裁判官の資質の向上を目指して

馮建華

新華通信社9月下旬発の「憂慮すべき中国の裁判官の資質」をタイトルとする記事は社会でセンセーションを引き起こすことになった。ここ数年、裁判官が法律をまじめに執行せず、勝手にでたらめなことをすることが時々メディアで明らかにされ、裁判官たちに対する人々の不満はますます強まっている。中国政府の「代弁者」と言われる新華通信社が大掛かりに法曹界について報道することになったのは、中国政府にこの問題を直視する決意と勇気があることを物語っている。

先般開かれた中国共産党第16期3中総で、中国政府は社会主義市場経済体制をいちだんと充実させる決意を再度明らかにした。市場経済は法治経済であり、そのため、「モラル、法体制の理念、業務レベルなど各方面から裁判官の資質を高めることは一刻も猶予できない」と新華通信社の記事は指摘している。

歴史的原因

裁判官の資質が全般的に高くない現状は大きな度合いにおいて歴史的原因によって形成されたものである。中国は「文化大革命」終結後の1979年から司法制度の回復にとりかかり、当時は専門の法律の教育を受けた人材が非常に少なく、裁判官選任制度にも不備が存在していたため、学歴も業種も問わず、ひいては何の手続きをとらなくてもこの職につけることは珍しくはなかった。

北京大学法学院のある教授は当時のことをこう振り返っている――「法律知識を一日も勉強しなくても、元の仕事が法律とぜんぜん関係がなくても法院(裁判所)に転勤してきて裁判官に早変わりし、案件審理の経験も大学卒の学歴もないのに、高級裁判官養成センターでたった3カ月勉強しさえすれば、法律専門の資格証書を取得し、裁判長になれるありさまであった」。

最高人民法院(最高裁判所)のデータによると、1979年から1988年までの10年間に、全国の裁判所関係者は9万1000人から21万5000人へと2.35倍急増した。それと同時に、案件数も51万8000件から222万6000件へと4.29倍も激増した。

「1980年代の経済と法律の発展で、裁判所の案件受理数の激増にともなう裁判関係者数の急増は、改革という特殊な情況の下では必要であったと言える」と最高人民法院政治部の蘇沢林主任は見ている。

最高人民法院の1983年のあるレポートによると、その年の全国の裁判所関係者は15万人に達し、そのうち、高等専門学校卒の学歴を持つものはわずか7%で、大学の法律専門学科出身のものは3%足らずで、半数以上のものはまったく法律知識を勉強したことがない。

北京大学法学院の朱蘇力教授の調査によれば、中国の地方裁判所の関係者は、@大学・高等専門学校の法律専門学科の出身者(10%弱)、A地元で募集されるか、または政府のその他の部門から転勤してきたもの(30%)、B再配置ということで送り込まれてきた退役軍人(50%)、と大きく分けることができる。

全般的に資質がこんなに低い裁判官たちに法律の公正と正義を守ることを期待するのはどだい無理である。

内蒙古自治区のフフホト市新城区法院が審理した案件を例に挙げよう。それは経済紛争事件である。原告は6万元の財産保全を申し出たが、裁判官は被告の300余万元の財産を一挙に差し押さえ、それに78万元に上る経済的損失をもたらした。これに対し、内蒙古自治区高級人民法院国家賠償委員会事務室の王永平主任は、法律常識を少し持つものであれば、事件審理の中で問題を見出すことができる。残念ながら、現実は法律の常識すら知らない裁判官がいたのである」と語った。

さらには、陝西省富平県法院には「ダンサー裁判官」までも現れた。小学校の教養程度だった王愛茹という女性は、1996年から97年にかけて地元でやくざのような連中がたむろしていたダンスホールのオーナーだったが、1997年末ごろ、コネに頼って裁判官に早変わりした。彼女は在任期間中、案件をでっち上げたばかりか、勝手に牢獄を設け、人を殴るなどしたことが調べで確認された。

教育養成と機構簡素化を実施

中国政府は早くから裁判官の資質の問題を重く見、次の二つの面から着手してそれを変えることにしている。

@ 法律知識の教育養成を行う。各地の法院には、ほとんど法律知識がない者と法律知識の補完、更新を必要とする者がたくさんいることに対応して、最高人民法院は1985年に各省・自治区に、裁判官たちの再教育を目的とする法院向けの夜間大学を設置した。国家裁判官学院の鄭成良院長によると、2001年までの17年間に、法院向けの夜間大学(現在はすでに閉鎖されている)では、法律専門の学歴資格証明書取得者が17万人養成された。大まかなな統計では、全国の80%以上の裁判官は夜間大学で教育を受けたことがある。

夜間大学の教育の質に対して評価はまちまちであるが、当時では裁判官の全般的な資質の向上では無視できない役割を果たしたことが事実である。最高人民法院はその後また、高級裁判官の職についている人々の教育養成を目的とする教育養成センターと国家裁判官学院を創設した。中国ではそれ以後高級裁判官を養成する専門学校が存在することになったのだ。

現在、最高人民法院は裁判官の教育養成について法律を制定した。それによると、すべての裁判官は3年ごとに少なくとも1カ月にわたる系統的な専門教育を受け、各クラスの法院の院長は教育養成を受けなければその職につけないことになっている。

このほか、最高人民法院は2000年に、年齢が大きく、学歴が低い裁判官に繰り上げて退職させ、執務態度も業務レベルも要請に応えることのできない裁判官を削減する機構改革を全国で推し進めた。これによって、全国の31万人を数える法律関係者の10%が削減された。

それだけでなく、最高人民法院は裁判官定員制を実施することにしている。中国の裁判官の人数は法院組織の総人数の2分の1という先進諸国よりはるかに大きな比率を占めている。そのため、定員制を実行してこそはじめて、高い資質の、基準に合った人が裁判官となり、裁判官の資格を備えていない人は、他の仕事につかせ、例えば裁判官の助手の仕事をするようにし、根本的から裁判官の資質問題を解決することをめざしている。

現職の裁判官に対し整頓を行うほか、「裁判官法」が1995年に実施されて以来、法院は増員を厳しく制限し(発達地区では大学本科またはそれ以上の学歴をもつ人、立ち遅れた地域では大学の法律専門の資格証書取得者でなければ法職につけないとの規定がある)、2002年末現在、法院組織の総人数は2000年並の31万人に保たれている。

また、国の司法試験制度が2002年から実施された。今後、試験にパスしない者は裁判官を担任してはならないことになる。司法試験制度は裁判官の資質問題を解決する根本的制度となると見られている。