「中国の対EU政策文書」を解読

中国現代国際関係研究所欧州研究室主任  馮仲平博士

近年、中欧関係はずっと安定発展の良好な勢いを保っている。10月13日、中国政府は「中国の対EU政策文書」を発表した。同文書の発表は中国がEUを非常に重視していることを示しており、双方関係の深化発展に積極的な影響を与えるであろう。

「中国の対EU政策文書」は中国政府が初めて公開発表した対EU政策文書であるばかりでなく、中国が公開発表した最初の対外政策文書でもある。これが中国の対外関係に対し非常に重要な意義をもっているのは明らかである。

同文書は「積極的な参与」という新しい総体的外交思想の指導の下で作成されたものである。中国は国際舞台ではわりに低調で、「反応式」外交に慣れ、「主動的な出撃」があまりなかった。しかし、昨年に胡錦涛氏をはじめとする中国の新しい世代の指導者が登場してから、中国の外交に人々の注目を集める若干の変化が生じた。中国は地域とグローバルな問題に対し日ましに積極的な態度をとり、朝鮮の核危機問題の平和的解決、国際協力による国際テロリズム打撃、上海協力組織の建設およびASEANとの関係などの面で、中国はいずれも積極的な役割を果たした。「中国の対EU政策文書」の発表は同様に中国外交のこの主動性を表している。

「中国の対EU政策文書」の発表は、中国がEUをいっそう重視していることを表明している。これは同時にEUの対中国政策への中国の積極的な回答でもある。中国はずっと欧州の一体化建設を支持している。1975年、中国はEUの前身である欧州共同体と正式の外交関係を樹立した。その後、双方の関係は1989年に中国に「6.4」事件が発生した後、欧州共同体が中国を制裁すると発表したことやEUの一部諸国が台湾に兵器を売却したため、対中国関係に挫折を蒙らせたように、若干の挫折を蒙ったとはいえ、総体的に見て、中欧関係は総体的に安定して順調に発展している。双方の努力の下で、1990年代初期に中欧関係は基本的には「6.4」以前のレベルに回復した。

1995年以来、EUは中国をますます重視している。その年からEUは一連の対中国政策文書を採択した。そのうち、1995年に採択された「中欧関係の長期政策」と1998年に採択された「中国との全面的なパートナーシップの構築」という二つの文書はことさら重要である。この二つの文書はEUが対中国政策の基調を定めるものであるということができる。1995年12月、EU閣僚理事会は「中欧関係の長期政策」を討論したあとに発表した「審議結論」の中で、「いま中国で進んでいる未曾有の発展は、中国がまもなく政治、軍事、経済の面で世界強国になることを表明している。そのため、世界と地域に対する中国の現実的、潜在的な影響力にふさわしい関係を中国と樹立することは、欧州が優先的に考慮することである」と指摘した。2000年から、EU委員会は1、2年ごとに1998年政策文書の実施状況を評価し、同時に未来に対し新しい配置を行い、審査・認可を受けたため、評価の結果と新しい政策提案をEU閣僚理事会と欧州議会に提出した。これもこれほど多くのEUの対中国政策文書が見られる技術的な原因の一つである。

EUの中国重視の程度と比べて、中国の対EU関係の位置付けはさほど明確なものではない。EU全体とフランス、ドイツ、イギリスなどEUの加盟国を比べて、中国は後者との二国間関係をより重視強調している。「中国の対EU政策文書」の発展は、中国政府がEUに対する重視の程度を高めたことを表明している。中国がこの時を選んで対EU政策文書を発表したことは、10月30日北京で開かれる中欧サミット会議と関係がある。その時、EU議長国イタリアのベルルスコーニ首相とEU委員長のプローディ氏らが中国指導者との会議に出席する。

「中国の対EU政策文書」は中国外交部および他の関係政府部門と研究機構が協力して作成したものである。文書は中国の対EU政策の目標をはっきり述べ表し、中国の対EU政策は三大目標があると指摘している。この三大目標とはつまり政治面では「相互に尊重、信頼し、共通点を求めて相異点を残し、政治関係の健全で安定した発展を促進し、共同で世界の平和と安定を守る」ことである。経済分野では、「互恵互利を実行し、平等に協議し、経済貿易協力を深化させ、共同の発展を推進する」ことである。文化分野では、「互いに参考し、繁栄し、長所を取り入れて短所をカバーし、人文交流を拡大し、東西両方の文化の調和と進歩を促進する」ことである。

文書は中国がEUとの協力を希望する五つの分野を列挙している。五大分野の協力は文書の全内容の四分の三を占め、中国政府の対EU政策のこの上ない実務性を十分に表している。これは文書の際立った特徴の一つであり、具体的には次の五つの方面のことを含んでいる。政治分野ではハイレベルの往来と政治対話を強化し、一つの中国の原則を厳守し、香港、澳門とEUとの協力を奨励し、EUのチベット理解を推進し、人権対話を引き続き展開し、国際協力を強化し、中欧立法機構間の相互理解を深め、中欧政党の往来を増やす。経済分野では、中国はEUとの経済貿易協力、金融協力、農業協力、環境保全協力、情報技術協力、エネルギー協力、交通協力などの強化を望む。科学と教育などの面では、中国は中国と欧州が科学技術協力、文化交流、教育と医療衛生協力、報道交流、人的往来などの強化を望む。社会分野では、中国はEUと労働・社会保障協力、司法交流、警察協力、行政協力などの強化を望む。軍事面では、中国は中欧のハイレベル軍事往来を保ち、戦略安全協議メカニズムをちくじ整備し、発展させ、軍隊専業団体の交流を拡大し、将校養成訓練と防衛検討交流を増加することを望み、同時にEUが対中兵器売却禁止令を早期に解除して、中国と欧州の軍需産業と軍事技術協力拡大のために障害を一掃するよう要求する。

敏感な問題を回避しないことは文書のいま一つの重要な特徴である。台湾、チベットおよび人権問題については、文書は欧州側が終始台湾問題に対する中国側の重大な関心を尊重し、「二つの中国」、「一つの中国、一つの台湾」をつくり出そうとする台湾当局の陰謀に警戒心を保ち、台湾と関係ある問題を慎重に処理するよう望んでいる。例えば、台湾の政客や要人がいかなる口実で、EUとその加盟国へ行って活動するのを認めず、台湾当局といかなる官方の性格をおびる接触と往来を行わず、台湾が主権国だけが参加する国際組織に参加するのを支持せず、いかなる兵器および軍事目的への利用が可能な設備、物資、技術を売却しない。チベット問題については、中国は欧州各界人士のチベット訪問を奨励し、EUとその加盟国が中国の法律、法規を尊重する前提の下でチベットの経済、文化・教育、社会の発展を支持し、協力するのを歓迎し、欧州側がいわゆる「チベット亡命政府」と接触せず、ダライグループの分裂活動に便宜をはからないよう要求する。人権問題については、中国側は対話を堅持し、対抗しないというEUの立場を称賛し、平等と相互尊重を基礎としてEUと引き続き人権対話、交流、協力を展開し、情報を交換し、理解を増進し、経済、社会、文化の権利、弱みをもつ人々の権利の保障を含む協力を深化させることを望む。

国と国の関係はいずれも双方の共通の利益を基礎として樹立されるものであり、明確で実在する共通の利益による支えのないいかなる双務関係も堅固なものでなく、長続きしないものである。中欧関係もその例外ではない。中欧関係が安定発展の強い勢いを保っている最も重要な原因は、双方の間に根本的な利害衝突がなく、互いに脅威を構成しないことにある。中国の改革の日ましの深化およびEU一体化のたえまない発展により、中国とEUはともに重要な変革期にさしかかっている。これらの変革は中欧関係の全面的な深化発展に大きなチャンスをもたらしている。中国とEUはともにこの点を十分に認識している。EUの統計によると、2002年の中欧貿易額は1150億ユーロで、中国の改革・開放初期の40倍である。昨年、中国はすでに日本を追い越してEUの三番目の大貿易パートナーとなった。こうして、中国と欧州は互いに相手方の三番目の大貿易パートナーとなったのである。

世界新秩序問題をめぐっても、中国とEUは共通の言語がたくさんある。双方はともに国連を中心とする国際多角的組織と機構の国際実務処理における核心的地位を強化し、政治と外交の手段で国際紛争を解決すべきであると主張し、国際テロリズムに反対し、貧困をなくし、環境を保全し、持続可能な発展を実現することを主張する。EUと中国はともに台頭しつつある世界の重要な勢力であり、世界と地域の問題をめぐる双方の密接な協力は、世界の安定、繁栄、発展を共同で守るのに有利である。

歴史的、文化的伝統、政治体制、経済発展階段の差異により、人権問題に対する中国と欧州の見方に依然として食い違いが存在している。EUはこれまでに発表した対中国文書の中で、中国の人権状況が以前と比べて非常に大きく改善されたことを肯定し、同時に中国の人権状況がまだ国際基準に達していないとも指摘にしている。しかし、その人権問題の上でも、中国と欧州は積極的な対話の政策をとっており、毎年定期的に人権対話を行っている。EUはまた中国の裁判官養成、貧しい地区の村クラス選挙援助などを含めて、中国の法体制建設に対する援助にいっそう力を入れている。

中国の対EU政策文書は今後5年の双方の協力について構想を提出している。いま最も重要なのは当面の有利な情勢を利用して、これら各分野の協力構想を具体的な政策行動に変えることである。