2005 No.20
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老齢年金財源不足はいかに補てんするか

――老齢年金の財源が不足しているが、その解決は高齢化社会を迎えつつある中国にとって非常に大きな意味を持つ。

蘭辛珍

高齢化社会を迎えつつある中国は、老齢年金の財源不足に直面するようになった。労働・社会保障部によると、不足額は2兆5000億元に上る。

老齢年金の財源は2つの部分から構成される。1つは「社会調達資金」。国と企業が毎年、一定比率に応じて一部を負担し、年金を支給する。いま1つは「個人口座」。老齢保険加入者が銀行口座を開設し、毎月一定の保険料を口座に振り込み退職後に受け取る。労働・社会保障部によれば、財源不足が生じたのは1997年からで、2004年にも穴は埋まらずむしろ拡大しており、将来、一部の老人が受給する年金が減少することもあり得る。いかに満額支給して安心した晩年を送られるようにするのか。

財源不足が生じたのは

老齢年金制度ができたのは50年代初め。年金は国が負担し、国が統一して退職金の形で支給していた。ただ保障する対象は都市部の政府機関や事業単位の職員、国有企業の従業員で、それ以外は対象外だった。

80年代以降、経済体制に変化が生じたことで、国が全額負担する年金システムは廃止。政府は1991年、国有または私営企業を問わず全ての従業員にも保険料を支払わせる方向に転じた。老齢年金は国と企業、従業員がそれぞれ一部を負担し、保険料納付額は各地の経済状況に応じて決め、納付された保険料で年金を支給する制度を実施してきた。

各地により経済発展水準が異なるため、支給基準も異なる。政府は1997年、企業と個人の納付額の比率を統一した。企業の場合は一般に支払給料総額の20%以下。個人については給料の8%。個人口座には一律、11%分が記帳されることになっており、差額の3%は国が負担する仕組み。

個人が受給する基本老齢年金は主に、2つの部分から構成される。1つは基礎年金で、支給額は当地の平均給料の20%。企業が納付した保険料と国が負担する資金から支給し、個人保険料を満15年納めていれば受給できる。いま1つは個人口座から引き落とすもので、残高を120で割った金額が年金支給額となる。

復旦大学経済学部の袁志剛主任は「この改革は老齢保険の発展にとって大きな意味がある。最大の成功と言えるのは、老齢保険システムが全面的に確立されたことだ。都市部の政府機関や事業単位の職員、国有企業の従業員に限らず全ての人が加入できるようになった。1997年から8年近くの間に、老齢保険は急速に発展してきた」と説明する。

労働・社会保障部の統計によると、加入者は1997年には5000万人以下だったが、現在では2億人近くに上る。改革により国がこれまで担ってきた巨額の支払負担は軽減され、老齢保険は国の管轄から社会化、市場化へと転換し始めた。政府は現在、納付された保険料を全て支給することはせず、個人が口座に納めた保険料も支給に回さず蓄積するよう求めている。

袁志剛主任は「政府は過去、応分の保険料を蓄積することはなかった。そのため一部を蓄積する制度への転換の過程で、保険料の徴収と年金支出の間で大きな不足が生じてしまった。労働・社会保障部の統計では、不足額は省クラスの場合、財政収入の2.5〜3%に達に上る。今回の改革に当たって政府は、不足額については誰が処理責任を負うかを明確にしなかった。また解決策も示していない。不足額の規模さえも試算していないため、老齢年金の支払いにはどの省でも、不足額を補うため以前と同様、納付された保険料の全額、口座にある保険料をも当てているのが現状だ。これでは個人口座はゼロに帰してしまう」と指摘する。

労働・社会保障部では「現在の約3000億元の年間保険料では、約4100万人の退職者にしか年金を支給することができない。保険料の一部を蓄積するのは難しいため、不足額の問題は短期間では解決されない」と話している。

高齢者増が制度の試練に

老齢年金不足と明らかな対照をなすのが、高齢者の増加だ。現在、平均寿命は男性が69.8歳、女性が73.3歳で、全体的に1950年と比べると19.4歳伸びている。60歳(老齢年金受給開始年齢)以上の高齢者は、2005年に総人口の11%を占める1億4500万人に達した。伸び率は年3.3%。

労働・社会保障部基金監督管理司の陳良司長は「年金制度にとっては厳しい数字だ。2030年までには約1兆5000億元の財源が必要となるだろう。現在は毎年1000億元が不足しており、この問題が解決されなければ、中央政府の財政も脅かされることになるが、より深刻なのは一連の社会問題がもたらされることだ」と指摘する。

財源不足の問題のほか、老齢保険の普及の低さも将来の社会にとって試練となるだろう。清華大学の楊燕綏教授は「老齢保険加入者は8年前に比べかなり増えてはいるものの、労働人口総数の25%に過ぎない。加入者が最も多いのはやはり国有企業の従業員、政府機関や事業単位の職員などで、私営企業の間では国有企業ほど普及していない。従業員が加入すれば企業も一定費用を負担しなければならず、生産コストに直接影響するために加入に抵抗感を持つ企業もある。とくに農村部では、老齢保険システムが確立されたところは7%未満と非常に少ない。この数字では、将来増えるだろう老齢人口の比率とバランスが取れなくなる。社会的価値の変化や計画出産の影響で将来、1組の夫婦が老人4人の面倒を見ることも考えられる。老齢保険が広まらなければ将来、生活にも質的影響が出てくる」と指摘する。

労働部「政府が解決する」

労働・社会保障部の鄭斯林部長は記者会見で「老齢年金財源の不足額は政府が補てんする」考えを表明。同時に、老齢者人口がピークに達し、財源がバランスを欠いた場合、一部を取り崩して戦略的に補てんする老齢基金を設立したことを明らかにした。

さらに鄭部長は「政府の資金支援により、2004年に全ての退職者は期限どおりかつ満額、老齢年金を受給した。財源不足による支給の遅延はない。現在、支障なく支給すると同時に、個人口座にある保険料を支給に回さないよう努めているところだ。こうすれば、若年層は年取った時に確実に年金を受給できる」と説明した。

個人口座に振り込まれた保険料の確保については東北地方、遼寧・吉林・黒竜江の3省で約3年かけて試験的に実施。遼寧省では現在、口座残高は総計50億元近くに上るという。

陳司長は「制度を変えたことで、保険料は蓄積されるようになった。長期にわたる蓄積は老齢化に直接プラスとなる。今後、3省の経験を総括した上で、この制度を徐々に全国に広げていく」と強調すると共に、個人口座残高の価値を保ち、高めるための資金運用策を制定するとの考えも示した。