中国人の月面着陸の夢

現代国際関係研究所所長   陸忠偉

月面着陸はかつてから中国人の願いであった。50年来、中国人はアメリカ、旧ソ連が月面着陸に成功し、人類歴史における大きなステップを踏み出したことを、なんらなすすべもなく見ていたとともに、自らが夢を実現できないことを嘆き、月面に着陸した夢を見るしかなかった。

1990年以来、中国は宇宙飛行の面ですばらしい成果をあげ、月面着陸を実現することにも努めてきた。「中国宇宙飛行第十次五カ年計画発展要綱」では、月面探測を主とする宇宙空間の事前研究をくりひろげ、2010年に有人月面着陸を実現し、宇宙ステーションをつくるという雄大な構想をかかげている。中国の月面着陸の目的は何かという質問も出されている。国威誇示型なのか。まずまずの生活レベル型なのか。中国の国力は月面に着陸して「それを利用する」レベルに達しているのか。筆者はこれらの問題について、総合国力の視点から、中国の月面着陸計画の科学技術力と物質的基礎の面から、月面着陸が世界と中国に与える影響について分析を試みることにする。

ある意味から言えば、人類の月面着陸計画はスポーツにおけるオリンピック、科学技術分野のノーベル賞と同じように、宇宙飛行分野における競争に対する金メダルと見なされている。有人宇宙飛行はぼう大なシステム・アンジニアリングであり、主権国の総合国力を示すものでもあるからである。中国現代国際関係研究所の専門家たちが下した定義によると、総合国力は一定の時点における主権国の経済、軍事、科学技術、教育、資源など諸分野の現実的力と潜在的力の総計であり、国の盛衰、強弱を表す戦略的指標でもある。本研究所の専門家たちの統計データによると、1998年に世界の七カ国(アメリカ、日本、フランス、イギリス、ドイツ、ロシア、中国)の総合国力を評価した結果、アメリカはトップで、中国の総合国力はアメリカの四分の一で、七番目となっている。システム動力学の原理で1999〜2001年の総合国力発展趨勢を分析した結果、今後の長期間において中米両国の総合国力が速やかに増大することになる。

周知のように、1999年から、中国の宇宙飛行船「神舟」号は3回も連続して無人宇宙飛行を行い、回収に成功した。中国の宇宙飛行成果は総合国力の発展にともなって収められたものであるのは言わずもがなことである。中国の2010年の月面着陸計画は今後の総合国力のかなりに速い増大の勢いと一致を保っている。言い換えれば、中国の月面着陸には、資金と物資の保障があり、それは中国の科学技術の発展が半世紀のうちに西側諸国が数百年を費やした科学技術発展の歴史を達成することを立証し、月面着陸の成功は中国の総合国力の向上を示すものである。他方、現段階の総合国力がアメリカ、日本、フランス、イギリス、ドイツなどの国とはかなり大きな格差があることも考慮に入れ、中国の月面着陸計画はだんだんと推し進め、費用を節約するとともに、月面の開発利用にも意を配る以外にない。「有人宇宙飛行」の実施は、中国の社会、経済、科学技術の発展と緊密なかかわりがあり、同時に、国際関係の枠組み、経済発展の競争、科学技術協力にも影響を及ぼすことになる。

(一) 宇宙資源を開発し、宇宙産業をパックアップし、それを新しい成長ポイントにして、経済の発展を促すことになる。人類が月面に着陸する目的は二つある、一は、月面をさらに研究すること、二は、月面の資源と環境を利用して、地球では作る条件のない必需品をつくり、資源を獲得することにある。宇宙産業は「ライジング・サン・インダストリー」ともいわれているが、2000年におけるロシアの宇宙製品の売上は10〜20億ドルとなり、宇宙飛行技術の発展はコンピューター、エレクトロニクス技術、原料、機械製造など数多くの関連産業の発展に大きな役割を果たすことになり、そのほか、衛星リモートセンシング、誘導、宇宙での作物の育種、製薬などの宇宙飛行と関連のある新産業の発展を促す。

(二) 科学技術のトータルな発展を推し進める。月面着陸は科学技術の発展に頼り、科学技術は月面着陸に頼って強化される。オリンピックの開催によって、スタジアムや公共施設の建設を促すように、有人宇宙飛行プロジェクトというハイテク各分野をリードする事業を通じて、数千ものの科学技術研究、応用部門の研究開発と協業能力を大きく高めることになる。月面着陸は科学技術の基盤施設の大掛かりな整備と完備を促すことになる。そのほか、宇宙飛行知識の普及によって、青少年が科学を学び、科学を愛する活動の展開を促し、宇宙飛行がホットで、重点的な学科となり、数多くの科学技術研究開発と管理の人材陣が現れることになる。この大きなシステムの科学技術研究への資金投入を通じて、国民総生産の割合に占める中国の科学技術研究と開発費の比率を高め、中国が名実相伴う「科学技術の強国」になるようにする。

(三) 「月面着陸計画」は中国が五輪招致に継いで、民族の凝集力を増強する社会的収益の大きなプロジェクトとなる。アメリカ、ロシアなどの国の有人宇宙飛行史から見れば、プロジェクトの進展が順調に行われるかどうかは政府と民間に注目されるものとなる。中国の月面着陸プロジェクトが計画通りにすすめられることになれば、2008年のオリンピック大会、2009年の建国60周年、2010年の上海世界博覧会の社会的効果との相乗作用で、中華民族復興の強い原動力となり、社会の安定、民族の団結を促し、科学技術による国の振興が実現されることになる。

(四) 中国は重要な政治的影響力のある大国となり、「宇宙飛行の発達した国」になってこそはじめて、「外層空間非武器化」、外層空間における軍備競争を防ぎ、外層空間分野の国の安全保護などの面で、より大きな役割を果たすことになる。そのほか、1990年代以来、中国は相次いで、多くの発展途上国のために衛星を打ち上げた。ピンポン外交、文化外交と同じように、中国の外交において、宇宙協力の「スペース」がますます広がっている。

(五) 月には資源やエネルギーが豊かに存在し、科学技術と開発問題はアメリカ、ロシア、日本およびヨーロッパ諸国の注目する戦略的焦点となっており、それによって、国家間の競争、協力、秩序の問題が生じ、つまり、月の資源の主権をめぐっての争奪、領域の画定、利益の分かち合いなどがそれである。そのため、「外層空間問題」は「地球に住む人」の国際問題となり、国際関係の重要な分野となっている。

(六) 各国が新しいラウンドの宇宙飛行競争と協力の展開を促すことになる。月面探測は1976年以後約18年一時ストップした。1994年にアメリカが月面探査機を打ち上げ、月面探測の面で重大な突破をおこない、月面探測の高まりを再び盛り上げた。中国はアメリカ、ロシアに次いで、世界で三番目の有人宇宙飛行を行う国となる。中国国家宇宙飛行局は国際協力と効率を絶えず高めた「アジア・太平洋宇宙多国間協力事務局」を設置した。

(七) 外層空間の戦略的価値および国家安全の重要性への認識を深め、外層空間の安全は戦略家、政策決定者の国家安全の注目を引き起こすことになろう。一般的に言えば、陸地所有権、海域所有権、領空所有権の重要性と比べ、外層空間に対する認識は徐々に深まっている。アメリカ、ロシアなどの宇宙飛行大国の軍事安全戦略の一部の重要な内容は、宇宙飛行戦略と外層空間制御権と結びついている。わが国は従来から、外層空間武器化に反対してきた。有人宇宙飛行計画の実施は、国民が新しい時期における国家安全への重視をさらに深め、外層空間からの不安定要素に警戒心を持つようにすることになろう。