党内民主の強化:反腐敗の戦略的選択

―――新政権は制度面から「腐敗を断固反対し防止する」

馮建華

政権を執って54年の中国共産党は今、党内幹部によう腐敗の深刻化という厳しい挑戦にさらされている。腐敗防止は社会に日増しに強まる叫び、新政権が直面する「重大な政治任務」でもある。

中国共産党の最高監察機関である中央紀律検査委員会は8月初め、河北省人民代表大会常務委員会の程維高・元主任(それ以前は省委員会書記)の党籍を剥奪した。摘発された省委員会書記としては、1949年の新中国建国以来3人目だ。昨年11月の第16回党大会以降、僅か10ヶ月の間にメディアを通じて公開された、腐敗問題で判決を受け或いは党紀処分を受けた省クラスの幹部は少なくとも8人に上った。

腐敗は巨大な経済的損失をもたらしている。清華大学中国国情研究センターの研究報告によると、90年代後半以降、経済的損失と福祉受益者の損失は年平均9875億−1兆2570億元と、GDP(国内総生産)の13−17を占めた。

中国共産党中央党校(党幹部養成の最高学府)党建設研究部の王長江教授は同誌に対し、「現況から見て、腐敗の勢いは抜本的に食い止められてはおらず、党の威信に一定の負の影響をもたらしている。従って、腐敗防止の力を強める必要がある」と強調した。

腐敗の変遷

1949年の新中国建国以来、中国共産党は一貫して腐敗闘争を展開してきた。腐敗は社会問題となり、1978年の改革開放以後、特に90年代に入って、腐敗の重大性、普遍性は一段と深刻化し、社会の不満もこれに伴い増幅されていった。

先ず、金額が増大したことだ。改革開放以降に公布された66件の省クラス幹部による腐敗事件を国情研究センターが分析したところ、1992年以前は金額が10万件を超える事件は1件もなかったが、その後は10万元を超えた事件は27件、うち100万元超が12件、1000万元超が4件である。

手段もより隠微、狡猾になってきたのが特徴だ。自分の子女或いは部下が利益を得るのを黙認し、自らは直接関与しない、というのが比較的典型的だった。80年代以降、政府は「権力を傘に着た経済」を防止するため幹部の子女、特に高級幹部の子女がビジネスに係わることを禁ずる通達を何度も出してきた。だが、現実的には公開或いは裏でビジネスを行う子女は少なくなかった。

また発覚を防ぐため権力をいわゆる“期限化”、すぐには利益には手を出さず、数年後、或いは退職した後に元利ともども懐に入れる、というケースが増えてきた。手段が益々隠微で狡猾になっているため、発覚されるまでの時間が長くなっている。

国情研究センターはメディアが公開した事件について、発覚までの時間を算定した。1980年代から1992年までを見ると、平均して1.4年前後、1993年から1997年は更に延びて3.3年、1998年から2002年は平均6.3年に達した。

しかも腐敗幹部の多くは直接摘発されたのではなく、連座的に見つかっている。甚だしいケースは、腐敗を行いながら昇進した者もいたことだ。同センターの統計によると、36件の幹部腐敗事件のうち、29件が連座によるもので、率は80.6%に上る。

党と行政が一体となった「共謀」による集団腐敗も増加している。この3、4年来、南方のある経済の発達した都市の検察機関が立件した集団腐敗事件は219件に達し、この期間の総立件々数の71を占めた。うちトップが関与した件数は60%。

“トップ体制”による罪科

中国政府は一貫して腐敗取り締まりの手を緩めておらず、様々な措置を講じてきた。だが、腐敗が急速に蔓延したのは何故か。中国共産党中央政治局常務委員で、中央紀律委員会の呉官正書記は「摘発した事件から、一部の高級幹部の腐敗・堕落は、自身の思想的緩みや変質以外に、有効に監督されていないという問題が明らかになった。監督の強化、特に省クラスの幹部に対する監督は、我々が解決せねばならない重大な課題だ」と指摘する。

王長江教授もまた「現在の権力管理体制が相応の作用を発揮するのは難しい。多くのトップが制限を受けずに権力を乱用しており、これが腐敗を急速に蔓延させている根本的原因だ」と協調。

トップはその政治を司る地区或いは分野で最高の地位にあり、それに対する権力の乱用が“温床”となっている。中国共産党規約は、党委員会が重大な政策決定を行う場合は民主集中制の手順を踏まなければならない、と規定しており、党委員会のメンバーが投票で採決する際は、“トップ”である党委員会書記でも、自身が投じた1票は普通の1票に過ぎない。だが、個人的目的を達成するため、“トップ”は常に手中にある“権威”を利用して会議に表決させないようにするとか、強行採決を行おうとする。

ある地方では、“トップ”の権威は公務員の昇級や降格、任免を随意に決定するところにも現れており、地方の権力監督機関である検察院や紀律委員会もトップの“指導”の下にあるため、“監督”の役割を発揮するのは難しい。自身を検挙或いは反対した者に対して、トップは安易に報復(軽いケースは降格や免職、重いケースは刑事罰)措置に講ずることが多い。こうした状況下では、“トップ”が腐敗を行っても、紀律委員会や司法機関は敢えて手を出そうとはせず、一般庶民も不満はあっても口にできない。

王長江教授は「腐敗の増加傾向を有効に食い止めるには、従来のような個人に対する事後追及型の手段を講じるだけではだめであり、制度面から原因を模索し、対症療法をしていくことが肝要だ。こうすれば根本的に治療することができる。権力が偏り過ぎた“トップ体制”を改め、権力の分散や有効的でバランスの取れた権力体制メカニズムを通じて、“トップ”が任意な行動を取れなくすれば、腐敗の機会は減少する」と指摘している。

鍵は党内民主の強化

第16回党大会を前に、中央政府は「腐敗に反対する」との姿勢を強調していたが、大会報告では、「腐敗に反対し防止する」ことが提起された。中国紀律検査委員会の李永忠腐敗反対専門家は、「反対」に「防止」の文言が加えられたことは、重大な戦略的変化である。腐敗反対の重点が「取り締まり」と「防止」の2点に移り、制度面から腐敗を根治することになった」と評価する。

新政権発足後、模索的ながら監督制限制度が徐々に確立されつつある。中央政府は先ごろ、省クラスの幹部を地方に派遣して党や行政の主要幹部を対象に巡視を行う巡視員制度を制定した。全国人民代表大会は今年、特殊な専門職常務委員会を新設すると共に、権限を付与することで、閉会期間中でも代表大会が政府を監督する役割を発揮できるようにした。

党の紀律検査委員会は党内の権力を分散するために設置したもので、党内の監察機関として、党員幹部の違法行為に対する調査と処分に責任を担う。1979年以前の紀律委員会は同クラスの党委員会の下に位置していたため、党委員会の幹部、特に同委員会の“トップ”については監督することができず、甚だしきは、トップが紀律委員会を政治闘争の“武器”にしていた地方もあったほどだ。

中国共産党中央は1980年、各クラスの紀律委員会は同クラスの党委員会と上級の紀律委員会から2重の指導を受け、同クラスの党委員会の指導を主体とする、との明確な規定を設けた。中央は1983年、各クラスの紀律委員会の書記は同クラスの党委員会の常務委員でなければならず、同時に段階的に同クラスの党委員会の副書記から担任していく、と再度規定した。そして最後に、中央は一部の党・行政機関と重点国有企業に直接、規律検査要員を派遣して常駐させ、非派遣者が中央の紀律委員会に直接責任を負い、党委員会の指導は受けないとした。

王長江教授は「紀律委員会が仕事で発揮する実行性は更なる向上が待たれるが、紀律委員会の隷属関係の変化とクラス別地位の向上は、紀律委員会が党内を監督する職権を行使する重要性を中国共産党が益々認識すると共に、紀律委員会が行う仕事の独立性を制度面から絶えず向上させようとしていることを物語るものだ」と説明する。

中国共産党は党内の民主を強化するため、「票決制」の改革を実施した。その目的は、地方の党委員会常務委員会の一部の政策決定権を全体委員会に分けることで、党員全体の利益を代表する全体委員会を名実共に党内の権力機関にすることである。過去、地区・県の党・行政指導グループの人選は上級の党委員会常務委員を経れば任命できたが、新たな「票決制」では、上級の「党委員会常務委員会の候補」によるだけではなく、更に「党の委員会の全体会議で審議し、無記名投票で表決する」ことになった。

李永忠専門家は「表決制の実施で、党委員会書記がトップとして出現する独断的な権限は阻止された」と評価する。

更に李専門家は「表決制が安定的に推し進められていけば、党内の重要問題は全体委員会で票決されるだろう。全体委員会が党内の政策決定期間となり、少数者、特にトップが把握する常務委員会が今後は党内の執行機関となっていくだろう」と話している。