2005 No.47
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米国の対中政策に新たな動き

――米国では、ますます多くの政府高官が中米関係を注視するようになってきた。ゼーリック国務副長官は、中国は国際問題で主要な参画者になるべきだと指摘する。

張利軍(中国国際問題研究所研究員)

今年9月21日、ロバート・ゼーリック国務副長官は米中関係全国委員会で「中国はどこへ----正式加盟国から責任ある加盟国へ」と題して講演した。講演が終わった直後に米国務省はその全文を公表した。

ゼーリック氏は米通商代表部(USTR)の代表を務め、過去十数年にわたって中国のWTO加盟交渉に関わったことがあり、中国については深くかつ全面的に理解していることから、二期目のブッシュ政権で屈指の「知中派」と見られている。

今年初め、ゼーリック氏は東アジア問題担当の国務副長官に指名され、対中政策決定の舵取り役を果たすようになった。ブッシュ政権の対中関係の総合戦略についての構想や考え方は、その講演から多少なりとも窺うことができる。

中国の発展は挑戦ではない

ゼーリック国務副長官は講演で次のように述べている。

中国は経済の持続的発展と総合力の絶えざる増強に伴い急成長し、国際的な影響力がますます大きくなってきたことから、国際政治経済の舞台で発展途上国の中の大国としての役割を果たすようになった。これが米国の超大国としての地位を脅かすのは必至だが、米国は過度に懸念する必要もなければ、ましてや旧ソ連を封じ込めたような新たな「冷戦」を引き起こす必要もなく、冷静に観察すべきだと考える。

今後かなり長い期間において、中国が米国の超大国としての地位を脅かすことはありえないだろう。なぜなら、米中両国が冷戦時代の米ソのように、国際秩序の再構築やイデオロギーをめぐって対立するようなことはないからだ。中国のイデオロギーや総合戦略は旧ソ連とは本質的に異なっている。まず、中国は急進的な反米思想を宣伝しているのではなく、文明の多様性や包容性、調和のとれた世界の構築を提唱し、米国との平和共存を目指していることだ。

次に、米国からすると、中国はまだ民主国家とは言えないが、いわゆる「世界の民主制度」と最後まで闘うというのではなく、西側の「民主国家」との往来を緊密にし、国際的メカニズムや秩序の確立に積極的に参与するなど、重大な国際問題で積極的な役割を果たそうとしていることだ。また、中国はまだ米国からは「完全な市場経済国」と認められてはいないが、死に物狂いになって資本主義と闘うというのではなく、改革・開放政策を遂行し、資本主義がすでに有する科学技術の成果や資本を導入して自国の経済を発展させている。

中国は自国の前途は現行の国際システムにおける基本秩序が解体されることで決まる、とは考えていないが、実際的な状況はその逆であり、中国の成功は現世界の発展の主流に融け込めるかどうかにかかっている。これについてライス国務長官は「米国は、自信があり、平和で繁栄した中国の出現を歓迎する」と述べている。米国は確かに中国との協力が強化されることを望むとともに、中国が前世紀から徐々に形成されてきた国際ルールに適応するだけでなく、米国や他の国とともに今世紀の試練に対処していくよう望んでいるのだ。

中国の繁栄と富強はアジア太平洋地域の安定の促進にとって重要な役割を果たすものであり、中国の強大さがアジアの安定の基礎となっている。中国の多分野にわたる協力がなければ、米国は開放された国際政治経済システムをサポートすることはできないだろう。

中国は国内の発展がアンバランスであるため、力を集中して国内問題を処理せざるを得ない。いま中国政府が直面している最も重要な課題は、国内の全面的な発展と近代化を実現することだ。広大な農村地域に住む9億近くの人々はいまも貧しい生活を送っており、政治や社会の変革がもたらす挑戦に直面している。従って、中国は経済成長の成果を、米国に対する挑戦にではなく、主に国内問題の解決に当てることになる。

米国は、中国が責任ある大国、国際問題の主要な参画者として、できるだけ早く国際社会に融け込むよう「支援」するつもりだ。そのためには、米国政府は今後も引き続き、中国政府が米国の基準に合致した政策調整を行うよう促していく必要がある。例えば、国防費と国防政策の透明度を高める、市場を一段と開放する、知的財産権を保護し、海賊版や模倣品製造の取締りを強化する、外交政策を調整する、東南アジア地域や他の地域に中国をリーダーとし、米国を除外する地域同盟を結成しないことなどだ。

「中国の脅威」を薄める

米国は「対テロ戦争」を宣言して以来、戦略の重点を中東地域へと移し、東アジア地域を顧みる余裕がなくなったことから、中米関係は意外なほどに改善され、「史上最も友好的な状態にある」とまで形容されるようになった。しかしながら、米国の一部の政治家や政策決定者は、急成長中の中国は米国にとって潜在的脅威になりつつあり、現在の関係緩和は短期的なものに過ぎず、中国の発展を封じ込めることこそが米国の長期戦略のターゲットだと考えている。

昨年末以降、米国のタカ派は「中国脅威論」を再び吹聴するようになった。その源泉はほかでもなく、中央情報局(CIA)と国防総省だ。新任のゴスCIA長官は上院情報特別委員会の公聴会で、中国の台頭が米国への脅威となり、中国の軍事力の近代化は台湾海峡の力の均衡を崩しつつある、と証言した。国防省情報局長もその証言でかなりの時間を割いて中国の軍事力の近代化に言及し、さらには米国の国家安全への脅威として、中国を名指しでいわゆる「ならずもの国家」と同列視した。

ラムズフェルド米国防長官も上院軍事委員会の公聴会で、中国の軍事力の近代化について重点的に言及した。中国は「独裁体制」にあり、「文明世界に入っていない」と断言し、ペンタゴンは中国の軍事力の近代化に非常に関心を寄せていると強調した。報道によれば、米国防総省は4年に1回提出する米国防計画の見直しに当たり、かなりのスペースを割いていわゆる中国の軍事的脅威を強調するという。

ゼーリック国務副長官を代表とする良識ある対中実務派は政界、特に第2期ブッシュ政権内の少数派として、一部の米国人が中国の平和と発展に抱いている疑念には前向きな姿勢で臨もうとしている。例えば、ゼーリック国務副長官は講演ではやはり人権や民主などの問題を強調したものの、最後に言及している。その言わんとするところは、これらの問題は決して中米関係の重点ではないということだ。タカ派が勢力を強める厳しい状況の中、こうした姿勢を取るのは容易ではなかったはずだ。ゼーリック国務副長官らが努力したからこそ、米国内に、ブッシュ政権の対中政策は「実務的」「接触」という基調を保持し続けることから、中米関係は今後3年から5年間は安定傾向にある、との見方が広まったのである。

今後の方向性

構造的に見れば、米政界には中国に対する戦略的信頼感に欠けた者がかなりいる。米国内では「中国脅威論」が言いはやされ、その影響力も大きい。また、中国は米国がイラク戦争の泥沼に足をすくわれているのに乗じて自らの力を拡張しようとしているため、米国は中国に警戒心を持たなければならず、中国に「戦略的な隙」を突かせてはならないと考えるタカ派もいるほどだ。

いま1つの構造的矛盾は、中米間の政治制度や価値観が大きく異なっていることだ。ブッシュ大統領が就任演説で語った「自由」というテーマや、「暴政を終結させよう」というスローガンは理想主義的な性格を帯びたものではあるが、こうした理念はワシントンが実施している「実務的」対中政策とはかなり大きな矛盾がある。政府の対中政策に不満を感じている者はこの点を利用してブッシュ政権を非難し、中国に対して強硬姿勢をとるよう政府に迫ると予想される。

現在に目を向ければ、米国はなんとか台湾問題を利用して事を運ぼうとするだろうが、この問題で行き過ぎるようなことはできない。米国も、台湾問題がいったん抑制が利かなくなって、中米間に軍事衝突が起きることにでもなれば、米国の国益に合致しなくなることをよく知っているからだ。中国の対米輸出額が年間1600億ドルの大台を突破したことから、米国内では対中貿易制裁の発動を求める声が強まってきている。ブッシュ政権は国内の不満を払拭する行動を取らざるを得なくなるだろうが、中米間の新たな「貿易戦争」の導火線にもなりかねない。