによるものであったが、45億ドルの貿易黒字と303億ドル近くの外資実質使用額を差し引いたとしても、出所の定がではない外貨の額は250億ドルを超えている。アナリストの分析では、これは国外へ流出した資金の逆流、あるいは外国投資家が人民元の切り上げを予想して中国に持ち込んだものであり、こうした資金は投機的性格が高い一面もあるため、きわめて大きな潜在的なリスクが存在すると言えよう。

一般的に言えば、マネーサプライの伸び率は、同期のGDPの伸び幅とCPIの増加の和に等しいか、あるいはやや上回るものである。しかし、今年上半期の広義の貨幣(M2)と狭義の貨幣(M1)の伸び率はすでにこのデータをはるかに上回るものとなっている。M2とGDPの比から見れば、今年は2.0に達すると見られている。これは経済の貨幣化がわりに高いレベルにあることを示すものである。

今年上半期の貸出の異常な増大に直面している中央銀行は最近何回も、金融引き締めのシグナルを出している。

まず、商業銀行の貸出能力をコントロールするため、中央銀行はオペの手法で商業銀行の流動性を回収している。4月22日から、中央銀行は現先取引に代わって短期手形の発行を始め、6月末現在の発行量は17回で1950億元に達した。8月初めの第28回までの短期手形発行総額は3350億元に達している。満期になるか、まもなく満期になる部分を差し引くと、手形発行で回収した資金総額は3000億元になる。今年上半期の満期にならない部分を加えるならば、現在の中央銀行の回収した資金残高は4000億元以上となり、昨年下半期の中央銀行の資金回収の度合いを大いに上回っている。中央銀行のオペの影響を受けて、上半期の金融機関の準備金率は平均して3.88%となり、昨年末より2.59パーセント下がった。6月末現在の金融機関の超過準備率は5年来の最低水準にまで下がっている。

次に、中央銀行は6月に窓口指導というやり方で、「不動産貸付業務の管理強化に関する通達」を出し、業種の規範化を出発点として、土地備蓄貸付、個人向け住宅ローン、不動産開発貸付、建築企業運営資金貸付に対するコントロールを行っている。過熱業種である自動車業種も管理強化の対象に指定された。

そのほか、中央銀行から分離したばかりの中国銀行業監督管理委員会もいくつかの措置を打ち出した。例えば、年内に不良貸出率を、それまでの毎年1-2ポイントの低下を3-4ポイント昇にもっていくことや、商業銀行が貸出の5級分類ルールを全面的に実施し、貸付回収率を厳格にコントロールすることなどがそれである。最近、国家審計署が銀行業界に対し監査を行った結果、一部の銀行の不良債権が確認された。中央銀行のトップは何回も、当面の貸出の異常な拡大に懸念を表明すると同時に、潜在的な金融リスクについても注意を促した。

アナリストの分析では、当面の中国の通貨政策調整の重点は貸出総量というより、むしろ貸出の構造的微調整といった方がよい。通貨政策はマクロコントロールの手段として、経済成長と物価安定の確保を最終目標とするものである。金融リスクという現実が存在しているとはいえ、銀行機構は絶対に独りよがりになってはならないのである。中央銀行が急いで貸出を引き締めて経済成長の勢いを抑制するならば、企業が資金難に陥ることになり、かえって銀行貸出の回収にとってよくない。

それに長期的に見れば、中国の経済は依然としてデフレの影から抜け出しにくい傾向にある。中国のデフレは簡単な貨幣現象ではなく、より深い次元での制度改革や経済構造の調整によって引き起こされたものであり、構造的生産過剰と消費不振との間の対立は短期間には解決する方法はない。そのため、デフレが終息せず、国内における有効需要の不足が依然として存在しており、新型肺炎(SARS)の流行による経済成長と雇用へのマイナス影響がまだ完全には払拭されていない状況の下では、貸出総量の減少が速すぎると、経済の安定した成長をサポートすることにも、緩やかな資金環境の創出のために過度の物価下落を緩和することにも役立たない。

短期的に見れば、一部の過熱業種あるいは地域に対しての貸付の構造的微調整は避けられないものとなる。中央銀行の「窓口指導」は不動産業から開発区やハイテクパーク、電子・通信、自動車などの過熱業種と地域へ拡大する可能性があるが、商業銀行のこれらの業種と地域に対する貸出はいくらか減少することになる。

その他の分析では、手形貸出という弾力的なルートが切り開かれたため、中小企業はある度合いにおいて以前の銀行からの貸しぶりのプレッシャーを緩和することになった。しかし、手形貸出の増加で中小企業の資金難を根本から解決することは困難であるから、貸出政策の調整は中小企業の発展のためになる実質的内容が追加されるものと判断することができる。中国においては、中小企業は雇用の機会を創出する重要なルートでもあれば、経済の中の非常に活発なエレメントでもある。