国外に逃亡した腐敗官吏を懲罰

 

2003年4月20日正午、今年58歳の元浙江省建設庁副庁長の楊秀珠は娘、娘婿、孫娘らを携えて、上海の浦東国際空港から出国した。消息筋によると、彼女らはシンガポール経由でアメリカへ行ったという。アメリカでは、楊秀珠は何年も前に買った高級住宅が5棟もある。

 しこたまかせいでから国外に逃亡し、中国の法律が他国の法律と関係がないというすきに乗じて、法の制裁を逃れている。このような国外逃亡現象は珍しいことではなくなった。部長(大臣)クラスの元国家電力公司総経理の高厳、元貴州省交通庁庁長の盧万里、元河南省タバコ専売局局長の蒋基芳、元中国銀行広東開平支店支店長の許超凡、元河南省服装輸出入公司総経理の董明玉ら事件にかかわる金額が1億元以上の高官は国外に逃亡したあと、盧万里が逮捕されたほか、他のものは異国でゆうゆうと暮らしている。

 これらの「有名な」人物のほか、名前を上げるほどでもない国外逃亡者の人数は計算のしようがなく、メディアが報道する時一般に引用するデータは、国外に逃亡した汚職官吏は4000余人、事件にかかわる金額は50余億元に達するというものである。

 名前を公開したくない某省の汚職取締り局局長はインタビューに応じた際、「あのデータはもう古い。今はこの数ではない」と語った。

 しかし、中国の汚職官吏が大金を携えて国外に逃亡する現象を押え止める可能性がある。

 8月27日、全国人民代表大会常務委員会は「国にまたがる組織的犯罪取り締まり国連条約」を批准し、中国は同条約に署名した147カ国の一つとなった。つづいて同条約は9月29日に正式発効して、中国が世界的範囲で腐敗行為を取り締まり、外国政府の司法協力を求めるための法的基礎を築いた。

 腐敗官吏が国外に逃亡するのはなぜか

 メディアの報道によると、楊秀珠とその一家が出国する時に使ったすべての証明書類では、身分がはっきりと書かれていなかった。楊秀珠は早くからアメリカのグリーンカードを持っているが、カードにある名前は彼女の実名ではない。言い換えれば、彼女が国外に逃亡すれば、税関に記録がないばかりでなく、堂々として名前を改めて居住し、「安全に」暮らすことができるわけである。

中国の腐敗官吏の国外逃亡の形式はたくさんある。本人の旅券を持って堂々と出国して「視察」、「訪問」し、行ったきりで帰ってこないものもあれば、にせ旅券やにせビザを使用し、「ごまかして」出国するものもあり、また旅行団について出国してから第三国に逃げていくものや密輸の親玉を通じてこっそりと海外に渡るものもある。

これら腐敗官吏が不正な手段で得た金を「国外に持ち出す」方式も異なっている。にせの海外投資または貿易契約を通じ、政府資金の看板をかかげて多額の不法資金を国外に流出させるものもあれば、子女や家族、親戚が国外にいるのを利用して、不正な金を国外に持ち出すものもあり、また直接国外で収賄するものもある。

腐敗分子が国外に逃亡する時に選ぶ国は、アメリカやカナダやオーストラリアなど中国の制度と大きく違う西側の国であり、それから中央アメリカの一部諸国と太平洋上にある島国のような台湾との関係がわりに「友好的な」国である。このほか、体制転換期にあり、法体制が整っていないところに逃げるものもある。犯罪分子がこれらの国や地域に逃げていくのは、ほかでもなく、中国法律の制裁を避けるためである。

中国人民大学法学院の盧建平教授によると、中国にはいま、不正な金を取り戻す効果的な方途がない。それは主に国内の関係法律が完備しておらず、抜け道があるからだ。1997年に「刑法」を改正した際、191条にマネーロンダリング罪を設けた。「それより前に行われる犯罪」は主に麻薬犯罪、暴力団の性格を持つ組織的犯罪、テロ犯罪、密輸犯罪を指している。腐敗官吏の汚職・収賄、公金の着服と流用で入手した不正の金はその中に含まれておらず、そのため多くの犯罪者を法律のすきに乗じさせている。

他方では、中国が国際法体系の面で相対的に遅れていることも、海外での汚職官吏追捕を困難にしている。1990年以来汚職官吏の国外逃亡現象がすでに重大であるにもかかわらず、『引き渡し法』は2000年12月20日になってからようやく正式に公布、施行された。また、1997年から1999年までの3年間に、国外に流出した中国資本は累計530余億ドルに達し、そのうち、職務犯罪による不法所得が大きな部分を占めていることをある調査が顕示している。しかし、いまのところ、「マネーロンダリング取締法」はまだ下準備の段階にあり、中国は国際マネーロンダリング取り締まり組織にも加入していないのである。

腐敗反対の国際協力が立ち遅れていることも、汚職官吏がしたい放題に国外に逃亡する主な原因の一つである。

国外に逃亡した汚職官吏を逮捕するのも相当難しい。中国政法大学国際法専門家の劉廷吉教授はこう見る。まずこれらのものの具体的な行先を確定するのが難しい。検察機関は捜査して汚職官吏がすでに国外に逃亡したことを知っても、具体的にどの国のどこに隠れているのか、その具体的な場所およびその旅券番号などをはっきりさせるのはなかなか難しい。

四川省汚職取り締まり局指導処の劉関星処長は記者に、四川省の国外に逃亡したもの158人のうち、出国する時税関に記録を残したものは犯罪事件1件だけで、あとのものの行方はすべて不明であると語った。

劉廷吉教授は「たとえ汚職官吏の隠れている確かなところを知っても、彼らの身柄を中国に引き渡すよう要求するのもあまり容易ではない。昨年末現在、中国と二国間引き渡し条約を結んだ国はモンゴル、ロシア、ラオスなど18カ国しかなく、犯罪者に避難所と見られている国はほとんど中国と引き渡し取り決めを結んでいない」と語った。

あるメディアが明らかにしたところによると、近年、毎年最高人民検察院外事部を驚かせる職務犯罪容疑者が国外に逃亡する事件は2、30件あるが、そのうち身柄を中国に引き渡してもらうものは5人ほどしかない。

現在、中国は40カ国と56件の司法協力、判決を受けたものの引き渡しと移管条約を結び、犯罪者を共同で取り締まるための基礎を築いた。メディアの報道によると、1993年から、国際刑事警察組織と二国間の警察協力を通じて、中国の警察当局は前後して国外から210余名の犯罪容疑者を国内に押送した。

条約の役割

「国にまたがる組織的犯罪取り締まり国連条約」の発効で、国内の学界と司法界は興奮のるつぼに化した。長年国にまたがる犯罪を法律で抑制する問題を研究している中国人民大学国際法教授の邵沙平氏は同条約を「国際社会が21世紀に国にまたがる犯罪を抑制する国際協力の新しい一里塚である」と称した。同教授は、以前の腐敗犯罪を抑制する国際法原則、規則、制度は主に管轄領域の協調と手続き領域の協力であるが、条約の発効で、国際協力は実体法領域にまで拡大されたと分析する。条約が腐敗を刑事犯罪であると明確にしたことで、各締約国も国内法を口実に条約の規定した司法協力の提供を拒否できなくなったため、以前中国が国外に逃亡したものを追捕する過程の政治要素による妨害がかなり少なくなった。

中国にとっては、このほか重要な意義がもう一つある。つまり条約が初めて腐敗反対とマネーロンダリング取り締まりを結びつけ、単一の国際刑事協力から刑事、行政、金融の多重協力メカニズム確立に発展し、国にまたがる犯罪を抑制する国際協力の総合的法律メカニズムを形成したことで、この変化は国外に逃亡した汚職官吏の不法財産をはっきり調べ、没収するのに非常に有利である。条約は、不法財産を没収したあと、ある締約国が他の締約国の請求に応じて財産を没収する時、この種犯罪で得たものを優先的に請求国に返却すべきであると規定している。このルートを通じて、中国の歴年腐敗分子と一緒に国外に流出した億単位の資産を取り戻す可能性がある。

劉廷吉教授によれば、条約の積極的なところは、各締約国が自国の法律の中で本条約に含まれるいかなる犯罪に対し「わりに長い訴追時限を規定し、また犯罪を訴えられたものが司法処置を逃避する時はより長い期限を規定する」よう要求し、それによって国外に逃亡した汚職官吏に対する長期の追及懲罰を保障していることにもある。

外交部条約法律司の郭陽氏は、「条約の国外に逃亡した汚職官吏を取り締まる作用を見る時主に二つの核心部分を見る。一つは罪を決定することであり、もう一つは引き渡しと司法協力である。条約第8条の『腐敗行為の刑事犯罪決定』の規定によると、およそ直接または間接的に公務員にしてはならないメリットを約束するかまたは与え、および公務員が直接または間接的にしてはならないメリットを求めたり受け取った場合、犯罪と見なされる。これは中国の現行法律の贈賄と収賄に対する規定よりもっと広いものである」と語った。

最も複雑な司法協力と引き渡しについては、第16条は締約各国が「引き渡しの加速に努めるとともにこれと関係ある証拠要求を簡略化する」ことを提案している。最高人民検察院外事局司法協力司の竜梅処長は、このような規定は強制的なものではないが、今後の各国間の協調に根拠を提供していると語った。

障害が依然存在すると専門家は見る

条約の後ろ盾があるとはいえ、腐敗反対の国際協力の道は依然として平らなものではない。条約は問題解決の法律の枠組みを提供しているだけで、一つ一つの具体的事件については、依然として中国の司法、検察、外交部門が外国政府と困難な交渉をする必要がある。手続きとして、中国の部門は国外に十分な犯罪証拠を提供して引き渡しを請求する犯罪容疑者の職務または経済犯罪を証明し、さらに当該国の政府が起訴し、引き渡しを要求しなければならない。ある法学界筋が漏らしたところによると、他の国の国内法の研究が十分でなく、国内の証拠集めと列挙制度が完全でなく、各国の間に法律理念の差異があることから、中国は「関係ある国際法律・法規を利用して自国の目的をうまく達することができない」。

長年国際法の研究に従事している北京大学法学院の郭自力教授はこう分析する。「この条約さえあれば、たとえ二国間に引き渡し取り決めがなくても、犯罪者を自国に引き渡してもらうことができると思っている人が少なくないが、このように考えるのは誤っている」。条約は指導的な文書にすぎず、非強制的なものであるが、実際には二国間引き渡し取り決めの制限を受けており、たとえ条約があっても、相手側は二国間取り決めがないことで引渡しを拒否することができる。これらのことは、同様に二国関係と具体的な協議状況によって決定される。

同教授は、条約の発効は、一つの国際法の基礎を築くだけで、それを法的根拠とすることはできるが、ある締約国が条約を執行しない場合、それに制裁を加える具体的な措置はなにもない。「これは国際条約の極限性である。その実施は締約国間の取り決めに頼り、自国の法律と国際法の連結に頼らなければならない」と語った。

中国人民大学法学院の博士コース大学院生指導教官の朱文奇教授も、条約はもちろんとても積極的な意義があるが、当面から見て、ただちに効果をあげるのは不可能である。逃亡犯罪者を追捕する過程における国際協力の難しさは、一般の人がなかなか考えられないものである」と見る。

同教授は例を挙げて、国外で自分の経済犯罪をおおい隠し、自分の国外逃亡は政治的原因からだと強調する汚職官吏によくぶつかる。国際法の「政治犯を引き渡さない」という原則によって、中国の司法機構が彼らの引き渡しを要求する時に非常に大きな困難にぶつかる。また、現在中国はまだ死刑を廃止しておらず、そのため、カナダのような「帰国後死刑に処せられる可能性のある人を引き渡してはならない」と規定している国では、重要犯人の引き渡しは法律上障害があり、「みなが知っている頼昌星を例として見ても、もし中国に引き渡したあと彼が死刑に処せられると、カナダ政府は国内で説明がつかなくなる」と語った。

やはり自らに頼らなければならない

 国際では、腐敗反対は大勢のおもむくところである。今年5月末ソウルで開かれた第3回国際腐敗反対廉潔提唱フォーラムで、アメリカの司法長官は、国外に逃亡した腐敗官吏は自国人民の利益を損なうばかりでなく、民主の最も基本的な内包をも損なっている。「アメリカはその金を必要としない」と述べ、措置を講じるとか、国外にいる汚職官吏の資金を凍結するなどの方法で腐敗反対に協力するのを保証している。アメリカはいま国外にいる汚職官吏の不正な金を徹底的に調査し、彼らを自国に引き渡すよう援助する専門の行動グループの設立に取りかかっている。伝えられるところによると、中国の汚職官吏もアメリカ司法部門の注目する範囲の中にあるという。

しかし、法学界の人たちはみな、今の国際情勢は腐敗反対にとても有利ではあるが、「真に頼れるのはやはりわれわれ自身である」と言っている。国内のある法学権威筋は、中国が長期にわたって国内法を整備せず、国際法と結びつかなければ、この条約の中国での意義はみなが期待しているほど大きなものではないと直言したことがある。

国際協力をよりよく促進するため、国内法体系の改正と整備が大勢のおもむくところとなる。邵沙平教授はこう語る。「国にまたがる組織的犯罪取り締まり国連条約」をよりよく利用するため、中国は刑法の中で腐敗犯罪をマネーロンダリング以前の犯罪と規定する必要がある。こうすれば、汚職官吏たちはマネーロンダリングの方式で不正な金を移転することも犯罪となる。金融法の面では、「マネーロンダリング取締法」を制定し、各種の金融機構およびマネーロンダリングに用いられやすい機構に対する監督と管理制度を確立すべきである。同時にまた国際刑事協力を規範化させる専門法規も制定すべきである。

事実上、国際と国内をとわず、汚職官吏と国外に逃亡した汚職官吏を取り締まる「たが」はますますきつく締められている。

8月初め、中国共産党中央は「党・政府機関、司法・公安部門要員の出国通行証と出国旅券の管理措置について」という緊急通達を出した。中央規律検査委員会は九つの巡視グループを9省・市に派遣して緊急会議を開き、県・処クラス以上幹部の出国通行証、出国旅券を回収し、組織部門に渡して「統一的に保管させた」。

報道によると、8月3日夜から8月5日にかけて、北京、天津、上海、広州、瀋陽、深?、珠海、昆明などの開港場や空港で、旅券または通行証を持って国外に逃亡しようとする幹部60余人が逮捕された。

ある規律検査官員は「これは根本から抑制を強化するもので、彼らが職務上の便利を利用して国外に逃亡するのを防止している」と語った。

中国社会科学院某研究所研究員の邵道生氏は、旅券回収と国際条約加入をとわず、ある程度震え上がらせる役割を果たせるが、汚職官吏の国外逃亡の勢いを根本から抑えることができないと指摘した。

最も重要なのはまず国内という要路をしっかり抑える、つまり内部制度建設を強化して腐敗を抑制することである。これは財産申告制度を確立することである。事実上、「ブラックリスト」制度を確立し、いったんある人に腐敗の疑いがあるのを発見したら、徹底的に調べるとともに関係方面に通知し、まずその出国を制限すべきである。

このほか、海外にある中国資本企業の管理を強化し、マネーロンダリング取り締まり措置を強化しなければならない。国内措置を同時にとらないで、いくつかの国際条約に加入するだけでは、とても間に合わない。