悪夢はいまだ醒めやらず

安恵侯

(中国国際問題研究所特約研究員)

米軍の死傷者が増え続け、国内世論の圧力が強まっているにもかかわらず、ブッシュ政権はいまだ中東を“整合化”しようとするその信念を変えていない。それにしても、その政策がもたらす重い代価に耐え得ることができるのか。

米メディアは11月1日から7日までを米軍にとって“地獄の1週間”だったと報じた。この1週間に、米軍のヘリコプター「ブラックホーク」2機が攻撃されて31人の命が奪われた。米軍は1日平均35回襲撃されているのだ。死傷者が増え続けていることでブッシュ大統領の支持率にも影響が出てきた。世論調査では、対イラク政策への支持率は8月の57%から45%に低下、上半期の80%を超える支持率とはかなり対照的だ。

だがブッシュ大統領はこの期間に行った演説で、イラク問題では従来の政策をあくまで続けていくとの姿勢を表明した。米国が発動したイラク戦争は、民主と自由実現のためだと主張。さらにブッシュ大統領は「中東で中核となる地区に自由なイラクを樹立することは、世界の民主化に向けた革命において分水嶺となる。中東が依然として自由の発展しない地区であり続ければ、中東は停滞したまま前進しない地区となり、憎しみと暴力に満ちた地区となるだろう」と強調した。ブッシュ大統領のこの演説は、米国が何に配慮してイラク戦争を発動したかを如実に物語っている―――イラクに米国の民主と自由の価値を受け入れる親米政権を樹立し、中東諸国に対する“整合化”のモデルにすることである。

だが、現実は残酷だ。事態の推移は米国の計算とは大きく乖離してしまった。米国が安全面で益々大きな危険にさらされ、政治面での再構築は様々な困難にぶつかり、経済再生は安全面での保障もなく、権威ある政府機構もなく、また資金不足のために本格的は協議には至っていない。イラクは既にサダム政権の残存勢力、イスラム教徒過激派、個人的に米国に恨みを抱く人間、さらに外国の組織から潜入する様々な反米テロリスト組織が米軍を攻撃する要地と化してしまった。イラク戦争が勃発して以降、米軍のイラクでの死亡者数は既に388人に達しており、うち250人はブッシュ大統領が大規模戦争終結を宣言して以降の数字だ。11月12日にはイタリアのイラク駐屯地が襲撃されてイタリア人18人とイラク市民8人が死亡してほか、多数の負傷者が出た。安全面での保障がないため、国連はイラク駐在員を退避。11月10日には連合国暫定当局のブレマー長官がやむなく「今後数カ月間、米軍はさらに過激な攻撃にさらされるだろう」と見方を示していた。米国がイラク情勢を安定させるのは決して容易でないことが察せられ、イラクでの米国式の民主と自由の実現も一段と遠のくだろう。

イラク戦争終結前、米国はイラクへの威圧を借りてパレスチナに妥協を期待する中東和平に関する「ロードマップ」(工程表)を発表した。米国はその“整合化”政策に基づきパレスチナに対しアラファト議長を追放し、指導部を分断するとともに過激派組織を壊滅するよう求め、またイランやシリアに対しては手厳しい威嚇を発し、イラク戦争後にこの2国に対し決着をつけるとの姿勢を示していたが、その後にイラクの再建が非常に困難になったことから、それに係わる時間的余裕はなくなった。だが米国は依然、両国に圧力を与え続けている。ブッシュ大統領は6日の演説で再度、「中東政策の修正は眼中にある“悪の枢軸”や“ならず者”国家に対処するためだけでなく、サウジアラビアのような米国との関係が緊密な温和な国家に対処するためでもある」と表明したことで、この地区の各国に広く不安と警戒を呼び起こした。

9・11テロ事件後、反テロリズムが国際社会の共通認識、共同行動となった。だが、米国の反テロは武力に偏っており、抜本的に解決することはできない。2重基準を実施し、その他の国の利益を尊重しない。文明間の紛争を起こし、一部のイスラム国家や多くのイスラム教徒を敵に回した。一方的に反テロを突出させ、幅広い発展途上国の発展への強い関心を軽視している。反テロの看板の下、単独行動主義を推し進めている。こうしたことが共に取り組む国際社会の反テロリズムの実効性を著しく弱めているのだ。国際テロリズムは時に起伏し、時に消長しながら、その行動範囲は拡大の勢いにある。主な矛先は米国とイスラエルだ。

米国の中東“整合化”政策の成功は難しい、と断言していいだろう。先ず、米国式民主と自由の理念はイスラムの教義と抵触し、多くのアラブ国家は社会基盤が整備されていない。第2は、米国がその民主と自由を推進するための手段は主として軍事浸入、内政干渉、制裁・封鎖、威嚇・圧力といった強権的な行動だ。これらはまさに民主と自由の理念に極度に背くものであり、民主と自由の名声を著しく損なうものであるため、中東諸国や国民は米国式の民主と自由の受け入れに払わなければならない代価と得られる結果をわきまえているからだ。イラクは既に米国の重い負担となっている。米国がこのように“整合化”政策をあくまでも続けていけば、中東やその他の地区のムスリムの間に一段と強い反米のうねりと反米テロ行動を巻き起こし、自らをさらに困難な境地に落とし入れるのは必定だ。