生産型林業から生態型林業へ

森林生態系整備を主とする林業の持続可能な発展の道、森林植生を主体とする国土生態安全システムを確定することは、中国の林業発展のトータルな戦略思想である。

蘭辛珍

9月27日に北京で開かれた全国林業工作会議では、中国の林業発展についての三段階の戦略目標が確定された。つまり、森林カバー率は第一段階の2010年までに19%以上、第二段階の2020年までに23%以上、第三段階の2050年までに26%以上に達するようにし、森林生態系の良性循環を基本的に形成し、林産物の不足を緩和し、かなり整った森林生態系とかなり発達した林業システムを作り上げることがそれである。

この目標を達成するため、中国は今後の7年間に8000億元以上の資金を投入することにしている。

中国国家林業局の王志宝局長は、「当面、中国の林業にとって最も重要なことは生態環境の改善である」と述べている。

生態系の改善を目標として林業を発展させる計画は中国政府が初めて正式に打ち出したものである。これ以前の中国の林業はずっと伐採――栽培――伐採という好ましからぬ循環の中にあった。

中国の林業発展の過程

新華通信社は9月10日中央の授権を受けて、「中国共産党中央委員会、国務院の林業の発展加速に関する決定」を全文発表した。この決定では、中国の林業は生態系整備を主とし、持続可能な発展戦略を実施し、経済効果を目的とする無秩序な伐採を禁止する、と規定されている。この規定は全国林業工作会議でとくに強調された。これは中国の林業が生産型から生態型へと戦略的シフトを実行することを示している。

1950年代から80年代にかけての時期においては、中国の工業基盤はぜい弱で、建設規模が大きいものであった。そのため、鋼材、セメント、木材は国の建設に最も不可欠な三大原料と見なされていた。林業部門は長期にわたって「造林」と「伐採」を林業生産のすべてと見なし、人々も「林業生産とは木材を産出することである」と思い込んでいた。

それゆえ、林業部門は林業発展の速度と経済収益を盲目的に追求し、樹種の単一化という結果をもたらした。1970年代には、中国の南部ではスギ、北部ではカワヤナギ一色となり、1980年代には国外からマツを導入して栽培したが、1990年代の初めごろから、経済林がいちはやく経済収益をあげることができることを目にして、経済林ばっかり栽培するようになった。実際は、樹種の多様化を保ってことはじめて、森林生態系の安定性を保ち、より大きな収益をあげることができるのである。樹種の単一化は、森林生態系の退化を招き、森林資源の危機を引き起こすほかない。

長江流域を例に挙げると、1957年の森林カバー率は22%で、水土流失面積は流域総面積の20.2%の36.38万平方キロであったが、30年後には、森林カバー率は10%のみとなり、水土流失面積は倍増して73万4000平方キロに達し、流域総面積の41%を占めることになった。

森林の破壊によって、気候も悪化することになり、砂あらし、水害、干害も頻発している。これで政府と国民に森林の重要性を認識させることになった。

国務院は1981年2月に全国林業会議を開き、「森林保護と林業発展に関するいくつかの問題についての決定」を発表し、「林木を保護し、林業を発展させる」という戦略思想を明らかにした。これは中国が林業発展についての思考の変化である。この年から、天然林資源の保護、耕地を林地と草地に戻す作業、北京と天津に害が及ぶ砂あらしの発生地に対する整備、三北(東北、西北、華北)と長江中・下流など重点地域の防護林施業、野生動植物保護および天然保護区の建設、材木に成長する期間が短く、産出量が大きな樹林の重点基地建設という林業の六大重点プロジェクトが相次いで実施されることになった。この六大プロジェクトは全国の97%以上の県に及ぶものであり、計画造林面積は7333万ヘクタールを上回り、総投資額は7000余億元にも達している。

六大プロジェクトの実施で、森林カバー率は1949年の8.6%から16.55%に上がり、森林面積は1億5866万6000ヘクタールに達しており、人工林の保有面積は4666万7000ヘクタールとなって世界のトップになり、世界の人工林総面積の26%を占めるに至った。中国最大の砂漠であるタクラマカン砂漠でも300余ヘクタールの人工林が見られている。

しかし、森林カバー率は大幅に増えたが、森林の総量は少なく、品質も高くなく、収益も低く、樹種の構成が合理的でないなど際立った問題が存在している。現在、全国の林業用地は2億6300ヘクタールあるが、森林面積はわずか1億5900万ヘクタールで、利用率は60.37%にすぎない。木材の不足によって、毎年国外から板材、紙などを大量に輸入しなければならない。そのほか、東部沿海地域にある11の省・自治区・直轄市の森林カバー率は26.59%であるが、西部の11の省・自治区・直轄市のそれは9.06%であり、北西部の5省・自治区はわずか3.34%であるという深刻なアンバランスも問題視されている。「生産型林業」の状況はにはそれほど変化も見られず、造林は毎年行われているが、森林伐採がストップしたことはない。国家林業局のデータによると、これまでの50年間に産出した材木は50余億立方メートルに達しているのに、材木の消費は86億立方メートルにも達しており、これは全国の林木が根こそぎに伐採されたことに等しい。

「生態系整備を主とする発展戦略は、「生産型林業」というこれまでの方針に終止符を打つものである。国は森林伐採によって初期資本を蓄積するやり方を一変し、森林生態系の整備に巨額の資金を投入することにしている」と国家林業局植樹造林司の魏殿生司長は語った。

生態整備

中国の森林生態系整備は四つの地域で同時に進められるという。

@長江上流、黄河上・中流地域では、公益林づくりを主とし、天然林保護、造林に適した荒山と荒地の緑化、急な斜面にある耕地を林地か草地に戻すなどの生態系の整備を実施し、天然林の伐採を完全に停止させる。

A西北地区と華北地区の北部、東北地区の西部では、樹木や草を栽培し、風や砂塵を防ぎ、砂漠化の傾向を抑える。

B東北地区と内蒙古では、伐採を減らし、森林の保育、維持を推進する。

C生態的地位が重要なすべての地域では、公益林を造成し、降雨がたっぷりあり、積算温度が高く、樹木の生長に適した地域では経済林基地を造成する。

六大プロジェクトは林業整備の重点である。国が向こう7年間に森林生態系整備に投入する8000余億元の90%は六大プロジェクトに使われるということである。

資料

林業の六大プロジェクト

@ 天然林資源の保護――天然林の保育、維持、拡大などを推進するプロジェクト。これには、長江上流、黄河上・中流地域、東北地区、内蒙古など重点国有林業区の17省・自治区・直轄市の734県が含まれる。2000年から2010年までに次の三つの目標を実現する。一、現有の森林資源を確実に保護すること。二、森林資源の育成を加速すること。三、営林企業の余剰人員の再配置を適切に解決することである。

A 耕地を林地に戻す――きれいな山と河川を、という目標においてのカギとなるプロジェクト。重点地区の水土流失問題を解決する。これは中西部のすべての省・自治区を含むものである。2001年から2010までに、1467万4000ヘクタールの耕地を林地に戻し、植林に適した荒山と荒地に1734万2000ヘクタールの樹林をつくる。プロジェクトが完成したあかつきには、植生カバー率が5ポイント増え、水土流失面積が8671万ヘクタール減り、防風林面積は1億271万8000ヘクタール増える。

B 北京と天津の風や砂塵を防ぐこと――首都周辺地域の風や砂塵の害を解決するためのプロジェクト。北京と天津をはじめ、河北、山西、内蒙古の3省・自治区の総面積が4600万ヘクタールに達する75県を含む。

C 「三北(東北、西北、華北)」地区などの防護林の造成。――「三北」防護林造成プロジェクト第四期事業、長江および沿海地域と珠江の防護林造成プロジェクト第二期事業、太行山、平原地域の緑化プロジェクト第二期事業を含むプロジェクト。「三北」地域の砂漠化防止とその他の地域の生態系問題を解決することを目的とする。

D 野生動植物の保護と自然保護区の建設――生物種の保護、自然環境の保全、湿地の保護などを目的とするプロジェクト。代表的な自然生態システム、絶滅の恐れのある希少動植物の天然分布区、生態のぜい弱な地域、湿地などに対し保護措置をとる。2010年までに、全国に国家クラス保護区220カ所を含む天然保護区を1800カ所つくりあげ、国土面積に占める天然保護区の比率が16.14%に達するようにする。

E 材木に成長する期間が短く、産出量が大きな樹木の基地を造成する――木材の供給不足による森林に対する過度の伐採を解決するプロジェクト。大興安嶺、太行山、雲南・.貴州高原の18省・自治区の886県にそれぞれ森林基地をつくり、2001年から2015年までに、三期に分けて1334万ヘクタールの樹林を育成し、全国の木材需要量の40%をまかなう。