争議を引き起こした中国経済

――中国経済に三度目の加熱状態が現れたかどうかが当面経済学界が論争する焦点となっている

蘭辛珍

「中国経済が過熱しているかどうか」の話題は、ここ数カ月来ずっと経済学界で論争されている。

今年上半期の中国のGDPの急速増加、投資増加、融資の十分な提供、不動産の値上げ、輸出の快速増加などが人々の予想を超えたため、一部の経済学者は「中国の経済発展が過熱している」という見方を提出した。しかし、いま中国経済は過熱しておらず、依然として冷間運営されていると見る専門家もいる。

中国が市場経済体制を実行して以来、経済過熱現象がすでに2回も現れた。1回目は1988年に現れ、2回目は1992年に現れたが、この2回の経済過熱は程度こそ違うが、ともに国民経済にショックを与えた。

中国経済は過熱しているかどうか

中国国民経済研究所所長の樊綱氏は、中国経済が過熱していると提出した最初の経済学者で、氏はさる7月に前後2回も公の場で次のように指摘した。「いま中国経済に過熱の兆しが現れている」。中国が直面している経済過熱は主として投資と輸出過熱の形で現れている。中国経済の高い成長率は主として投資と輸出によってもたらされたもので、投資は一方では外国投資の結果であり、他方では商工企業界が市場の成長に非常に大きな期待をかけていた。彼らは市場での価格が上がると見て、より多くの投資を追加し、投資ピークの出現を速めた。

統計データから見ると、いまは確かに中国に2度目の経済過熱が現れてから投資が最も早く増加した時期であり、2003年1月から7月までの中国の社会固定資産投資は1兆8753億3300万元で、前年同期より32%増え、伸び幅は前年同期より9.6ポイント上昇した。基本建設、更新・改造、不動産投資はそれぞれ30.1%、40.1%、34.1%増えた。

今年はSARSの影響を受けたとはいえ、中国の輸出と外資利用は依然として増加の勢いを見せている。上半期の輸出は1903億ドルで34%増え、伸び率は前年同期より19.9%上昇した。1〜7月の外資利用は1067億5300万元で、前年同期より37.6%増えた。そのうち、外国直接投資は770億4000万元で、前年同期より39.7%増えた。同時に、2003年の銀行融資は軒並みに増加し、上半期の全国の人民元融資は1兆7810億元増えて、昨年の年間総額に近づいており、今年の融資年間新規増加額は年初に確定した1兆8000億元という抑制目標を大幅に上回るものと見られる。「このような増加速度は非常にアブノーマルなものである」と樊綱氏は語る。

樊綱氏と同じ見方をもつ北京大学中国経済研究センターのポストドクトレート研究員趙暁氏はこう見る。経済過熱の兆しは貨幣増加と融資増加がわりに速いことに体現されているほか、物価上昇にも体現されており、2003年上半期の原材料、燃料、動力の買い入れ価格は4.7%上がり、消費者価格指数は0.6%上昇した。ちなみに2002年同期のそれは0.8%低下した。「これらのデータは経済に過熱の兆しが現れ始めたことを物語っている。」

しかし、中央党学校研究室教授の周天勇氏は異なる見方を提出した。氏は「中国経済は過熱しておらず、依然として冷間運営されている。GDPの急速増加、投資増加、融資の十分な提供、不動産の値上げ、輸出の快速増加などの状況に基づいて、中国経済が過熱し始めたと見るなら、このような見方は片寄っている」と語った。

周天勇氏によれば、マクロ経済情勢が過熱しているかどうかを判断する時、主に物価水準に上昇の圧力があるかどうかを見る。当面と今後一時期に、経済過熱をもたらし、物価を上昇させる圧力が存在していない。住民消費物価水準から見ると、7月の全国住民消費価格総水準は昨年同月と比べて0.5%上昇したが、先月と比べて0.5%低下している。1〜7月の全国住民消費価格総水準は前年同期より0.6%上昇したが、その中で上がったのはサービス価格で、生活手段の価格はずっと下がる状態にある。

次に、一国が貨幣の平価を切り下げれば、インフレを招く、つまり経済過熱をもたらすが、切り上げれば経済は引き締めの圧力に直面し、経済が冷却化する圧力がある。これはマクロ経済学の常識である。人民元の価値から見ると、切り下げの趨勢ではなく、客観的には確かに切り上げの圧力が存在している。そのため、中国の人民元が切り上げの圧力に直面している状況の下で、中国経済が過熱していると言うのは、経済学の道理から言っても、誤った見方である。しかも外貨準備から見ると、2003年6月末には3464億7600万ドルに達し、国際収支の経常項目と資本項目はともに黒字で、これも人民元の切り下げと経済過熱の圧力が存在しない。輸出入から見ると、税関の初歩的統計では、2003年1〜7の全国の輸出は2284億1000万ドル、輸入は2223億3000万ドル、貿易黒字は60億8000万ドルであり、それには輸入が輸出より多いために形成される経済過熱とインフレの圧力ではなくて、人民元切り上げと経済引き締めの圧力が存在しているのである。

国家発展改革委員会投資研究所所長の張漢亜氏もこう見る。いま投資分野ではまだ過熱現象が見られない。経済が過熱しているかどうかを判断するには、固定資産投資の増加が資金と物資の供給緊張をもたらしたかどうか、物価が快速に上昇し、しかも悪性膨張の趨勢を見せているかどうかを見なければならない。いまの様子を見ると、経済成長は速いとは言えず、物資と資金も緊張していない。資金から見ると、6月末現在、中国の金融系統の預金は融資よりも4兆5000余億元多く、準備金、国債、その他の科目の占用している資金約2兆元を差し引いても、依然として約2兆元が遊んでおり、それに金融機関の1兆元以上の資本金を加えると、遊休資金は約3兆元に達する。これらの遊んでいる貯蓄資金は投資を拡大する空間である。物資から見ると、建設に使う鋼材、セメント、機械・設備などは、ここ数年ずっとフル操業しておらず、昨年と今年に若干の品種が品不足気味になり始めたとはいえ、まだまだ需要に追いつかない状態ではない。ここ半年以来鋼材の価格がかなり大幅に上がったが、値上がりしたのは主に機械をつくるのに使う鋼材と特殊鋼であって、建築用の一般鋼材の値上がりは限られたものであり、セメントの価格も明らかな増加を見せていない。機械・設備なども国内では品不足や大幅な値上げなどの現象が現れていない。そのため、資金と物資需給から見ると、たとえ投資総量の増幅がもう少し大きくても、緊張をもたらすようなことがない。物価水準から見ると、1〜8月の住居消費価格指数は0.6%上昇しただけで、生産財価格指数は6.5%上昇したとはいえ、6月に入ってから低下の趨勢が現れ、先月より0.1%下がった。以前の数年間の生産財価格指数が下がりっぱなしであったことを考慮すると、いまのは回復的上昇としか言えない。「この角度から言うと、経済はまだ過熱とは言えない。」

国務院発展研究センター・マクロ部研究員の魏加寧氏は、中国経済の当面の主な問題は構造問題であって、成長速度の問題ではない。「たとえ一部の地区、一部の業種に過熱現象が現れたとしても、バブルと過熱を区別し、リスクと過熱を区別しなければならない」ととくに強調した。

インフレかそれともデフレか

中国経済が過熱しているかどうかについての論争の焦点を中国ではインフレの圧力が大きいのか、それともデフレの圧力が大きいのかに帰納することができる。

インフレの観点をもつ学者は主に中国人民銀行行長周小川、樊綱、中国科学院国情研究室主任胡鞍鋼の諸氏である。

周小川氏は、中国は当面インフレを適時に予防し、効果的に解決すべきである、「経済が表明しているように、貨幣供給量の過度の増加からインフレが現れるまで、少なくとも半年はかかる。インフレの圧力が不動産、株式、その他の投資価格などの資産に移って、資産『バブル』を形成するまでの期間はおそらくもっと長く、危害ももっと大きいだろう」と見ている。

周小川氏のこの判断の根拠には、上半期の貨幣供給量と信用貸しの増加がわりに速かったことである。6月末現在、広義貨幣M2の残高は20兆5000億元で、前年同期より20.8%増加し、明らかにやや高いレベルにあり、貨幣供給の増加がわりに速いことを顕示している。今年のM2の増加率はGDPとCPIの増加幅の和より12%も高いものであり、これはここ5年来の最高レベルである。金融機関の融資残高は16兆元近くで、前年同期より約23%増えた。そのため、信用貸しの増加が速すぎると、資産価格バブルが現れる可能性がある。

樊綱氏は、中国経済の成長が8%より低いと、デフレが現れるが、9%より高くなるとインフレが現れ、10%を超えると、ますます大きなインフレ圧力が出現すると見る。

しかし、中国経済の今年第1・四半期のGDPは9.9%成長した。SARS の影響で、2003年の中国経済の成長速度は1%スローダウンする。SARSが発生しなかったなら、今年の経済成長率は10%を突破するだろう。

いま、中国では鋼材、セメント、石炭、化学工業製品の価格が上がり始め、一部の地区では電力供給不足が現れている。投資増加の局面が続いていくなら、問題はいちだんと悪化し、生産財の持続的値上げをもたらし、最終的には消費財の価格に体現して、インフレをもたらす。

胡鞍鋼氏によれば、当面国際市場に「人民元切り上げ」への期待が存在し、中国に流入する外貨が増えており、その金額はおよそ200〜300億ドルに達する。これは基礎貨幣の供給を増加させる。「このような時、投資が持続的に大幅に増加し、貨幣流通を加速すると、インフレをいっそう引き起こしやすくなる」。

今年初め、高盛公司はその公布したあるレポートの中で、2003年中国に0.5%前後の軽いインフレが現れると予測している。

他方、北京大学教授宋国青氏、国務院発展研究センター金融研究所所長夏斌氏、国家情報センター発展研究部責任者徐宏源氏らの経済学者は、中国がインフレになるとは見ていない。

宋国青氏は「当面、中国はインフレが発生するかどうかの問題ではなくて、依然としてデフレ問題である」と語り、いま中央銀行が各種の措置を講じて信用貸しを減らすとともに、為替レートを引き上げ、輸出を減らし、外国の投資に与える優遇を増やし、財政赤字を減らせば、中国にインフレではなくデフレが発生するだけであると見ている。

国務院発展研究センター金融研究所所長の夏斌氏はこう見る。中国経済の対外依存度は50%にも達し、国際市場の価格の制約を受け、世界的なデフレという大きな背景の下では、たとえ信用貸しが増えても、歴史上のようなひどいインフレが発生しない。一般に言って、中国の物価指数は3%以内なら正常であるが、いまの物価指数は0.3%しかない。中国の需給関係はほぼバランスが保たれている。中国商業連合会、中華全国商業情報センターが下半期の600種商品の市場需給状況に対し行った調査は、2003年下半期の供給過剰商品が471種で、78.5%を占め、供給不足の商品がないことを示している。いわんや、中国がいま直面しているのは、投資が持続的に増加しているとはいえ、消費の増加が非常に限られている状態である。「物価の全般的趨勢について言えば、まだデフレの陰影から抜け出ていない。」

復旦大学管理学院教授の謝百三氏の見方は夏斌氏のとほぼ同じで、「いまの中国経済の主要な矛盾はやはり反デフレである。」

同氏はこう見る。1998年から中国は5年連続してデフレの状態にあった。国家統計局の月間データによると、住民消費価格総指数は今年3月にピークに達したあと、下がり始めた。中国の国情から見れば、今後のかなり長い期間に、多種の要素が中国経済を制約してひどいインフレが現れるだろう。例えば、近年農民の収入増が遅く、約2億人の農村労働力が潜在的失業の状態にあり、都市部には3000万人の従業員がリストラされ、その上教育、衛生などの改革で費用がかさんだため、住民は消費をはばかっている。そのため、かなり長い期間内に、内需不足および就業の圧力が大きいことは中国経済の発展を制約する大きな問題となるだろう。消費増加制約と対応するのは中国経済の非常に旺盛な供給能力である。この状況の下で、中国に近いうち重大なインフレが発生するのはほとんど不可能である。

「インフレを心配するあまり緊急措置をとってインフレを予防し、貨幣供給を減らすなら、経済を長期にわたってデフレというに泥沼に陥らせる可能性が大いにある」と謝百三氏は語った。