略奪された文物は買い戻すべきか

10月26日に貞観国際オークション香港有限公司が香港で開く予定をしているオークションは人びとの大きな関心を引いている。140年前に英仏連合軍が北京・円明園の西洋楼噴水池前から略奪した銅製の犬頭像(首から上の彫像)がオークションにかけられるからだ。これは、略奪された中国の文物が香港で2000年に競売されたのに次ぐ2回目のオークションである。

2000年4月30日、5月2日、蘇富比オークション公司と佳士得オークション公司は中国政府の反対を無視して、円明園の噴水池前の12の獣頭像のうちの虎、牛、猿の頭像を競売に出した。当時、中国の保利グループが3000万香港ドルも出して、この3点を買い入れ、これに中国の多くの人びとが歓呼し、喜びを示した。

だが、今回のオークションの開催予告が発表されると、各方面から大きな議論を呼び、香港のオークション公司は余儀なく9月17日、今回のオークションを一時延期すると発表した。

中国文物学会の統計によると、中国から持ち去られた文物は百万点、精品だけでも数十万にのぼり、少なくても47カ国に分布しているという。中国の文物を所蔵している比較的大きな博物館は、イギリスの大英博物館、アメリカのメトロポリタン美術館、フランスのギメー博物館、スウェーデンのストックホルムの極東古物博物館、アメリカのハーバード大学博物館、ロシアのペテルブルグ博物館、東京国立博物館などである。

一般的にいわれる流失文物とは1840年のアヘン戦争以来、当時の世界の列強が戦争の手段によって中国から略奪したか、または不法に買い取った貴重な文物を指す。

1996年、中国政府は「国際統一司法協会の文物返還に関する条約」に加入し、かつ、中国は歴史上略奪された文物を取り戻す権利を保留すると声明した。

専門家の紹介によると、文物を取り戻すには主に3ルートあり、買戻し、贈与、国際司法ルートによる返還で、うち買戻しが主である。

近年、持ち去られた文物を何回か香港のオークションで中国の大手公司が買い取ったが、これに疑問をなげかける人も出てきている。失われた文物を全部買い取るだけの金がわれわれにあるだろうか、あったとしても、このような方式をとるべきか、どのようにして取り戻せばよいのか、取り戻す必要があるのかどうか、などと。

オークションを通じて買い戻すべきではない

(「信息時報」・林海縦談)略奪された文物が競売にかけられるのは心の痛むことであり、憤りさえ覚える。盗み取られた中国の文物を世界の各国のオークション会社が次々と香港に持ってきて売り出し、それを国内の公司が当然のように買っているが、この問題は考えないわけにはいかない。

文物の国外への流失には民間行為と戦争による略奪の2つの状況がある。民間行為はさて置き、戦争略奪による流出については、政府が相応の原則を設け、絶対に競売側と取引をすべきではない。文物保護の角度からみると、取引がはじまると、その危害は計り知れない。

ハイジャックした者と交渉するとき、決してテロリストと取引をしてはならないという原則がある。各国の政府は、テロリストがつねに新しい要求を出し、このような取引が一旦はじまると、永遠に終わりがないことをよく知っている。

中国の文物がどれだけ海外に流失しているかは恐らく誰も正確な数字をあげることができない。フランスのフォンテナブル宮の中国館が所蔵しているのは全部1860年に英仏連合軍が円明園から略奪した文物であり、どれも値段のつけられないほどの価値のある文物であり、パリのギメー博物館の所蔵品のなかの中国の文物は3万点にものぼっている。このような現状を前にして、略奪された文物を全部買い戻すだけの資金を国と民間が有しているだろうか。

2000年に蘇富比オークション公司と佳士得オークション公司が行ったオークションは悪い先例を開き、多くの略奪文物の所有者――強盗と盗人の後裔――がこれで大儲けができることを知った。このような先例ができたことから、ますます多くの盗まれた文物が堂々とオークションにかけられることになる。可笑しなことに、当時国内の一部の人が競売に参加した理由がなんと略奪された文物を中国の国土で競売し、外国人が買うなら中国人の恥になるというものだったことである。たぶん同じような理由で、北京市文物公司もオークションで1900万香港ドルも出して円明園の略奪された六角瓶を買い取ったのであろう。

今回貞観国際オークション有限公司が犬の頭像のオークションを開くのは3年前の2回のオークションで甘い汁を吸ったからである。このオークションの背後でほくそ笑んでいる強盗と盗人の顔が見える。そしてまだ竜像があり、さらに豚像もあるので、どんどん買いにきなさいよ、と言っているかのようだ。過去、国が弱かったため、強盗に入られたが、国が強くなったこんにち、われわれの祖先の文化遺産でかれらが甘い汁を吸うのを許すことができようか。ユネスコが1995年にうち出した現代国際法の文物返還に関する原則は戦争が原因で略奪され、または失われた文物は返還しなければならないと規定している。この点から言って、中国には略奪されたか、または持ちさらわれたすべての文物の返還を要求する理由が十分にあり、政府は外交、法律のルートを十分に生かすべきである。文物オークションに参加する公司に対しても、政府は有効な規定を設けるべきだある。よくない公司には中国の市場を開放すべきではない。

オークションでこうした中国の文物を買うのは、強盗と盗人にとっての金儲けの機会となることを忘れてはならない。買わないのは一種の態度を示すことになる。

 「国宝」は必ずしも国に取り戻す必要がない

(「信息時報」・練洪洋談)円明園の犬頭像が10月36日に香港で競売にかけられるとのことだが、2000年に香港のオークションで大金をはたいて円明園の牛、虎、猿の頭像を買い戻した保利芸術博物館は、今回の犬の頭像は前回買い戻した干支(えと)の系列とは同じでないので、いまのところ買うことを考えていないと言ったいる。

では、問いたい。系列が同じなら、保利は買うというのだろうか。

少し前にも、故宮博物館が数千万元も出して香港のオークションで一点の書作品を買い取ったではないか。だからと言って、関係部門がまた大金を使って、買い戻す必要があるのだろうか。まず、国には、海外に流失している文物をことごとく買い戻すだけの資金がない。数千年の文明の歴史を有する中国、無数の戦火の洗礼を受けたことのある中国から言って、国外に流出している文物はどれだけあるだろうか。恐らくこれに答えることができる人はいない。中国の関係部門のおおまかな統計によると、世界の47カ国の200余りの博物館に蔵されている中国の文物は百万点を下らないという。前回、牛、虎、猿の頭像だけでも国は3000万元香港ドルも使った。もしこの百万点もの文物を買い戻すなら、いったいどれだけの金がいるのか。想像するだけでも気が遠くなる。

文物は国宝級が多く、外交ルートで取り戻せないのなら,買ってもいいのではないかという人がいるが、問題は中国は数億の農民の衣食の問題をどうにか解決したばかりで、まだ貧困人口が数千万人もいるというのに、国民が節約してためた金を武力で文物を略奪した強盗にやすやす渡してもいいのだろうか。このような商業行為は、一方では客観的にかつての外国人の略奪行為を合法化することになり、他方ではかれらが売値を引き上げることになるだけである。そのようなことを許すことができるだろうか。

また、買い戻したからと言って、どうなのか。貴重な文物は国宝のようなものであり、より高い視点から見ると、人類の共同の文明財産である。それらを大切にし、保護してくれるところに置いておくのも文物そのものにとってよいことではないだろうか。ある報道によると、中国のある県の文物倉庫に数トンの古銭が蔵されているが、それを整理するだけの資金がないため、錆がひどくなっていると言うことだ。

国にとって金を使いたいところは沢山あり、関係部門は国の身にもなって考え、あまり気前よくなりすぎないようにすべきである。

国宝は海外に流失させておくべきではない

(中貿聖佳オークション公司社長呉昊談)中国では、民間収蔵家の群体(集団)が形成されつつあり、しかもそのニーズが増大してきており、これは良い現象であり、経済の実力が強くなれば、海外の文物が戻ってくるものである。これは中国の経済が発展し、文明の程度が高くなった結果にほかならない。収蔵家群体のなかには実力のある企業家もいれば、サラリーマンもいる。経済の発展によって、より多くの人が収蔵に興味をもち、多くの文物がいくらか裕福なった家庭に入ってきている。収蔵家群体の拡大によって、海外に流失している多くの文物が中国に戻ってきている。

われわれはその能力があれば、最も価値のある文物を買い戻し、国外に流失させておくべきではない。

(北京市民・胡有強談)そうした文物を買い戻すのは当然のことである。文物が祖国の懐に戻って来るのを心から嬉しく思う。それは長年行方がわからない子供のようなものであり、当時は貧しくて、探すことができなかったが、いまでは暮らしがよくなったので、なんとかして自分の家に帰ってこさせるべきである。

(社会学者・李大惟談)文物の多くは流失の過程で、行方が何度も変わり、その出所がはっきりしなくなっており、もし能力があれば、失われた文物を買い戻すのもよい方法だと言える。