2005 No.35
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再びデフレに向うのか

消費者物価指数が数カ月連続で低下している中、投資の伸びは依然力強い。経済発展の過程でこのような現象が現れたことで、一部経済学者の間ではデフレになるのではないかとの懸念が広がり始めている。その一方、これは中国経済が正常な状態に戻りつつあることを示すものだとの見方もある。

蘭辛珍

「中国経済には供給が需要を上回るという問題があり、潜在的なデフレに直面している」と、北京大学中国経済研究センター主任の林毅夫教授は言う。

その理由は「1月から5月末までの通貨供給量の伸び率は昨年同期を2.9%下回り、しかも2000年以来最低となった、同時に、消費者物価指数(CPI)も低下しつつあり、2004年8月は5.3%だったが、今年6月に1.6%まで落ち込んだのに対し、工業製品出荷価格指数(PPI)は逆に伸び続け、5月に5.9%まで上昇したからだ」

林教授の予測によると、もっとも遅くとも第4・四半期にはデフレが顕在化する。

清華大学中国・世界経済研究センター主任の李稲葵(David D.Li)教授も「現在は生産能力が過剰で、消費が冷え込んでいるため、デフレ傾向が鮮明になってきた」と、同様な見解を示している。

彼らの予測が正確であれば、中国は2回目のデフレに直面することになる。1回目は1998年から2002年。この間、経済成長率は下降していった。

林教授は「今回のデフレも前回と同様、過去一時期の投資の過熱により、生産能力は急速に増強されたが、需要の増大はそれに追いつかない結果、物価が下落している」と指摘する。

中国は商品小売価格指数を統計する場合、商品は16品目に分類される。2004年、この16品目の中では、燃料と建材、農産物、金・銀・真珠・宝石、出版物、飲料の6品目だけが価格が上昇。うち経済に大きな影響を及ぼしたのは燃料と建材、農産物だった。燃料と建材の価格高騰は、2003年以降、大規模な投資ブームが訪れ、とりわけ不動産や鉄鋼、電力などの業種での加熱投資によって、燃料などのエネルギー需要が膨らんで不足状態に陥ったのが原因だ。農産物の値上がりは、ここ数年の減産によってもたらされた。

服装や繊維、電気製品、通信機器などを含む製造業10品目の製品価格も1998年から低下し続けてきた。

2004年からマクロ調整政策が実施されたため、2005年上半期になると、建材や不動産、自動車などの業種への投資の伸び率は縮小し、建材価格の上昇率も低下し始めた。農産物については、昨年に穀物生産量が9%増産して、全農産物が3877万トン増えて史上最高を記録したことから、今年は値上がりすることはない。

「マクロ調整政策の実施で、不動産や鉄鋼、電力などの業種への過剰投資が抑制されたことで、ここ数年にわたって値上がりしてきた製品は下落に転じ、すでに下落していた製品もさらに値下がりすることから、再びデフレになるのは避けられないだろう」と林教授は見る。

中国社会科学院マクロ経済研究室の袁鋼明主任も同様の見方だ――ここ2年来の物価上昇の要因は次の二つある。一つは、穀物不足による上昇であり、いま一つは、不動産価格の急上昇である。この二つを差し引けば、核心となるCPIは0.8にすぎない。だが、今年の食糧供給に余裕があり、価格も下落することから、消費財価格も下がり、さらに工業製品価格もその影響を受けるだろう。同時に、マクロ調整政策の実施で、不動産価格も下がり始めたことで、鋼材価格も全面的に下落し、さらに主要原材料などでも全品目価格の下落が誘発されている。

「その結果、消費価格指数はマイナスに転じる」と袁教授は指摘。言い換えれば、マイナスはデフレを意味するものである。

デフレに関し、中国社会科学院金融研究所金融発展室の易憲容主任は「中国経済は緩やかに下降していく時期にある」と異なる見方を示している。

易主任は「2003年の経済成長は基本的には、地方政府の大規模な投資によって牽引されたものだ。2004年のGDPに占める投資比率はすでに51.3%まで上昇し、今年は第1・四半期の成長率で試算すれば、年間で53%に達する可能性がある」と指摘。

こうした政府主導の投資牽引に対しては、調整は早ければ早いほどよい。さもなければ、今後の経済発展にダメージを与えることになる。中央政府が2004年から講じてきた一連のマクロ調整政策により、「大規模な投資が抑制され、経済の合理的な回帰が見られる」と易氏は言う。

2004年のCPIの上昇は不動産消費が主因だ。だが、マクロ調整の影響に押されて消費が減少したことから、今年上半期にCPIは低下した。

易主任によると、CPIは下がったが、上半期の消費小売総額は昨年同期に比べ13.2%、物価上昇を除いた実質で12.0%増えた。増加スピードは同1.8ポイント上回る。エネルギーや原材料の価格もここ数年大幅に上昇しているため、単純にCPIの低下だけから見て物価が下落したと結論づけることはできない。当面のCPIの低下は、過去一時期の上昇分が調整されたものだと言うべきだろう。

3年前に建築用鋼材は1トン当たり2500元だったが、昨年のピーク時には3500元を上回り、この間に40%超上昇している。ここ数カ月はいくらか値下がりしたが、下げ幅はわずかであり、依然として高値を維持している。こうした価格の小幅な下落では、ここ数年の大幅上昇分の調整と見なすしかない。「これこそマクロ調整を実施した結果であり、過剰な投資が抑制された成果だと言うべきだ。一部の商品価格が下がったから、デフレが起きたと簡単に判断するわけにはいかない」と易主任は指摘している。

易主任は、依然として高成長を維持しているものとして、GDPや固定資産投資、貿易を挙げる。

投資と輸出は中国の経済成長を牽引する重要な原動力だ。今年上半期の全社会固定資産投資額は3兆2895億元に達し、昨年同期に比べ25.4%増と、安定した伸びを見せた。輸出は32.7%増加し、貿易黒字は396億ドルに達している。

「そのため現時点で、CPIの低下だけを見てデフレの兆が現れたと断言するのは軽率ではないか。固定投資と貿易の増加に問題が出なければ、経済成長の傾向は変わることなく続いていき、デフレが起きることもない」と易主任は強調。

国務院発展研究センター金融研究所の夏斌所長も「目下のところ、中国経済は下降傾向にあるが、デフレが生じる可能性は小さい」と見ている。

デフレが起きているかどうかを判断する上で、企業の景況は一つの指標となる。今年1月から5月までの一定規模以上の工業企業(全国有企業と年間売上高500万元以上の非国有企業)が達成した利益は昨年同期より15.8%増え、第1・四半期の17.2%、昨年の40%弱を下回った。一方、欠損額は同56.1%増えている。うち、国有企業と国有持株企業は同77.5%増の465億元に達した。

企業利益の伸び率が縮小するとともに、欠損額は大幅に増大したのはデフレの前兆、との見方もある。

夏所長は「これでじきデフレになるとは言えない。企業が操短を行い、失業者が長期的に増加する傾向になければ、デフレとは確定できない。今の中国にはこうした問題が存在していない」と指摘。

夏所長によると、鉄鋼や石炭など原材料価格は国際市場の高騰で高水準にあるため、製品(不動産も含む)需要は減少し始めている。コストの上昇で内需は軟調になっており、こうした二重の圧力の下で、企業が赤字を出さないのは不思議ではないか。実は今回の経済の反落はある程度、マクロ調整によるものだ。

夏所長は「当面はインフレによるリスクに警戒心を保つのが、やはりマクロ調整の重要な課題だ。現在、インフレがあまり注視されていない。石油や電気などの価格は政府によって統制されているため、価格は依然として低水準にあり、市場価格を反映していない。しかもCPIも1.6%と確かに低水準にあるが、それは不動産と食品消費指数の変動によるものだ。不動産投資の伸び幅が鈍り、不動産消費が減少しているにもかかわらず、不動産価格が総体的に高水準を維持している」と指摘。

その上で「マクロ調整が多少なりとも緩和されたら、大規模投資が再燃することになるだろう。インフレにでもなれば、終息させるのは難しくなり、経済へのダメージも大きい。インフレより、真にデフレが起きたとしても、適度に財政投資や通貨供給量を増やすなどの措置を講じる限り、短期間にそこから抜け出ることはできる」と強調する。

デフレ傾向なのか、それとも経済の合理的な回帰なのか。いまの時点で結論を明確に下すのは難しい。だが、経済の健全かつ急速な発展は、中国だけでなく、世界の望むことでもある。温家宝総理は7月13日にわざわざ会議を招集し、当面の経済情勢について経済学者たちの意見を聴取した。今後の経済発展の過程でマイナスの傾向が現れれば、政府が適時にかつ迅速な対策を講じるのは確かだ。