ソニーのソベイ買収、議論紛々

譚 青

ソニー(中国)有限公司は2003年6月中旬、放送テレビ設備・システムメーカーである成都索貝数字科学技術股?有限公司(索貝)の67%の株式を1800万ドルで取得し、筆頭株主となった。8月1日、「新索貝」の設立式典が四川省の成都で行われ、外資による国内初の民間企業の買収案件は決着した。

だが、交渉が最終段階を迎えたころ、中科大洋科学技術発展股?有限公司(大洋)が2社を公開で厳しく非難したため、業界に一大波乱が巻き起こった。

買収案件の背景

大洋は索貝と同様、放送・テレビ設備とシステムの構築で大手のメーカーだ。

索貝は非線形編集、字幕スーパー機などで国内最大のテレビ・マルチメディアメーカーで、放送・テレビの分野で最も優れたソフトを開発し、システム構築メーカーでもある。

大洋もこの分野ではひけをとらない。同社が開発した非線形編集ネットワークシステムは国内のほとんどのテレビ局が採用し、2002年に「国家科学技術進歩最優秀賞」に輝いた。

索貝と大洋は2社で国内市場の80%のシェアを占め、ソニーと天下を三分するなど、将来に期待が寄せられていた。

だが、これほど高いシェを握りながら、それに見合うだけの高い利益はもたらされなかった。2002年までの2社の年間売上高は、索貝が1億9000万元、大洋は1億4000万元、一方、ソニーの去年の収入は全ての非線形メーカーの総収入を上回る。

索貝の姚平CEO(最高経営責任者)は「この業界は発展に向けて先天的な欠陥がある。立ち上がりが遅かったため、現在に至っても国内企業はまだハードウエアの生産や核心となる技術を掌握しておらず、開発したソフトウエアは多くがハードを基礎に応用開発したものに過ぎない。業界の絶対多数の核心技術は輸入したものだ。MPEGは国際圧縮連盟のものであり、MXFはソニーのものであるため、技術を使用するには使用料を支払わなければならない」と指摘する。

大洋の姚威総裁は「我々が直面するのは過度な市場競争だ。市場では大小にかかわらず企業はいずれも高度な競争にさらされており、各社は国外のハードを基礎にソフト開発して売り出そうと考えている」と強調する。

特に2000年以降、テレビ局の統廃合で一時的に需要が落ち込んだことで、一部の設備を巡り悪性の競争が引き起こされて市場は急激に悪化、放送・テレビ関連業界は“氷河期”を迎えた。

まだ氷河期を抜け出せないでいる中、索貝がソニーに依存したのは、双方の利益を確保するための買収案件だったと言える。

索貝はソニーの力を借りて氷河期から脱出し、国際市場に参入することができる。姚平CEOは「新索貝はソニーの先進的ハード技術や全世界に網羅された販売網、優秀なソフト開発やシステム構築の能力を十分に活用して、放送・テレビ、専門システムの構築、通信ネットなどが融合された分野で、内外の先進ソフトとハード技術を集約した先進システムを構築するとともに、顧客にブロードバンド・ネットシステムのサポートを提供していく」と話している。

ソニーも索貝の買収で、中国の放送・テレビ市場でシェア拡大を目指すと同時に、企業の現地化プロセスを加速していく方針だ。ソニー(中国)有限公司放送・テレビ業務の沢択準氏は「索貝との協力で、中国の顧客に対するシステムサポート能力が高まるだろう。当社は一貫して現地の人材の潜在力を重視してきたが、今回の合弁を通じて、優秀な人材をソニーの全製品の設計で重要な役割を担わせたいと考えている」と強調する。

だが大洋の公開非難に、合併を喜ぶソニーと索貝は戸惑いを感じ、本来は無難に決着するはずだった買収案件は新たな議論の焦点となった。

過去、大洋は索貝と買収合意書に調印

大洋の姚威総裁は2003年7月23日に記者会見し、「ライバルであるソニーの“普通ではない”やり方に、当社は驚きと憤りを感じた。必要であれば、公開で非難することもある。索貝との買収案件に関する交渉は当社に優先権があったが、ソニーの強力な介入によって、達成できなかった」と指摘した。

放送・テレビ関連業界が低迷した2002年、大洋は情勢を分析した後、索貝を買収し、業務を再編成して資源を統合すると共に、国内テレビ局の編集設備やシステム構築の分野で協力すれば、外国メーカーに対抗し、国際市場に参入する能力を高められると考えた。

姚威総裁によると、大洋は2002年3月に索貝に買収の意向を伝え、索貝も強い関心を示した。そして8月末、株主の中国新紀元有限公司に委託して索貝と株式購入の合意書に調印し、策貝は75.56%の株式を譲渡することに同意。その後、大洋は手付金として4000万元を索貝に支払った。

だが、ソニーが1800万ドルで突然介入して情勢は一転。「合意書」は紙くず同然となり、これを機に大洋と索貝は仲間割れしてしまう。

姚威総裁によると、2002年10月1日前後、大洋と索貝が株式譲渡協定書に調印して1カ月後、索貝は突然、株式が抵当に取られたため合意を履行できないと大洋に申し入れた。大洋は法的責任を追究せず、索貝の抵当の真相を知らずに合意を解約する文書に署名し、索貝は4000万元の手付金を返還。2002年12月、ソニーが1800万ドルで索貝の67%の株式を購入する情報が伝わり、大洋による買収案件は幕を閉じた。

姚威総裁はまた、2002年にソニーから買収の話があったが、拒絶したことを明らかにしている。

過去、国内の字幕スーパー機の95%以上はソニー製で、1台14、5万元もするがコストは2万元前後。だが、国内ユーザーに別の選択はなかった。大洋が字幕スーパー機を開発して市場に参入すると、ソニーの50%以下の価格でしかもより多くの機能を備えている点が市場で高く評価された。短期間に国内市場で50%を超えるシェアを獲得すると共に、国内の字幕スーパー機産業を一段と推進させた。姚威総裁は「非線形編集システムでは、大洋と索貝が1元稼げば、ソニーの利益は中国で5元減少する。非線形総合番組制作ネットワーク・システムによってビデオカメラの需要が大幅に落ち込んだため、ソニーは敏感になり、当社や索貝に近づかざるを得なかった」と指摘する。

ソニー、非正常手段で人材引き抜き?

大洋に公開非難の決定を促したのは、索貝が“寝返った”ことに対応するためではなく、ソニーの傘下になった索貝が違法な手段で大洋の職員や高級管理者を引き抜いたからだ。なかでも理事と副社長を務める陳晋蘇氏の索貝への鞍替えで、索貝と大洋の間の摩擦はかなり激化した。

大洋が提供した資料によると、2001年以前、大洋を離れて業界内外の企業に転出した社員は十数名。だがソニーが索貝を買収して以降、これらのほとんどが突然、2002年末までにソニー傘下の索貝に移った。彼らは大洋を辞める際、同社と期限2年の秘密保持協定書に署名しており、索貝への転職は期限内のことで契約違反となる。また、大洋事業部の昌東マネージャーは今年3月、同社に退職届を提出し、その2カ月後に索貝に入社したとの情報が伝えられた。在職中の理事、副社長である陳氏による索貝への転出に、大洋はより不可解さを感じた。

姚威総裁は「陳氏はまだ当社の理事、株主の1人であり、我々の経営・開発を非常に理解しており、正式な離職手続きは取っていない」と語る。だが7月7日、索貝の姚平CEOは記者に、陳氏は既に索貝でソニーや索貝のシステム構築設備や製品、海外市場開拓の市場・販売担当副総裁に2003年6月前後に就任したことを明らかにしている。

一方、陳氏は「既に大洋を離れ、株式も抵当譲渡の形で大洋の姚威総裁に譲った。索貝とはまだ正式に労務契約を交わしておらず、索貝の仕事に協力しているだけに過ぎない」と話すが、大洋は、陳氏はまだ大洋を辞めておらず、社に戻って離職手続きを行うべきだとの考えだ。姚威総裁は「ソニーによる索貝の買収は法的に見て、何も妥当性に欠けるものはないが、ソニーが買収した索貝が大洋との秘密保持協定が解かれていない社員を大量に雇用し、ひいては在職中の高級管理者を雇用する、この2点は違法だ。我々は提訴する準備を進めており、ソニーと索貝に直ちに不当な手段による競争を停止するよう求める」との姿勢を強調した。

大洋の強い非難に対し、索貝の姚平CEOは「当社が発展するには大量の人材が必要であり、人材の招聘は企業にとって正常なことだ。当社には確かに以前、大洋で働いていた社員が数人いるが、彼らは辞職後に当社に来たもので、人材引き抜きと言えない」と反論する。

索貝のソニー買収案件がこれほどまでに尾を引いているのは何故か。姚平CEOは「全ては大洋が後方で画策したものだ。大洋が勝手に事実を捻じ曲げるなら、我々も法律に訴えることを考える」と話している。

ソニーの索貝買収は長年にわたる3社鼎立の状況を深刻な対立へと変えてしまった。ソニー・索貝と大洋がしのぎを削る背景にあるのは、国内放送・テレビ関連業界を発展させるという難題だ。