中国の拡張的財政政策はいつまでつづくか

 --中国の経済、社会の情勢の変化に伴って、中国の新政府は5年間実行しつづけてきた拡張的財政政策を調整することを検討している。財政資金投下の重点を投資拡大から公共サービス分野、国民の生活改善を通じて経済社会のバランスの取れた発展を促し、これを踏まえて逐年国債発行の規模を減らすことになろう。

馮建華

中国経済が長年連続して高度成長を保つとともに、中国はなぜ世界経済の低迷期において高度成長を保つことができるのかという疑問が投げかけられている。この問題に対して現在共通認識が形成されたようである。それは中国が拡張的財政政策を実行したおかげで、即ち力強い国債投資によって、市場の需要を引き出し、経済成長を促進することがそれである。しかし、国債残高と財政赤字が膨れ上がることによって、一部の業界が重複建設と低効率投資の現象が日ましにゆゆしくなり、拡張的財政政策は果たしていつまでつづくのかと懸念をあらわにする人もいる。

2003年にSARSや淮河流域の洪水に見舞われたにもかかわらず、中国経済は依然として高成長を保っている。国家統計局のデータによると、2003年1月1月から9月まで中国の国内総生産(GDP)は7兆9114億元(人民元)に達し、不変価格で計算すれば、昨年同期比8.5%伸びたことになる。これは1998年に拡張的財政政策を実行して以来最高の伸び率である。全社会固定資産投資の実質的伸び率は30.1%に達し、1978年の改革開放政策実施以来の最高となっている。

樊綱国民経済研究所所長は、中国経済の変動は、従来から投資の需要によってもたらしたものである、と見ている。中国のような発展途上国にとって、投資の増加は好ましい事である。しかし投資の はやすぎる増加によって生産能力の拡大が加速し、生産能力が過剰となる。この間、電力など一部の生産手段の不足によって値上がりしていることは、このことを物語っている。そのため、懸念しなければならないのは経済の過熱がインフラをもたらすことではなく、過熱のあとでデフレが発生する可能性があり、ひいては長期間の経済不況をもたらすことにある。

アジア開発銀行(ADB)の中国事務所のレポートによると、物価の要素を差し引いて、現在中国の投資の実質的伸び率は1992年〜1993年の経済加熱期のレベルを上回り、経済成長の投資に対する依存性がさらに強まっている。それと同時に、鉄鋼、ハイテクなどの分野に存在する重複建設の現象は、政府主導の投資をおこなったことが主因である。これは政府資金のムダ遣いをもたらしただけでなく、銀行の貸付規模もコントロールできなくなり、潜在する金融リスクを深刻化させることになった。

この情況のもとで、5年間も実行しつづけている拡張的財政政策はどうなるのかという論議が巻き起こった。11月24日、中国共産党中央政治局は、当面の中国の経済情勢を分析し、来年の経済活動を検討することをテーマとする会議を開いた。中国の政策決定層は引き続き拡張的財政政策を実行することをはっきり打ち出した。しかし、政策実行への力の入れ具合と方向を適度に調整し、経済の安定した成長を保たなければならない、としている。そのため、来年の財政政策をいかに調整するかは今年の中央経済工作会議の主な内容の一つとなっている。

ジレンマに陥った拡張的財政政策

「拡張的財政政策は進むにも退くにも非常にむずかしくなっている。」と中国社会科学院財政貿易経済研究所の高培勇副所長は語っている。拡張的財政政策を5年間にわたって実行することによって、中国の国債残高は2兆余億元にのぼるに至り、これをさらに続ければ、国債の償還リスクが財政の全体的なリスクをもたらすことになりはしないか。また、拡張的財政政策を引き続き実行すれば、中国の経済成長が財政支出の拡張にますます依存することになるかもしれない。このような局面がながく保たれることはできない。

しかし、拡張的財政政策をいったんやめれば、一連の問題をもたらすことになる。まず、国債資金を通じて多くの重点プロジェクトが建設されている。これらのプロジェクトは多額の後続資金を必要としている(国家発展改革委員会の見積もりによると、だいたい6000億元を必要とする)。拡張的財政政策をやめれば、これらのプロジェクトの後続資金はどうするのか、尻切れトンボのプロジェクトになるかもしれない。

その次に、ここ5年来、拡張的財政政策はこれまでずっと中国経済成長の原動力であった。いったんやめれば、中国経済の高成長は続けられるのかどうか。「中国は経済の成長を非常に必要としている。中国経済に積み上がっている貧富分化、就業難などの問題は経済成長が提供するチャンスによって解決されるものである」と高培勇氏は語っている。

しかし、この憂慮について、国家情報センター経済予測部高級経済師の陳明星氏はそのような心配はないと見ている。全般的に言えば、いまでは、中国の民間投資が始動し、政府の投資があまりにも多ければ、収益の確保がむずかしいばかりか、民間の資本の投資のチャンスを奪うことになるかもしれない。この意義から言えば、拡張的財政政策を逐次退出させるならば、中国の経済成長の質がよりよくなり、それによって経済の次の段階の高成長のためによりすばらしい基礎をうち固めることになると、『北京週報』の記者に語っている。

逐次に転換

こうした進退きわまった状態に陥っているため、中国政府は慎重に「中間路線」をとり、すなわち引き続き拡張的財政政策を実行するが、それを「転換」しなければならず、つまり、逐次政策への力の入れ具合と方向を調整しなければならないということである。

11月中旬に開かれたハイレベルの財政税制フォーラムで金人慶中国財政部部長は、引き続き拡張的財政政策の連続性と安定性を保つうえで、政府の投資の方向、構造、力の入れ具合を適度に調整し、最適化することになる、と語った。これは中国の拡張的財政政策が来年調整されるという権威のあるブリーフィングだと見なされている。

その後、王保安財政部総合司司長はインタビューを受けた際、来年の国債資金を投下する経済建設プロジェクトの比率は縮小することになり、農村の教育、公共医療・衛生、住宅の改築、社会保障システムの整備などの公共分野に投下する比率を大きくすることになろう、と語った。

「中華工商時報」によると、1998年〜2003年の中国の国債資金投資の中で、約50%は経営的または収益的プロジェクトに投資され、そのうちの一部はまったく資金不足でないものもあった。これについて、賈康財政部経済研究所所長は、国債は必ず競争的性格があるかまたは収益的な分野から退出し、できるだけ市場による資源の配置の強みを生かすようにしなければならない。

国家情報センターは中国政府に、来年の国債発行額を1100億元ぐらいに減らすよう提案した。