人民元レートの基本的安定は、中国と世界の利益に合致

温家宝国務院総理は8月5日、アメリカのシティーグループのルービン会長ら一行と会見した際、人民元レートの安定維持は、中国だけでなく、周辺の国々と地域の経済と金融の安定的発展にとってプラスとなり、根本から言うと、世界の経済と金融の安定的発展にとってもプラスとなる、と世界に向けて厳かに約束した。

現行の為替レート制度は中国の国情に合致

中国は1994年に人民元レートの市場化改革の道に踏み込み、市場の需給に基づいて、単一の、管理のある連動為替レート制度を実行し始めた。市場化は現行の人民元レート制度の本質的な特徴である。

人民元レートの安定維持は、人民元レートを定着させて変えないわけではない。人民元の二重レートが一本化されてからの10年間に、対外的に為替レートの上がり下がりはあったが、これは人民元レートを形成する市場化という特徴を十分に具現したものである。全般的に見て、人民元レート対主要貿易相手国通貨の平均為替レートは安定を保ちながらやや上がることもあった。人民元レートの一本化実施の時と比べ、昨年末の人民元の対米ドル、ユーロ(またはドイツマルク)、円の実質切り上げ幅はそれぞれ18.5%、39.4%、4%、62.9%であった。国際通貨基金(IMF)のデータによると、1994年初頭から2002年末までに、人民元の実効レートは20.5%上昇した。

人民元の対米ドル為替レートの変動幅が狭いことは事実であるが、それには特別な歴史的原因がある。1997年のアジア金融危機の発生によって、いくつかの国と地域の通貨は米ドルに対し一割から数倍まで切り下げられ、人民元の切り下げも起こるだろうという推測する人も多かった。そうした厳しい情勢のもとで、中国政府は利害得失を勘案したうえで、人民元は切り下げないと公約するとともに、為替レートの変動管理・規制を強化し、対米ドルのレート変動を小幅に維持することにした。中国政府のやり方は中国の経済と金融の安定を促し、アジア諸国と地域の通貨の切り下げを回避し、金融危機の拡大を防ぎ止め、アジアひいては世界の経済と金融の安定に重要な貢献をし、国際社会から高く評価された。

前事を忘れざるは後事の師なり。為替レートの一本化を実行してからの10年間近くの実践は、現行の人民元レート制度が中国の経済の発展段階、金融管理のレベル、企業の受容能力に適合したものであり、中国の国情に合ったものであるとを物語っている。

経済の高度成長は主として内需に依存 

「中国は人民元の過小評価で輸出を刺激し、経済成長を促している」というのが、人民元の切り上げを求める主な理由である。

理論的に見て、為替レートの切り下げまたは本位貨幣の過小評価は輸出を刺激し、輸入を抑えることにつながる。しかし、現実には、輸出入に影響を及ぼす要素は為替レートのみに限らず、多くの要素がともに作用した結果であり、往々にして為替レート理論のみによる判断と大きな差がある。

例えば、1994年に入ってから、人民元の対主要貿易相手国通貨の平均為替レートは大きく上昇してきているが、同じ時期における中国の輸出は急速な伸びを保っている。2000年には、中国の輸出は28%も伸びたものの、その時の人民元の実効為替レートは米ドル・ペッグ制の採用で最も堅調なものとなった。昨年以来、人民元は米ドルについで下落し、他の通貨に対する平均為替レートも下がっているが、中国の輸入は急速に増えており、今年上半期の輸入増は輸出増より10.5%も上回るものとなった。これは、現段階において中国の輸出に影響を及ぼすのは国内外の需要とWTO加盟などの要因であり、為替レートではないことを十分に物語っている。

昨年、中国の対米貿易黒字は427億ドルにも達したが、これは生産の国際化が重要な原因であった。中国経済は国際分業に積極的に参与すると同時に、ますます多くの多国籍企業が中国内陸部を基地として国際市場を絶えず開拓している。こうして生産の国際化によって形成された対米貿易黒字が大きければ大きいほど、対日本や韓国、台湾、ASEANの輸入黒字も大きくなる。中国の対米貿易黒字は、韓国や日本などの国と香港、台湾などの地域の対米貿易黒字の置換にほかならなかった。これはアメリカ商務省の統計データによって十分に立証されている――1992年から2002年までのアメリカの対中貿易赤字は年平均18.8%増えたが、同じ期間における対日、対台湾の貿易赤字はそれぞれ3.5%と3.9%増えただけであり、対香港は7億2000万ドルの赤字から32億7000万ドルの黒字に変わった。

この数年の中国経済の高度成長は主に内需という原動力に頼ったものである。第9次5カ年計画期に、輸出と貿易黒字は大きく変動したが、中国経済は依然として急成長をとげた。今年上半期において、中国の貿易黒字は昨年同期比66.5%下がったが、経済成長率は8.2%に上昇した。中国は世界で人口の最も多い国であり、国内市場が大きく、大多数の製品にとっては国内市場があれば発展をとげることができる。中国経済の高度成長で、中国はその他の国と地域の重要な輸出市場となっている。昨年の中国の貿易額は世界の貿易額の5%のみを占めるものであったが、世界の輸入増に対する寄与度は17%にも達した。

実のところ、中国の貿易黒字は1997年から下降の傾向にある。今年上半期に、貿易黒字はわずか45億ドルであった。中国はアメリカなどの国と地域に対し依然として一定の規模の黒字を保ってはいるが、その他の国と地域に対する赤字は著しく増えている。今年上半期に、中国の対日本やASEANと韓国の貿易赤字はそれぞれ67億ドル、67億ドル、101億ドルとなり、昨年上半期と比べてそれぞれ34.1%、144%、87%増えた。

為替レートの市場化の度合いを次第に拡大 

すべての国とすべての時期に常に適合する為替レートは存在しない。あらゆる国は自国の経済発展のレベル、国内経済の運営状況、国際収支の状況にもとづいて為替レートを選ぶことである。

中国経済の市場化の改革という目標は人民元レート制度改革の歴史的方向を決定づけることになった。中国は1994年から人民元レートの市場化メカニズムを模索している。しかし、アジア金融危機が発生した後、中国のWTO加盟、世界経済の衰退、アメリカの「9.11」テロ事件など一連の重要な出来事の発生によって、国内外における経済発展の不確実性が増し、それにともなって、人民元レートメカニズム改革の環境の不確実性も増している。

業界内の専門家は、人民元レートメカニズムの改革は、中国の実情から出発し、中国の経済発展と改革・開放の客観的必要に基づいて進めるべきであり、1つか、またはいくつかの国のプレッシャーに迫まられて進めるべきではない、としている。為替レートは経済の重要な変数であるが、その果たす役割過度に誇張し、ひいてはそれを理由もなく信じるべきではない。なお、為替レートの問題を感情化、政治化したり、ひいては外交上のかけひきの手段として、保護貿易主義の口実にしてもならない。

関係筋によると、中国は引き続き改革・開放の布石にもとづき、国情から出発して、外国為替市場の育成に努め、人民元の自由交換可能のプロセスを着実に推し進め、需給関係をさらに整理して、為替レートを形成する市場化の度合いを絶えず高めることになろう。長期的に見て、人民元レートの弾力性は絶えず向上することになる。注意しなければならないのは、今後、人民元レートの変動幅が拡大された後には、為替レートの変動は双方向のものとなり、一方的なものとなる可能性はない、ということである。