2005 No.41
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長城の保護は立法の強化で

――万里の長城の商業的開発と保護のバランスは、厳しい法律があって初めて達成できる。

馮建華

世界で構築に最長の時間を要し、工事量も最大とされる中国古代の防御工事である万里の長城は、中華民族の心柱、シンボルとして崇められており、世界文化遺産にも登録されている。だが、この数年、長城ではその静寂さ、荘厳さを打ち破るかのような夜を徹するパーティーが開かれるようになったことから、長城の保護は再び大きな関心を呼んでいる。

矛盾が浮き彫りに

7月30日、黄昏せまる頃、北京市と隣接する河北省の金山嶺長城で、1300人余りが参加してロックパーティーが開かれた。耳をつんざくほどの電子ミュージックに乗って、今風の格好をしたセクシーな内外の若者たちが、アルコールを手にしながら狂わんばかりに歌ったり踊ったり……。主催者が用意したトイレでは足りずあちこちで用を済ます人が多かった。パーティーが終わった翌朝。あたり一面はゴミだらけ。汗や尿のにおいが漂い、吐き気をもよおすほどだ。

メディアによると、金山嶺パーティーは今回で8回目。内外の若者に人気のイベントだという。だが、メディアでは報道したことはなかった。

「長城は中華民族のシンボルであり、どうして大切にしないのか。人々が怒りを覚えるのも当然である。誰しも民族のシンボルが破壊されるのを望まないからだ。さらに、なぜ長城の保護に然るべき措置を講じなかったのか、との疑問もある」。報道後、この種の評論が各メディアから伝えられている。

「長城はパーティーの会場となった。では次は?使用料をとって、人気歌手やボクシングの世界タイトルマッチの舞台にしてもいいではないか。実際、現在の状況を見れば、決して不可能ではない」と諧謔的な論評もある。

「このようなイベントを通じて金山嶺長城の知名度をアップさせ、PRする、これがわれわれの初志だ」と金山嶺長城観光公司の郭中興総経理は説明する。

金山嶺長城はかつて河北省承徳市?平県が管轄していた。県政府は1997年、610万元で金山嶺長城の経営管理権を譲渡することを決定した。市財政局傘下の光大農業発展有限公司が60%を出資して経営管理権を取得し、承徳金山嶺長城有限責任公司を設立した。有効管理期限は1997年12月から2047年12月まで。

郭経理は「?平県の年間財政収入はわずか4000万元で、長城の開発に回す資金はなかった。当時の長城による収入は100万元足らずだった。光大公司が投資して以降、施設を更新するなどして、営業収入は年間300万元を超えるようになった」と話す。

しかし、2002年に改正された『中華人民共和国文化財保護法』第24条で、「国有の移設できない文化財は譲渡したり、抵当に入れたりしてはならない。既存あるいは新設の博物館や文物保管所、または開放された名所や公園などの国有文化財は、企業資産として運営してはならない」と規定された。このため、地元の文化財管理機関は国有文化財である金山嶺長城の管理権を取り戻さなければならなくなった。

上述の規定から、河北省および承徳市、?平県の文化財管理機関はここ数年、金山嶺長城観光公司と経営権返還について交渉を重ねてきた。しかし、同公司は2000万元近くの投資の賠償を要求。行政側が同意しなかったため、交渉はこう着状態に陥ったままだ。

「中国の法律によれば、経営は企業行為であり、文化財は経営されるものではない。文化財を企業に経営させることそのものは違法行為だ」と中国文化財協会副会長、文化財保護法の専門家である李暁東氏は明確に指摘。

だが、この法律の規定に法曹界の一部専門家は反対を唱える。「中国の現況から言えば、ちゃんと長城を保護しようとすれば、市場化経営を実施しなければやり遂げにくいのだ」、と中国長城協会の董耀会副会長は見ている。

実際、企業に経営されている長城は金山嶺に限らない。現在、北京の管轄にある長城以外は、ほとんどが観光機関や観光企業によって運営されており、文化財管理機関に運営される長城は一カ所もない。文化財管理機関に長城を運営するだけの経済力がないからだ。

さらに董副会長は「従って、焦眉の急は、企業が長城を運営すべきかどうかの問題ではなく、誰が国や公衆の利益を代表して企業の運営を適正化するかという問題だ。運営する者が誰であろうと、公衆の利益を侵害せず、文化財を破壊せずにしっかりと保存して後世に伝えていかなければならない。現在、欠けているのはほかでもなく、国の管理機関の市場への強力な監督だ」、と指摘している。

野長城の悲鳴

長城の大規模な建造は春秋戦国(紀元前770―前256年)時代に始まり、清朝初期(紀元1616年)まで2000年余り続いた。各時代の長城をつなぐと総延長は5万キロ以上となる(学界によって見解は異なる)。新疆や甘粛、寧夏、河北、北京、天津など10数の省・直轄市・自治区にまたがり、行政区域を単位としてそれぞれ管理されている。

荒涼たる山野にある長城(俗に「野長城」と呼ばれる)は、人力や財力の不足からかなりの部分が“深い眠り”についたままだった。だが、ここ数年の探険旅行ブームで、人跡希な「野長城」も観光客の「標的」にされ、すでにひどく破壊された状態にある。城壁の築造に用いられたレンガすら公然と売られている有様だ。 北京に住む黄昆さんは今年4月、友人と一緒に北京北郊外にある西水域という「野長城」を探険旅行。麓の入り口まで来ると、「この前はうちの果樹園だ。1人2元を出せば、そこから入ってもいい。正門からだったら、1人25元はするよ」と老人に声をかけられた。お金を払うと、黄さんたちは人為的に壊された3メートルほどの「入り口」へと案内された。

10分間ほど山道を登ったところで、黄さんは驚いた。長城には城壁や階段がないところが多い。彼が立つ位置から一番高い烽火台までは約600メートル。その近くには城壁はまだ残留しているが、500メートルにわたって城壁は跡形もなく消えていた。

さらに30分ほど登って、最高地点の烽火台に。だが、まだ中に入らないうちに、悪臭が鼻を突いた。風を遮る側はほとんどがトイレと化していた。村民に聞くと、今年4月以降、週末になると千人もの観光客が訪れ、5月のゴールデンウィークにはもっと多かったという。村民たちは家の新築費用を節約するため、城壁を壊したり、観光記念品としてレンガを売ったりしている。レンガの値段は当初、2元から5元だったが、今は10元まで値上がりしたそうだ。

これよりもっと荒唐無稽で野蛮とも言えるケースもある。山西省左雲県。村に二つあるレンガ工場を一つにつなげることになったが、その間にある60メートルの明朝(紀元1368―1644年)の長城が障害となった。そこで、村長の号令一下、ブルドーザーの轟音の中で、長城はあっという間に崩れ去ってしまった。この行為が明らかになると、世論の批判が高まり、郷の指導者は世論の圧力に押され、仕方なく200元の罰金を科すだけで事をすませてしまったという。各時代の長城の中でも保存がもっとも良く、最も芸術的研究価値のあるのは明朝の長城と言われる。一般に長城と言えば、明朝の洪武から万暦年間(紀元1368―1573年)に築かれたものを指す。

内蒙古自治区包頭市の郊外に、2300年前の戦国時代の趙武霊王が匈奴の侵入を防御するため建造した長城が残っている。一部歴史学者は「最古の長城」だと言う。しかし、建築業者は2001年6月、工事の完成を急ぐためこの貴重な長城を取り払ってしまった。事後、関係責任者が同市の文化財管理機関に発掘費と称して8万元を支払っただけで責任はうやむやとなった。

刑事罰を強化

経済のグローバル化と科学技術の一体化の発展に伴って、自国の文化財を保護し、自国の民族文化の特性を擁護することを重視する国が増えており、立法で文化財保護を強化することが前向きな選択肢となっている。ここ数年、中国では立法で国内の文化財を保護する試みと模索が続けられてきた。

2003年8月1日、「野長城」保護を趣旨とする地方の法規『北京市長城保護管理法』が公布、施行された。長城保護に関する法規は国内で初めてだ。この規定によると、長城に傷をつけたり、汚したり、破壊したりするなどの行為はいずれも違法行為となり、200元以上3万元以下の罰金が科せられる。 しかし、実情はどうか。法的拘束力が弱い、関係機関に人手が足りない、厳格に法を執行していないなどの原因で、地元の農民や観光客による破壊行為は取り締まることができないでいる。

国家文物局の単霽翔局長は今年3月、罰則を強化することで長城を保護する全国的な行政法規――『長城保護管理条例』をすでに国務院法制弁公室に提出し、年内には公布・実施される見通しを示した。

河北省廊坊市中級人民法院の周廷生副院長は「当面の急務は法律面から保護することだ。先ずは長城を破壊する行為に対して厳しい制裁を加え、民事責任より重い刑事責任を負わせるべきである。これまではほとんどが民事責任で、刑事責任の追究は少なかった」と話す。

さらに周副院長は「発生した事例を見ると、破壊行為は、文化財管理部門が把握していなかったり、黙認していたりするケースがほとんどだ。そのため、破壊行為の発生を知っていながら制止しない管理者に対しては、現在のような民事責任だけではなく、刑事責任も追究しなければならない。こうしてこそ初めて、破壊行為の蔓延を押さえ込むことができる」、と強調する。

長城破壊の原因を法の欠如に帰する見解に対し、中国文物学会の李暁東副会長は「長城の保護に関しては、現行の法律にも明確な規定はある。現在、様々な問題が起きている元凶は、法律が厳格に実施されていないにある。多くの文化財管理機関は法律の欠如を理由に保護する職責を軽んじている」と批判した上で、長城の保護というその複雑性を考慮すれば、より詳細かつ厳密な法律を制定する必要があるのも確かだ」と指摘する。