中米貿易赤字の根源はどこにあるのか

中国社会科学院アメリカ研究所研究員 陳宝森

中国とアメリカが1979年初め、国交を樹立して以来、両国貿易は速やかに発展している。中国側の統計によると、貿易額は1978年の9億9000万ドルから2002年には97倍増の972億ドルに増えた。アメリカ側の統計によると、この期間の両国貿易は11億7800万ドルから124倍増の1473億ドルに増えたことになっている。アメリカの貿易における中国の地位もこれにつれて上がり、1984年、中国はアメリカの輸出の中で第19位、輸入の中で第21位、貿易全体の第19位を占めたが、2002年になると、これらの序列は第7位、第3位、第4位に変わった。中米貿易の高速発展は両国人民と両国経済に確かな利益をもたらした。この点はすでに中米双方の圧倒的多数の人に認められている。

しかし、中米経済貿易関係は決して順風に帆を揚げるものではなく、前進途上にしばしばトラブルが生じている。最近貿易赤字問題がアメリカでさかんに騒がれているのはその一つの例である。

ここ数十年の中米貿易を見ると、双方の間の貿易赤字には転化の過程がある。最初の段階では、アメリカの対中貿易は黒字だったが、その後、アメリカの中国からの輸入の増加速度が対中輸出の増加速度を上回ったため、アメリカの対中貿易は赤字に変わった。中国側の統計によると、1993年のアメリカの赤字は62億ドルだったが、2002年には428億ドルに増えた。9年で6倍近く増加したわけである。アメリカ側の統計によると、アメリカ側は1983年から3億ドルの赤字を出したが、2002年には1031億ドルに増えた。19年で342倍増加したわけである。双方の公表した数字にこれほど大きな開きがある根源は、統計方法の違いにある。そのうちのカギとなるのは独立関税区香港の中継貿易額をどう計算するかの問題である。アメリカ側の数字は香港の中継増加値をぼんやりと中国大陸部に入れている。そのほか、アメリカの対中輸出はFOBで計算したもので、荷役、輸送、保険の費用を含めておらず、数字を縮小したが、アメリカの中国からの輸入はCIFで計算し、それには前述の費用も含めており、数字を増大している。そのほか、サービス貿易が統計されていないのも問題である。具体的な統計数字についての食い違いはさておき、中国側はアメリカ側が赤字で、しかもこの赤字が急速に増大している事実を否定していない。

この種の貿易赤字の根源と性質をはっきりさせ、中米貿易を矛盾緩和の正常な軌道にのせるのは、非難と論争に夢中になるよりも重要なことだと言うべきである。

なによりもまず中米貿易赤字が、アメリカの貿易赤字全体の派生物にすぎず、アメリカの貿易赤字がアメリカの国内総需要が総供給より大きく、長年にわたって積み重ねた結果であるということを見て取らなければならない。

アメリカの総需要が総供給より大きい現象は1960年代後半から現れ始めたもので、その後はますますひどくなり、1966年から2002年までの37年間のうち、35年が欠損を出し、しかもその額はますます大きくなっている。貿易赤字は需要の不足をカバーするために生じたものである。そのため、それは両国貿易の問題ではなくて、アメリカのマクロ経済のアンバランスの問題である。アメリカが対中貿易赤字が大きすぎて中国からの輸入を停止すると言うなら、その結果はアメリカの貿易赤字を減らすのではなく、他の国からの輸入を増やして、引き続き赤字を保留することになる。このようにやる代価として、輸入コストが高くなり、アメリカの消費者とメーカーの負担を重くする。こうなるのは、中国の輸出商品の質がよく、値段が安いため、最も強い競争力をもっているからである。アメリカは真に貿易赤字をなくそうとするなら、自国の総供給と総需要を基本的にバランスを保たせるように努力しなければならない。最も効果的な方法は個人の貯蓄と政府の財政残高を増やし、同時に技術イノベーションと経営管理強化を通じてアメリカの一部産業の競争力低下の問題を解決することである。これらのことができなければ、赤字を減らすのは難しく、赤字消滅はなおさら話にならない。

次に中米双方の貿易について言えば、中国とアメリカのの間には競争より相互補完の方が多いことを見て取らなければならない。

中国の強みは労働力コストが安いことであり、そのためアメリカとの間に二種類の国際分業が形成されている。一種は労働集約型製品と技術、資本集約型製品との分業であり、もう一種はハイテク分野の技術集約、高付加価値の高級製品と労働集約、低付加価値の初級製品との分業である。この種の分業はアメリカ側に赤字を出させたが、アメリカが労働集約型産業の束縛から抜け出して、産業構造をエスカレートさせ、それによってアメリカ企業の国際競争力増強に役立て、アメリカの消費者に利益をもたらす。これを見ても、中米貿易が相互に補完し、双方にとって有利であることがわかる。ますます多くの兆しが物語っているように、多くの大手多国籍企業は、アメリカの多国籍企業を含めて、いずれも中国の労働力コストが安いという強みに目をつけ、中国を加工基地として対米輸出を拡大している。それが多国籍企業の子会社が中国の輸出に占める比率が急上昇することに表れ、その数額は1989年の9%足らずから2001年には48%に増えた。三資企業が技術集約型製品輸出に占める比率の上昇はとくに速く、1996年は59%だったものが2000年には81%に増えた。電子部品業界の例を見ると、その輸出の総規模は1996年から2000年までの間に5倍も増加し、2000年の多国籍企業子会社の輸出は同業界輸出額の91%を占めた。2000年の多国籍企業子会社の輸出するオートメ化データ処理設備は同業界輸出額の85%を占めた。携帯電話の面では、中国の輸出の総規模は1996年から2000年までの間に6倍増大した。2000年の多国籍企業子会社の輸出は中国同業界の輸出の96%も占め、モトローラ、ノキア、エリクソン、シーメンスなどの企業はその中の主導的な力であり、その対象はまずアメリカで、次はヨーロッパである。

第三、中米貿易赤字が根本から言ってアメリカ側の問題であるにもかかわらず、中国側に輸出入構造を改善して矛盾を緩和する願いがないわけではない。

アメリカ時間の11月12日、中米貿易赤字をずっと気にしていたアメリカ人は笑顔を見せた。その日、中国はアメリカとそれぞれワシントンとデトロイトで総額60億ドル以上の三つの大口買付契約に調印した。新しい世代のボーイング機30機の買付契約の金額は約17億ドルである。中国が開発中のARJ21民用旅客機が米GE社のエンジンを使用する長期供給契約の総額は30億ドルに達する。GM社のブランド品自動車4500台買付契約とGM社が中国にあるその組立工場に自動車部品を提供する契約の総額は13億ドルである。このほか、フォード社とクライスラー社も中国との協力計画を発表した。中国訪問から帰国したばかりのエバンス米商務長官は頬に笑みをたたえ、これはアメリカ人民と中国人民の「大勝利」だと称した。貿易買付団を率いてワシントンを訪れた張国宝中国国家発展と改革委員会副主任はあいさつの中で、これは中国にできるだけ対米貿易黒字を縮小する誠意があることを示していると指摘したが、同時に貿易アンバランスの問題を解決するのは双方の共同の努力が必要で、アメリカは差別的な対中輸出管制政策を緩めるべきだと指摘した。

当面の中米貿易アンバランスはアメリカの対中輸出が中国からの輸入より少ないことに現れており、アメリカ側の統計だとほぼ6対1であるが、中国側の統計ではほぼ3対1強である。これは当面の中国経済が高速に発展し、輸入需要が激増している現実にふさわしくないものである。中国国家発展と改革委員会副主任が指摘したように、これに対し、中米双方はこの問題を解決するためそれぞれ努力する必要がある。アメリカ側にとって、重要なのはハイテク製品輸出制限を改めることである。というのは、国際貿易の根本原則は各国の強みを発揮させ、アメリカ側の強みは製品に使用する技術が多いことであり、アメリカが国家安全を口実に、いわゆる安全と関係あるハイテクの輸出を抑制しすぎると、アメリカが強みを発揮するのは難しくなり、アメリカ企業の利益に合致せず、アメリカの輸出入にバランスを保たせることにも不利であるからだ。中国側から言うと、アメリカ商業界に中国が大量輸入する必要があるという情報を十分に理解させて、アメリカ企業の対中輸出の興味と自信を高めるように努力しなければならない。

第四、赤字で引き起こされた論争の中で、一部の雑音ははっきりさせるべきである。例えば、中国はWTO加盟後しかるべき義務を果たしていないとか、人民元の為替レートが低いため貿易赤字がもたらされ、アメリカ労働者の生活の糧を奪い取ったとか、中国は重商主義を実行しているなどの言い方は、明らかに事実に合致しないものである。

本当の状況はこうである。世界貿易取り決めを履行する面では、中国はいま約束通りに秩序立って自国の市場を開放し、税関の税率は2001年初めの15%から平均11.5%に引き下げられ、このうち製造品の税率はわずか10.3%である。これは発展途上国の中でブラジル(27%)、アルゼンチン(31%)、インド(32%)、インドネシア(37%)などの国よりはるかに低いものである。人民元為替レートの面では、中国はすでに現段階では安定を保つ必要性および中国、アメリカ、世界のいずれに対しても有利である道理を説明した。しかし、中国経済の急速な発展、競争力の増強、貿易の拡大、外国投資の大量流入につれて、人民元が強みをもつ貨幣になるのを阻むことができず、経済法則の作用で、人民元の平価切り上げに対する圧力はかならず日とともに大きくなる。こうした状況の下で為替レート形成メカニズムをどう調整するか、為替レートを安定させる前提の下で平価切り上げの圧力をどう緩和するかも、解決する必要のある課題である。中国の貿易黒字は主として人力資本の強み、つまり労働力の資質が高く、コストが安いことからもたらされる競争力を体現するもので、為替レートの変化は赤字に影響しないわけではないが、とるに足りないものである。それに反して、現段階では、為替レートの不安定は中国経済をゆゆしく妨害し、中国にとって不利であるとともに世界にとっても不利である。アメリカ労働者の失業問題では、製造業を見ると、長期から言ってアメリカの産業エスカレートの影響を受けたからで、最近から言って主として経済衰退後、企業主が労働生産性を高め、利潤を増やすため、経営規模を縮小した結果である。アメリカの経済情勢の好転につれて、状況は変わるであろう。中国が重商主義を実行しているという批判も適切ではない。貿易黒字は中国が貿易をする目的ではない。中国の対米貿易はわりに大きな黒字であるが、アジアの多くの国との貿易は赤字であり、黒字がGDPに占める比率から言っても、約2%にすぎない。経済の開放度から言うと、2002年の中国の輸入はすでにGDPの25%を占めた。この比率は日本の3倍に相当するもので、アメリカの学者でさえ積極的に評価している。

最近の中米貿易赤字およびそれによって引き起こされた人民元為替レート論争は、若干の緩和の兆しを顕示している。例えば、エバンス米商務長官が北京で行った記者会見の席で、ブッシュ政府は中国商品の輸入関税を27.5%引き上げよというアメリカの一部国会議員の提案に反対であり、この提案に賛成しないと述べた。スノー米財務長官は国会で証言した際、中国は貨幣をコントロールし、それによって不公平な貿易の強みを入手するのを禁止するアメリカの法律に違反していないと述べた。中国側の積極的な行動は、アメリカに買付団を派遣してアメリカ製品の買付を拡大することである。これと同時に、人民元為替レートの安定を保つ前提の下で、平価切り上げの圧力を緩和するため、輸出関税還付率を引き下げる措置をとり、しかもアメリカ側と繊維品輸出問題の協議メカニズムを構築することに同意した。これらの行動は、中米双方ともハイレベルの対話を通じて問題を解決する願いがあることを物語っている。

しかし、アメリカの若干の利益グループがこれだけでは収まらないことも見て取らなければならない。このほか、アメリカが国内の需給バランス問題を解決するのは並大抵なことではなく、対中輸出の大量増加も一日でできるものではない。中米貿易赤字が依然として増大するものと見られる。そのため、貿易摩擦も近い将来に大きく緩和する可能性がない。アメリカの企業が政府に、輸入激増の安全保障条項を実行して、中国の企業に反ダンピングを行うよう要求するとか、知的所有権問題で騒ぎ出すなどのことも増加するものと見られ、中国の企業はこれに対応する面で、十分な準備を整えるべきである。このため、中国の企業はアメリカ市場をよりよく知り、頭を働かせて製品をグレードアップさせ、付加価値を増大することに力を入れなければならない。数量だけを追求し、安い価格で勝負するやり方は避ける。アメリカの反ダンピング訴訟に対応する面では、中国がWTOに加盟した際各国と行った取り決めを熟知する必要がある。これらの取り決めの中にはもともと中国が市場経済の国ではないという規定がなく、訴訟が発生した時個別的な企業の市場経済地位を規定することを要求しているだけである。このため、中国の企業は積極的に応訴し、事実を列挙して、裁決を自国に有利になるように目指すべきである。同時に中国の企業は業界組織を通じて相互間の協調を強化し、国外市場を争奪するため互いに悪性競争をするのを防ぐべきである。知的所有権保護は貿易と投資の中で関係各方面が履行しなければならない義務であり、中国の企業はWTOの関係規則を順守する模範となり、外国の企業に侵権の口実を与えず、自ら国際競争の中で不敗の地に立つようにすべきである。

中米経済貿易関係は今日まで発展して大きな成果をあげ、アメリカと中国に大きなメリットをもたらした。これは並大抵なことではない。これに対し、双方はこれを大切にし、それをさらに発展させて、両国人民に幸せをもたらすようにすべきである。