2005 No.25
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人民元レートに関する若干の問題について

趙錫軍
(中国人民大学教授・同財政金融学院副院長・同金融・証券研究所副所長)

中国は1994年、国際通貨基金(IMF)の要求に基づき外国為替体制について重大な改革を実行し、これにより現在の為替レート制度と外貨管理制度が形成された。

1994年以来形成されてきた為替レート制度は中国の実情にかない、中国経済の持続的な高度成長と対外貿易の拡大、資本流入の増加、外貨準備高の増加にプラスの役割を果たしてきた、と言えるだろう。同時に人民元レートの安定は、アジア各国が克服した1997年の金融危機や、東南アジア地域と中国との間の貿易と投資の発展、またアジア経済ないしは世界経済の安定にもかなりの役割を果たしてきた。従って、中国について言えば、新たな為替レートに対して明確な評価がなされていない前に、既定の為替レート制度に対して重大な調整を行うのは不可能であり、さもなければ、中国経済自身に対してのみならず、アジア経済ないしは世界経済の発展に対しても責任は負えない。

国際的な人民元切り上げ圧力

国際的な圧力には政治的に7つ要素と、経済的に3つの要素がある。

政治的な圧力は日本が最初である。日本国内は不景気であり、政府は経済を効果的に振興させることができず、国内に一定程度の問題が蓄積されると、必ず国外に出口を求めようとする。日本は、人民元は過小評価され、中国の大量輸出が国際市場に打撃を与えているため、国際的にインフレを招き、その他の国の就業や経済発展にも影響を及ぼしている、と主張した。

次いで米国が追随する。米国には議会選挙の問題があり、「9・11」以降、米国経済の緩やかな回復には持続性が見られない。不安定な状況の下で、経済カードを持ち出そうとすれば圧力があり、難しさもある。米議会は絶えず政府に圧力を加えているが、こうした行動はより政治的な利益から考慮したものだ。

人民元レートの切り上げを求める叫びはますます強まっており、そこには多くの多国籍金融グループからの声が聞こえるが、こうした声の背後に潜んでいるのが、これまでも短期的利益を追求することを好んできた「ホットマネー」だ。ホットマネーは地球的範囲でチャンスを窺っており、こうした国際短期資本を管理しコントロールする多国籍金融機関が大量の国際流動資本を掌握し操縦しており、グローバル経済の発展状況に即して、国際流動資本は一貫して中国に照準を定めてきた。このところ、人民元がいつ、どの程度切り上げられるか、との観測がほとんど毎日のように経済新聞のトップになっており、最終的にまだ実現してはいないものの、むしろこうした観測への関心がほとんど冷めていないのは、ホットマネーがその役割を果たしているからだ。人民元が本当に切り上げられるかまたは切り下げられるかは、彼らにとって恐らく決して最も重要なことではなく、最も重要なのは変動にすぎない。国際投機家が投機しようとする場合、投機によって変動が生じさえすれば目的は達成される。彼らが意に介するのは、投機することでチャンスがもたらされる為替差益なのだ。

国内経済状況がレート調整に与える影響

経済成長のスピードや対外貿易発展のスピード、資本流入と外貨準備高増加のスピードなどマクロ経済要素から見れば、この20年近くの間に中国経済は突出した業績を上げたが、こうした要素は人民元の大幅な切り上げを支えるには不十分である。改革が絶えず深まり、対外開放が絶えず拡大するに伴って、経済のミクロ面での問題がますます多く顕在化してきた。様々なリスク要素も増え続けており、こうした状況の下、仮に人民元レートが突然に大幅に調整され、そうなれば、中国経済に致命的な打撃を与えるのは必然だ。

現在、人民レートの調整を制約している主要な要素はミクロとマクロの両面にある。ミクロ経済要素としては主に、一時帰休者が絶えず増加している、国有企業の体制改革の難しさと業績不振、金融機関の不良債権とリスクの累積、金融関連企業の体制改革と核心的競争力の欠如、ミクロ経済の主体に臨機応変能力と耐リスク能力が欠如している、といった問題などが挙げられる。マクロ経済要素としては主に、物価の上昇、輸出製品の競争と貿易保護主義の台頭、マクロ調整が当初の目標を達成していない、経済発展に不確定さと不安定さが依然存在している、金融システムの健全性の問題が解決されていない、通貨の大幅な切り上げと変動に対する金融システム全体の備えが不十分である、などが挙げられる。

レートの将来動向に影響を与える要素

大まかに言えば、人民元レートの将来の動向は、将来の経済動向、金融体制改革の進展状況、国外からの圧力の程度、この3つの要素による影響を受けるだろう。

短期的には、中国経済は依然として相対的に高い成長スピードを維持し、マクロ経済の各方面にマイナスの現象が起きることはないが、就業やミクロ経済面での圧力はますます大きくなり、これがマクロ経済の安定性に影響を与えるだろう。同時に、世界貿易機関(WTO)加盟時の公約から、金融体制改革のステップが加速されるが、急激な改革方式を講じることは絶対にあり得ず、今後も安定的に推進するやり方が講じられるだろう。従って、この2つの面での要素はあまり大きく変化することはないと予測される。

ユーロが米ドルに対して大幅に値上がりした後、米国製造業の欧州市場での業況は著しく改善されたが、強いユーロによって打撃を受けた欧州の製造業は逆に業績がより悪化した。米ドルの対ユーロ値下がりという有利な状態になると、米国の製造業は再び視線を欧州の主要通貨にシフトし、正式なルートを通じて中国政府に圧力をかけるよう求め、人民元の対ドルレートの切り上げを迫るようになった。米国が財政と貿易の「双子の赤字」という問題に直面し、ブッシュ政権は経済を刺激する必要に迫られ、外資流入の減少が米国の投資への信用に大きな影響を及ぼしているのは、経済の回復にとってマイナスである。同時に、中国が米国を抜いて世界最大の資本導入国となるのは、米国が最も目にしたくないことでもあり、米国が貿易赤字を削減するには、外資が絶えず流入してそれを支えることが必要であるため、この角度から言えば、米国にとって人民元の切り上げは必要である。

人民元が切り上げられるか否かは単に経済的な問題ではなく、より政治的な問題だと言える。将来、国際社会が人民元切り上げを求める圧力は、米国経済回復のステップ、失業率低下のスピード、米ドルの更なる大幅な値下げ、この3大要素によって決定されると見られる。

こうした背景の下では、米国の保護主義勢力が台頭すると想像できる。米政府が先ごろ行った中国の繊維製品や家電製品に対するダンピング採決から見れば、「外科的手術」という方法で国内の貿易保護主義の「恨み」を静めることを試みているようだ。

中国が近い内の人民元レート調整は不可能だとの姿勢を表明しているため、主要貿易パートナーとの間の摩擦がエスカレートするのは必至である。米上院議員は財務省に対し人民元為替レート制度を調査するよう求めているが、これは米国の経済史では「極めて希」であり、米政府が対中貿易戦略で新たな戦術を講じたことを示している。中国がWTOに加盟する以前、米国は中国との貿易交渉では「一括した」政策を講じ、また高官1人を派遣し、多くの問題を総合して中国と交渉を行ってきた。だがWTO加盟後、米国のこうした政策に変化が生じ、現在は「1問題1協議」であり、各交渉の場では1つの問題しか協議できなくなったことから、中国にとって交渉は一段とやりにくくなり、以前のようにある面で譲歩することでその他の面での利益に代えることが難しくなった。

実際、この数年来、一部の国は貿易制裁という行動を実行し始めており、カラーテレビや果物などへの貿易制裁はいずれも彼らが採用した比較的強硬な手段だ。仮に人民元が今後も安定を維持するとすれば、今後、こうした制裁が大幅に増えると予想される。

米国が人民元の切り上げを求める叫びは非常に強いが、米国政府がこのために関係国内法を制定するかどうかは、さらに見守る必要がある。米国が「301条項」を利用して米国の鉄鋼業界を保護しようとして失敗した事例から、米国が国内立法の形で中米貿易に関与する余地がすでに小さくなりつつあることが見て取れる。中米間の人民元レートをめぐる論議が収まらない状況では、米政府は恐らく中国の輸出に対して措置を講じることで、中国の輸出企業に打撃を与え、最終的に中国に人民元レート問題で譲歩するよう迫ってくるだろう。

可能性のある政策とレート制定改革

人民元に対する圧力を緩和するため、中国政府が今後講じる可能性のある措置としては、輸入を適度に増やす、輸出還付税を引き下げる、企業の海外投資を奨励するなどの措置が挙げられるが、これらはいずれも人民元切り上げの圧力を緩和させるだろう。

第1に、輸入を増やすことで国際社会からの圧力を減らす。こうした姿勢はすでに韓国や欧州連合(EU)から人民元の現行政策への支持、少なくとも表面的または暫定的な支持を得ている。輸入を増やす手段は輸出国に経済的利益を直接もたらすことができ、非常に強い対処性を備えており、中国政府はより機動的にこの手段を運用すべきだ。

第2に、輸出還付税を引き下げることで人民元引き上げ圧力を相殺する。還付税の引き下げは人民元レートの引き上げに相当する。政府は輸出還付税を調整する措置を講じて人民元レート切り上げへの圧力を相殺することができるだろう。

第3に、中国企業のリスク防止意識と能力を培う。政府機関や企業は管理の強化やコスト削減、市場競争力の増強を通して収益と輸出競争力を高めるのではなく、長年にわたって固定レートに慣れ、本通貨の切り下げに依存して輸出を刺激する粗放型経営方式に慣れてきた。

第4に、国際資本の動向に警戒心を持つ。この数年の兆しが示しているように、外資は次々と正常または不正常なルートを通じて中国に流入しており、一旦人民元が自由に変動し、人民元レートが切り上がれば、これら流入した資本は大規模な投機に回ることになる。

第5に、厳密な金融監督管理の「防火壁」と時宜に即した有効なリスク防止の「予知」メカニズムを確立する。通貨政策機関と金融監督管理機関は緊密に連携し、相互の意思疎通を図り、資本収支の下での外貨資金の流出入をリアルタイムで監督・制御し、全過程を追跡して、高リスク防止能力と金融監督管理レベルを絶えず高めなければならない。また世界のその他の国・地域との協力を強化し、国境を越える「マネーロンダリング」犯罪の摘発も強化する必要がある。

第6に、長期的に見て、人民元レートを調整するメカニズムの形成に向けた準備を円滑に進める。改革開放の時期にある中国にとって、自由な資本の流動と独立した通貨政策、この両者の重要性が、固定レート制を超えているのは間違いない。従って、長期的な発展という観点から、人民元レート調整メカニズムの形成に向けて準備をする必要がある。中国は自国の経済発展レベルや経済運営の状況、国際収支の状況に応じて、金融改革を進めていきながら、人民元レートの形成メカニズムをさらに模索し完備させていくだろう。改革の目的は、人民元レートを合理的で均衡の取れた水準で基本的な安定を保持することにある。

2004年12月8日、オランダ・ハーグで開かれた第7回中国欧州首脳会談の席で温家宝総理は「市場の変化に伴い、中国は徐々に人民元の弾力的なレートメカニズムを実施していくが、これは複雑で漸進的な過程である。改革の方向は管理された変動為替レート制だ」と強調すると共に、人民元の弾力的なメカニズムを実施するには(1)マクロ経済が安定し、市場経済システムが完備し、金融システムが健全である(2)経済の健全かつ持続的な発展を確保するには、科学的な方策がなくてはならない(3)周辺国への影響を考慮し、周辺国に対して責任を負い、世界に対しても責任を負わなくてはならない――の3つの要素を考慮する必要があると指摘。その上で温家宝総理は、人民元為替レートメカニズムに関するタイムテーブルは示すことは拒否したが、「いわゆる為替レート改革に関するタイムテーブルは、今述べた3つの要素によって決定される」と語っている。

 

◆ 関係資料:現行人民元為替レート制度の主要な内容

(1)外貨収入為替決済制を実施する。域内の全ての営利・非営利事業体や機関、社会団体などの貿易・非貿易収支の下での外貨収入はいずれも銀行が掲載する為替レートに基づき、全て外貨指定銀行に売却して決済しなければならない。

(2)銀行外貨販売制を実施し、人民元を経常収支の下で条件付きに兌換することを許可する。域内の機構はこの収支の下での対外支払については外貨を使用し、効力のある証明書を持参すれば、外貨指定銀行で人民元を用いて外貨を購入することができる。金融・資本収支に対しては外貨管理制を維持する。

(3)全国統一の銀行間外貨取引市場を確立し、当該市場は主に各指定銀行相互の過不足の調整と清算に資すもので、全国統一の外貨市場は1994年4月1日より正式運営を開始する。

(4)1994年1月1日より、人民元為替レートのリンクを実施し、リンクされた人民元為替レートについては、市場の需給を基礎とした、単一的な、管理された変動制を実施し、中央銀行が前日の銀行間外貨市場の価格に基づいて毎日、人民元の対米ドル取引の中間価格を公布すると共に、国際外貨市場の変化に照らして、同時に人民元のその他の主要通貨に対する為替レートを公表し、各外貨指定銀行はこれに準拠して、中央銀行が規定した変動幅内で自ら為替レートを掲載し、外貨を売買する。