2005 No.47
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過度の開発が歴史文化遺産への脅威

中国の歴史文化遺産の保護は今、資金難のほかに、過度の開発による遺産の破壊という難しい問題に直面している。過度の開発は、資金不足よりもっと深刻で取り返すことのできない損失を招くだろう。

魏 尭

孔子(紀元前551〜同479年)は中国の春秋時代末期の偉大な思想家、教育家であり、儒学の創始者。9月28日、孔子の生誕2556年に際して、「2005中国曲阜国際孔子文化祭」の一環として、国連教育科学文化機関(ユネスコ)などが主催した孔子祭が世界各地で開催された。メイン会場の孔子の故郷の山東省曲阜では、「2005国際共同孔子祭・曲阜孔子廟孔子祭大典」が行われた。

大典には24カ国・地域から代表2556人が列席。孔子祭はまた上海や天津、浙江省衢州、雲南省建水、甘粛省武威、福建省泉州、香港、台北、ソウル、足利、ニューヨーク、ドイツのケルンなどで同時に開催され、中央テレビ局はこの模様を中継した。

曲阜の「孔廟、孔府、孔林」は「三孔」と呼ばれ、1994年12月に世界遺産に登録。孔廟は孔子を祭る場所で、国内の多くの地域では文廟と呼ばれている。孔府は孔子の後裔が住むところで、孔林は孔氏一族の墓地である。孔子にまつわる文化財は国内外に数え切れないほどあるが、曲阜の三孔がこれまで、中国が儒教を尊びあがめるシンボルの地だと見なされてきた。そのため、中国では孔子と儒教にかかわるイベントは曲阜をメイン会場とするのが一般的だ。

今回のイベントは、いかに歴史文化遺産を保護するかを見直すきっかけとなった。

遺産の保護が問題に

孔子国際観光株式会社の創設を新しい姿で祝おうと、曲阜の管理部門は三孔の大掃除を実施。ところが、掃除では昇降機やホース、水桶などを使って文化財に直接放水したり、別の工具で直接拭いたりしたため、文化財はひどく損壊されてしまった。これが2001年2月にメディアが報道した「三孔の水洗い」だ。

孔子の故郷にある孔子の文化遺産の保護でさえこれほど重大な問題が起きているのだから、その他の地区ではどんな保護がなされているのだろうか。

昨年7月、江蘇省南通市で、市クラス保護文化財である文廟の一部が移設工事で損壊した。この文廟は北宋初期(980年)に建立され、正門東側にある青瓦の囲い壁の内側は、古代の文人や学者が文廟の奥にある学館に出入りする専用の道、幅約8メートルの「儒学道」になっており、囲い壁を背にして、20基の古代の石碑からなる碑の回廊が儒学道に沿って真直ぐに続いていた。移転工事では、囲い壁は取り壊され、碑廊も移され、儒学道のあったところは不動産業者に競売されて主体が二階、一部が三階の商業用建物が建てられた。当初、市民や学者は文化財を主管する市文化局と文廟に間借りする文化舘のやり方に反対する姿勢を表した。市文化局副局長や文化館館長を務めた張錫光氏は「建設規制地に文廟と関係のない商業用建物を建てたことで、文廟の歴史的な姿は著しく損なわれてしまった。しかも、現場監督がいないため、文化財は乱暴に扱われて、石碑は角が欠けたり、振動で裂けたりしたものが多かった」と振り返る。これらの石碑は歴史の最も古いもので明代の洪武15年(1382年)、最も遅いものでも清朝の道光4年(1824年)にさかのぼるという。当時文化館の館長だった沈愛明氏は移設工事について、こう説明した。「商業用建物を建てれば、資金の問題を解決できるし、観光サービスの環境も改善することもできる」と。

文廟の移設に伴う一部損壊は、中国の歴史文化財保護でよく見られる問題を反映したものだ。現在、伝統文化を持つ町が国内で人気のある観光スポットとなっている。孔子文化の遺跡は大半が古い市街地または伝統文化の中心部にあるため、再開発に当たって大きな問題に直面している。主管機関の開発計画に合わせるため、多くの遺跡が改修されたり、損壊されたりしているのが実態だ。

孔廟や文廟などの文化遺産が過度の開発によって損壊を受けたが、実は、その他の保護でも同様の問題が存在している。今年は「野長城」の保護、円明園の湖水浸出防止工事などの問題が内外のメディアに報道された。

「野長城」とはまだ開発されておらず、原始的な姿を保っている長城のこと。国の保護を受けている歴史文化遺産でもある。だが、一部の個人や団体が野長城の潜在的観光価値を狙って無断で開発を行い、大勢の観光客を受け入れたために、長城は損壊、完全に崩れ落ちた区間もある。

円明園では管理機関が年初に、湖水の浸出防止を理由に、調査や研究、論証もせずに、湖底にプラスチック・フィルムを敷き詰めたことから、円明園や周辺の生態系に深刻な破壊が生じた。

過度の開発をいかに避けるか

歴史文化遺産の保護は二つの問題に直面している。一つは遺産の維持や修復に必要な資金の不足であり、いま一つは観光経済の発展につれて、開発される歴史文化遺産が増え続けていることだ。資金不足に比べ、開発に手落ちがあれば遺産にもたらされる損壊はより深刻となり、取り返すのもより難しくなる。

曲阜では、孔子にかかわるあらゆる文化財や遺跡は、観光資源として開発、運営されている。これは中国では一般的なことだ。

『中華人民共和国文化財保護法』によると、中国の歴史文化遺産は全国重要保護文化財、省クラス保護文化財、市クラス保護文化財、県クラス保護文化財に分類されており、等級が高いほど知名度も高い。ここ数年、世界遺産に登録されることが一部地区で内外の観光客をより多く呼び寄せる手段とされている。

ユネスコが世界の文化遺産と自然遺産を創設した目的は、危機に瀕した人類文明の歴史的意義のある遺跡を保護することにある。『世界の文化遺産および自然遺産の保護に関する条約(通称「世界遺産条約」)』は、開発に関して科学・技術的な研究を行い、自国の文化遺産または自然遺産への脅威となる危険に抵抗できる実際的な方法を講じるよう、各国政府に求めている。そのため、世界遺産に登録されることはまさに、その国の政府と関係機関、現地の文化財管理機関に対して発せられた保護を強化せよとの警告だ、と見る学者もいる。

現在、中国では文化遺産と自然遺産の保護は『中華人民共和国文化財保護法』を根拠としている。この法律は2002年に全国人民代表大会で改正され、新たな規定が加えられたが、世界遺産の保護の現状と発展に比べると不備な点がある。とりわけ観光資源として文化財を開発することに関する規定が欠けている。こうしたことから、三孔の水洗いや、文廟の一部移設で文化財が損壊してしまった。

これについて、北京大学世界遺産研究センターの謝凝高主任は「中国は1985年に『世界遺産条約』に加盟したが、なるべく早い時期に国内の自然遺産と文化遺産の保護に関する法律を制定しなければならない。そして法律に基づいて、国の専門管理機関を設置するとともに、各管理機関の機能に沿って区分された自然・文化遺産の管理と定義を全面的に整合させて、保護事業を推し進めていくべきだ」と指摘している。