政府高官に対する監督は上役だけのことではない

「政府高官を監督するための立脚点は、公衆の側に置くべきであり、党内では、広範な共産党員を指し、すべて上役の監督に依ってはならない。なぜかというと、上役は腐敗した人たちにあざむかれやすいだけでなく、別の権力の腐敗をもたらすことになりかねないからである。」

    ――北京大学政治発展・政府管理研究所研究員楊鳳春氏にインタビュー

            本誌記者   馮建華

記者 新しい世代の中国政府が直面している腐敗取締りの状況お話し願いたい。中央政府はそれに対して十分な認識をもっているかどうかについてお話し願いたい。

 政府高官の腐敗は長年来の問題であり、それだけでなく、腐敗を取り締まれば取り締まるほど、腐敗の案件は増え、深刻化するというおかしな現象が現れており、社会ないし政権の安定に大きな影響を及ぼしている。

中央政府はこれに対してはっきりした認識を持っている。それはここ2年間に、中央が続きざまに省クラスの人たちの腐敗案件を処理したことによって立証されている。

しかし、強調したいのは、告発された政府高官は実際は高官の総数の極少ない部分を占めるに過ぎないということである。中国は腐敗取締りの面で基本的にこれまでの措置を引き継いでおり、制度的欠陥による腐敗の取り締まりの面では実質的な突破を見せていない。また、政府高官は地方の最高の権力を握るため、よりいっそう隠蔽した腐敗手段をとりやすいので、短期間に腐敗を取り締まることは難しい。それだけに、中央政府は政府要員の腐敗の現状に対してより全面的かつ十分な分析をおこなうべきである。

記者 ここ2、3年来、省クラス要員の腐敗案件が多くなったのはなぜか。政府高官の腐敗は社会の転型期における必然的な産物であると見る人もいるが、どうお考えか。

 まず政府高官の腐敗を社会の転型期における必然的な産物とすることは歴史観に欠ける見方であると考えている。世界各国は異なる発展の段階において例外なく社会の転型期に直面してきたが、すべての国で深刻な腐敗問題が起こったわけではない。そういう言い方をする人が政府高官であれば、自分のことを弁解するか、または腐敗の口実になりかねない。

ここ2、3年来、「知らず知らず」のうちにこれほど多くの政府高官が告発された主な原因としては次の二つのことが挙げられる。一、中央政府の世代交替の前後において、地方の政府高官にも大幅な調整があったことである。ここ2、3年はこのような時期である。しかし、今回、地方政府高官に対する調整は、政治面から考察するだけでなく、より多くのは経済、規律、廉潔政治の面から行われたものである。腐敗問題を切り口として道をきりひらくことで、人心を得ることができるし、抵抗も最も小さい。

二、腐敗現象の発生にも段階性がある。1980年代において、中国の腐敗問題は政府部門の低いクラスの責任者に現れることが多かった。つまり、腐敗分子は実権を握っている政府高官ではなく、その下級部門の一般幹部であった。しかし、腐敗の傾向が適時に食い止められなければ、疫病のように広がることになる。そして、地方の政府高官の権限の拡大につれて、腐敗もすみやかに省クラスへと蔓延したのである。これを見てもわかるように、政府高官の腐敗案件はここ2、3年間に急増したのは偶然ではなく、避けられない問題となっている。

記者 すでに取り締まられた案件から見れば、政府高官の腐敗問題はその他の案件の取締りによっていもづる式に発覚したものが多かった。しかし、腐敗しているのに、なんと抜擢された人もいることは何を物語っているのか。任

 現在、中国では各クラスの責任者に対する任免はその上役によって決められており、それに対する考察、監督も上役によって行われている。このような高度集権化の結果により、地方の最高責任者の腐敗は上役をごまかすことができさえすれば、同じクラスの規律検査部門はそれに対しどうしようもないのである。ましてこのような上役の監督の本質は権力による監督でもあり、同じように腐敗する可能性もある。絶対的な権力は必ず絶対的な腐敗をもたらすことになるからである。

そのため、この監督体制のもとで、腐敗問題を抱える一部の地方の政府高官は上役の前に真相をひた隠し、極力「廉潔政治」のイメージを見せ、その信頼を騙し取っている。一部の政府高官が腐敗していながら昇進できる訳はそこにある。

記者 どうすれば省党委員会書記を含む政府高官の腐敗の傾向を効果的に抑止することができるか、そのカギとなる措置は何かをお話し願いたい。

 ポイントは根本から腐敗を取り締まる制度を整備することである。

一方では、権力を分散し、異なる権力者が互いに制約しあうようにすることが必要である。省クラスから言えば、なんでも省党委員会書記の言うとおりということになってはならないのであり、少なくともそれに対する監督、制約を実行する1人(または1つの機構)を設けるべきである。中国共産党規約には、中央政治局は中央委員会に対し責任を負い、地方党委員会は党の代表会議に責任を負うと規定されているが、実際には、省党委員会は省党委員会書記に対し効果的な監督を実行することは難しいのである。

そのため、政府高官の腐敗を抑止するには、先ず現在の体制の下で、党内の民主を拡大し、党委員会の地位を高めなければならない。省党委員会が省党委員会書記などの権力者に対し真正面から、おおっぴらに、効果的な監督を行えるようにし、現在のように党の規律検査委員会のみによって、陰で事後の調査を行うといった監督を実行することであってはならない。この面での転換への望みは、党の16期3中総に託されている。

腐敗取締りの立脚点は公衆に置き、すべて上役に望みを託してはならない。腐敗取締りの機構を多層的に設けることは、余剰人員を出すことになるばかりでなく、腐敗取締りのコストを増大させることになる。公衆の目を誤魔化すことはできず、公衆の監督にはコストの懸念もない。したがって、より多くの公衆を腐敗取締りに引き付けるためには、できるだけ速く告発者を保護し、報復事件の発生を防止できる制度をつくらなければならない。

記者 権力の乱用に対する監督・制約は腐敗防止にとってきわめて重要であるが、中国の現行の権力監督体制をどう評価するか。

 現在、中国の権力監督体制は理論と制度の枠組みのうえでは存在しているが、現実においてはしかるべき役割を果たすことは難しい。さらには、低いクラスの責任者に対してはその役割を果たすことができるが、省クラス責任者に対しては、ある地方では往々にして「聞こえの良い空談義」に終わっていることがある。

記者 制度的な腐敗取締りの究極の目標は何か。

 究極の目標は、最大限に、政府高官が腐敗に走る度胸がなくなり、腐敗に走れきないようにすることであろう。これは腐敗によるコストを高めることを通じて実現できる。例えば、ある国のように退職年金とリンクさせたりすることがそれである。最も重要なのは、腐敗を生み出す温床を根こそぎにすること、つまり、現存する「絶対的な権力」の「すき間」を埋め、それによって腐敗のチャンスを減らすことである。