2005 No.40
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食糧問題は解決されたのか

李成貴
(中国社会科学院農業発展研究所研究員)

自らを扶養

70年代末から80年代初めにかけて、農村の人民公社体制は徐々に廃止されて、家庭土地請負制が実施されるようになり、穀物生産に向け新たな制度的基礎と奨励メカニズムが構築された。家庭経営を踏まえ、政府は穀物を増産させるため商品穀物基地の建設、優良品種の普及、穀物買入価格の数度にわたる引き上げなど、多方面から尽力した。その結果、生産量は3億5000万トン、4億トン、4億5000万トンと段階的に連続して増加し、1998年に5億トンを突破した。

穀物生産能力が向上したことで過去の“穀物は鋼鉄”とする不合理な農業構造は著しく改善され、構造の合理的な調整に向けた条件が整った。20数年来、農業生産における果物や野菜、各種の動物性産品など非穀物食物も倍増し、住民の食構造は大幅に改善。国連食糧農業機関(FAO)の統計によると、住民の1日平均エネルギー摂取量は3000カロリーに達し、世界平均を上回った。人口がアフリカとラテンアメリカの合計を超える中国ではすでに、食の問題は解決されたと言っていいだろう。

穀物生産で収めた成果によって、中国人は自らを扶養することはできないとの多くの予測は否定された。90年代中期、米国のレスター・ブラウン氏(地球政策研究所々長)や世界銀行、米国農務省(USDA)、日本の海外経済協力銀行(OECF・現在は国際協力銀行・JBIC)、国際食糧政策研究所(IFPRI)などが中国の穀物需給に関して予測。ほとんど全ての予測は、中国は2000年に穀物を大量輸入するというものだった。例を挙げれば、レスター・ブラウン氏は、2000年の輸入穀物は6000万トンに達するとしている。だが実際には、20世紀から21世紀に至る時期に穀物不足状況はほぼ解決されており、97年以降は過多の状態にあった。2001年春に全国規模で在庫調査が実施され、国家備蓄穀物は2億2000万トンに達していることが明らかになった。

1997年から穀物価格は約70カ月連続して下落し、政府の財政負担と農民の収入に深刻な影響をもたらした。2002年の穀物3種(水稲、小麦、トウモロコシ)の保護価格は、1997年のピーク値に比べ約25%下落。市場価格は1996年のピーク値に比べ40%前後下落(下げ幅最大の1997年に、水稲は0.5キロ当たり0.13元、小麦は同0.11元、トウモロコシは0.14元)している。価格の下落が農民にもたらした損失は累計で2500億元を上回り、なかでも主要生産地の農民の損失はより深刻だった。

そのため政府は過去数年の間、農業構造の調整と生態環境の整備を強調してきた。中国はレスター・ブラウン氏らが予測したように穀物は輸入しておらず、むしろ輸出拡大のため様々な方策を講じているところだ。

状況は再び逼迫

まさに政府が農業構造の戦略的調整を提唱し、耕地の森林化を大々的に進めていた2003年10月以降、穀物価格は突然上昇し始めた。2003年10月と2004年3月の2回、価格は大幅に上昇、50%前後値上がりした。そうしたことから、穀物は逼迫するとの空気が政府や社会に広がり始めた。

穀物生産量は1998年に5億1200万トンのピークを迎えた後、5年連続して減産。2003年には4億3100万トンまで減少した。2000年以降、年産量ではその年の需要を満たすことができなくなり、生産量と消費需要のギャップはおよそ3000万トンに達している。だが1996〜1999年に生産は過剰となり、また膨大な量の備蓄があるため、生産で需要を満たせなくとも、在庫穀物を放出することで、供給が需要を上回る状態を維持することができ、純輸出国である状況も変わることはなかった。

だが、穀物状況に関するほとんど全ての分析は、こうした傾向が継続すれば、需給のバランスは供給過多から需要過多へと変わるというものであり、この種の社会心理の影響に加え、穀物市場がまだ完全に整備されておらず、生産地と販売地とを結ぶ物流面で多くの障害が横たわっているため結局、穀物価格は上昇していった。

2000年から連続減産となった主因は、栽培面積の減少にある。1999年以前は穀物が過剰になったため、価格は下落し、農民の収入を増やすのは難しくなり、とくに生産地ではその他の地区に比べより困難となった。同時に、在庫規模が過度に膨らんだことで、国の財政負担は大幅に増加。2002年初めの国有穀物企業の赤字は2500億元を突破し、補助金も500億元を超えた。こうした状況の中、政府は農業構造調整を大々的に提唱・支援し始め、栽培面積を減らす一方、工芸作物をより多く栽培するようにした。また日々悪化し続けていた農村の生態環境(土砂流出、森林の過度の伐採、草原の退化、砂漠化など)を整備するため、政府は耕地の森林・草原化プロジェクトを開始。すでに穀物栽培を主体としていた670万ヘクタール超の耕地が草地、森林に生まれ変わった。

構造調整と森林化以外にも、各地で見られた非農業関連の土地占有も穀物栽培面積が急減した1つの重要な原因だ。1997〜2003年までの8年間で132万6000ヘクタールも減少している。とくに経済開発区の悪性ともいえる拡張によって膨大な耕地が占有されたことから、穀物生産の基盤は著しく揺るがされた。

80年代以降、穀物栽培面積はほぼ1億1000万〜1億1500万ヘクタールを維持していたが、1985年と1994年、そして2000年以降の数年間にいずれも1億1000万ヘクタールの警戒線を下回るようになり、この数年の穀物生産は著しく減少している。1985年に栽培面積は400万ヘクタールも急減し、その結果、2800万トンの減産となった。2000年に9%の減産となった最大の要因は、栽培面積が再び大幅に減少したからだ。2003年になると、栽培面積は全国でわずか9941万ヘクタールと、1949年の新中国建国以来の最低点に達した。

穀物価格が下落し続けたため、農民の収益は低く、赤字のケースもあり、農民の耕作意欲はそがれてしまった。

こうした要素が重なったことで結局、穀物は連続減産となり、2003年には90年代以来の最低点に達した。

近年の政策変化

2003年から穀物価格が大幅に高騰したことから、政府はこの問題を極めて重視するようになった。政府はその年の10月に全国穀物工作会議を招集し、耕地を円滑に保護し、栽培面積を適度に拡大し、生産地に政策的優遇を付与し、農民に直接補助金を給付して、穀物の総合生産能力を増強するよう求めた。2004年初め政府は、農民の収入増を主な内容とする通達を出した。その第1項は、穀物生産地への財政補助を拡大するというものだ。また農業部も1月、同年の栽培面積を1億ヘクタール以上、総生産量を4億5000以上確保するよう求める『穀物生産の回復に関する意見』を制定した。

2003年以降、政府は穀物生産への支援を一段と拡大するとともに、一連の政策を打ち出していった。うち最も重視したのが、穀物栽培農民への直接補助政策だ。過去、穀物補助(保護価格政策)は国有の穀物機関が管轄していたため、効率は非常に低く、農民は限られた金額しか取得できなかった。政府は2003年から、安徽と吉林の2省で直接補助の改革を試験的に実施することを決定。2004年にこの改革は全国で推進された。通達は、政府は2004年に直接補助に充てるため資金100億元を計上するとしている。

2004年3月には、政府が水稲生産を支援するための新たな政策を公布したことから、水稲栽培農民に種子補助金が給付されるようになった。黒竜江や吉林、遼寧省などは水稲面積1ヘクタール当たりの補助金は225元。湖南や湖北、江西、安徽省などでは早稲が同150元、うるち稲と中?稲が同225元。江蘇や浙江、福建、広東省など歴史ある水稲生産地でも、地方政府が補助金を計上している。これは重大な政策の変化だ。中央政府は2003年に5億元を拠出して優良品種を栽培する農民に補助金を給付したことがあるが、補助対象範囲は大豆と良質の小麦、トウモロコシに限られ、水稲は含まれていなかった。

中央政府が穀物生産地での農業税免除を拡大したことも、大きな変化だ。生産地の農民の積極性を引き出すため、黒竜江と吉林の2省で先行して農業税免除の改革が試験的に行われたほか、河北や内蒙古、遼寧、江蘇、安徽、江西、山東、河南、湖北、湖南、四川など11省の穀物生産省(地)では農業税の税率が30%、その他の地区でも10%低減された。沿海部やその他の条件の整った地区でも農業税免除が試験的に行われた。実施されたこうした政策は、黒竜江省と吉林省では農業税を納める必要がなくなったことから、水稲のコスト削減と農民の収入増に大きな役割を果たし、水稲の生産量は増加していった。

生産地の穀物栽培農民の積極性をさらに引き出し、国の食糧安全を確保するため、農業部は『国家良質穀物産業工程建設計画(2004〜2010年)』を制定し、国務院の認可を取得。同『計画』は、2004〜2007年を第1期、2008〜2010年を第2期として、13の省・自治区(441県、43の国有農場)を対象に、重点的に選択して競争力を備えた産業ベルト地帯を9カ所建設するとしている。具体的には、良質小麦は、黄淮海平原と長江下流、大興安嶺麓沿いの3カ所。トウモロコシは、東北地方と黄淮海平原の2カ所。水稲は、長江流域の一期作・二期作地区を含めた3カ所。高油質の大豆は、東北地方の1カ所である。農業部はこれにより、穀物の生産能力を2007年末までに新たに1000万トン以上増やす計画だ。