2005 No.41
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[概要]

ますます広がる貧富の格差が今、中国が直面している1つの難題となっている。

中国労働・社会保障部は、貧富の格差が持続的に広がり、二極化を緩和させる効果的な方法が見出せなければ、数年後に社会が不安定になる可能性があると警鐘を鳴らした。

人びとが懸念する中、政府は個人所得税法の改正に着手した。専門家は「個人所得税法を改正することで、当面の状況の変化に対応し、貧富の格差を縮小し、社会の富の分配を調節するのが目的だ」と指摘している。

個人所得税法の第3次改正

――科学的かつ合理的な個人所得税制度を確立し、高所得者には適当な増税を課し、低所得者には減税か納税を課さないようにすることで、個人の収入分配を調節し、貧富の格差を縮小して社会の公平を促進する、というのが政府の主張だ。

蘭辛珍

9月27日、全国人民代表大会(全人代)法律委員会と財政経済委員会、全人代常務委員会法制活動委員会は個人所得税法の改正案(草案)の給与所得の控除基準(課税対象金額)について立法に向けた公聴会を開いた。

7月末、温家宝総理が召集した国務院常務会議は、『中華人民共和国個人所得税法改正案(草案)』について討議し、原則可決した。会議では、個人所得税法は1980年の施行以来、個人所得税の徴収管理の強化、収入分配の調節に重要な役割を果たしてきたが、経済の発展と生活水準の向上に伴って、個人所得税法の一部の規定が新たな状況に適さなくなっているため、改正が必要だとされた。

個人所得税法の改正は今回で3回目であり、8月23日に最高立法機関である全人大が財政部に提出した個人所得税法改正草案を初めて審議した。改正は課税対象金額に言及しているため、幅広い関心を集めている。

なぜ改正するのか

ここ数年、現行の個人所得税法の改正を求める声が高まっていた。中国社会科学院財政貿易経済研究所財政研究室副主任の楊之剛教授は「個人所得税法を改正しなければならないのは、現行の個人所得税法が施行された結果と、立法の本意との間に矛盾が生じたからだ」と指摘する。

1970年代末から改革・開放政策が実施され、「一部の人を先に豊かにさせる」政策が提起された。同時に、収入の分配を調節し、貧富の格差を縮小しようと、政府は国際慣行にならって、社会建設や貧困者の援助に充てるため、豊かになった人から個人所得税を徴収することにした。

当時、政府は個人所得税の課税対象金額を800元に設定。月額800元の収入は当時では富裕層に属し、サラリーマン層の月給の数10倍もあった。だが経済発展に伴い、現在では800元は低所得層に属するにすぎない。1993年に月給が800元を超える人は全国でわずか1%ほどだったが、2002年には52%に増加。現在、就業者の大半は月給が800〜5800元であり、個人所得税納税の主力軍とも言える。一方、月給が5800元を超える人は2%足らずだ。

だが、個人所得税法の規定はずっと改正されてこなかった。言い換えれば、立法の本意である豊かな人が納める個人所得税は、貧困者も納めなければならなくなっていた。2004年の個人所得総税収は1700億元に達し、その65%は約3億人のサラリーマンが納めたものだ。収入が国民総収入の半分以上を占める高所得者を見ると、その納税額が個人所得総税収に占める比率は20%にすぎない。

2003年の消費者価格指数は1993年に比べ60%上昇した。消費支出は著しく伸び、個人所得税法に規定された月額800元の課税対象金額を上回った。こうした状況の中、現行の個人所得税法は改正せざるを得ない時機を迎えたのである。

実際、地方政府は地元の経済状況に基づいて個人所得税の課税対象金額を引き上げている。例えば、北京市は1200元、深?市は1700元だ。現行の個人所得税法では、一部の規定はすでに何の意味も持たなくなってきている。

中国人民大学社会学学部の毛寿竜教授は「財政収入を揄チさせることが、政府が個人所得税法を改正するもう一つの原因だ」と指摘する。

個人所得税は商品税や営業税、関税に次ぐ第4の租税となり、一部の地方にとっては大きな税収源であるため、課税対象金額を引き上げれば、未発達地区の財政収入の減少は避けることができない。そのため、国が財政面で援助することが必要となる。

2002年以前は、個人所得税(利息税は除く)はすべてが地方の財政収入となっていた。だが2002年からは、中央政府と地方政府に5:5の比率で分配するようになり、2004年以後は6:4となった。中央が取得した個人所得税収は、すべてが中西部地区の発展、主に中西部地区の建設プロジェクトの満期となった債務の償還や、行政非営利事業団体職員の賃金給付、地方政府機関の日常業務、社会保障といった基本的な公共支出などに充てられている。

2004年の各租税の税収は2兆5718億元(関税と農業税は含まない)に達しており、個人所得税が減ったとしても、中西部の貧困地区の発展を支援する余力はある。

改正の3つの焦点

財政部の金人慶部長は、今回の個人所得税法改正の焦点について3点を挙げている。

第1は、個人所得税法第6条第1項が規定している賃金、給与所得の課税対象金額を800元から1500元に引き上げる。個人所得税法の課税対象金額については、全国の中等所得水準に基づいて確定する。2004年の都市部の労働者の1人平均消費支出は1カ月1143元であり、個人所得税法の改正草案で課税対象金額を1500元に確定すれば、サラリーマン層の収入の普遍的な水準をおよそ反映したものになる。

第2は、個人所得税法第8条に、高所得者は必ず納税申告手続きをしなければならないとの規定を追加する。現在、高所得者が納めている個人所得税は少なく、そのため自己納税申告を規定した後、申告しないまたは正確に申告しない納税者はより厳しい処罰に科すことにする。こうすれば、高所得者に対する個人所得税の徴収管理の強化に役立つ。

第3は、個人所得税法第8条に、源泉徴収義務者に関して、全員が全額源泉徴収申告をしなければならないとの規定を追加する。

富の分配調節に役立つか

個人所得税はすべての租税の中でも、収入分配の格差を最も調節できる租税である。

ここ10数年来、個人の収入分配の格差は広がりつつある。ジニ係数は0.447に達しており、国際慣行にならえば、ジニ係数が0.4に達するか、またはそれを超えた場合、貧富の格差は過大となり、中低所得者の個人所得税の負担を減らす必要が生じる一方、高所得者に対しては徴収管理を強化しなければならなくなる。

しかし、個人所得税の改革は社会の富の分配調節にどれほど役立つのだろうか。

財政部税務司の史耀威司長は「個人所得税法は、給与所得や個人経営者の生産・経営所得などに対しは、限度額を超えた部分について累進税率を実行している。収入が多ければ、適用する税率はそれだけ高くなり、納税額も多くなる。高所得者に対しては、各クラスの税務部門は重点納税者名簿を策定し、事業体と個人が同時に税務機関に申告する措置を講じることで、税収源を効果的に監督・管理し、個人所得税徴収の管理を強化している。低所得者と所得や収入が課税対象金額以下の者に対しては、納税を課さない、また超過した部分の低収入に対しては、低税率を適用して納税させており、ある程度、個人の収入分配を調整し、貧富の格差を縮小する役割を果たしている」と説明する。

さらに史耀威司長は「西部大開発において、国の個人所得税収入は大半が西部の支援に充てられており、東部の豊かな地区から徴収した税金が西部の発展を支援しているわけで、地区経済の格差縮小にも役立っている」と指摘する。

財政部によると、2004年に徴収した個人所得税は1700億元で、その88%が西部の未発達地区に充てられたという。

中国社会科学院の楊力研究員は「個人所得税は貧富の格差の調節機能を果たしているが、高所得者から個人所得税を徴収して、その収入を減らすようにするほど簡単なことではない。個人所得税の最も重要な調節機能は、高所得層から徴収した税金を利用して、低所得層の発展を支援することだ。中国ではこうした支援はまだ十分とはいえない」と指摘する。

中国社会科学院が発表した『2005年の社会白書』は「都市部住民のうち収入が最も高い10%の世帯と、最も貧しい10%の世帯との1人平均可処分所得の格差は8倍を超える。最も高い10%の家庭の資産額が都市部住民の総資産額に占める比率は50%近くになる。収入が最低の10%の家庭の資産額は同1%前後を維持し、80%の中所得層では同50%を占める」と予想している。

高所得者とは、私営企業や個人経営者、国有企業の請負業者、リース経営者、株の成功者、三資(合弁・提携・単独出資)企業の幹部社員、特許権を持つ技術発明者、芸能人、スポーツ選手、企業の最高経営責任者(CEO)、一部の弁護士、ブローカー、広告業者、一部の留学帰国者や学者、専門家などで、いずれも能力のある人たちだ。低所得者とは、失業者や一時帰休者、定年退職者、働き場所のない出稼ぎ労働者、都市の特別貧困者、農村の貧困者、経営不振企業の社員、意外なリスクを負った者(疾病で負債を抱えるなど)、一部郷鎮企業の肉体労働者、ホームレスなどで、いずれも能力のない人たちだ。

楊力研究員は「低所得者をさらに援助したとしても、高所得者との格差が広がり続けているのが現状である。それは能力に差があるからだ」と指摘。

そのため楊力研究員は「個人所得税が社会の収入分配を調節する役割を十分に認識し、その役割を積極的に発揮させる。同時に、個人所得税というのは、社会の一次分配を基礎にした上で、個人所得の多寡によって再び調節し、社会の構成員の間の一次分配の際に形成された格差を緩和し、縮小するだけであって、主に個人所得税に依って、社会の収入分配の過大な格差問題を解決することはできない、ということにも目を向けるべきだ」と強調する。

杭州商学院の王恵教授は「個人所得税を徴収する主要な目的は、対象課税範囲や納税者、税率、減免などを設定することで社会構成員の収入水準を直接調節し、それによって貧富の格差を縮小し、社会の公平さを維持し、社会収入のマクロ調整を実現することにある。しかし、貧富の格差縮小は『平均主義』という旧来の道を歩むということではない。個人所得税を徴収するのは先ず、人びとが豊かになることを許し、人びとが豊かになるよう奨励し、豊かになった人びとが国に納税する形で貧しい人びとを援助するためだ。社会の全構成員が長期にわたって貧困状態に置かれれば、収入の分配をさらに公平なものにしても全く意味はなさない。従って、先ず人びとが豊かになるよう奨励する支援メカニズムを構築して初めて、共に豊かになるという素晴らしい考えを実現することができる」との考えを示している。

◆参考資料

現行の個人所得税法は1979年に財政部が起草し、1980年9月10日に第5期全人大第3回会議が可決し、同日公布、施行された。

1993年10月31日に個人所得税法の第1次改正を実施。市場経済体制に適応し、税制改革を深化させ、税制を簡略化し、税負担を公平にするため、1986年9月25日に国務院が公布した国内の公民の納付のみに適用される『個人収入調節税』の規定と、1986年1月7日に国務院が公布した『都市・農村部の個人経営者所得税』の規定を、1980年9月10日に制定された個人所得税法と合体して『中華人民共和国個人所得税法』を制定した。この改正は、改革開放初期の二重税收制から内外統一された税制へと転換する重要なステップとなった。

第2次改正は1999年8月30日に実施。従来の個人所得税法第4条第2項にある「預貯金利息の個人所得税を免除する」との条文を削除し、「預貯金利息に対する個人所得税を徴収する期日と徴収方法は国務院が規定する」との条文を追加した。この時の改正個所は少なく、主に内需拡大や民間投資の奨励、銀行の預金による負担軽減の観点から「預貯金利息の個人所得税」を徴収することにした。