要約
ここ二年ほど、一部の国から人民元レートの切り上げを求める声が次々と上がっている。日本をはじめ、国際通貨基金(IMF)やアメリカも加わっており、同時に、ドル安が何度も続いたため、中国の輸出商品との競争によってダメージを受けるではないかと懸念して、ヨーロッパや東アジアの一部の国も、人民元の切り上げを主張するようになった。
しかし、中国の経済学者は、人民元為替レートの安定を維持することは中国、ひいては世界の共通の利益に合致すると考えている。「ユーロの父」と呼ばれるマンデル氏や数名の世界的に有名な経済学者も、中国は現段階では人民元為替レートの安定を維持するとともに、改革を進めながら為替制度を充実させるべきだと指摘している。
中国政府は依然、人民元為替レートの安定の維持に努めている。中国人民銀行の周小川総裁は「自国の改革と発展に即して為替制度の改革を推し進める考えだ」と強調している。
周小川中国人民銀行総裁、人民元為替レートについて語る
人民元の切り上げはあるのか、いつ切り上げるかについて
中国の人民元為替レート政策については、他国との貿易に見られる赤字や黒字ではなく、主に自国の対外経済や国際収支の均衡といった要素を考える必要がある。
国際収支の均衡状況を見ると、経常収支はいくらか黒字ではあるが、そう大きくはない。中央銀行の今後の主な課題は、為替レートを簡単に調整するのではなく、為替レートの形成メカニズムを完備させることである。
中国は大国として、為替レートの改革を推し進める際には、何よりもまず国内にある原動力と圧力を考えることが必要である。税収にせよ、金利にせよ、為替レートにせよ、改革はいずれもが国内の改革に関する論理やプロセス、必要性に基づいて設計し、推し進めるものである。為替レート改革の問題では、圧力は恐らく最も重要な問題ではなく、重要なのはわれわれが改革の論理や出発点、目標、プロセスをはっきりさせなければならないことだ。
中国の国際的な影響力がますます大きくなりつつある中、通貨当局は改革を進める際に各方面の意見を聴取するとともに、国際経済、特に周辺諸国の経済への影響も考慮に入れるであろう。
為替レート形成メカニズムの改革について
中国は共産党第16期3中総が打ち出した方針を引き続き実行していく考えだ。つまり、為替レート形成メカニズムを完備させて、為替レートを合理的で均衡の取れた水準でほぼ安定を維持すること。リスクを効果的に抑えることを前提に、外貨の資本取引に対する規制を徐々に緩和し、資本収支の下での人民元の交換性を段階的に実現していくことである。
国際収支の均衡状況から見れば、人民元レートは過小評価されていない。経常収支はほぼバランスが取れており、少額だが黒字になっている。2004年の商品貿易では黒字は約320億ドルに達しているが、サービス貿易では約120億ドルの赤字となったため、年間の経常収支黒字は約200億ドルと、1兆1500億ドルの貿易総額の2%弱を占め、GDPに占める割合も2%足らずであった。
外貨準備高の状況から見れば、比較的急速に増えているとはいえ、その原因は様々だ。経常収支がやや黒字であることや、国内経済が順調に発展し、外国からの直接投資が大量に流入し、投資企業が得た利益を中国市場に再投資するというケースが増えていること、国内資本の海外流出傾向が逆転したことなどが挙げられる。
中国は積極的かつ計画的、段階的に人民元為替レートメカニズムの改革を推し進めるとともに、適時な時期を見はからって改革案を打ち出すことにしている。むろん、世界経済における中国経済の役割が以前より増しているため、責任ある大国として、この改革が地域ひいては全世界の経済に与える影響も考慮するつもりだ。
望ましい為替レートメカニズムの構築とその改革は、国内と国際投資家が自信を増強させるのに役立つだろう。中国の調整は資本市場にとって好ましい事だ。
為替レート形成メカニズム改革の主要な目標について
中国共産党第16期3中総では、為替レート形成メカニズム改革に関する目標が打ち出された。つまり、為替レート形成メカニズムを完備させ、為替レートを合理的で均衡の取れた水準でほぼ安定を維持することと、リスクを効果的に抑えることを前提に、外貨の資本取引に対する規制を徐々に緩和し、資本収支の下での人民元の交換性を段階的に実現していくことである。これが為替レート制度の改革で定めた目標だ。
為替レート形成メカニズムを完備させるということは、より大きな弾力性を意味している。また、合理的で均衡の取れたということは、為替レートの水準は主に市場の需給関係によって決められ、国際収支の均衡実現を図り、経常収支の黒字と外貨準備高の大幅増を追求しないことを意味している。資本収支の下での人民元の交換性を段階的に実現していくということは、市場経済体制により適応した為替レートメカニズムに移行することを意味している。
メカニズムの改革に関するタイムテーブルがあるのかについて
中国は自国の改革と発展の必要性に即して為替レート体制の改革を進めていく考えだ。人民元為替レート政策を調整する際には、いくつかの要素を考慮しなければならない。安定したマクロ経済環境や、健全な市場メカニズムや金融システムのほか、為替レートを合理的で均衡の取れた水準でほぼ安定を維持するための実行可能な改革案が必要である。また、改革が地域や世界の経済に与える影響も考慮に入れなければならない。
ここ一年来、中国は人民元改革について主に三つの面から積極的な準備作業を行ってきた。第一に、さらに弾力性のある人民元為替メカニズムに適応させるために、国内商業銀行の財務面での再編成と株式制改革を加速した。第二に、外貨の需給関係を市場により広範囲に反映させるために、いくつかの不必要な外国為替に関する規制を廃止した。第三に、金融機関と企業に外国為替市場の環境とサービスに適応させるために、国内の外国為替市場を整備してきた。
中国はリスクを効果的に抑えることを前提に、外貨の資本取引に対する規制を徐々に緩和し、資本収支の下での人民元の交換性を段階的に実現していくつもりだ。
1994年以来の人民元為替制度について
中国は1994年に、それまで二重レートとなっていた人民元レートを一本化し、現行の管理変動為替制度を導入した。1997年末のアジア金融危機では、周辺諸国の要請に応じて、中国は人民元の変動幅を縮小した。中国は1994年から1997年にかけて実行してきた管理変動為替制度に満足している。中国の対外経済の発展をサポートしただけでなく、周辺諸国と世界の経済発展にもプラスとなったからだ。
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