中国経済の展望と分析
荘 健
(アジア開発銀行駐中国代表事務所 首席エコノミスト)
2005年から2007年までは中国が経済の「ソフト・ランディング」を実現し、WTO加盟の公約を全面的に履行する上でカギとなる3年であり、この期間の経済の動向と直面するチャレンジを分析するのは非常に必要だ。アジア開発銀行が今年4月初めに公表した『2005年アジア発展の展望』によると、中国経済は今年「ソフト・ランディング」の目標を実現し、2006年と2007年の2年間に8.5%以上の高成長率を保持し続ける見られている。だが、中長期的に高成長を維持しようとすれば、政府は都市部と農村部の収入格差の縮小、中小企業発展の支援、金融システム改革の加速、財政政策の調整、エネルギー効率の向上などで実質的な進展を遂げるよう努力しなければならない。
一、中国経済の展望
中国経済の直面する国内外の環境や、アジア開発銀行による中国経済の四半期予測モデルシミュレーションを分析した結果、中国経済はソフト・ランディングを実現し、国内総生産(GDP)は2005年に8.5%、2006年に8.7%、2007年は8.9%伸びるとわれわれは予測している。エネルギーや輸送のボトルネック、土地使用の制限や投資の減少などの影響を受けて、製造業と建築業の成長は緩慢になるだろう。工業は9.3―10%伸びると見込まれる。農業成長率は、政府が生産・農民収入増政策を強化するから、4.1―4.6%に達すると予想される。サービス業は開放がさらに拡大するため、約8%の伸び率が続く。農業とサービス業を重視することは、就業の増大と貧困人口の減少にプラスとなる。
今年の固定資産投資の伸び率は昨年の25.8%から18%前後落ち込み、今後2年間はさらに13%前後まで低下するだろう。過熱業種への投資は大幅に減少することになるが、建築業など一部の業種では、建設中のものが数多くあるため、投資の増大を抑制するのは難しい。一方、民間投資は増え続け、外国からの投資も増大傾向を維持する。沿海部では労働力コストが上昇したり、労働力が不足したりしているため、外国人投資家が工場を内陸部に移転させることもあり得るだろう。

消費は2桁の伸び率を続けるだろうが、投資の増加率にははるかに及ばない。過去2年間、投資の急増によって、GDPに占める投資総額の比重(つまり投資率)は45%前後にも達し、1994年以来の最高水準に達した。一方、GDPに占める消費の比重(つまり消費率)は2004年に55%まで低下し、1978年以来最低となった。これまでの25年間に、投資が常軌を逸して増加する時期幾度かあったが、この時期の消費需要増は全般的に緩慢であり、その結果、生産能力が大幅な過剰状態に陥り、それに続いて経済成長はかなり低迷してしまった。現在、投資は急増しており、この時期に政府は投資を抑制すると同時に、効果的な措置を講じて住民の消費増、とりわけ農民の収入増と消費増を促すことに力を入れるべきである。
輸出増加率は2004年の30%以上から2005―2007年には12―20%まで低下すると予想されるが、その理由は@工業化国家の経済成長が緩慢になるA主要な貿易パートナーが中国の輸出に対しより多くの貿易保護措置や反ダンピング措置を講じるB輸出コストが労働力コストの上昇と石油価格の高騰によって上昇し続ける――の3点が挙げられる。対外開放の分野がさらに拡大され、内需が力強く伸びを維持するため、輸入の増加が輸出を上回る可能性があり、今後3年以内に貿易黒字はさらに減少するだろう。今年と来年の経常収支は多少の黒字を維持し、GDPに占める比率は0.4―1.2%まで下がり、2007年には赤字に転じ、GDPに占める比率は0.2%に達するだろう。
消費者物価の伸び幅は2005年に3.6%に、2006年には3.3%、2007年には3.2%まで下落すると予想されている。石炭や電気、原材料価格の持続的高騰が生産コストを押し上げるのは必至であり、最終製品価格にも影響を及ぼすだろう。経済の急成長につれて、労働コストも絶えず上昇する。もちろん、上述した価格上昇の圧力は、多くの業種が生産能力過剰状態にあるため、部分的には相殺されるだろう。
二、リスクとチャレンジ
現在、経済運営にとって主要なリスクとなっているのは、投資増への強い反動だ。マクロ調整が緩和されれば、投資増への反動と一部業種の過熱を誘発するだろうし、資本の大量流入も経済を過熱するリスクを大きくすることになる。預金の急増に伴い、商業銀行に融資拡大を求める圧力も増す一方、数多くの財産家も新たな投資チャンスを模索し出すだろう。
一部の潜在的な問題を適切に処理しなければ、経済のソフト・ランディング目標の実現は難しいだけでなく、経済成長率の大幅な低下をもたらすかもしれない。農村では、農産物価格の下落が速すぎれば、農民収入の増加傾向を維持することは容易ではなく、農民の消費支出も減少することになる。マクロ経済の引き締め時期、中小企業の発展は流動資金融資が減少したために影響を受けた。WTO加盟の公約を履行するため、金融業の対外開放がさらに拡大されて、競争が激しくなることから、国内の金融業界は重要な顧客を失うことになるかもしれない。
中小企業の健全な発展は非常に重要である。何故なら、大量の就業機会を創出し、収入の格差の縮小にプラスとなるからだ。しかし、中小企業は脆弱な経済体であることが多く、融資のルートも限られている。中小企業のための健全な融資保証システムを構築することは、融資銀行のリスクを低下させるのにも役立つ。また、民間銀行は中小企業を主な融資対象としているため、民間銀行の育成も中小企業の健全な発展の促進にプラスとなる。さらに商業銀行が中小企業に流動資金の短期融資を増やすよう奨励すべきだろう。政府はまた、民間投資会社が株式融資方式で中小企業に資本を注入するよう奨励すべきだ。外資銀行に対する地域、顧客面での制限が2006年に撤廃されるため、国有商業銀行はより激しい競争に直面することになり、サービスの改善、資本の充実、不良債券の削減などで改善が見られないなら、一部の顧客は預金を外資銀行にシフトするだろう。
マイカーの普及につれて、エネルギー不足の問題は短期間に有効解決するのは難しくなってきているが、使用効率向上の潜在力は大きい。中国ではGDP
1000ドルを創出するのに石油0.78トン、経済協力開発機構(OECD)加盟国平均レベルの2倍以上消耗ているからだ。
三、提言
上述したチャレンジに対応し、遭遇する可能性のあるリスクを最低限度まで低減するため、われわれは以下のことを提言したい。
1、
農村部で完全無料の義務教育を普及させ、農民の負担をさらに軽減する農民にとって、支出削減は収入増加に等しい。推算によると、農村部で完全無料の義務教育を実施すれば、農民の支出を毎年105〜422億元減らすことができ、これは1人当たり0.5〜2%の収入増に相当する。同様の措置は基礎衛生などの分野まで拡大することもできる。
2、 中小企業の発展をサポートする体制や観念的な原因から、経済引き締めを実施する際に、最も先に損害を蒙るのは往々にして中小企業であり、とりわけ民間の小企業である。そのため、マクロ調整政策を策定する場合、中小企業の利益に影響が及ばないよう、意識的に対応措置を講じることが必要だ。それには先ず第1に、中小企業向け短期流動資金融資を適度に増加する。第2に、弾力的な信用保証を通じて中小企業の融資ルートを拡大する。第3に、法規・政策を制定し、中小企業が発展する環境を改善することである。
3、 金融改革のテンポを加速する今年はWTOの公約を履行し、金融サービス業の全面的開放に向けた最後の準備時期である。金融政策については、通貨供給を適度に抑制し、経済過熱を防止するとともに、改革のテンポを加速すべきだ。改革に関しては、銀行財産権の明確化、企業債券発行の審査・認可手続きの簡素化、農村金融サービス多元化の段階的実現の3点を重点とすべきである。
4、マクロ調整における財政政策の役割を強化する第一に、地域によって異なる財政政策を段階的に推進し、支出基準の制定と支出項目の選択面で地方により大きな自主権を賦与し、地方政府が収入に基づいて支出を決定できるようにする。第二に、財政補助を増加する。第三に、エネルギー消費税を徴収する。第四に、社会保障と社会救済などの支出を拡充する。第五に、経済・財政的負担能力が比較的ある今を機に、政府の不確定債務の処理を加速して、財政の立て直しを図る。
5、国際石油価格の高騰によるダメージを防止する国際石油価格の下落は一時的なことであり、長期的に見れば、値上がりが継続する可能性があるため、チャレンジに応対する長期的な対応策を準備しなければならない。第一に、国際石油価格の動向をしっかり追跡、分析するとともに、現行の石油価格決定メカニズムを機動的に運用し、国内の石油価格を適時に調節して、国際石油価格の急変によってもたらされる国内市場の石油価格の不合理性を回避する。第二に、石油の戦略的備蓄のテンポを加速するとともに、先物取引を堅実に推進して、石油価格リスクを回避する。第三に、再生可能なエネルギーを大々的に開発する。政府は税収や価格、融資などの面で奨励制度を確立し、水力エネルギーや風力エネルギー、地熱エネルギー、太陽エネルギーなどの再生可能なエネルギー開発を大々的に促進して、エネルギー供給の多元化を実現する。
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