2005 No.46
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老人扶養の難題と対策

――当面の問題は、経済の発達していない状況の下で、いかにして自らに適した老人扶養の方法を探し出すかである。

馮建華

陰暦の9月9日、今年は10月11日となった重陽節は「老人節」とも呼ばれる。この日、北京大学人口研究所は「第1回中国老年学者フォーラム」を開催。関係機関の責任者や世界人口基金など国際組織の高官などが出席し、中国が直面する老人扶養をめぐる状況や難題について討議すると共に、現実に即した対応策を提言した。

人口の急増を効果的に抑制した後、平均寿命が延びるに伴い、中国は再び別の問題に直面するようになった。急速な老齢化が経済、社会に及ぼす影響をいかに回避するかだ。

国連は、中国の老齢化問題は次世代には20世紀の欧州に比べ一段と深刻になると予測。2035年には、4人に1人以上の割合で老人が占め、老齢者数は英国やフランス、ドイツ、イタリア、日本の5カ国の人口総数を上回ると予想されている。

中国人口学会の田雪原常務副会長は「老齢化問題はすでに顕在化してきた。早急に解決に着手すべきであり、足踏みをしていないだめだ」と指摘する。

財政部長を務めた全国社会保障基金理事会の項懐誠理事長も「老人扶養問題は将来、長い期間にわたって社会、経済が発展していく中で直面する重大な問題となるだろう。この問題を現段階で重視しなければ、20数年後にはさらに大きな問題となる」と警鐘を鳴らす。

5、60年代に人口の急増がもたらした世界規模の食糧危機と同様、中国が直面する人口急増問題も国際社会の関心を集めている。

急速な老齢化を回避するには、20数年にわたって実施してきた「1人っ子」の計画出産政策を廃止すべきだ、との声も聞かれる。

これについて田副会長は「こうした見方にはある程度賛同する。だが、人口問題は人口と労働力の過剰という性格の問題であり、人口数の増加を抑制することが、主要な戦略的な課題だ。ある程度の老齢化は回避できず、必要でもある。人口のゼロ増を実現するには通らなければならない1つの段階だ」と指摘する。

その上で「低出産水準を合理的な範囲内に抑制して、超高齢化を防止する。そのためには、人口発展戦略を調整すると同時に、高齢化について理にかなった“警戒ライン”を設定しなければならない。警戒ラインは、その時点での先進国の65歳以上の老人比率の26%を超えない水準に設定することが必要だ」と指摘。

さらに田副会長は「すでに緩和された計画出産政策からも分かるように、政府は人口発展戦略を徐々に調整しつつある。これまでは人口数の抑制を重点にしていたが、現在はさらに、人口と経済や社会、資源、環境との持続可能な発展を強調するようになった」と説明する。

家族が扶養する難しさ

中国では現在、老人は家族が扶養しているのが一般的だ。老人は住み慣れた場所と環境の中で生活することができ、政府も多くの資金を養老施設や設備に投入する必要はない。老人に買い物や掃除、介護といった日常的なサービスを老人が居住するコミュニティーに提供するだけですむ。だが、こうした条件を満たしていないコミュニティーが大多数を占める。

多くの都市に新設されたコミュニティーには老人サービスセンターが設けられているが、政策的な規定が設けられていないため、その役割を十二分に発揮できていないのが現実だ。

中国老齢科学研究センター老齢社会・産業研究室の陶立群主任は「私が住むコミュニティーでは、老人サービスセンターはある管理機関に賃貸しており、結婚相談所や家庭サービスセンターに変わってしまったところもある。いずれも営利が目的で、こうした状況はよくあることだ」と指摘する。

さらに陶主任は「老人サービスセンターの職員の間には、老人問題を専門にする人はほとんどいない。大半が短期の訓練を受けただけで、その多くが文化的知識のない失業者である。こうした状況になったのは、社会活動そのものが重視されてこなかったからだ。現在、老人学部が設置されている大学は数校しかなく、卒業した学生もまた、コミュニティーで働くことを望んでいない。処遇が悪いからであり、より重要な原因は、社会から尊重されないからだ」と指摘。

また陶主任は「老人扶養関連の資金も不足しており、こうした状況の中で老人扶養の問題のカギを握るのは、とくに高齢の老人の介護の問題だ」と強調する。

都市部では仕事が多忙であり、就業競争も激化しているため、老人を介護する時間のない人もいる。農村部では、都市への出稼ぎ者が増え続けているため、家にいる老人を見るのが難しくなっているのが実情だ。

現在、一部の大都市では、政府機関が高齢の独居老人の生活問題を注視するようになってきた。例えば、老齢化が最も進んでいる上海では(2004末現在、60歳以上の老人は全市人口の19.28%)、一部コミュニティーに専門職員を配置して、管轄内に居住する独居老人に対して「1対1のサービス」を提供することで随時、生活状況や要望を把握するようにしている。

また、老人の心の問題も次第に深刻化しつつある。上海市精神衛生センターが先ごろ行った住民調査で、老人の70%以上が程度の差はあれ心の問題を抱えていることが分かった。

中国人民大学人口学学部の姚遠教授は「老人の心の健康状況は、総体的に言って、比較的良いほうだ。だが、個別に言えば、比較的深刻な心の問題を抱えている老人もいる」と指摘する。統計によると、この数年来、心の問題が原因で自殺したり、自身を傷つけたりする老人が増え続けている。

実際、社会保障制度が完備し、市民の生活水準が向上するにつれ、経済的に扶養能力を備えた老人は徐々に増加してきた。だが、精神的な充足や個々の健康に対する強い要望は満たせないでいる。老齢化問題の専門家である北京大学人口研究所の穆光宗教授は「これはまさに、大半の老人が心の問題を抱えていることを示すものだ。精神的な扶養を解決する上で核心となる問題は、老人の主体的な地位を確立して、老人に自尊心を持たせることだ」と強調する。

“弱者老人”を扶養には

養老保障システムを構築するには政府の十分な資金が必要であり、「豊かでない人が先に老齢化する」中、社会保障システムを短期間に全市民をカバーするものにするのは不可能だ。現在、国の養老保障システムではその対象は主に都市部の労働者に限られているが、この数年、一部の発達した地区では保障システムの適用範囲が拡大しつつある。例えば、北京などいくつかの大都市では、農民の出稼ぎ労働者を社会保障システムの対象にしている。だが、まだ数多くの農村部の老人や都市部の貧しい老人がその対象になっていないのが現実だ。こうした一部の“弱者老人”の扶養問題をいかに解決するかは、非常に難しい。

農村部の老人は一般に貯蓄が少ないため、商業養老保険に加入できる老人は少数派だ。それでも、老人の大多数は耕地を持っている。法律上、耕地は個人の所有ではないが、使用権と経営権はそうではない。耕地は使用価値があるため、使用権を譲渡することで富を得ることもできる。こうしたことから、田副会長は「耕地に養老保障としての役割を発揮させることは可能だ」と強調する。

調査と検討を重ねて田副会長が設計した制度の枠組みは(1)地区ごとに1人平均耕地面積の多寡に応じて、60歳以上の老人は耕地の一部または全てを老人扶養組織に投資して、組織の株主となる(2)働ける老人や希望者に生産と経営に従事させて、経済収入を取得し、その一部を、耕地を提供した老人の生活や消費に振り向ける――というものだ。

田副会長は「この枠組みは、別途に資金を投入せずに基本的な老人扶養を実現する方法となるだろう。土地資源を生かせるだけでなく、老人を扶養するための資金源ともなり、老人を人的資源として活用することもできる」と強調。

さらに田副会長は、都市部の貧しい老人の扶養問題に関して、不動産養老保険制度の創設を提唱している。

都市部の老人の場合、現金貯蓄は少ないが不動産を所有している人が多い。この不動産を養老保険専業の企業に投資し、所有面積と使用状況に照らして一定の株式を持つ株主となり、株式の多寡に応じて養老金を受け取る。株式取得は譲渡や先物、抵当など様々な方式を採用するとしている。

この不動産養老保険制度はすでに北京など一部の都市で採用されており、運営が成熟して理想的な効果を上げている都市もある。

政策効果を上げるには

北京市政府はこの2年近くの間に、数億元を投入して「国際5つ星クラス」の豪華な高齢者用マンションを建設した。ベッド数はわずか400床だが、施設は世界一流だ。

開業に当たっては、投資額が巨大であったことから、高価格が設定された。だが、一般の家庭が購入するには無理があったため、政府は価格を半額まで引き下げたが、それでも一部しか売れず、まだ完売していないという。市政府は毎年、数百万元支出して損失を補てんしている。

この数年、例えば、2001年から135億元かけて老人サービス施設や活動センターを建設するなど、政府の高齢者事業への財政投入が増え続けているのは確かだ。都市のコミュニティーでは現在、老人用スポーツ施設がかなり普及しており、老人の大半が利用している。

だが、陶主任は「政府の資金が老人自身ために本当に使われているのはごく一部に過ぎない。残りの大部分は政府職員の給料や接待費など、“制度コスト”に充てられている」と指摘する。

中国老齢科学研究センターの張ト梯研究員は「今は効果について検討すべきだ」と強調。

その理由について、張研究員は「計画経済の惰性から、老人扶養投資プロジェクトの多くは政府が一手に推し進めている。政府は投資家であり、市場の運営者でもある。そのため、客観的な技術的評価ができないことから、プロジェクトは理想的な効果を上げていない」と説明する。

首都経済貿易大学労働経済学院の呂学静教授は今年9月、北京市の養老保険制度の実施状況についてアンケート調査を実施。その調査報告によると、3分の1が保険制度の内容を理解していないと答えており、自身の養老年金の計算方法を知らない人は半数近くに上った。

呂教授は「多くの市民が自身の生活と切実に関係する社会保障制度を理解していないとすれば、どうして市民の支持を得られるだろうか。市民の支持と理解が得られなければ、どんな社会制度や社会政策もどうして良い効果を上げられるだろうか」と疑問を呈する。

陶主任は「政策が良い効果を上げる上でカギとなるのは、政府の管理方式を改め、政治と企業の分離を実現することだ。具体的に言えば、政府は政策を策定して資金を拠出し、老人扶養プロジェクトについては、入札を実施して市場による管理にまかせ、政府は質的な監視を行うというものだ」と強調する。