2005 No.27
(0627 -0703)
 

アドレス 
中国北京市
百万荘大街24号
北京週報日本語部
電 話 
(8610) 68326018 
(8610) 68886238

>> 文化・観光

文化的な差異:「老字号」の海外進出の難しさ

――中国の「老字号」(老舗)は深刻な「両極分化」の状態にある。大多数が苦境に立たされており、すでに海外に進出し国際ブランドの確立に努力しているのは少数だ。

馮建華

市場の狭間で生き残ろうとする大多数の老字号にとって、国際化はほとんど遥か遠い夢のようなものだ。だが長期的視点から見れば、国際化は老字号が避けては通れない“ハードル”となるだろう。世界的に経済一体化のテンポが加速するに伴い、国際化は企業ブランドに欠かせないものとなってきた。

一部の経営状況の良好な老字号は、この方向に向け苦しい道のりを歩んでいる。

北京同仁堂(集団)有限責任公司は、中国医薬業界で336年の歴史を有する老字号企業。同公司宣伝部の金永年部長よると、同仁堂は昔、前が店で後ろが工場という小規模な作業場だった。現在は、内外で上場した企業を2社傘下に抱える大規模な企業グループだ。支店は主に東南アジアを中心に12カ国・地域に18店展開しており、2004年にカナダに支店を開いたことで、国際化という“触覚”を初めて北米地区へと伸ばした。

金部長は「実際、わが社は50年代からすでに国際化の道を模索し始めており、当時、製品は日本に輸出していた。だが輸出入経営権を持っていなかったため、別の貿易企業に輸出業務を委託せざるを得ず、これが国際化のテンポを大幅に制約していた」と回顧する。

同仁堂は1993年に輸出入権を取得、国際化に本格的に乗り出した。金部長は「輸出入権を取得した後、香港(当時はまだ中国に未返還)に支店1号店を開設し、経営は非常に順調だった」と話す。金部長の言葉を借りれば、当時、香港では常に列ができる場所が2カ所あった。1つはビザ申請の場所。いま1つが同仁堂だ。薬を購入する人、診察を受ける人が絶えることがなかったという。顧客は大半が華人だったが、同仁堂はその中に巨大な国際市場の将来性を見て取り、国際市場開拓の自信を固めていった。

同仁堂の香港支店は現在、6店。輸出額は1993年の186万ドルから2004年には1000万ドルに達した。同社は今後5年内に、海外支店を現在の18店から100店まで拡大する計画だ。

国際化については、北京のいま1つの老字号、全聚徳(北京ダック)も非凡な業績を上げている。すでに世界25カ国・地域で商標「全聚徳」を登録し、米国やドイツ、英国、日本などでチェーン店を60店舗展開しており、かなりの経営規模にまで成長した。

苦しく長い過程

「老字号の国際化は必然の選択であり、海外進出の過程は苦しく長い」。金部長はこう強調する。

老字号は奥の深い民族文化を内包しており、本質的には伝統的なものだと言える。金部長は「海外進出に当たって遭遇する最大の困難が、文化への認識だ」と指摘する。

薬品や各種食品の輸入に関し、各国はいずれも自国の技術基準を制定している。例えば、米国には食品医薬局(FDA)基準がある。業界では、製品がFDAの認定をパスしたことは、全世界に向けた通行証を得たことを意味する、との見方が普遍的だ。だが、中国大陸にはこの認定をパスした薬品はまだない。

これについて金部長は「そこには重要な原因がある。つまり、漢方薬は疾病治療メカニズムがはっきりと説明できないため、西洋医学界に受け入れられるのは難しい。広い意味で言えば、これも文化の違いだ。ある側面から言えば、わが社の製品は12カ国・地域に拡大はしているものの、だが、それが故に、目標とする消費者はやはり華人が主体となっている」と説明する。

漢方薬が完全にFDA基準を満たすには、かなりの資金投入が必要であり、同仁堂という老字号企業にとっても、短期間に成し遂げることはできない。典型的な例を挙げれば、FDA基準という難関を克服するため、天津「天士力」は成分の簡単な復方丹参滴丸(脳血管疾病治療薬)について、10年近くの間に何千万ドルも投入しているが、いまだ成功していない。

いかに苦境を脱け出すか

金部長は「老字号が国際化に向けて苦境を突破するカギは、先ず海外に出ることだ。海外に出て初めて、外国人に自分の企業を知ってもらうチャンスが生まれ、さらに企業を理解してもらい、そうすれば企業を受け入れてくれるからだ。さらに製品の成分や包装など、国外の技術基準を参考に主体的に調整する必要があるだろう。わが社は2000年前後に製品を食品添加剤として米国に参入させたが、付加価値は大幅に低下した。一気に米国の主流となる市場に入るのは難しいが、しないよりはいい」と強調する。

当然、国際化の過程において、老字号が本当に“包囲網を突破”し、現地の主流市場に進出できるかは、やはり現地化戦略によって決まる。現地化を推進するに当たり、カギとなるのは対象国の市場ニーズに合った製品を選別することにある。例えば、老字号である韓国のキムチが中国で広く歓迎されているのは、その独特の酸味と辛さが大多数の消費者の嗜好に合っているからだ。

また一部の部署、とくに消費者相談室などに現地人を雇うのも肝要だろう。現地の職員が企業文化と製品を深く理解すれば、自らの感触で現地の消費者に企業と製品に関する宣伝や説明ができるようになり、こうした過程を経れば、企業と製品はその国でより信頼が確立しやすくなる。

「老字号は一種の文化であるため、老字号の海外進出は国力の増強によって決まる。薬品について言えば、国力が増強されれば、漢方薬の技術的な国際生産基準はその源である中国が制定することになるだろう」。金部長はこう強調する。

国際ブランドがないのは?

中国の老字号は主に医薬と飲食業に集中している。だが、マクドナルドやケンタッキーフライドチキンのような国際ブランドがないのは何故か。

これについて金部長は「中国の市場経済の発展の歴史が比較的短いことと関係がある。一方で、より重要なことだが、中国の老字号企業がチェーン経営を展開する場合、例えば製品の原料や仕事の内容など、厳格な意味で、標準化や適正化を行うのが難しいからだ」と指摘。

中国のいかなる場所にあるマクドナルドも、またケンタッキーの支店を見ても、店内や装飾、味にほとんど違いは感じられない。だが、老字号である天津「狗不理」のバオズ、または全聚徳の北京ダックの場合、違う場所で食事をすれば、その味や環境に違いがあるかも知れない。

実際、標準化や適正化といったハード面については、一部の老字号は実行できるだろう。だが、カギとなるのは、ソフト面で一気に追いつくのが難しい。標準を制定しても、厳格に実行できないのだ。

金部長は「中国には現在、国際化された老字号のブランドは1件もない。今後、こうした状況に多少変化が生じるかも知れないが、それにはかなりの努力を払う必要がある」と強調する。

 

リンク

看板の洗い直しが視野に

政府が支援する民間の社会団体、中国商業連合会は6月9日、老字号認定規範に関して「意見を求める書」を公表。この中で「中華老字号企業」の認定条件について、(1)商工機関に正式登録し且つ50年以上経営している(2)民族色と鮮明な地域文化的特徴を有している(3)比較的高い商業・文化価値を有している(4)商業上良好な信頼を有し、誠意ある経営を行っている――の4点を提起した。

現在、老字号は全国で約1600社に達しており、いずれも1991年に前商業部が認定し看板プレートを授与した企業だ。中国商業連合会が認定条件を提起したことで、14年間中断されてきた「中華老字号企業」の評定再開に同連合会が強い意欲を持っていることが明らかとなった。

統計によると、現在、老字号の中で、何とか現状を維持している企業が70%、長期にわたり赤字に陥っている、破産の危機に瀕している企業が約20%を占める。ブランドを持ち、かなりの規模を備え且つ収益の良好な企業は10%に過ぎない。「意見を求める書」によれば、選定される老字号は「比較的高い商業価値」を有していることが必要だ。この1項目だけを当てはめてみても、現有の老字号では少なくとも80%が評定に参加する資格を備えていないことになる。これは看板プレートを取り外される運命に直面することを意味する。こうしたことから関係者の間では、老字号は新たな看板の洗い直しに直面する恐れがあるとの声が多い。

金部長は「評定基準を見直すという初志は、老字号の発展を促進する上でいいことだ。だが、最も好ましい判定者は市場である。本当の老字号は庶民の心の中に築かれているからであり、庶民こそ最適な判定者だ」と強調する。

老字号の評定は、現実の中で実行した場合、果たして予想外の困難に数多く遭遇するのだろうか。老字号の現有の枠組みに対しては一体、どのような影響がもたらされるのだろうか。こうした問題に関し、「北京週報」は今後も注意深い関心を寄せながら随時、追跡リートをお届けしていく。