2005 No.23
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文物の流失を食い止めるには

阿唐

「地下に眠るまたは出土した文物が市場を通じて違法から合法に変わるのをできるだけ規制すべきた」。中国文物学会の謝辰生会長はこう呼び掛けた。

厳しい状況

昨年末に開かれた全国文物局会議で、国家文物局の単霽翔局長は驚くべき数字を明らかにした。博物館所蔵の文物や寺や廟の文物、田畑に点在する石刻などの盗難事件が2004年に36件発生し、合わせて各レベルの文物が223点失われた。うち摘発されたのは7件で、摘発率はわずか20%。事件の発生率は前年に比べ80%も増加している。

ユネスコがかつて発表した「文化財の違法な入手、輸送、販売を世界的に防止することに関する報告」によると、47カ国の218の博物館が所有する中国の文物は163万点に上るが、この数字を全世界の個人が所有する中国の文物数と比較すると、わずか10分の1を占めるに過ぎない。同報告起草者の1人は「地上と地下にある世界の文物の取引額と高額の利益は麻薬と武器の取引に次ぐもので、これが直接、文物を巡る世界的な犯罪を引き起こしている。またテロリストの資金源にもなっており、中国やエジプト、ギリシャなど文物輸出国では文物の流出が増大傾向にある」と指摘している。文物専門家の許還山氏によると、香港と台湾地区が大陸部の文物が世界に送られる最大の集散地だという。国家文物局社会文物流通処の任傑調査員は「陝西省で出土した前漢(紀元前206?25年)の裸体陶俑は、1993年に香港では8万香港ドル以上で売却することができたが、現在では500香港ドル以下で購入できる。この10年間に陝西省の地下からどれだけの物が掘り出されたことか。中国の文物の国際市場での値段はさらに下がり、多くの博物館の廊下に並べられているほどだが、その原因は何かと言えば、まさに大量密輸が文物市場を損ねているからだ」と指摘する。

暫定統計によると、古墓の盗掘はこの数年間に中国各地で10万件発生しており、破壊された古墓は20基余りに上る。地上にある体積の膨大な文物でさえ難を免れてはいない。例を挙げれば、著名な龍門石窟にある唐代(618?907年)の立像や、甘粛省にある宋代(960?1279年)の11層の石塔などだ。

税関統計によると、深セン税関がこの10余年間に摘発した文物の密輸事件は約3万件。だが、これは5%の輸出貨物を対象に行った抜き打ち検査で発見した件数に過ぎない。

国家税関総署密輸摘発局は「この数年来、中国の文物の密輸は増え続けており、以前は個人が携帯して少量の文物を密輸していたが、現在ではコンテナに隠したり、国際速達郵便を利用したりするなど、多種大量の密輸が横行している。密輸する者もいろいろで、米国や韓国、日本、英国などが主な密輸先になっている」と話している。

各税関はこの2年近くの間に重要な港湾に先進的な監視装置を導入すると共に、専門の検査官を増員してきた。

任傑調査員は「骨董品に関心のある人は誰もが、1949年の新中国建国から現在に至るまで、乾隆六十年(1795)前の文物は国外に持ち出せないと国が規定していることを承知しているが、一部の持ち主はそれでも売ろうとする」と指摘する。

国家文物局社会文物流通処は昨年から文物市場の整備プロジェクトを開始。その責任者でもある任傑調査員によると、法律・法規の面から文物の全流通段階を適正・細分化し、不明確な段階については具体的な認定基準を設けるという。

国家文物局は昨年5月、改正された新『文物保護法』に基づき、全国の文物競売企業に対して資格の審査・認定を行った。任傑調査員によると、資格の認定はこれが初めてで、それまではかなり長い期間、どんな競売企業も文物を競売に掛けるかどうかを自ら決定することができた。

民間の文物流通市場も整備の重点だ。任傑調査員は「国家文物局は現在、文物の流通に関する法規の起草作業を行っているところだ。この法規により、民間文物流通市場での大規模経営は規制される」と説明。

さらに任傑調査員は、国家税関総署と連携し、輸出入数量の面からも規制していく考えを明らかにした。

外国への持ち出し可能な文物の年代も変更される。「1795年より前の文物は外国に持ち出すことはできなかったが、規制する年代も繰り下げられるだろう」と任傑調査員。「長年にわたり数量上の規制がなかったため、清代(1616?1911年)後期や1949年までの文物は大量に国外に持ち出されてしまい、ほとんど空白状態にある」。一方、毛沢東肖像入りのバッチなど、特殊な意義のある記念品も文物と同一視されることから、外国への持ち出しが規制される。

外国との協力

3月中旬、米国務省の女性高官が在中国米国大使館の協力を得て北京を訪問。表面的に見るかぎり、公式な視察訪問ではなかった。単身で訪れ、しかも軽装であることから私的な訪問に見える。国家文物局は人を派遣し同行させたが、多くの文物市場を訪れ、市場に前もって知らせることもなく、参観する際にも身分は明かさなかった。

だが、この高官の訪問が中国の文物の輸出に大きな影響を与える結果となった。応対した国家文物局のある責任者は、中国政府の要請を受けて米国が現在、「一部中国の文物輸入を規制する』禁止令の公布を考慮中であることを明らかにした。高官は米国が派遣した調査官だった。

国家文物局によると、要請はますます深刻化している文物の盗難、密輸を抑制するためのもので、合意に達すれば、他国に中国の文物保護を求めた初めての二国間協定となる。

「こうした要求を米国に提起したのは、われわれが初めてではない」。中米交渉に携わった国家文物局の高官によると、カンボジアやリマ、イタリア、コロンビアなど11カ国が米国に輸入禁止令を申請したという。

米国の女性高官による中国視察の目的は(1)中国の文物が違法に外国に持ち出されているかどうか(2)中国政府が文物の違法な外国への流失を防止する具体的な管理措置を実施しているかどうか(3)中米間の文物関連のルートが遮断された場合、米国人の中国の古文化の観賞に影響しないかどうか(4)中米が協定書に調印すれば、中国側がその他の国と類似する協定書に調印するかどうか――の4点を確認することにある。この4点が、米国が協定書を受け入れる際の鍵を握っている。

文物界は「まず米国に保護を求めたのは、米国が中国の密輸文物にとって最大の販売場所になっているからだ」と強調。公開された数字では、米国での中国の文物の国際競売は4%のシェアしか占めていないが、国内の多くの骨董品業者は、最終的に米国に流入される比率はこれを上回っていると指摘する。米ウォールストリートジャーナルも、中国から流出した骨董品・文物は最終的に米国の収蔵家の手に落ちている、と報道している。

文物界の関係者は「文物流失の源は国内にあり、根本的な治療策は国内にある盗掘・密輸ルートを遮断することだ。だが、根本的な治療は非常に難しい。禁止令を申請することは実際、外国の監督と管理に支援を求めるものだが、それも仕方のないことだ。現在について言えば、禁止令を通して末端の市場を管理できれば、流失するチャンネルを切断することができるので、中国の文物にとっては良いことだ」と強調する。

だが文物界は、中米が合意するかも知れない協定書が文物の盗掘と密輸にどれほど実際的な効果を上げるかについては、楽観視しているわけではない。ある関係者は「紙切れ一枚の協定書が現状にどれだけの影響を与えるか期待はできない。結局、長年にわたり築かれてきた密輸ルートは益々太くなっていくだろう」と指摘。一方、国家文物局の高官は「このような外交協定は、強固な法的手続きが必要であり、広く見られる文物の盗掘や密輸に対しては、大きな影響を与えることはできないかも知れない。だが一旦、国宝級の文物など重大な紛争が生じた場合、双方はこの協定書に基づいて結論を下すことができる」と説明している。